準備
私はリーシアに掴みかかったけど諦めたわけじゃないとその目を見て気づいた。
そしてエノアはヴァルクに連れられ、行ってしまった。
「ねぇリーシア。私達は」
私がリーシアに話しかけ終わる前に国王が下がっていいと私達を城から追い出す。
兵士に槍を向けられ外に出た。
リーシアがそのまま足を止めずにどこかへ向かう。
私はリーシアに言った。
「リーシアッ! ちゃんと説明してっ!
今から一体どこに」
「付いてくれば分かるわ。カンナもよく我慢出来たわね」
「だって……リーシアが我慢してたから」
私の裾が引っ張られる。
「あの、ご主人さまは……」
そうだ。イナちゃんは怖いはずだ。
だってずっとエノアを頼りに生きてきたんだから。
そのエノアは処刑すると連れて行かれてしまった。
「大丈夫。なんとかしてイナちゃんのご主人さまを助けなきゃね」
「……はい」
まだ元気のない返事。
ただでさえ離れるのを嫌がるのだから、今のイナちゃんは不安定かも知れない。
イナちゃんの手を握り、私はリーシアに付いていく。
リーシアが向かったのはガディさんと言うこの間お世話になった鍛冶屋さんだった。
リーシアは中に入るなりガディさんに説明した。
「案の定だったわ。
話はエノアから聞いてる。もちろん信頼していいのよね」
ガディさんは椅子に座りながら答えた。
「当然だ。イナの嬢ちゃんにわしの剣を渡した時からわしの運命を預ける相手は決まった。
エノアの旦那に一生ついていくぜ」
そう言ってエノアの剣をカウンターの上に置いた。
リーシアは返事をする。
「ありがとう。
問題はここからよ。
私達はこの国を抜け出すわ。
もちろんただ逃げるんじゃない。大事なものを返してもらってからよ。
エノアを助けながらエノアの母親と侍女も助け出すわ。
私が考えてた唯一接触出来るタイミングは公開処刑の日よ」
「待って!」
私はリーシアが話続けるのを静止した。
それから私はリーシアにお願いした。
「待って……
まずはちゃんと説明して」
リーシアは深呼吸をして言った。
「そうね……
ごめん。慌てていたのかも。
焦っても仕方ないものね。
破龍との一件の後、エノアは私と話をしていたの。
内容はヴァルクが信用出来ない。ただ、わかりやすすぎる。ってね。
そこでエノアは自分が嵌められているかも知れないと考えたのよ。
行き過ぎた考えならそれでいい。ただ、対策だけはとっておきたい。
そこで自分の剣を取られないためにガディに預けておいたって。
だから何かあったら助けてほしい。その剣を持って母親とルミアを助けてくれって」
「そっか。
じゃあずっと疑ってたんだね。
でも対策出来たのは剣を守ったことだけ……だよね」
「そう。それ以上は時間がなかった。
だからエノアは私に助けてって言ったんだと思う。
初めてエノアに”助けて”って言われた。状況はよくないけどうれしかったな。
浮かれてる場合じゃないわね」
「ほんとだよ。
なら公開処刑の日に強襲をしかけるってことでいいの?」
「正面突破しか出来ないのが残念ね。
守りは万全だろうし……」
リィファがしょんぼりとしながら言う。
「わたくしも信用されていないので潜入というわけにもいきません。
出来たとしてもその先で出来ることがありません……」
リーシアはリィファを撫でながら励ます。
「いいのよ。
私達は私達に出来ることを全力でやるの」
「お力になれるかは分かりませんが……」
私はリーシアに聞いた。
「ねぇ、正面切って戦って――私達で足りる?」
「難しいわね。無尽蔵にガーディアンが出てくるでしょうからそのうち体力切れを起こして私達の負け。
一瞬のスキを作って連れ出すしかないわ。
あの国王の土俵で戦ったら勝ち目がないのよ」
「味方は増やせない? トアとか」
「あの子か……
うーん。エノアにはなついてるけど勇者候補なのよね。
エノアは魔王だし、彼女自身国王に忠誠心はなくても恩はあるはずよ。
だから味方になってくれるかどうかは分からないわ。
むしろ敵になるかも知れない。それを頭に入れて考えないと」
「嫌だな……」
「仕方ないわ。
悔しいけどそれが現実だもの。
でもある程度の考えと協力者は考えてるわ。それと」
私はリーシアの考えと、事前に聞かされたというエノアが用意していた手を聞いた。
それを聞いて私は喜んだ。
「行ける! 行けるよ!
それだったら充分すぎるくらい」
「と、思いたいんだけどね。
そう簡単には行かないわ。
最悪の戦力が立ちふさがるとしたら、国王、ガーディアン、司祭、信徒、聖騎士団。
そして勇者候補カリム、勇者候補トア、それと正騎士団長――ヴァルク」
「でも、それだったら」
「そう思うのも無理は無いわ。
実際一緒に戦ってたんだもの。
でもエノアの話だとね。ヴァルクは実力を隠しているかも知れないってことよ。
そこが未知数であることが不安な要素なの」
「うー……
うまくいかないなぁ……」
俺は硬いベッドから起き上がる。
背を壁に当てると冷たさが肌に伝わる。
気が狂いそうだ。
あれから十日くらいはたったか。食事の回数を覚えていない。
あまりにも食事が少なすぎて苦痛を感じる。
「さすがに、きついな。少しずつってのが余計きつい。
水はあるが……」
狙い通りなのか俺は日に日に弱っていった。
体を動かすことは出来ないし、夜に寝ているのかも全く分からない。
唯一の楽しみと言えば足音が近づいてくる瞬間だけだ。
その楽しみも先程終わった。
いつまでここにいればいい。なぜか笑いがこみ上げてきそうになる。
落ち着け。保て。
足音? もう一日経ったのか? そんなわけはない。なら……
「やっぱカリムか」
「久方ぶりだな。今日は貴様に報告があったのでな。
貴様の処刑日が決まった。二日後だ」
そう言って布に包まれた大きなものを投げ込まれる。
俺はそれを手にとった。持った感覚はやわらかい。
開くとそこにはたくさんのパンが入っていた。それもまだ温かい。
「おお、助かるよカリム」
「中にハムが挟まっているだけのパンだがな」
「ははっ、ごちそうだ。あぐっ」
俺はそのパンをかじる。うまい。ちゃんと味がついていることがこんなにもうれしいとは思わなかった。
「勘違いをするな。
助けるためではない。処刑前に死なれては困る」
「けどお前の独断だろ?」
「鋭いやつめ。だが私は貴様の敵だ」
「……そうか」
つまりそれは……
「私は私の仲間を守る。故に貴様とは敵同士だ」
「求めていた結果だよ。
欲を言えば、いや、なんでもない」
「ふん。なんでも貴様の思い通りになると思うなよ」
「パン、ありがとな。生き返ったよ。
仲間大事にしろよ」
「……ふん」
カリムは何も言い残さず、帰っていった。
二日後、二日後か。
明確な日にちが決まり、緊張感が生まれる。
リビアはまだ――ここにはいない。
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喜びます。