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小休憩

 ヴァルクを見る目が変わった後、俺たちは道なりに進むが一向に着く気配がない。

 同じところを歩いているわけではないようだが……

 それに先程から討伐隊の中で継続的に起こる戦闘によって疲労している人達がいる。


 トアも飽きたような様子で言った。


「疲れた。いつになったら着くんだよー」


「さぁな。随分歩いたつもりだが、あくまでつもりなんだろう。

 薄暗さによって歩幅は短いだろうし、度重なる戦闘で疲労もある。日が当たらないから時間の流れも分からない。

 そう感じるのも無理はないさ」



 疲れが溜まった状態で破龍と戦闘は行いたくないものだがな。

 カンナがふらふらとしていた。さすがに疲れたのか。


「おかあ、さん? どうして。

 え? 帰ってきてほしい?」


「カンナ?」



「でも、死んで戻ってこいってそんなの」


「カンナ!!」



 明らかにカンナの様子がおかしい。叫んでも俺の声が届いていない。

 肩を掴み揺らすが反応がない。

 カンナは見えない誰かに向かって言う。


「嫌……来ないでお母さん!!

 私は、エノアと!」


 リビア!


 ”解析中です 原因は魔物による幻惑スキル 本体を特定する前にスキルの解除を試みます”


 頼む。カンナだけじゃないみたいだからな。


 リーシア……



「お母さん、お父さん……

 まだ手を繋ぐんだね。それを私に見せつけてなんのつもりですか?


 愛? 私は知ってるわ。あなた達が愛なんて分け与える気がないことを。

 もういい。私には愛情を与え与えられる大切な人がもういるのよ。

 姑息な真似しないで頂戴」


 リーシアは振り向き確かに俺の目を見た。


「なっ」


「あっ、エノア!

 良かったエノアは大丈夫なのね」


「あ、ああ。

 リーシアもよく自分一人で解除出来たな」


「幻覚と分かれば難しいことじゃないわ。

 最も難しいのは幻覚と気づくことだけどね」


 ”解除成功しました”


「よくやったリビア。

 後は……

 ヴァルク! 幻惑スキルを使っている魔物がどこかにいる!

 退治してくれ!」


「なるほどそういうことですか。分かりました」



 ヴァルクは静かに索敵を始める。

 本当は俺が行きたいところなんだがな。


 だが放っておくわけには行かない。


「ごしゅ、ごしゅじん、さまっ」


 イナはいろんな事を思い出したのだろう。

 震えて涙声になって、正面から俺に抱きついて離れない。


 ばすっ。


「カンナもか?」

「ちょっとだけ」


 リーシアが叫んだ。


「あっっちょっ! ずるいわよっ!」


 俺はティアナとリィファを見て言った。


「二人はかからなかったんだな」


 リィファとティアナは何のことだか分かっていないようだ。

 簡単な説明をして理解をしてもらった。

 そして俺はイナを撫でながら言った。


「全く、ほんと……たちの悪いスキルだよ」


 ヴァルクが奥に向かって走り出す。

 聞こえる魔物の断末魔。ヴァルクは魔物の血を拭き取りながら戻ってくる。

 そして俺の近くにまで寄って魔物の説明をする。


「体の小さい魔物でした。

 あの小ささなら獲物を困惑した後、他の魔物に攻撃させおこぼれを頂く。

 そういう進化をしたのでしょうね。


 にしても嫌なスキルです。私は問題ありませんでしたが。

 ――なんというか、その……すごい状態ですね。随分信頼されていると言うか、安心されるのでしょうね」



「そ、そうだな」


 前後を女の子に挟まれてるんだ。

 そりゃ不思議にも思うよな。

 ヴァルクは周囲を見ながら言う。


「疲労がたまりすぎましたね。

 このままでは全滅してしまう。聖騎士団も連れてこられたなら良かったのですが警備にまわせと言われてしまいましたから……仕方ありません。


 ここは私が見張りになりましょう。


 みなさん! ここは私が見ておくので睡眠をとったり食事をしたりしながらおやすみください!」



 うれしそうな声がまたたく間に広がる。

 俺はヴァルクに言った。


「お前が休めないだろ。

 ずっと戦いっぱなしなんだ。

 交代制で他のやつに任せたほうが」


「安心できますか?」



「……その一言でもう言い返せる言葉がなくなった」


「ええ。強さで言えばあなた方やトアでもいいでしょう。

 しかし信頼は得ていない。

 ここまで活躍させてもらいましたし人柄の面でも信用を得ているでしょう。

 ですから皆さんゆっくり休んでください」


「そうさせてもらうよ」



 俺たちやトア、か。

 荷物を置き、壁により掛かる。


「ふぅ……神経張り詰めてたからな……

 お言葉に甘えて少し休もう」



 他のパーティーの中にはもう限界を迎えてそうなやつもいる。

 俺のパーティーは問題ない。


 疲れてはいるがまだまだ元気だ。

 パンをかじりながら体を休める。目を閉じて、念の為リビアに反応があれば起こすようにお願いする。




 ぱちっと目を覚ますと何時間も寝たような鮮明感がある。

 置きていたリーシアにどれくらい寝てた? と聞くと三十分くらいと答えられる。

 そして計二時間ほど休憩をとった。


 俺の知る限りだがその間ヴァルクはずっと立ったままだった。

 ヴァルクはそろそろ行きましょうかと声をかける。


 俺は未だぐっすり眠っているトアにもう行くぞと言う。

 トアは寝ぼけながらもうちょっとぉーとぐだる。


「いいのか置いていくぞー」

「いーやー」


「子供っぽいな……見た目はそんなんじゃないのに。

 ほらっ起きろって」


 俺は案外軽いトアを脇の下に手を入れて持ち上げる。

 トアはうあーと言いながらも立つ。


 しかしあくまでも抵抗したいのか俺に寄りかかってきた。しかもその上で寝息を立てやがる。


「お前起きろって。トアートーーアーーーー」

「う?」


 トア自身が俺に寄りかかっているという状況を把握出来ていないのか動かずに固まっている。

 そんなトアに起きたなら離してくれないかと言う。


「なっなななっ!

 なにすんだよ! まだはえーだろ! ? ちがっ、バカ!」


「ばっっ?! 言いがかりだろ! ふざけてないで行くぞ」



「ふざっ……分かったよ行くよー」


 俺から離れたトアは自分の手を眺めたあと、数秒自分を抱きしめるかのように両腕を自分の体に押し付けた。そして歩き始める。


 視線を感じ右を見るとカンナがすごい形相でこちらを見ていた。

 俺はカンナに怯えながら言った。


「な、なんだよ」

「な、ん、だ、よ? なんだと思う? たらしさん」


「そんな名前じゃ」

「ふーん……」


「わざとじゃないだろ!」

「じー……」


「かっ……」



 あまりに見つめてくるものだから徐々にお互いの顔が近づいていった。


「「あっ」」

挿絵(By みてみん)


 それに気づいた俺たちは顔を赤くしてそっぽを向いた。

 おかげで有耶無耶にはなったが、考えないようにしていたことが頭の中によぎって赤くなる。

 ヴァルクが俺らに言う。


「仲がよろしいのは結構ですがそろそろ出発してもいいでしょうか?」

「なっっ。もちろんだどんどん進んでくれ!」


 羞恥心でさらに顔が赤くなるのを感じる。




 少し進んだ瞬間空気が変わる。

 俺自身には検知能力などないのに感じる。


 冷や汗が出る。まるで暴走したゼートが目の前で覗き込んでいるような圧力。

 恐怖心で足がすくみ地面を踏んでいる感じがしない。


 俺はヴァルクに言う。



「ヴァルク。これは」


「ええ。ここで休憩して置いてよかった。

 この先では休める場所などないでしょう。なにせこの重圧。

 やっと相対するというわけですね」


 眠気など一気に吹っ飛び緊張が走る。リビアにも遅れを取らないよう気を張るように言った。

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喜びます。

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