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幽閉

 俺は城を出て地下牢まで拘束されながら連れて行かれる。

 俺はヴァルクに言った。


「ピエロが」


「申し訳ありません。

 最初にも申し上げたとおり私は国王様の命令には絶対に従わなくてはなりませんから」



 俺は複数人の兵士に囲まれながら歩いていた。

 そして一つの建物の前につく。


 ただ四角いだけの無機質で面白みもない建物。

 入り口から入るとすぐに地下への扉がある。

 横にもう一つ扉があるがその先がどうなっているのかは分からない。


 そのまま地下に連行されるのだがヴァルクが残りの兵士に先に帰っているようにと言った。

 兵士はもちろん異を唱えたがヴァルクは命令だと冷たく言った。

 兵士はその場を去り、俺はヴァルクの前を歩いていく。


 暗い階段を降りていくと牢屋がいくつも存在する。

 俺は更に下の階に続く階段へと歩かされる。


 足音が聞こえたのか、無実だ! と叫んだり、出してくれ! と叫ぶ者たちの声が聞こえてくる。俺の足音を看守かだれかだと勘違いしたのだろう。


 下へ、下へと歩いていく。



 おそらく地下牢の中でも一番下の場所に着く。陽は通らず、湿気臭い。

 蝋燭が灯っているだけ。それも魔法ではなく普通の蝋燭。


 ヴァルクに牢の中へと入れられる。

 そこにはマッチともう一つの蝋燭、そして毛布のない鉄製のベッド。

 そして用を足すための穴。


「こりゃ居心地が悪そうだな」

「でしょうね」


「俺一人か?」

「この階は一人だけなのですよ」


「じゃあ聞こうか。

 なぜ嘘を”バレるように”ついた」


「ピエロと言われた時に気づかれていたのだと思っていましたがそうですか。

 ただのヒントですよ」



「俺はお前の目的や立場が全く分からない。

 敵か? 味方なのか?」


「どちらでもないが正解ですかね。

 私は私の目的の為に生きているのです。

 ですから王の命令には仕方なく従っている。


 エノア君が私に対する不信感、違和感を持っていただければ計画としては助かるのですよ。

 そうすればあなたは手を打つ。

 実際、剣を置いてきましたね?

 違和感に気づいて頂けたのだと思い、うれしく思いました」



「なら俺を殺すつもりはない、とでも言うのか?」


「それは分かりません。生き死に自体は重要ではなく分岐点でしかない。

 どう転ぶかで私も行動が変わりますので。


 ただ、あなたの味方になるということはございません。

 あくまで利用させてもらうのみです。

 王に恩を感じているのも嘘ではありません」



「ますますお前がどうしたいのか分からないな」


「ひとまず今はまだ、王の信頼を失うわけにはいかないのですよ。

 その上で私の目的を遂行するのみ。

 今後も私はエノア君、あなたの敵として立ち塞がりますよ。

 なにせあなたは、魔王なんですから」



「っ! 気づいて」


「ええ。あの魂を鷲掴みにするような恐怖を与えてくる魔力は魔王のものでしょう。

 おそらく私しか気づいていないので安心してください」



「俺の生き死には関係ないと言ったな。

 俺が魔王として存在したとしてもどうでもいいってのかよ」



 ヴァルクは今まで見せたことのないような不適な笑みを見せる。


「ええ。

 たとえ世界が魔族のものになろうともどうでもいい。

 私は、私の為に……


 いえ、やめておきましょう。もしその目的を果たせたのならその時に剣を交えつつお話しましょう。

 それでは私はふかふかのベッドへと向かいます。冗談です。

 それと――私としては生き残ってくれた方が都合がいいのでがんばってください」


「せいぜい抗ってやるよ」



 ヴァルクはその場を立ち去った。

 素顔の見えないやつだったがあいつなりの行動理由はあった。

 ヴァルクの助けを借りることは出来なさそうだがな。


 後は公開処刑の日、リーシア達を信じるしか無い。

 簡単な道筋は立てた。うまくいってくれよ。


 母さんもルミアも助ける。

 国王、本当の反逆を見せてやるよ。



 それから数日、俺は一日に一度、兵士よりパンと水を渡される。

 一日生きるには少なすぎる食事だ。たとえ動かなかったとしても足りない。

 弱らせたいという意図を感じる。


 体力を消耗するばかりだな。当然のように魔素はここにはない。

 そして残念なことに俺は魔力を扱えない。

 さらにリビアもまだ帰ってきていない。


 足音が近づいてくる。今日の分の飯はもう来たはず……

 近づいてくるはが薄暗いせいか顔が見えない。


 そして鉄格子の前に立った男の顔をうっすらと認識できる。



「カリム……」


「こうしてちゃんと話すのは久しぶりだな。

 凡人。いや、エノア。

 貴様の侍女と母親に異変はない。安心しろ」



「なんのきまぐれだ?」


「私にだって人の心はあるということだ。

 ひとつ聞きたい。

 なぜ貴様なんだ」


「なんの話だ」


 魔王であることがバレたのか?



「なぜみな貴様を選ぶのだ」

「んなもん知るかよ」


 違う。カリムは俺になにかぶつけたい言葉があるだけだ。



「まるで決められていたかのようにリーシアは私ではなく最初から貴様の元へと行かされていた。

 お前が凡人だと分かったのにも関わらずリーシアは私の元へは来なかった」


「そうだな……

 カリムは前世の記憶を持たない。故に失敗だと言われてきたからな。

 前世の記憶を持つ俺の方にリーシアの両親は目星をつけた」



「これが逆ならば、私の周りにはリーシアや、お前のように慕ってくれる仲間が出来たか?」

「そうはならなかっただろうな」


「なぜだっ!!」

 カリムは声を張り上げる。


「俺が俺であり、お前がお前であるからだよ。俺ならば全て捨てて逃げ出した。リーシアと過ごす為に」


「どうやってあの父から逃げ出すというのだ!

 お前が逃げ出したのは最初からリーシアといたからだ!

 あの父の元で育ってそんなこと出来るはずがない!」



「違うな。リーシアを、好きになっていたからだよ。

 出会った順番じゃなく、愛したからその為の行動をしたんだよ。

 どうやってリーシアを好きになったのかが変わるだけなんだ。

 だから逃げ出せたさ。実際リィファはそうしただろ?」


「貴様に何が分かる! 父が一体どれだけ悪逆非道なのかっ! 私とリィファの境遇を同じと考えるな!」



「ある程度は分かるさ。

 使い物にならないとはっきり分かればお前は父親に殺されるだろう。

 お前の母親のように」


「なぜっ、それを……母は罪人として処刑されたとしか表には」



「お前とリィファを生んでもう用済み、勇者候補としてリィファを生めなかった時点で処刑された。

 俺でも知っている。さぞかし怖かっただろ。お前が過度に父親を見てしまうのも分かる。

 せめてもの猶予がお前にはあった。父親の意に叶うように、価値があると示せるように努力しただろう。

 鑑定の日に全ての運命が決まってしまうとしても」



「そうだ!

 貴様が勇者候補であったから、前世の記憶を持っていたから、私はっ」


「その俺はリーシアと仲良くしながら無気力に生きていた。

 それが許せなくて、羨ましくて、妬ましかった。

 そして鑑定の日、全てが覆った。覚えてるぞ。

 あの日、お前は俺を侮辱しながら……」



「やめろ、やめろっ!!」


「安心した笑みを浮かべていたな」



「やめてくれ……」


「ああ。悲劇だよ。お前も現実に振り回されていたんだ。

 お前は誰も信じられず、もう一人現れてしまった勇者候補に怯えながら日々を過ごしてた」



「なんなんだお前は! どうして」


「人生二回目だからな。

 それだけいろんな人を見てきた。全部推測だ。

 あっているかなんて分からない。この国を出るまで、家族とリーシア以外なら一番見てきたのはお前だカリム。


 お前がそうなったのにも必ず理由があると考えてたんだよ」



 カリムは鉄格子の向こうで泣き崩れた。


「なら、どうすればよかった。

 どうすれば私はお前のようになれたのだ!

 どうすれば父に怯えず生きることが出来たのだ!」


「知るかよ。ならここに寝てみるか? ひどい寝心地だぞ。

 どうすればよかったのかなんて答えは意味がないんだよ。

 あるのは叩きつけられた現実だけ。俺もお前も、どうすればよかったではなくどうしなきゃいけないかを先に考えなきゃならないんだ。


 じゃなきゃまた現実に振り回されるだけだからだ。


 もしそんな妄想をするのなら、俺は反逆しただろう。

 勇者なんてしがらみは捨てて、リーシアに会いに行き、リーシアを口説いて、国から逃げ出して幸せな生活を目指したかな」



「臆病な私が、父に逆らうなど……やはり」


「妄想だよ。

 変わらない過去を変えられたかも知れない妄想だ。

 だが、この先は違う。せめて仲間を信用してやれ」



「あいつらは、私の父に怯えて言うことを聞いているにすぎない……」

「本当か? それは確かめたのか?」


「確かめなくとも分かる! それだけ、父は!」



「お前が信用してやらないとお前自身見えないものがあんんじゃないか?」


 カリムはなにか言い返そうとしていたが、その言葉を飲み込んだ。


「私は……ふん。忠告を受け取っておこう。

 いいか。私は貴様を助けない。そんな義理はないからだ」



 カリムはそう言って俺に背を向ける。

 俺はカリムの背中に向かって言った。


「それでいい。カリムのしたいようにすればいい。

 俺もお前の唯一の理解者だっただろうお姫様をさらったしな。

 俺への最後の言葉はそれで終いか?」



 顔だけちらりとこちらに向けてカリムはこう言い残した。


「エノア。もし貴様が死んだらリーシアは私がいただく」

挿絵(By みてみん)



「それは死ねないな」


 カリムは無言で階段を上がっていく。

 ずっと俺に文句を垂れたかったのだろう。

 貴様が羨ましいと。


 知っていたさ。俺が持っているものをお前が欲しがっていたことくらい。

 けど俺は強欲な魔王だ。誰もやるつもりはない。



 お前はお前自身の信用できる人を見つけろ。破龍討伐なんて言うほぼ死ぬと言っても過言ではない依頼に、力不足を承知した上でお前についていった仲間がいるだろ。


 いつ鉱石や流れ弾が来るかもわからない場所で待機と言われて待機し続けていただろう。



 それはお前に対する信頼からくるものだ。どっちしろ死ぬのなら逃げ出せばいいんだからな。

 カリム――後はお前が一歩、歩み寄るだけなんだよ。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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