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一方通行

 この重圧、進めば進むほど帰りたいと思わせる。

 ただの威圧じゃない。俺はリビアに問う。


 リビア、これはスキルか、魔法か、もしくはその類か?

 ”肯定 魔王の威圧に酷似 スキルだと思われます”


 足が……重い。こんなんじゃ対峙してもまともに戦うなんざ無理だぞ。

 ”破龍の個体を確認後解析、解除をしてみます”


 頼む。このまま行けば俺だけじゃなく全員戦うのは厳しそうだからな。

 たどり着いたのは大きな扉。全体に封印魔法がかけられているのが分かる。


 封印時に制作したものだろうか。扉に関してはよく出来ている。

 俺はヴァルクに聞いた。


「封印はここにあるのか?」

「いえ、これは一般人を通さないために後から用意されたもののようです。

 低級の魔物も入れないようになっています」


 重圧で足が遅れていたものたちもここに着く。

 ヴァルクは扉に手を触れ、洞窟に入る時と同じようにその封印を解く。

 封印が扉から消える。ヴァルクは何食わぬ顔で扉を開く。


 その先には今まで来た道より小さい、言ってしまえば人三人分しか通れないような横幅、高さもあまりない道。

 ヴァルクは一人、歩みを進める。

 まるで重圧をものともしていないかのように。


 一パーティーごとにその道に入っていくことになるが今回は俺たちが最初に入っていく。


 イナがかなり怯えている。やはり野生の勘のようなものが備わっているのだろうか。俺の裾を掴む手にも力が入る。

 俺はその手を握る。何か言うわけではないがその手を握る。

 イナはこちらを見た。少し気が楽になったのか震えが止まった。


 カリム達は最後尾だった。カリムのパーティーメンバーの一人が遅れていたからだ。

 ヴァルクが立ち止まり、俺に言った。


「着きました。この正面も見えないほどの積み重なった封印が破龍を閉じ込めています」


 ここまで驚くことに一人も欠けること無くたどり着けてしまった。

 しかしこの先で死者が出るだろう。


 ヴァルクは話を続ける。


「封印に綻びがあります。

 これのせいでしょう。司祭が封印の綻びを感知したというのは。

 一人や二人程度なら封印を破壊せずとも入れるでしょう。

 それ以上は徐々に崩壊を始めてしまうでしょうが。

 あくまでも穴の空いたものをそれよりも大きなものが穴を広げないように気をつけて入るようなものですからね。


 それに常に中から破龍の圧力がかかっているため、無理をすれば崩壊するでしょう。

 ですが今回はこの折り重なった封印を一部破壊し、維持します。

 そして破龍の素材を持ち帰りそれを証拠とします」



 ヴァルクは説明を終えた後、封印に触れる。

 バチィッ! という大きな音と共に封印が消える。


 ヴァルクは驚いた声を上げる。


「そんなっっ! 私が見誤った?」

「どうしたヴァルク」


「すみません、封印が……すべて消滅しました」

「消滅?」


 つまり破龍は今、自由を得たということになる。

 そして再封印が出来ないということはつまり、国王へ持っていく交渉材料が消えたということ。

 ヴァルクも、俺も、無理やり封印を施すか、破龍を討伐しなければならなくなった。


 俺はそれをヴァルクに伝える。


「つまり、目的は最初に戻るっていうわけだな」

「……申し訳ありません」


「仕方ない。もともとそのつもりで来たんだ」


 ”解除成功しました”


 俺たちの負担になっていた重圧が消える。

 足取りの軽くなったもの達が後ろから押し寄せてくる。そして中に入った俺たちは冷静になった目でその空間を見渡す。


 広すぎる空間。半円型に開いた洞窟は数多くの鉱石が見渡す限りに存在しており、中はあまりにも神秘的に照らされていた。



 冷たい空気が汗を冷やす。

 この洞窟の奥で横たわっている生き物が居た。

 広いこの空間に、違和感が生じないほどの巨大な龍。


 四つの足をたたみ、俺たちが入ってきたというのになんの変化も起こさない。

 鱗は鋼のようだが、鉱石と同じ色で透明感のある色をしている。

 魔素がその周りを漂っていて美しい。


 トカゲのような頭には角が生え、口はくちばしのように尖っている。

 息を吸うたび体が大きく、吐けば小さくなる。その当たり前の行為に迫力がある。


 誰も、戦うことなど考えてはいなかった。

 それに見惚れていた。

 破龍と呼ぶには美しすぎた。


 全員入り口から離れたところにいたが、一人の人間がこう叫びながら入り口に向かって走っていく。


「こんなのはごめんだぜ! へへっ! 計画通りだ! 帰りにここの鉱石を頂いていけばある程度の収入にはなる!」


 鉱石に対して俺と同じような考えを持つやつが他にもいたようだ。

 全員置いて逃げ帰るなんて選択肢はないが。


 彼のパーティーメンバーらしき人が怒っている。即席で作ったパーティーだったんだろうな。

 彼は入り口近くに着くと叫んだ。



「ま、討伐頑張ってくれや! 俺と一緒に来るやつも大歓迎だぜ!

 じゃあな勇敢なぼうけ」



 ……呆然。最後まで言い終わる前に彼は胴体に鉱石が突き刺さり絶命していた。


 何が起きた? 急いで破龍を見たがまだ寝ていた。

 確か空中に鋭い鉱石が出現、それが彼に向かって飛んでいきそのまま突き刺さった。


 だが、誰が? どうやって?


 俺たちの中にはいないだろう。犯人はおおよそつかめている。

 あの鉱石はここにあるものと同じだからだ。


 だが、どうやってそれを行ったかだ。



 空中に鉱石を作り出し、狙いをどうやって定めた。

 今の出来事によって誰も帰ろうとしない。


 俺はヴァルクに言った。



「まさかとは思うが、片道の一方通行だったか?」


「そうなりますね。倒すしかないようです」

挿絵(By みてみん)



 ヴァルクはそう言うと破龍へと素早い移動を始める。

 正面に一つの鉱石。それをヴァルクは下から切り上げ真っ二つにする。

 さらに破龍へと近づいていく。だがまだまだ距離があった。


 再び現れる鉱石。しかし数が二つと増えていた。

 同時に来る鉱石をヴァルクはまずひとつを斬ると後ろにステップを踏む。

 全速力で進んでいるのに急な方向転換をどうやってしたのか分からない。

 そしてもうひとつの鉱石を横に切り払い粉々にする。


 今のは付加魔法を剣に纏っていたようだ。

 ヴァルクの足は止まらない。そして破龍は寝息を立てたままだった。


 次の鉱石が出現するが、それは絶望的だった。

 まるで騙すような数の増やし方。一つ、二つと来て、その次がその者を取り囲むように数え切れないほどの鉱石がヴァルクに狙いを定めていた。


「ヴァルク!」


 俺は思わずそう叫んだ。

 ヴァルクは剣を構え、呟いた。



「スキル ”空現”」

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