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勘違い

 あれからいくつかの魔物と戦ったが最初に出会ったムカデ型の魔物ほどではなかった。

 進むに連れて少し緑の混じった青色に輝く鉱石がちらほらと顔を出し始める。


 これはガディが使った素材と同じだろうか? だがイナの剣は魔王の剣のように黒く透けるような剣だ。

 加工の過程で変化したのか?

 待てよ? これらを持ち帰れば返済出来るのでは?

 いや、今は邪魔になるか。全部終わらせてからにしよう。


 その鉱石が光を発していて灯りが必要なくなってくる。

 俺たちはティアナに魔力で灯りを作ってもらっていた。

 ティアナにもうつけなくていいと言い、火を消してもらう。


 トアがどうやっているのか聞いてくる。

 俺は内緒だと言うとおーしーえーろーよーと絡んでくる。


 言えるか。失われた魔法の技術ですなんて。

 ティアナの正体をバラさないとまず説明が出来ない。


 魔力回路の昔の使い方なんて言ってもそれだけじゃ理解されないだろう。

 トアは何度聞いても教えてもらえないと分かるといじけてしまった。


 ”マスター”「ご主人さま!」


 ”横です”「横です!!」



 俺はアイリスの剣に手を伸ばす。

 横、左側にはトア。右側には壁。

 トアは心配ないと踏む。


 リビアとイナの急を要する言い方からそうする理由があるはずだ。

 相手が見えない状態で俺は鞘から剣を抜きつつそのまま攻撃に移行する。

 違ったなら違ったでいい。


 岩で出来た横の壁を斬りつける。

 岩ではない柔らかい感触を感じる。

 球体。それに短すぎるぬいぐるみのような見た目。

 手は胴体と同じくらいの長さがある。足はそれに見合わずあまりにも小さかった。


 グゲェと断末魔を上げ、動かなくなる。

 岩に擬態して攻撃の機会を伺っていたのだろう。


 びっくりした! よく分かったな。とトアは言う。

 俺はイナのおかげで気づけたのだとトアに言った。


 するとイナは活躍出来たことがうれしかったのか耳を少し垂らし、尻尾をフリフリとする。このかわいさが堪らないのだ。


 ”マスター 私は……”


 あ、ああ。リビアも助かった。ありがとな。


 ”ぶんぶん”


 それは、尻尾を振っているとのアピール、なのか……?


 ”かわいいでしょうか?”


 ある、意味では、かわいいな。


 リビアの言葉に唖然としてる中、先頭を進んでいたヴァルクが周囲にいるこの名もわからないぬいぐるみのような魔物を斬って回る。

 それぞれに任せておいてもいいと思うが、討伐隊を率いるものとして守るという責任を感じているのだろうか。


 一通り始末した後、ここで休憩をとりましょう。とヴァルクは言った。

 そして俺の元へと歩いてくる。


「さすがです。

 誰よりも……私よりも先に魔物を見つけ討伐するとは」


「俺じゃない。イナのおかげだ」



「奴隷の……随分と大事にされているのですね。

 奴隷にその価値がありますか?」


 俺はその言い方が少し鼻についた。


「価値? 価値があるかないかで仲間を推し量るわけがないだろ。

 お前の言う価値は役に立つかたたないか、そんな感じがするんだが俺の気のせいか?」


「怒らせてしまったのなら申し訳ありません。

 価値がなければ手を差し伸べられないと思ってるものですから。

 実際私もトアと同じ境遇なのですよ」



「貧困街出身だと?」


「ええ、まぁ。

 ただ私はこの国ではなく、他の国で、ですが。

 そこで少々名を上げまして国王に拾われた。そんな過去がありまして」



「自分の経験からか。

 だとしても言葉は選べ。悪意はなくとも相手が悪意を感じればそれは相手を不快にさせるんだからな。


 たとえ自分は悪くなくとも、な」


「耳が痛いお話です。

 彼女にお伝え下さい。見事な速さ、的確な判断でしたと」


「ああ」



 ヴァルクは戻っていく。

 トアは言った。


「初めて聞いたよ。

 あいつも同じだったんだなー」


「仲良くなれそうか?」



「無理だな。

 なんか合わねーわ」


 ”複数体の魔物の接近を確認 小型であり、個体の強さは低いですが数が多いです”


「イナも気づいたか」

「はい」


「リーシア、ティアナ。

 これから小型の魔物が複数体来る。

 注意してくれ。ティアナは弓で応戦頼む」


「「おっけー!」」


 俺らが来たはずの方向と、その向かいから挟まれる形で外骨格の硬い蜘蛛のような魔物がかしゃかしゃ音を立てながら近づいてくる。


 大きさは五十センチほどだが、動きがすばしっこい上に予測不可能な動きをしている。

 ティアナは魔力の弓を作り出し一匹一匹狙いを定め、丁寧に射ち落としていく。

挿絵(By みてみん)


 俺は影を使ってその速度に合わせる。

 蜘蛛型は左右にステップを踏みながら近づいてくる。

 着地の瞬間剣を切り上げた。

 相手を真っ二つに切り離し一匹目の退治を終わらせる。


 リーシアは剣に炎を纏わせて戦っていた。

 傷の入った魔物はそのまま全身が焦げていく。


 イナは素の速さで対抗していた。

 死角から襲われたとしても瞬時にその方向を確認、的確に狐氷で切り捨てる。

 イナも戦い慣れしたな。冷静だ。


 周囲を見るとこれらの蜘蛛型に対応出来ているらしい。

 そのほとんどはトアとヴァルクによって殲滅させられていたが。


 最後の一匹を仕留めた後、ため息をつく。



「まったく。休む暇もないな。

 次から次へと。

 破龍がどこにいるのかも分からないままだしな」


 ヴァルクは再びこちらに来て話し始める。


「素晴らしいパーティーです。

 私の助けなど一切必要がない」


「お前さっきからなんでそんな俺に関わろうとするんだ?

 ヴァルクの仕えている国王の敵みたいなものだぞ」



「単なる興味ですよ。

 あなたには興味を惹かれるのです。それに国王様の命令は聞きますが好きなわけではありません。

 ただ国王様には恩義を感じている。それだけですよ」


「興味、ね。

 なら少し聞きたい。

 この討伐隊で破龍を倒せるのか?」



「難しいでしょう。

 守りながらの戦いになるでしょうし、相手は破龍。

 勇者に封印を施されるまで、いくつもの国と人々、土地を更地にした。

 たとえ相手が魔物だろうと破龍の前では無に帰る生き物でしかない。


 体に剣は通らず、魔法は弾かれ、矢は折れる。

 勇者でさえここに閉じ込めておくことがやっとだった竜種。


 それを未覚醒の勇者候補二人、勇者ではない聖騎士団長の私。

 そして実力差が幅がありすぎる討伐隊。



 一度も陣形訓練や模擬戦を行わず戦うなど無茶です」



「……同じ意見だが、ならなぜここに来た。

 異を唱えなかった。


 俺には母さんと侍女のことがある。だがお前は違うだろう。

 失えば困る貴重な戦力。多少の口添えは出来たはずだ」



「私はただ命令をこなすのみ。

 異を唱えたところで聞き入れてもらえわけではありません。

 従順なコマであることが私の使命。


 破龍を勇者候補が討ち取った。その事実がほしいのでしょう。

 ミレッド帝国ともいざこざがありますから。


 こちらにいる勇者候補が勇者であるという事実を作り出したいのです。

 たとえそうでなくとも結果は事実を捻じ曲げられる。


 実際の所私は破龍を討伐しようとは思っていません」



「ならどうするつもりなんだ?」


「封印をしなおすのです。

 つまり修復を行います。


 過去の勇者と同じだけのことをしたという結果を持ち帰り勇者の封印を修復したという事実を捻じ曲げるのですよ。

 そうすれば国王様にも世間にも、封印を解いた後、勇者と同じレベルで封印を再度施した勇者候補という事実が手に入ります。


 これで交渉します。充分でしょう」



「あの一件からお前には敵対心を持っていたが……

 まぁ見る目が変わったかな。随分と手を考えているんだな。

 度肝を抜かれたよ」


「感謝します。

 そのような評価を頂けてなによりです。


 以前にも言いましたが命令はこなした上で自分の正しいと思った行いを出来うる限りこなす。せめてもの反抗なのですよ」



「お前も大変なんだな」「ええ、ほんとに」

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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