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転化

 口の中に影が入り込んでくる。

 気持ち悪い。流れ込んでくるものが、気持ち悪すぎる。

 嫌悪感など無視して流れ込んでくる。飲まれて、飲まれて……


「エノア?」

 リーシアが俺に声をかける。俺はリーシアに反応することなく、スキルを使った。


「転化」


 影が、魔力回路を埋め尽くす。心も、体も、俺はただ見ているだけ。

 俺は破龍に向かって走り出す。


 当然鉱石は俺を攻撃するために一つ生成される。

 俺はそれを気にもしていない。地面から影が伸び、その鉱石に触れる。

 鉱石は影に飲まれ消失した。


 二つ。その鉱石もまた同じように影に飲まれ消失。

 そしてヴァルクが足を止めたこの位置にたどり着く。


 当然俺を覆うように周囲に大量の鉱石が出現。

 空中に浮いている鉱石に向かって地面から影が空中に伸びる。


 一番最下層の鉱石を影が掴む。そこから枝分かれするように近くの鉱石へと伸びていく。

 すべての鉱石に影が触れた瞬間、影が針のように尖り鉱石を粉々にする。

 地面に落ちた鉱石を影がこぞって我先にと飲み込んでいく。


 ヴァルクの届かなかった先へと俺は足を踏み入れる。

 ピタッと俺の足が止まる。


 正面に無数に点在する鉱石が現れる。

 それは殺すための形状。先程の鉱石よりも細く、尖っている。

 まるで雨のように鉱石は俺をめがけて降ってくる。

 影が俺から大きな波のように鉱石の雨をすべて飲み込んだ。


 俺はなぜか後ろを見た。


 ヴァルクも、トアも、リーシアも、イナも、カンナも、リィファも、ティアナも、そしてカリムも俺の変貌に唖然としている。




 そうだよな。こんな”歪”に笑っていたら、正気を疑うよな。


 実際正気じゃない。



 頭のおかしな笑い声がさっきから聞こえるんだ。

 分かってる。この声は俺の声だ。


 俺は上に手を上げた。

 影が先程の鉱石の雨のように細く、鋭く、無数に出現する。

 俺は手を下ろし、影に合図をする。


 その影の雨はすべて破龍に届くことなく地面に落ち、消えていく。

 俺は変化に気づき、顔を上げる。

 見上げた先には首を起こし、こちらを睨みつける破龍の姿。


 破龍は障壁を使い影の雨を防いだのだ。


「ははっ、あーー」


 体から影がごぽっと漏れ出す。漏れ出した影は液体のように地面を伝い、流れていく。

 俺を中心として影は波紋を広げながら地面を覆っていく。


「影踏み」


 俺は影で真っ黒に染め上げられた地面に右足を踏み込む。

 直後、俺に見えていたのは破龍の鱗だった。

 ぴとっと右手を添える。

 その瞬間破龍は上空に向かって雄叫びを上げる。


 衝撃が空間内に広がる。

 その衝撃を影が防ぐ。


 俺は破龍に触れた右手を見る。

 いくつもの鉱石が俺の手を貫通していた。


 俺は首をかしげる。そして今度は左手で触れてみる。

 その瞬間俺の手に小さい魔法陣がいくつも形成される。

 俺の手を押しのけるように鉱石が貫通しながら出現する。


 影はその鉱石を飲み込んだ。


 俺の手には空洞がいくつも出来ていた。

 体が熱を発生し始める。直後に穴がどんどん塞がっていく。


 これは影の力じゃない。イナと血の契約を結んだときのものだ。



 治った直後、体全体に大きな衝撃が襲う。

「がっっっ」


 破龍が障壁を動かし、俺に衝突させたのだ。つまり俺は壁に轢かれたことになる。

 足が地面から離れ、ごろっごろっと地面に叩きつけられながら、鉱石の雨が降り注いだ場所また戻される。


 体を起こすと正面にヴァルクが立っていた。


「早く逃げてください」


 ヴァルクは破龍の前に立ち、そう言った。剣を構え破龍を警戒している。

 俺はヴァルクに手を向ける。なにしようとしている? 俺は俺に問いかける。


 ヴァルクはそれに気づく、しかし俺を無視していた。

 影が出そうになった瞬間リーシアに押し倒される。


「エノアッ! こんなとこで死ぬつもり?!

 今は一旦逃げて立て直さないと! 正気に戻ってよエノアッ!」


 胸元を掴まれそう叫ばれる。


 俺はリーシアを押し返し距離を取る。

 分かる。自分の目がリーシアに向いていることが。その目に殺意がこもっていることが。

「あ、あああ、ひゃひゃっ」


 広がっていく影。そこから鋭い影の塊がゆっくりと出てくる。


 気づくと目の前にリィファが両手を広げながらリーシアを庇っていた。


「だめですっ!

 だめなんです! 誰も攻撃してはいけないんですエノア様!」


 後ろからドッと力が加わる。

 なにごとかと思ったが声を聞いて理解する。


「ご主人さまっ!」


 影が容赦なくそのすべてを殺そうとしている。

 それが伝わってくる。


 おい。聞こえてるんだろ? どうすればいい。

 どうすれば止められる。教えてくれ!


 ……頼むよっ……みんなを傷つけないでくれ……


 ”飲み込まれるんじゃなくて、飲み込むのよ。

 支配して。受け入れられなかった裏の世界を、このゴミ溜めのような影を”


 何を言ってるのか理解が出来ない。

 出来ないが、イナの掴む手が震えているのが分かる。

 悪いな怖がらせて。


 だから。


「あ、ああー、あああああ、っが、っ、が、ぁぁぁああっっ!!

 がえ、ぜ! おれの、から、だで、勝手な、ことしてんなっっっ!!

 っっはぁっ、はぁ……、はぁ」


 ヴァルクは俺に話しかける。



「正気に戻ったようですね」

「すまない。余計なことをしてしまったかも知れない」


「まぁ、どの道起こさせるしかありませんし。

 破龍を打ち倒す手が増えたのでよしとしましょう。

 ですが、今は本気で逃げてください。

 もしかしたらもう”間に合わない”かも知れませんけど」


 俺は言葉の意味を理解した。

 破龍は完全に体を起こし、二足で立ちながら翼を広げている。

挿絵(By みてみん)


 そして、いくつもの巨大な魔法陣が展開される。

 ヴァルクは腰を低くしその魔法に備える。




「もし生きてたら私が殿を努めますので最後の休憩場所まで逃げてください」


「生きてるさ。俺たちがこの破龍の魔法で死ぬことはない。

 こういう魔法陣に対策するのを”得意としてるやつ”がいるからな」


 ”魔法陣の展開を確認 殲滅魔法の解析を完了 魔法陣の書き換えを開始 完了しました”


 パリンッと破龍の魔法陣がすべて割れる。

 破龍は割れた魔法陣を見て動揺していた。

 時間の掛かる魔法ならリビアが対処してくれる。おかげで助かった。


 破龍は俺たちを睨み、考え込む。

 俺は走れっ! と叫ぶ。


 トアとリーシア達、そしてカリムのパーティーもその声に疑いを持つことなく入り口に向かって走り出す。


 ヴァルクはそのまま殿を務める。


 小規模の魔法陣がヴァルクに向かって展開される。

 俺はヴァルクを信じ走り続ける。



 入り口付近で鉱石が出現する。

 先程影に飲まれた時にある程度の扱い方は分かった。

 影を伸ばし、そのすべてを飲み込ませる。しかし飲み込まれたほどの力は感じない。


 カリムは俺に言った。


「貴様に助けられるつもりなどないぞ凡人っ!」

「んなこと言ってる場合かよ! いいから走れ!」


「ちっ……」


 俺たちは入り口から出て最後の休憩場所まで一心不乱に走った。


 目的地にたどり着き、後はヴァルクを待つのみとなった。


 水を飲みながら一息つく。

 そしてリィファに声をかける。


「リィファ、ちょっといいか?」

「……はい」


 俺はリィファの手を引き、誰にも会話を聞かれない位置にまで連れ出す。


「なぁリィファ。

 あの時、誰も攻撃してはいけない。そう言ったな?

 あれはまさか」


「はい……また、その、感情が流れ込んできて。

 近づくな、という意思を感じたんです。

 わたくしの勝手な思い込みかもしれませんが、破龍は争いを好まない。

 そんな感じがするのです」


 俺は頭を抱えた。

 ゼートの時と同じ、か。


 俺はリィファに言った。


「攻撃してほしくない。つまりは殺さないでほしい。

 そういうことなんだな。

 でもなリィファ、今回は訳が違う。

 俺は、破龍を殺さなくちゃならない」

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