金箔
カリムはリーシアの前に立ち問いかけた。
「リーシア。なぜエノアについていく。
これを聞くのは二度目だな。リィファと抜け出したあの日と同じ質問だ」
「カリム、急いでるのよ。
エノアが好きだから。これでいいでしょ」
「私ではダメなのか」
「……あんたの流した噂でエノアが石を投げつけられていたことは知ってる?
その時に私は住民の投げる石と言葉から手を広げてエノアを守った。
でもね。そんな私の背中を引っ張った後、エノアは住民達の前に立ったの。
リーシアを傷つけないでくれって。俺だけでいいだろって。
もう血だらけなのにね。
あなたに出来る? 国王から目をそむけられないあなたに。
国民から石を投げられる覚悟があった?
他にもいっぱい理由はあるのよ。勇者候補だからじゃない。
エノアだから好きになったの。あなたがやったことは許せないけど同情はする。
だからおとなしくそこをどいて頂戴。
じゃないと――本気で潰しに行くわよ」
カリムは剣を下ろし、空を見てため息をついた。
「そうか……
臆病な私には到底出来ないな。
私は私であり、エノアはエノア。
始めからリーシア嬢は、私の元へは来なかったのだ」
そして再び剣を構える。声高らかに言った。
「シアル! ピーター! セイ! カートン!
私が国王に即位するまで私に仕えよ!
国王にではなく、私にだ!」
「「はいっ!」」
「リーシア嬢、エノア。
私は自分の仲間を守る為に、罪人である貴様らを取り押さえる!」
俺はリーシアの前に出た。
「そういう選択をとるんだな。カリム。
だが、今は状況が状況なんだ。
――手加減するつもりはない」
「話は聞いていた。エノア。
魔王だったのだな。
その気迫に私の手が震えている。
しかしな。私も一国の王子である。
たとえ自分が勇者候補ですらないと分かっていたとしても立ち塞がらなければならない!」
「勇者候補ですら、ないだと?」
「そうだ。私には勇者スキルがない。
それどころか特別なスキルすらないのだ。
トアが持っている特別なスキルを、私は持っていない」
「なんで」
影が俺とカリムを覆った。
「それなら私が説明してあげるわぁ」
「あんた、夢の」
「あの子はまだ帰ってきてないわよ。
んっ、あらぁ、まだだめねぇ。体が形を保っていられなくてどろどろ」
夢の女性はすーっとカリムの元へと向かった。
「あの日鑑定で勇者候補と出たのは私がそうなるように騙したからよ。
まるで金箔を塗った偽物の金のようにね」
夢の女性はカリムの顔に手を当てて言った。
「つまり、あなたは一般人なのよ。
なんの力も持たない普通の人間。現実を叩きつけるようで申し訳ないけど、もう分かっているんでしょ?」
「ふ、ふははっ! 分かっていたさ。
どんなに努力しようと人並みでしかなかったからな。
この剣のおかげでなんとかだましだましやってこれたのだ。
お前の行動は私を救うためか? どうなんだ! 言ってみろ! 理由も含めてな!」
「まぁ、そうよ。
勇者候補でなければあなたは……」
「ふん、そういうことか。
礼など言わんぞ化け物」
「余計なことしちゃったかしらねぇ。
利用する目的もあったからそうしたのだけれど……
あら……もう時間ね」
影が溶け、夢の女性も消え、空の光が差し込んでいく。
「エノアよ。
たとえ敵わないと分かっていても私は歯向かうぞ」
そう意気込むカリムに俺は言った。
「悪いな。カリム」
「なぜ目の前にっ! まさかっ」
「ああ。あの時と同じだよ」
俺は影踏みを使ってカリムの正面に立った。
カリムの腹部を殴り、気絶させる。
カリムの仲間を影で多い窒息させ気絶させる。
影の力も同時に扱えるようになっていた。
そしてこれだけ時間を使ってしまえば……
「随分と派手な攻撃をしてくるものですね」
「もう戻ってきたのかヴァルク。もう少し寝ててもいいんだぞ」
「国王様に叩き起こされまして」
「それは難儀だったな」
「ええ。どうやらあなた相手にはスキルだけでは対抗できそうもないですね。
相性が非常に悪いです。
ですのでここからは魔法を使いながら……」
ヴァルクは一度黙った。そして再び口を開く。
「おや。エノア君が魔王であるという事実を聞いていながらそちらにつくのですか?
トア」
「……わかんねーよ。
そもそもあたしは魔王とか勇者とかどうでもいいんだから。
でも魔王が悪いやつだって聞いてたから倒せって今まで言われて。でも、でもさ。
この拳をエノアに向かって振れないんだ……」
ヴァルクはなにか、思いを馳せるように微笑んだ。
「トア……あなたは……そうですか。
まぁ私も勇者だの魔王だのはどうでもいいんですがね。
では、殺し合いといきましょうか。
本気で戦うのは初めてですねトア。
と思ったのですが……邪魔が入ったようです」
複数の魔法が飛んでくる。司祭と信徒の魔法だった。
俺は影を使ってカリム達を含む全員を影で守る。
ヴァルクは後方に下がり魔法を避ける。そして俺に剣を向ける。
「さて、そう簡単にあなた方を逃がすわけには行かないんですよ」
ヴァルクがそう言った後、俺たちを囲むように聖騎士団が並ぶ。
後方には司祭達が構え、上空からはガーディアンが襲ってくる。
ガーディアンをトアとリーシアが撃退するが無尽蔵に湧いてくるガーディアンに苦戦していた。司祭たちはガーディアンを巻き込むように魔法を使ってくる。
それらは俺の影で対処していたが、終わりが全く見えない。
ヴァルクはそれを見ながら言った。
「絶対絶命。ですかね。
どうします? あなた方はここから一体どうやって抜け出そうと言うのです?」
「エノアァァァァッ!」
カンナが叫んでいた。
虚ろな目で、どこを見ているのかも分からない瞳孔。
腹部を抑え、どうやってそんな声を出したのかと思わせるほどの重症。
杖を片手で持ち、その杖でバランスを保ちながら膝立ちをしている。
俺はカンナに言った。
「無理するな! 体力を使わずに温存するんだ!」
「うっさぁぁぁぁい! はぁっはっ……げほっ……ああ、死ぬ。
はぁ、はぁ……いったぁ……
こちとら精神普通の女子高生だっての……痛いし寒いし。
はぁ……エノア! 私が死んでもっ、死んだ後も、大好きって――言ってよね!
だから、魔素を頂戴!!」
なに、言ってんだよカンナ。死んだ後も好きと言ってくれ? 当たり前だ。
でも、死んでもなんてこと言うな。後で、ちゃんと説教するからな。
いつも説教されてばかりだったしな。
「俺の体力、全部持っていけ」
この、闘技場の中にとてつもない濃さで魔素が充満する。
俺は意識を失いかける。魔王状態の俺が意識を失いかけるほどの体力を使って用意した魔素。
頼んだぞ、カンナ。
体から力が抜ける。もう立つことすら。
俺の事をトアが支える。意識はあるが自由に動くことが出来ない。
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