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静かな覚醒

「あんたのじゃないわっ!!」


 どこからかリーシアの声が聞こえてくる。

 闘技場内に霧が蔓延する。おそらくファグムフィションだろう。

 それも大規模なものだ。観客席を越え、闘技場全てを包むように霧が発生していた。

 近くで金属音が聞こえる。


 多分リーシアが母さんとルミアの拘束具を斬った音だ。



「待たせちゃってごめんね」

 リーシアは俺に対し、そう言った。


「んなことないさ。信じてたよリーシア」

「みんなのおかげっ」


 リーシアが俺の拘束具を斬ろうとした時、空からとてつもない熱さを感じる。

 その熱さが暴風によって周囲に伝わる。

 ファグムフィクションがその風によってかき消されてしまった。

 リーシアが目を腕で隠しながら様子を伺っている。


「なに?! なにがっ」

「リーシア! どうなってる!」


「わかんない! まだっなんにもっ」


 熱い。リーシアは俺の拘束具を斬って開放する。

 俺は自由になった瞬間上空を見た。


 炎が空に漂っていた。それらは徐々に集まりながら一つの形を形成した。


 巨大な槍の形となったそれはさらに小さくなっていく。



「あれは……ルーフェンダグラス。

 死人に襲われた時にリーシアが使ったやつか?」


「ううん。あれは最上位魔法、ルーフェンクルーティスかな。私がゼートに使ったやつだと思うんだけどなにか……違うわ。

 気をつけないと……でも一体だれが……」


 俺は周囲を見渡した。

 カリムはそれに驚いている。ならカリムではない。

 ヴァルクは何も行動を起こしていない。


 近くに居た司祭も、周りの信徒もただ、見上げているだけだ。

 俺はまさかと国王がいるであろう場所を見る。

 豪華な椅子に座ったまま手を上げている。


「国王が……」


 てっきりガーディアンを出すことしか出来ないと思っていた。

 戦闘能力などないと。


 そして国王はその手を下ろす。

 俺はルミアと母さんの前で身構え、その次の行動に備えた。






 そして槍は――カンナを貫いた。



「なん、で」


 俺はそう呟いた。なぜカンナを狙った。なんの関係もなく、一切の危険がないカンナを。


 カンナは杖を落とし、腹部の大部分を失った。

 カンナは膝をつき、頭から倒れる。


 さらにはその周囲を囲むように灼熱の炎が燃え盛っている。


「カンナ……今行くからな、死ぬなよ」


 行かなければ……今すぐカンナを助けに。

 その上空をガーディアンが埋め尽くす。


 司祭が魔導書を取り出し信徒と共に戦闘準備を行う。



 隠れていたイナが走って近づく。

「ご主人さま! はやくっはやくカンナさんを助けてください!」


 そう言って俺に剣を渡した。



 前方にヴァルクが立ちふさがる。

 後方ではカリムとそのパーティーが戦う準備を済ませていた。


「ヴァルク」

「なんでしょうエノア君」


「お前には恩があるが今は下がれ」


「そういうわけにも行きません。

 たとえあなたが――怒っていたとしても」



「覚悟はあるか」


「それは……

 お互い様ですよ」


 ヴァルクが間合いに入り込む。

 ダンッ! と片足を強く地面につけ言った。


「スキル ”空現”」


 俺は動かない。

 ヴァルクは何も起こっていないことに動揺する。


「なぜ……」


「空虚。

 お前のスキルは俺に”届かなかった”」


「では、普通に殺します」



 ヴァルクは冷静にそう言うと洗礼された剣技を使って一瞬で俺の両腕を切り落とした。


「もういいか」


 俺はヴァルクの攻撃のあと、そう言った。



「切り落としたと思ったんですが……」


「どうだ? まだ魔王の怒りに触れる勇気はあるか?」



「この威圧感。あの時の……」



 俺は魔王として、覚醒していた。カンナを傷つけられた怒りで、自分を抑えられない。

 殺してやる。そう頭の中で反響する声を抑える。


 ヴァルクは大きく口を開け、笑い始める。



「あはははっ! これです! これですよ!!


 私のスキル、空現はスキルを発動した瞬間私が斬れた可能性のあるものを全て斬ったことにするスキルです。もはや隠していても仕方ないでしょう。

 あなたのスキルは万能そうですが……どんな範囲でも使えるのですか?」



 空虚はなかったことに出来るという強力なスキルの反面、適用できる範囲が極端に小さい。

 大型の魔法などには意味をなさない。


 しかし俺がこの状態であるのならば、もう死ぬことはない。

 なぜなら魔王の特質、威圧、特権はスキルではない。


 魔王が元々持っている性質なのだ。



「ヴァルク。お前がなにをしようとしているのかは分からないが俺が死ぬことはもうない。

 そこをどけ」


「無理ですね。国王様は見学しながら楽しんでいるでしょうし――その期待に応えねば」


 ヴァルクはいくつもの剣を複製する。


「この複製された剣は元の剣よりも劣化してしまいます。

 ですが、この四つの剣と私の持っている剣。計五本の剣で斬れるものはどれだけの範囲だと思いますか?」


 ヴァルクは問答無用で俺を切り刻んだ。

 体のほとんどを斬られたがすぐに再生する。


「無駄だ。ヴァルク。俺は死なない」


「そうでしょうか?

 再生するにも失うものはあるはずですよ。

 魔素や……魔力など……どうです? ”空現”」


 俺は全身を見る影もないほど斬られながらヴァルクに近づいた。

 再生しながらヴァルクの前に立ち、右手でその首を締める。


 苦しみながらもヴァルクは口を開く。


「ぐっ……その、っ……恐怖の象徴のような眼光はっ! それにっあの時よりも、強い威圧。

 萎縮してしまいそうですがっっ!」


 ヴァルクは俺の腕を切り落とす。

「死ぬつもりはっ、ないのでね」




 だがその腕はヴァルクを掴み続けていた。

 俺はその腕を再生させながら、冷たく言った。


「命を落とす準備は出来たかヴァルク」

挿絵(By みてみん)


「がっ……あっ……これはっ、まず、いです、ね」


 俺はさらに力を込める。その時、トアの声が聞こえる。



「なにやってんだよ!」


 トアが近づいてくる。そして俺の腕を抑えながら言った。


「殺さなくてもいいだろ! 話はリーシアに聞いたよ!

 ただここから逃げ出せばっ! どんな状況なんだっ!」


 混乱しているらしい。



「トア」

「なんだよ」


「邪魔をするならお前も殺す」

「なっ……エノアはそんなこど、言うやつじゃ」


「そんなやつなんだよ。

 こっちはカンナが死にかけてるんだ。急いでるんだよ」


「カンナが? ならあたしがこいつを」



「俺の味方になるっていうのか?

 俺が魔王だとしてもか?」


「えっ……」


 唖然とするトア。



 ヴァルクは剣を操作してトアを殺そうとする。

 俺はヴァルクを離しトアを蹴る。

 トアはそのまま後方に吹き飛び、その剣からの攻撃を免れた。


 ヴァルクは喉を抑えながら笑った。


「けほっ……かははっ。

 ちゃんと人の心は残っているようですね。

 力も意識が落ちる程度に押さえてました。

 もっと本気できてください」


「わかった」



 影が拳の形を作りヴァルクを地面から上空へと瞬時に殴り飛ばした。

 ヴァルクは一瞬にして吹き飛び、国王のいるスペースにガラスと障壁を割りながら押し込まれる。


 観客席が目に入った。

 観客は身の安全を確保する為かすでに全員いなくなっていた。


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