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違和感

 洞窟を出た後、ティアナには洞窟に戻ってもらう。

 ティアナがはぐれたことをヴァルクが不思議そうにしていたが、別件で用事があると伝えた。


「用事、ですか?」


「ああ。ちょっとな。

 それにいくつか鉱石を持って帰ってもらおうかと思ってな」



「確かに素材としてはいいですからね。

 でしたら待ちますが」


「いやいいよ。

 ティアナにはゆっくり帰ってこいって言ってある」


「……そうですか」



 疑われているかも知れない。もっともらしい嘘が見当たらない。

 ならばなにか目的がある嘘の方がいい。と思って鉱石という目的をあてたのだが……

 それよりも俺としては助かっているがヴァルクはすぐに身を引く。


 そういう性格なのか、なにか狙いがあるのか。



 ”マスター”

 リビアか。もう行くのか?


 ”はい”

 頼んだぞ。


 ”了承 がんばります”



 さて、リビアがいなくなったということは俺はほぼ無力だな。

 魔王の力は使えないし、影の力もリビアを通していたからな。




 そして何事もなく、俺たちは国に無事帰ることが出来た。

 どうやら逃げ帰った冒険者達も最初の犠牲者を除いて無事に逃げられたとヴァルクが報告を受けていた。


 正門を通ったあと、ヴァルクは言った。


「では私は国王様に報告をして参ります。

 おそらく明日、呼ばれることになると思いますので体を休めてください」


「ああ。今回は助かった。

 最初は身構えて悪かったな」



「いえ、仕方のないことです。失礼します」


 ヴァルクは頭を下げて去っていく。

 俺はみんなに宿に戻るように言った。


 トアが俺に聞いた。


「なんでだ? みんなで帰ればいいじゃんか」


「そうしたいのは山々なんだがな。

 ちょっと寄るとこが出来た」


「付いてっていいか?」


「ん? ああまぁ……ヴァルクをどう思う?」


「苦手」「よし」


 俺はイナとトアをつれ、ガディの店へと向かった。

 ガディの店に入るとあいさつもそこそこに本題に移る。


「ガディ、ガディの用意した狐氷の素材は破龍で間違いないな?」

「そうだが? どうした?」


「いや……持ってきたやつは分かるか?」


「そりゃ聖騎士団だぜエノアの旦那。

 あの洞窟に入るやつなんて聖騎士団くらいなもんだ」


「すまない。助かった」

「おいなんだよ。もういっちまうのかよ」


「ああ。少し考えたいことがあってな」

「待ってるぜーエノアの旦那」


 俺は店を出る。トアが不思議そうな顔をして言った。


「なんなんだよさっきから。何そんな難しい顔してるんだ?」


「以前そこの鍛冶屋の店主にイナの剣を打ってもらったことがあるんだよ。

 その剣の素材はな。


 あの洞窟内で採れた希少な鉱石と、龍の鱗。つまり破龍の鱗なんだよ」



「それが……あ」


「そうだ。どうして破龍の鱗を鍛冶屋が持ってるんだってことだ。

 そしてそれを持ってきたのは聖騎士団。

 破龍の鱗をとれるほど近づけるのはその中でもヴァルクだけだ」



「随分怪しいなー……そしたら嘘をついてたってことに」


「なるんだよ。

 それでずっと考えてるんだが」



「とにかくヴァルクはまだ信用ならないってことだな。

 あたしもずっと信用してないし。

 なんかずっと上っ面って感じで話すからな。本性が分かんないんだよ」


「トアは大丈夫かも知れないが一応警戒して置いたほうがいいかもな」



 俺はトアにそう忠告した。

 別れ際、トアは一度背を向けたものの振り返り俺にお礼を言った。


「パーティーに入ってうまくやれたのは初めてだったよ。

 楽しかったよ。

 もう、お別れだけど楽しかったことは忘れないから。

 あの時誘ってくれてありがと」


「トアなら大丈夫だよ。

 心強かったぞ勇者候補」


「だろ?」


 ぐっと親指を立てながらトアは笑って帰っていった。

挿絵(By みてみん)


 じゃあな、勇者候補。今度は……






 そして次の日、謁見の間に呼び出された俺たちは今――多くの兵士に槍を向けられいた。


「なんのつもりだ。

 こっちは言われたとおり破龍を倒したんだぞ」


 国王は不敵な笑みを浮かべる。


「私は聖騎士団長ヴァルクに息子、カリムとその仲間が討ち取ったと聞いたが?」

「なっ、トアだって一緒に!」


「なんのことだ?

 私は知らんな。お前達も”逃げ出した”のだろ?」


「なに、言って」



 そうか、カリムには居てもらわないと困るとヴァルクが言っていたのは……


 倒した功績を得るためとその信憑性を上げるためか。

 嘘の信憑性を上げるためにあの状況下、他の冒険者に逃げ出さなかったという事実を見させることも重要だったのか。


 最初から他の冒険者などいらなかった。ただ”目”さえあればよかった。

 そして出来ることならカリムに最後倒させたかったんだろう。


 しかしそれらは槍を向けられる理由にはなっていない。



「大罪人エノアよ。

 再び反逆を目論んだ罪、そして魔族と手を組んだ人類の敵として処罰する」


「待てっ! なんの話だ! それに母さんとルミアはっ!」



「その話は後だ。ヴァルク」


 ヴァルクは一枚の紙を広げ、話始める。


「私は破龍討伐時、大罪人であるエノアを監視するべく目を光らせておりました。

 破龍との激闘の際、彼は私の知らない魔族のような力を使い破龍を圧倒。


 その後、魔族との関わりを裏付けるかのような出来事がありました。

 それは彼らが破龍によって嵐の結界に閉じ込められてしまった際、その中から魔族の魔力を検知。


 よって大罪人エノアを国に仇なす人類の敵として処罰することを推奨致します」



 国王はヴァルクの言葉の後、こう言った。


「まだ終わっていない。

 被告人エノアをレフィート家公爵、またその夫人を殺害したとして公開処刑とする」



 リーシアがなにか叫ぼうとしたが俺はそれを静止する。


 俺はリーシアに言った。


「違う。リーシアのせいじゃない。

 元々は俺を陥れるためのものだったんだ。

 今回の目的はカリムの勇者としての信憑性。そして俺を陥れるという国王の娯楽だ。

 リーシアの両親のことがなくともこうするつもりだったはずだ」



 目的は破龍、そして俺は娯楽、もしくは好き勝手やったことへの報復か?

 国王は俺の言葉に対してこう返す。


「好きに考えるといい。ヴァルク、連れて行け」

「はっ」


 ヴァルクが俺に手を伸ばした時、リーシアが剣を向ける。


「あなたまで処刑されますよ。リーシア様」


「様と呼ばれる筋合いはないわ。私はもう貴族じゃないっ!

 騙したわねヴァルク。上等よこのまま」


「神の支配下で力を使うことの出来る私と戦いますか?」

「この人数なら」


「無駄ですよ」

「っ……」



 リーシアも分かってる。無理なことくらい。

 リビアがいない現状、俺も戦えない。足手まといとなる。状況はあの時と同じだ。

 ならリーシアのとる行動は分かっている。いや、全て分かっていた。

 なにもかも昔と同じだと思うなよ。 


 リーシアは剣を収める。

「分かったわ」


 カンナがリーシアの肩を掴んで避けんだ。

「分かったってっ!

 リーシアはそんな簡単にっ」


 カンナはリーシアの目を見て気づいたのだろう。

 おとなしくなる。


 ヴァルクは俺に言った。


「では反抗せず連行されてください。

 武器は」

「ない」


「まぁ本来報酬を受け取るために来ただけですから持っていなくても不思議ではないでしょう」



 俺はリーシアの目を見た後、小さく「頼んだぞ」と言った。


 全部分かっていた。だからこそ一度も肌見放さず持っていた大事なアイリスの剣と魔王の剣をガディに預けていたんだから。

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喜びます。

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