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公開処刑 当日

 街の掲示板や、配られる新聞にエノアの処刑日と罪の内容が記されている。

 またたくまに街の話題はそれで持ち切りになる。

 節々から聞こえてくる会話は私にとって不快なものでしかなかった。


「やっぱり……恨んでたのよ」

「育ててもらってこの国に一体なんの恨みが」

「カリム王子の言う通り信用ならないやつだったのよ」

「公爵を殺すなんて……」

「魔族と手を組んだとも……そもそも人間なのかすら」



 私はほっぺを膨らませながらリーシアを待っていた。

 人通りの全くない路地からリーシアが出てくる。

 私はリーシアに愚痴る。


「もうっ! みんな好き勝手言ってて嫌になるんだけどっ!」


「そういうところよここは。

 人に正義を振りかざせるのが楽しいんでしょ。

 私達は正しいんだぞって、そっち側なんだって」



「悔しいいいい! 確かに人類の敵と言えばそうなんだけどさっ!

 それは今までで今回も同じとは限らないじゃんっ!」


「偏見は持つものよ。諦めて」



「あっ、それでどうだった?」

「一応大丈夫、かな?」


「良かった……リィファはまだイナちゃんと一緒かな」


「だと思うわ。早く合流しましょ。

 後二日しかないけど出来ることは全部やっておかないと」



「じゃあ視察と行こっか。たしか闘技場を利用するんだよね」


「みたいね。行きましょ」


 私達はリィファとイナちゃんと合流。

 その後、街の南に位置する闘技場を目指した。

 闘技場に着くとその高さを見るために顔を上げる。

 見渡す限りだと円形の建物に見える。


「わー……おっきぃー」


「何万人も入れるくらい大きいからね。

 入りましょ」



 私達は中に入る際、チケット代を支払う。

 石造りの階段を上っていく。まだ建物の中にいるからどんな場所なのかはあまり分からない。

 薄暗い光が出口から差し込む。その光の先に出ると狭い場所から出たせいかその広さに感動すら覚える。


 円形の地面を囲むように石造りの観客席が周りに作られている。

 この円形の地面が見世物の舞台だと思う。


 多くの人がそれを見れるように観客席が階段状に上に上がっている。

 まだ真っ昼間だと言うのに大勢の人がそれを楽しんでいた。


 円形の地面の中に、牛頭の魔族と思われる生き物が武器を持っていた。

 それに対し、装備が万全とは言えない男が一人。

 服は半袖で鎧など着ておらず、持っているのは剣と木でできた盾ひとつ。


 牛頭の魔族は棍棒を振り上げ、男に向かって振り下ろす。

 男はそれを盾で防ぐけど粉々に砕け散ってしまう。


 自分に当たる前に地面を転がり棍棒を避ける。

 盛り上がる会場を見向きもせずお互い距離感を図っていた。



 男は一気に間合いを詰める。

 牛頭の魔族は棍棒を振り払うが男はそれを屈みながらうまく避けた。

 間合いに入った男は剣を振り上げ牛頭の腕を斬る。

 その瞬間会場は雄叫びのような歓声を上げる。



 しかし男は牛頭の魔族に左腕で頭を掴まれてしまった。

 そしてそのまま持ち上げられる。

 男は持っていた剣で抵抗するがその腕を噛みちぎられた。

 そして地面へと叩きつけられ、その頭を原型を留めないほど踏みつけられる。

 もう頭などないのに牛頭の魔族は踏み続ける。


 もう、死んでるよ。私はそう言ってあげたかった。

 私はあまりの狂った戦いに吐き気を覚えていた。


 しかし会場では見慣れているのかため息と笑い声が聞こえてくる。

 吐きそうになるのを我慢しているとリィファが立ち尽くしているのが見える。

 私はリィファの目を隠しそっと抱きしめる。


「見なくていいよ。見ないほうが――いいよ」


 自分の国民がこんなことを娯楽にしていたのなら、まっすぐなリィファはショックを受けてしまう。そう思った。


「カンナさん……大丈夫です。

 お話には伺ってましたから。お父様やお兄様は時折ここに来るそうです。

 わたくしは城を出ることがなかったので見たことはなかったのですが……」


「そう? でも、見てて気持ちのいいものではないでしょ?」



「はい。ですがわたくしにはどうすることもできませんわ」


「歯がゆい?」「ええ」



 その後私はいわゆる見世物には目を向けず、闘技場の構造を確認する。

 そうは言っても複雑な作りではなかった。


 見世物が行われる場所と観客席。観客席のさらに上に大きく四角いスペースが作られた場所がある。そこにはガラスが張られていて、闘技場全体がよく見えるようになっている。


 リーシアによれば障壁魔法がかけられている可能性が高いとのこと。

 きっとここから国王などの偉い人が見物しているのだろう。


 それから雨除けなのか、観客席の上にだけ屋根がつけられている。

 先程のガラス張りの見物席。その向かいにある屋根に私は目をつけた。

 高さも充分あり、注目も集めやすく、国王からもっとも遠い場所。


 私はそれをリーシアに伝えた。

 リーシアはいいんじゃないと返事した。


 それから最適な奇襲経路を念入りに探す。

 日が暮れて外に出なければいけなくなった。


 外に出されてから私達は闘技場の外側を見に行く。

 私が示した場所の裏側を見て、私は言った。


「これは……大変そう。

 これ登っていくのかー」


 リーシアは期待しているわよと言って宿に帰っていく。

 私もその後を追う。

 後一日。もう出来ることは何もない。後はどうか、トアが味方になってくれることを祈るだけだった。

 




「おまたせいたしました」


 ヴァルクの声が聞こえてくる。カリムのパンのおかげで体力的な問題はない。

 ヴァルクの後ろには兵士達が構えた状態で待っている。


「暴れたりしねーよ」



 言った所で意味なんてないが。

 檻からだされ、手には枷が嵌められる。

 ヴァルクは俺に忠告する。


「破壊しようだなんて思わないでくださいね。

 魔素の量に応じて爆破されるので」


「忠告どーも」



 やはりヴァルクは死なれてはほしくないらしい。

 ただここから先は国王の目が届く場所。そうなったらもう完全に敵として立ちふさがるのだろう。

 兵士に乱暴に押されながら俺は闘技場まで歩かされる。

 ガーディアンまで召喚され厳重に管理される。


 口々に罵声を浴びせられながら闘技場にたどり着く。

 そこで一本の大きな木で出来た棒が突き刺さっている。

 それに手を回され縛り付けられた。この闘技場が埋め尽くされるほど人が見に来ている。


 俺が死ぬのをそんなにもみたいのか。悪名は高いだろうが。

 そのまま俺は観衆にさらされ続ける。


 母とルミアと共に。俺の横にも同じ用に棒が三本埋められておりそこには母さんとルミアが縛り付けられていた。


「ルミア。母さんの調子はどうだ?」

「もう……」


「……」



 ルミアは俺に言った。


「後悔などしておりません。

 私はエノア様に尽くすと決めたのですから。

 なんの力にもなれなかった私を、お許しください」


「馬鹿なこと言うなよ。

 ルミアは大事な家族だ。

 家の管理も、食事も、本当にいい仕事ぶりだった。

 俺自身としても、ルミアの存在は大きいんだ」



「エノア様……そんなこと、私ごときが……

 状況を覆せず、ほんとに、ほんとにごめんなさい」


「泣くな。まだ諦めるな。

 リーシア達が助けてくれる。

 俺たちを惨めだと思う観客に胸をはれ。堂々としていろ」



「リーシア様がっ……

 そうですね。恥ずべきことなどありません!」


 ガラスに覆われたスペースに国王が座る。

 この闘技場の中には俺たちを囲むようにガーディアンと複数の兵士。

 観客席の内側に信徒。


 ヴァルクとカリムは同じ闘技場の舞台の中で立っていた。

 トアの姿は見当たらない。


 司祭が俺の前にまで歩いてくる。本を片手に持ち、なにやら唱えている。

 神の言葉だろう。


 そして、観客に向かって声を張り上げる。



「この者は! あろうことか魔族と手を組み、反逆の機会を伺っていました!

 一度ならず二度までもっ!!

 そして国の大事な宝である公爵夫妻を殺害! その死体を遺棄し隠そうとした!

 この者がその太陽の下を歩いていいものか!

 いいわけがない!!」


「「おおおおおお」」



 陽の光が雲の影から姿を現す。


「よってこれより、この罪人とその母、侍女を含め惨殺したのち首を掲げるものとする!」


「「おおおおおお!!」」








「ちょっっっとまったあぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はその声に驚きつつも聞き覚えがあることから安心感を覚えた。

 国王の向かいに位置する屋根。

 その屋根の上でカンナが仁王立ちをしながら声高らかに言った。


「わたしはぁぁぁぁ!!

 てんいしゃでっある!!」


 なにを言い出しているんだ。カンナの発言に疑問を持ちつつも耳を傾ける。



「物理系JKカンナ!

 私は宣言する!


 そこで優雅に見学しているものどもよ!

 私の男――返してもらわよっ!」

挿絵(By みてみん)


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