居場所
俺はカンナが眠る部屋に来ていた。
カンナの頭を撫でながら話しかけていた。
「カンナのおかげで母さんと最後に話が出来たよ。
ありがとう。必ず助けるからな。それまで少しだけ待っててくれ。
好きだぞ。カンナ」
この部屋にいるのは俺とカンナ、そしてイナも一緒だった。
俺はイナに寒くないかと問うと大丈夫ですと答えてくれた。
イナはこの状態のカンナを見て、胸を抑える。
「どうしたら……いいのですか?」
「……分からない」
「胸が、痛いです。
ご主人さまは大丈夫ですか?」
「大丈夫とは言えないかな。
力不足を感じて……悔しいよ」
「イナには、わかりませんがお母さんを失って寂しくありませんか?
イナはもし、ご主人さまがいなくなったら……」
耳と尻尾を垂らし不安げな顔をする。
「そうだな……
寂しいよ。もっと話したかった。
みんなのことを紹介して喜んでもらいたかった。
俺のせいで苦労かけたから……
後悔は残る。でももうどうしようもない。
時間が戻らないことが現実だからな。
だから……もうこんな後悔しないように、イナを悲しませないようにがんばらないといけないな」
イナの頭を撫でると……とてもあたたかい。
冷えたこの部屋が余計にそう感じさせているのかも知れない。
リビア。
”はい”
俺は、本当に魔王として覚醒したか?
ならゼート達を助けに行きたいんだが。
”……あの人の言葉をそのままお伝えします。
覚醒こそしたもののまだピースが足りてない。あとひとつ。
その証拠に魔王としてのスキルを新たに獲得していない。
とのことです”
まだなのか……もう魔王が現れたことは知れ渡っているかも知れないのに。
”魔王となる日は遠くないそうです”
なら、いいんだけどな……
勇者候補の対策を練る必要がある。
このままじゃ失うばかりだ。
それと、もうひとつ。やらなきゃならないことがある。
「イナ。リィファを呼んできてくれるか?」
「? わかりました。急いで呼んできますっ!」
イナは足元に気をつけながら部屋を出る。
少しした後、リィファが失礼しますとイナと一緒に入ってくる。
俺は、リィファに言った。
「リィファ。お前の父親、殺していいか」
「……理由を教えていただいてもよろしいですか?」
「正直もう俺にとってあの国がどうなろうと関係はない。
ないが……それでも故郷だ。
腐った独裁と見捨てられた者たち。このままじゃ腐敗したままだ。
だから、王の首を取りあの国を変えたい。
受け入れられるかは分からないが国王にはカリムについてもらおうと考えてる」
「わたくしは……お父様に憎しみも恨みもございません。
ただ、王としては身に余ると考えてはおりました。
わたくしではお父様を変えることは出来ない。
ですから、エノア様のお考えに賛同しても構いません。
お父様に”父親として”の感情を持ち合わせていないのも事実です。
でも、お兄様に国王が務まるでしょうか」
「あいつもあいつなりで努力していたのは知ってる。
たとえ失敗したとしてもちゃんと支えてくれる仲間が今はいるからな。
それでもダメならリィファが手伝ってやってくれないか?」
「ふふっ。そうですね。
お兄様はもう変われたのでしたね」
「ああ。それに今までの恨みを込めて腹もぶん殴ったし後は期待するだけだ」
革命。奴隷、トアの育った場所、不当な罰。
汚れた権力。それらを壊す。
カリムは仲間言った。国王に即位するまでと。
つまりカリムには王になる意思があるということだ。
そのまま待ったってカリムが即位出来るかは分からない。
カリムの実力が知れればあいつは処刑されるかも知れない。
部屋にティアナが慌ただしく入ってくる。
「トア達が戻ってきた!」
俺はイナとリィファを連れ、外に出る。
トアとイビアがぼろぼろの状態だった。だが生きている。
アビスは目立った外傷はないものの息切れを起こしている。
俺はイビアに声をかけた。
「大丈夫かイビア! その怪我……ヴァルクに」
「あいつ……本当に人間かよ。
はぁ、はぁ……強すぎんぞ。ああっ! くそっ!」
イビアは地面にごろっと転がり激しく息をする。
アビスは杖を落とし、地面に倒れ込んだ。
「アビス!」
「すみませ、ん。魔王様。
魔力回路を酷使しただけです。
時間を稼いだ後、スキを見ては短距離で移動術式を作り上げていたので……
戻るのに時間がかかり、申し訳ありません」
「そんなことない。よく生きて帰ってきた。
ゆっくり休め」
「はい……」
俺は何も言わないトアに声をかけた。
「トア……」
「あたし、勇者候補なのに……いいのかな」
「嫌なら……」
「嫌じゃないっ! だから……困ってる」
「すぐに答えを出す必要はないさ。
怪我、大丈夫か?」
「大丈夫だけど。でも、もうスキルが切れる。
勇者スキルの不屈は言ってしまえば痛みを認知しなくなって戦い続けられるスキルなんだ。
だから……もう」
そう言った後、トアは苦しみだした。
体の怪我も軽傷とは言えない。
「早く治療しよう。
リィファ、応急処置頼む」
「わかりましたわ」
治療を受けながらトアは泣き始めてしまった。
俺は膝を抱え込んだトアの背中に手を当てる。
「どうした?」
「ぅっ、がでなかった。
ずっと勝ってやるって努力してたのに……
傷一つ、つけられなくて……くやし、くて……あたしは、弱いんだ」
負けず嫌い、か。
「俺も、弱いんだ。
実際俺だってヴァルクに勝てたかは分からない。
まだ実力を隠している可能性だってある。
弱いから、いろんなものを失う。
俺も強くなるからトアも強くなろう。
悔し涙を流さないためにさ」
「悔しい……絶対強くなってやる」
これならすぐに立ち直れそうだな。
ま、もうひとり悔しがってるのがいるけど……
「イビア。傷が治るまでは落ち着けよ」
「くそっくそがっっ! 人間のくせにっ!
あたしがここまで強くなるのにどれだけっ!
ぶっ飛ばすあのキザ野郎!」
そういいながら地面を蹴るわ蹴るわ。
俺はカンナ以外の全員がここにいることを確認した上でみんなにこれから俺が何をしたいのか。
魔王としてなにを成し遂げたいのかを告げた。
「治療に専念しながら聞いてほしい。
みんないるしな。
俺が魔王だと、魔王が現れたのだと世界に知れ渡っている可能性がある。
だとするとな。いつまでもこの国に厄介になるわけにはいかないんだ。
強くなりながら居場所を作る必要がある。
かと言ってエルフの森に言ってもまだゼートを解放できない。
いつ暴走するかもわからないしな。
そこでだ。世界を相手取るのに必要なことがあると思っている。
意見、異論は自由だ。
俺は――魔王として国を作る。
人と魔族が住む国を……作りたいんだ」
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