詰み
スキルを発動したヴァルク。
ヴァルクが見えないほど覆ってしまった鉱石に切れ込みが入る。
次の瞬間、鉱石がすべて切り刻まれていた。太刀筋など全く見えなかった。
どんなスキルなのか、全く検討がつかない。
ヴァルクは身を引き、こちらに戻ってくる。
「これは無理ですね」
「とんだ無茶振りをしてくるもんだな破龍ってのは。
今のとんでもないスキルでも近づくことさえ無理なのか」
「あれは燃費が悪い上、足が止まるのでどの道無理ですね」
「ちなみにどんなスキルなんだ?」
「対したスキルではないですが内緒です」
「ほー……秘密にしたいスキル、ね」
「意地悪をなさらないでください。
あなたにだってあるでしょう?」
「普通にエノアと呼んでくれて構わない。そこは任せる。
まぁ、俺にもそういったスキルはあるが」
魔王スキルとかな。
「ではエノア君とでもお呼びさせていただきましょうか」
「君、か」
「ご不満ですか?」
「いや? 確かに俺は年下だからな。生前を含まなければ、だが」
「年はこの世界に生を受けてからということでいかがでしょう?」
トアが割って入る。
「なぁ。仲良く談笑するのはいいんだけどよ。
この状況を打破しないとやべーんじゃないのか?
あたしのスキルは相性が悪いし、てか死んじまうしなんか考えないとまずいって」
確かに逃げることは出来ず、あのヴァルクが突撃して追い返されたという事実が討伐隊の志気を下げていた。
ヴァルクが言う。
「まぁ逃げるだけなら難しくは無いでしょう。
二度と国の中に入ることは出来ないでしょうが。それでも命は守られる。
しかし私は逃げられない理由がありますから。
逃げたい方はどうぞ」
それで逃げるものなどいない。確証はないからだ。
逃げ出したとして、また鉱石が一つだけとは限らない。もしヴァルクを襲ったほどの鉱石が現れれば死んでしまう。
突如天井で激しい音がする。
そこから大きな岩がいくつも地面に落ちる。
俺は最も避けられないであろうカンナを抱きかかえその岩を避けていく。
カンナは小さくなりながら俺の腕の中で、あ、ありがとう。と言った。
照れるがそんなこと言ってる場合ではない。
その音の正体は先程の巨大なムカデ型の魔物だったのだ。
天井からぶら下がるようにして俺たちを見る。
俺らが動ける範囲は決まっている。破龍よりも遠く、入り口よりも遠く。その中でこいつを相手しなきゃならない。
トアがぴょんぴょんしながらムカデ型の魔物に言う。
「降りてこぉぉぉい! 届かないだろうが!!」
ムカデ型の魔物は体をグイッと起こし周囲を見る。
そして破龍を見つけ、一旦静止した後――素早く破龍を襲いに行く。
ピタッと途中でムカデ型の魔物は動きを止める。
最も接近したムカデ型の魔物は足の先まで、いや……もう元の体が見えなくなるまで蜂の巣にされていた。
即刻魔素に変換され消えていく。そして未だ破龍は目を覚まさず。
俺はヴァルクに言った。
「一旦立て直したほうがいいんじゃないか?
このままじゃどの道解決策なんて出ないぞ。
いや、このままここにいた方が安全か」
「それはどうでしょう。
先程の魔物も近くに破龍が居たから破龍を狙っただけかも知れません。
ここでは死の危険を感じますから冷静な判断が出来るかどうか……
そうですね、もう一回行って来ましょうか」
「なに? もう一度行くのか?」
「はい。確かめてまいります。
これが――条件によって決まっているものなのかどうか」
ヴァルクはなんの躊躇もなく走り出す。
そして一つ、二つ、また無数と同じ結果を得て帰ってくる。
「どうやら条件のようですね」
「なら戻れるな」
その声を聞いた途端一斉に多くの冒険者が走り出す。
そのまま逃げ出してその先であのムカデ型の魔物に襲われたらどうするのか。
おそらくそんなこと考えてはいないだろう。
死にたくない。今彼らを突き動かし、支配しているのはそれだ。
ただ、そんなに多く一度に行ってしまったらどの鉱石が自分を狙っているのか分からなくなる。
砕けるものはいい。しかしそれに対応出来ないものは……
「いやっいやぁぁぁ!!」
俺は詠唱する。
「”フィシア”」
上位魔法のフィシアは俺から冷気が覆うように伸び、その鉱石達を覆った。
地面から離れているはずの鉱石は動きを止め、冷気を漂いながら進もうと振動していた。
リィファとティアナがそれを魔力の矢ですべて射る。
パキン、パキンと一つずつ。
逃げ出したもの達は一人も欠けること無くこの空間から逃げ出すことが出来た。
ヴァルクは言った。
「すばらしいっ!
上位魔法を一言で発動した上、討伐隊を凍らせず空中の鉱石のみを凍らせるとは。
そして謎の矢。的確に、外すこと無く射抜くその技量を二人も持ち合わせている。
興奮しました……」
「そりゃどうも。
んでほとんど逃げ出しちまったわけだがどうする?」
「そうですね。残るべくして残った感じがしますが、守らなくていいのは楽でいいですね。
私とトア、そしてあなた方にカリム王子のパーティー」
カリムはそっぽを向きながら舌打ちをする。
なぜ戦わないカリム。お前は――勇者候補だろ?
ヴァルクは一度剣を収める。
「これは厳しい戦いになりそうですね。
お二方今から覚醒など出来ませんでしょうか?」
トアは無茶言うなとキレる。
ヴァルクはあははと笑いながら言う。
「しかしそうでないと破龍を討伐するなんて出来ないのですよ。
せめて封印魔法を扱えるくらいになっていただければいいのですが」
俺はリビアに封印魔法を使えるどうか聞いた。
しかし知らないものは出来ないと断られる。
ヴァルクの言うことは正しい。
このままでは八方塞がり、解決の糸口をなんとしても見つけ出さなきゃならない。
魔王の力は使えない。そもそも使えた所で今の俺の力じゃ破龍は倒せやしない。
それか、魔王として覚醒するか。やり方なんて全く分からないが。
そうすれば俺も、カリムも、そしてトアも覚醒するかも知れない。
それ以外だとすれば影の力だけで倒すしかない。
こいつを……? 無理だ。
最上位魔法をリーシアと唱えた所で破龍にかき消されて終わりだろう。
俺たちの魔法が破龍に届くとは思えない。
破龍を氷漬けにする前に殺される。
鎧程度の防御力しか持たない影を展開したところで焼け石に水。
攻撃に転換したところでヴァルクのスキルを超えることはない。
詰みだ。
生き残ることだけを考えれば。
エノア様っ! ルミアの顔と母さんの顔がよぎる。
ルミア、母さん……
このままなんの成果も得られず戻ってしまえば二人は……
生き残るだけでも充分な成果と言える。破龍相手に無事に戻ってきたのだから。
だが俺にとってその成果は結果としては失敗だ。
イナ……はダメだ。シェフィに念を押されているし、勝てる保証もない。
使えると言う保証も。
頭を抱えた。
手が、ない……
”ないなら作ればいいじゃない”
リ、ビア? 違う、この声はリビアじゃない。
”浸ればいいのよ。今のあなたなら大丈夫かも知れないわよ?
さぁ……体も心も空っぽにして?
今の器じゃ足りないかも知れないけど……
きっと、大丈夫よ。ほら、受け入れて”
確か、夢の中の……ごぼっっ!
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