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テイマー

 ”範囲魔法を検知 発動されています”


 発動された状態。つまり発動されるまでリビアは認識できなかったことになる。

 俺たちと破龍が中に入るように魔法陣が展開される。

 俺はカリムの首根っこを掴み全力でぶん投げる。


 非常に気に食わないやつだが、あれでも一国の王子。



 リィファもそうだがリィファにはやってもらうことがある。

 ならまずは、カリムだ。


 影の力を加えて飛ばされたカリムは魔法陣の外に出る。


 出た瞬間だった。

 俺たちと破龍は嵐の結界内に綴じ目められる。

 雷鳴轟く嵐が円状に吹き荒れる。逃げ道は絶たれた。

 受け入れるしかない。


 最悪の場合、俺は魔王状態になるつもりでいた、が……



 視界を埋め尽くす魔法陣。

 破龍を除く地面、空中、上空、俺達の体の中、そのすべてに魔法陣が出現する。

 そして破龍は、三つある殲滅魔法の発動準備を済ませていた。


 安易だった。こうするしかないと考えて近づいてはいたが、全ての手を潰された。

 この状況下で生き残れるのは俺とイナだけだ。


 生き残ったとしても再生できるほど肉片が残るかどうか。



 終わった。俺は目を閉じた。


 割れる音がいくつも折り重なる。

 この嵐の結界内で暴風が吹き荒れる。

 割れる音の正体は暴風によって魔法陣が割られていたからだった。


 リィファが歩いていく。


 死を覚悟した俺たちを救ったのはリィファだった。

 殲滅魔法が放たれる瞬間、ジリッと焼け焦げるような音がして殲滅魔法が不発に終わる。

 この空間内を支配しているのは間違いなくリィファだ。


 当然俺たちは困惑している。だが最も困惑しているのは破龍だった。

 どう考えても俺たちは全員格下。強いて言えばリーシアが抗えるくらい。

 それがどうだ。おそらく破龍にとって気にもとめていなかった存在が自分の為すことをことごとく打ち消してくる。


 リィファは言った。


「安心してください。

 わたくしはあなたより強くはありません」


 なんだ。リィファ、何があったんだ。

 俺はここに来る前にリィファと会話したことを思い出していた。


 俺はリィファにこう言っていた。

 俺は破龍を殺さなくちゃならない。

 ただ、もし、破龍が敵対しないというのなら、死んだという証拠がほしい。

 そうすれば破龍が死んだという事実に捻じ曲げることが出来る。


 ヴァルクの真似だけどな」



「でしたら、わたくしを破龍の近くまで連れて行ってくれませんか?

 近いほど、相手の心に触れられる気がするのです」


「分かった。

 それと俺たちはヴァルクとカリムを騙さなくちゃならない。

 トアもだが、最悪トアには口を閉ざしてもらうよう交渉しよう。


 ただ出来ることなら遠ざけたい」


「分かりました」



「倒すように行動してると見せかける。

 その後は落ち着いた破龍に状況を説明する。

 もしヴァルクやカリム達が近くにいるのなら全部影で隠す。

 それでいいな?」


「お願いします。

 わたくしが、この争いを止めます」


 と、その時のことを思い出していた。



 てっきり俺は会話だけが出来ると思っていた。

 しかしこの空間の支配権を握るなんて想像もしていなかった。


 どちらにせよ状況は理解出来ていない。

 補助魔法が使え、魔力の矢を射れる。それがリィファだと思っていた。

 だがリィファは今、圧倒的優位に立っている。破龍に対して。


 破龍は右手を振るい、リィファを潰そうとする。


「やめてください」

 ピタッと破龍は動きを止める。


「お願いします。

 わたくしたちにはもう敵意はありません。

 お話を聞いてくださいませんか?」


「グル……?」

 あまりにもわかりやすく困惑している破龍がかわいく思えてきてしまう。


「ガァァァァ!!」

「お願い怖がらないでっ!」


「ッッグルァァァァ!」

 リィファの問いかけに答えないと言ったように破龍は暴れだす。


 仕方ない。リビア。



 ”要求を確認 魔王状態へと移行します”


 魔王の威圧を発動する。

 ピタッと破龍は動きを止める。


 リィファは語りかける。

「どうか、お話を」


 突然リィファが苦しみだす。


「うっ、ごほっっ!」

 右手で口を抑え、左手で胸を抑え、苦しみに耐える。

 ぽたっぽたっと口から血が垂れる。


「リィファ!!」

 俺はリィファの背中を撫でる。


「どうした! 大丈夫なのか!」


 破龍のせいかとも思ったが破龍はおとなしくしていた。

 なら、これは一体……


「ごめんなさい、エノア様……

 私じゃ、器が」


 滝のように血が流れ出ていく。

 分からない。考えてる時間があるのかすら分からない。


 リビア! リビア!



 ”リィファは破龍との契約を強制的に行わされています”

 それは血の契約か?!


 ”否定 これは、リィファの職業スキルに由来するものです”


 スキル? 契約を、むす……


 ま、さか。リィファはなんの才能もないと言っていた。

 どんな職業でもなく、勇者候補でもないと。


 当然だ。鑑定はすでにある職業に適性があるか確かめるものだ。



 才能がない?


 当然だ。その才能を図るためのものがないんだから。

 リィファは、この世界で初の、最初の――テイマーだ。



 ”血の契約をなさい”


 あんたは夢のっ。


 ”早くしないとその子死んじゃうわよ!

 そこの小狐ちゃんと違って強制的なものじゃいからちゃんと手順を踏みなさい”


 わ、分かった。

 俺はリビアに言われた通りにリィファに聞く。


「リィファ、俺を心から信用しているか」

「……? 当然ですわ」


「裏切ることはないな?」

「ええ」


「なら、その人生をすべて俺に預けられるか?」

「……愚問ですわエノア様。だって、伴侶にしたいと思うほど、エノア様を好いているのですから」

「っ、そ、その言葉に嘘、偽りはないんだな?」

「はい」


「終わったぞリビア!」


 ”自分の唇を切って接吻なさいな”


「せっ?! ……悪いリィファ!」


 俺は自分の唇を少し噛みちぎる。

 口の中に血の味が広がる。リィファの肩を掴み、こちらを向かせる。

 そのままリィファに口づけをする。

挿絵(By みてみん)


 リィファは驚いて一度離れようとするが俺は必死だったからかリィファを離さない。

「んんっ!? んぷっ、んんっ」


 ”ふぅ…… 間に合ったかしらね おめでとうその言葉に嘘、偽りはないわよ。

 もしあったら体弾け跳んじゃってたからっ!”


 ”どいてください 血の契約 <リィファ>を獲得”



「ぷはっ。こわっ!!」

「こ、怖いとはなんですの?!」


「あ、いやリィファじゃなくて」


 てか、血の契約ってこうやって結ぶのかよ!

 血を媒介して契約を結んでるんだな。イナは自分から強制的にその契約を結んだのか。


 ”あれは偶然よ 彼女はただ、吸血鬼として血を欲したの。力の為に。そこで血の契約が偶発的に起こったのよ”


 破龍は頭を下ろした。リィファは破龍の頭を撫でる。


「怖がらせてごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。

 お話、いいですか?」


 グルッと小さく返事をする破龍。

 一通り話を済ませたリィファは俺たちに聞いたことを話した。


「破龍さんは元々争うつもりはなかったようです。

 しかし魔素があれば湧き出る鉱石、竜種の中でもトップクラスの実力を持っていた破龍さんは人間に常に襲われることとなりました。


 その度に殲滅魔法で周囲を更地にしていたようです。

 それが広まり破龍と呼ばれるようになったそうですわ。


 襲う人間は幾年経っても消えることはなく、支配下に置くために人間との争いが続いたそうです。

 事前に条件で発動する魔法術式を設置して置き、安定した状況を保っていたみたいです。


 そんな時、一人の勇者が訪れます。

 その勇者も最初は討伐するために戦っていたのですが初めて争うつもりがないことを理解されたそうです。



 言語を理解されたわけじゃないみたいですがもう襲われたくないという言葉が届いたのか勇者はこの地に封印魔法を幾度と掛け、外敵が来ないようにしてくれたのだとか。


 それに封印は破龍さんの力なら簡単に破壊できたそうです。

 つまり破龍さんはただ静かに暮らしていたかっただけ……なんです」

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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