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破龍討伐へ

 肌寒い。

 まだ陽が出たばかりの空気は冷たい。


 東に位置する破龍の洞窟。

 たどり着くには一日かかる。ガディが絶賛する特上の素材を持つ破龍。

 イナの狐氷の素材となった竜種。


 ほぼ出会うことはないとされる竜種との戦い。しかも古代種。


 今回の討伐には行くかどうか悩んでいたティアナとカンナもついてきた。


「いいんだな。カンナ、ティアナ」


 二人とも頷く。

 ほんの少しでも生存の可能性を上げたいと言った。

 その意味の中には、たとえ自分が死んでも、という覚悟が読み取れる。


 だから俺は二人に言った。

「絶対死なせないからな」


 二人は見え見えかー。と苦笑する。

 似た戦力同士お互い話し合っていたらしい。


 この討伐に参加するかどうか。


 カンナは言った。


「自分の見ていないとこで死なれるの嫌だし。

 自分だけ生き残ってまた一人になるのは嫌だからさ」


 続けて今度はティアナが言う。


「私この世界のことまだなにも知らないから、エノアが手を引いてくれないとだめだよ?

 迷っちゃうもん。だからついていく」


「そうか、

 その覚悟を受け止める。

 行くぞ」



 先日の討伐隊メンバーが集まり、破龍の洞窟を目指す。

 討伐隊の中には正騎士団長ヴァルク、そしてトア。

 先頭を歩くカリム。


 そのカリムは俺たちに関わろうとはしていない。そもそも他のパーティーとも会話をしようとはしていない。

 それは俺たちも同じだが……


 別に今更あいつ言うことなんて無い。そう無いんだよ。

 あいつに何を言った所で何も変わることはない。


 今は破龍を討伐する。

 もしカリムがああする必要があったのだとしても俺はあいつを一発ぶん殴るだろう。


 後方を歩く俺たちへチラチラと視線を向ける者がいた。

 それはトアだった。


 トアは歩く速度を徐々に遅くしていき、俺たちの隣まで来た。

 そのまま何も話さないトアに俺は話しかける。


「なんのようだ」

「はっはぁ?! 歩くのに疲れただけだし!」


「……そんなひ弱じゃないだろ」

「うっ……」


「なんかようか?」

「そっちも速度落としてくれ」


「ああ、そういうこと」



 俺は歩く速度を遅くする。

 イナやティアナがそれに気づくが俺は気にするな大丈夫だという意味を込めて手をふる。

 それが伝わったようでそのまま正面を向きながら歩き続ける。

 討伐隊の列から遅れるように少し離れた俺はトアに話しかける。


「んで、なんか言いたいことでもあるのか?

 他のやつには聞かれたくないようなことが」


「あ、いや……その……

 あんた、エノア、なんだよな」



「ああ。

 そっちはこの国に二人しかいない勇者候補の内の一人、トアだろ?

 初めて会った時は勇者適正鑑定の日だよな」


「覚えてたのか。

 あたしはあの後すぐ城に向かったからあんたの後のことは噂で聞いた」


「いい噂じゃなかったろ」

「まぁ……」



「あの日の印象とは随分と違うな。

 もっと刺々しい。そうだなヴァルクに噛み付いてた時みたいなのを想像してたんだがな」


「あれはっ……

 そうなる必要があったと言うか体に染み込んだというか」



「?」


「そうだよな。貴族のあんたはわからないよな。

 この国だって全部が全部裕福なわけじゃない。

 知ってるか? その日の飯の確保すら出来てねぇ貧困層だっているんだ」


「本当にあったのか。

 噂には聞いてたが真偽を確かめることがなかったからな」



「他の国に比べれば数は少ないし恵まれてるほうさ。

 食いもんがないのは一緒だけどな。


 第一あたしらは国民じゃなかったからな。

 昔捕虜にされたやつらの末裔だから。

 そうじゃないのもいるけど。


 とにかく弱気だと失うものが多いんだよ。

 一人で強気、全員返り討ちにするくらいじゃないとな」


「それがお前だと」



「そう。

 そんでそんな状況を打破するために、満足行く食事をとるために。

 国民というあんたらが当たり前に持ってる権利を得るために勇者の鑑定に行ったんだ。

 あたしみたいな貧困街のやつが受けられるようなものじゃないからいい服を来て、何も聞かれない内にさっさと鑑定させたんだ」


「あーなるほど、だから急がせたのか」



「そういうことよ。

 運良く勇者候補だったからそれからの生活は楽だった。両親はいねーし。

 強くなるっつー努力はせざるを得なかったが貧困街で腐った飯を食うよりは断然マシだ」


「話を敷く限り貧困街ってのは結構ひどい環境なんだな。

 もしかしたら他国や一部の国民にはひた隠しにされてるかもな。実際俺もあるらしいとしか知らなかったわけだからな。

 国にとっちゃ都合が悪い存在だろ」



「あはは。

 そりゃ追い出されそうになることは多かった。

 けどこっちはそれされちゃ生きていけない。

 ギルドの冒険者登録なんて夢のまた夢だったから。

 死ぬ気でみんな抵抗すんだよ。

 あたしらは人を相手に出来ても魔獣までは相手に出来ないからな」


「嫌な話だ」

「まぁ今のあたしには関係ないなっ!」


「で、結局自分の境遇を話に来たのか?」


「ん? あーいやこれは前置き。

 その……あたしこんな性格のせいか話す相手がいないんだ」



「おしゃべりがしたいから話相手がほしかったってことか?」


「まぁそれもあるけどさ……

 教えてほしいなと」



「なにを?」


「反逆者、裏切り者。

 味方なんて一人もいないようなあんたがどうやってあんなにたくさんの仲間を作ったんだ。

 あたしは国に充てがわれた奴と何度かパーティーを組むんだがうまくいかないんだよ。

 元々一人で戦うことに特化してるから余計にな」


「ひどい言いようだが、周りから見ればそういう評価だよな。

 簡単に言ってしまえばなるようにしてなった。

 必然だった。みんな手放したくない大事な人だった。

 切っても切れない関係だった、かな」


「なっ!

 それじゃ意味ないんだよ!

 どうやったんだよ」


「んなこと言われたって分かるか!

 リーシアは幼馴染だし、イナとカンナは助けた上で行く宛がなかったから着いてこいって言って、リィファは手を差し伸べてその手をとってくれて、ティアナは連れ出した。

 わかりやすく言うならそうだな……


 相手にとって、自分にとって――かけがえのない存在になる。かな」



「わっかんねー……」


「まずは会話をしてみたらどうだ?

 話が弾めば仲良くなるだろ。今みたいにな。

 仲が良くなれば後は深めるだけ。


 そうすれば友達とか仲間が出来るんじゃないか?

 これは生前の世界で思ってたことだがこの世界でも変わらないだろ」



「本当に前世の記憶あんだな。

 分かった。いっちょやって見るわ。


 と、その前に……死ぬってどんな感じ?

 不謹慎だし失礼なのは分かるけど死んだやつにしかわからないからさ。

 ずっと死にたくぇって抗ってきたけど、その死ってのはどんなものなんだ?

 いやなら応えなくていいぞ」


「悪いな……

 一瞬だったから。死ぬ前までは時間がゆっくり流れるような感じがしたよ」


「そっか。

 嫌なこと聞いて悪かったな。

 よしっ。見ててくれよ!」


「えっ……俺見守るのか?」


 まぁいいか。

 トアは明らかにピリピリした空気を醸し出すパーティーに向かって足を早めていく。


「あっ」



 俺はそれを見て伝え忘れたことがあったことに気づいた。

 トアはそのパーティーの一人に話しかける。


 肩を叩いて自己紹介をしていた。



「よ、よぉ! あたしは勇者候補のトア。

 あんた勇者か?」


 そしてトアが言われたのは……


「勇者ではないが最も功績を上げるのは俺たちだ。

 あんたとはライバルなんだ。馴れ合うつもりはない」


 トアは一度足を止めえぐっえぐっと両目を抑えながら歩いてくる。

挿絵(By みてみん)

 俺はそんなトアにまずは一言伝えた。


「相手は……選べよ……」


「えぐっ」



 トアに必要なのはまず空気を読むことからだと俺は思った。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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