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破龍討伐隊

 いつも通り。

 カンナもリィファも、それと……リーシアも。

 今までと変わらずに接している。


 朝起きて、イナを撫でて喜ぶイナの尻尾と表情を見ながら体をベッドから起こす。

 ベッドで寝ていたカンナはおはよう寝坊助さん。と俺の事をからかう。


 装備の点検をしながらみんなが起きるのを待つ。

 眠い目をこすりながらティアナがおはようと言う。


「元気になったねエノア」

「まぁな」


 さりげない会話をして部屋を出るとリーシアとリィファが待っていた。

 遅いぞとリーシアに言われる。


 まだフラフラしているイナを言い訳に使いギルドの食堂へと向かう。

 この朝の流れにも慣れていた。


 いつも同じ朝ごはんを俺は食べていた。

 手を合わせ食事を終わらせる。


 談笑をした後、整えた装備を持って俺たちは、城へと向かった。


 最後に来たのは貴族の名を剥奪された時。

 あの時、俺は絶望していた。

 もうリーシアとは会えない。この国で生きていくことすらと。


 足を踏み入れる。

 大きな門が開かれすでに門の前で待っていた者たちが中に入っていく。

 容姿を見ればそれらが冒険者であることは容易に想像出来た。


 謁見の間までの道のりに多くの兵士が立っている。

 後ろにはガーディアン。


 国王と会うために謁見の間へと入っていく。

 まだ国王は来ていなかった。


 しかし見知った顔がそこにはいた。



「エノアッ!!」

 小さいながらもはっきりと怒りを感じる声でカリムは言った。



 俺は返事をすることなく国王を待つ。

 そして、ルミアと母さんの無事を確認しなくてはならない。



 ぞろぞろと今回の討伐に参加するもの達が集まってくる。

 どれくらいいる? 百人くらいはいるか?


 後ろの扉が閉じられる。

 おそらく全員集まったということだろう。


 待っていると部屋の隅にある扉が開く。

 そこから兵士や司祭と共に国王が歩いて玉座に座る。

 そして挨拶もなく概要を話始める。


「破龍。

 かつてすべてを無に帰すと恐れられた破龍の封印が長年の劣化により解けようとしている。

 魔王を討伐した勇者が残った力をすべて使い封印することに成功した強者である。


 解き放たれればまた数多くの人々が恐怖に陥れられることになる。

 魔王という驚異に対抗する必要がある今、その驚異に立ち向かう前にこの厄災を止めよ。

 めぼしい活躍をしたものには勇者と同等に待遇を約束しよう」



 冒険者達はその報酬に胸を膨らませ志気が上がっていた。

 しかしそうでないものもいる。死ぬという覚悟を持っている者たち。


 ここにいる討伐隊に勇者を超え力があるのかどうか。

 たとえ魔王との戦いで力を消費した勇者であってもその力は絶大なことを皆知っている。

 勇者と同等の待遇とはつまり勇者と同等の仕事をしろということだ。


「リィファ」


 国王がリィファに話しかける。

 個別に名を呼ぶなどそうあることではない。


 リィファは頭を下げて返事をする。


「はい。お父様」

「お前のおかげで自分の手の甘さを知った。

 感謝しているぞ」


「……」



 どう答えようと地雷だ。

 それを分かってかリィファは何も言わない。

 何を答えようと自分の行った所業を認めることになる。

 俺は国王に言った。どうせ元から罪人だ。


「国王。

 俺の母さんと侍女のルミアは無事なんだろうな」

「ちょうどいい。

 カリム、連れてこい」


「……はっ」


 カリムは国王が入ってきた扉に向かう。

 カリムが出てから数分後、カリムは再び姿を現した。

 その後ろに兵士とその兵士に掴まれている母さんとルミア。


 国王は言った。


「罪人の親族と侍女だ。

 当然の扱いだろう?」


 ルミアが声を上げる。


「エノア様! ご無事だったんですね!」

「ルミアッ!」


 国王は俺の足を止めるよう言った。


「近づくな。

 それ以上近づけば即刻クビを落とす」


「っ!」



 その後、母さんを様子を見る。

 母さんはまるで力が入らないかのように歩いている。


 いや、引きづられている。

 意識があるのかどうかすら定かではない。


「国王……お前母さんに」


「勘違いをするな。

 私は何もしていない。

 元々病だろう?」



 どんな扱いを受けてるのかって話だクソ……

 国王は話を続ける。


「エノアよ。

 お主が私の命令を聞くのならばすぐに開放してやる。

 当然お前の態度次第で扱いも変わる」


 こいつ、分かってて……

 国王はカリムに目配りをする。


「カリム」

「っ……」


「カリムッ」

「はっ……」


 カリムは母さんとルミアの前で笑いながら言った。


「エノア! すべてお前のせいだ!

 見ろっ! この有様を!」

「……」


「なぁエノア……

 不幸だよなぁ……

 さらに不幸を押し付けてやるよ。

 エノア、これに見覚えあるよな?」


「なっ……お前らっ!」



 反射的に魔王の剣に触れてしまう。

 しかしリビアは行動を起こさなかった。

 声高らかにカリムは言う。


「なんだっ!?

 お前だって同じだろう?!

 そこにいる奴隷にもついているものだろうが!」



 奴隷紋。それは主従関係の絶対的な縛り。

 イナがいることによって何も言い返すことが出来ない。

 母さんとルミアに奴隷紋が刻まれていることを。


 貴族である母さんに奴隷紋を刻むという侮辱に!

 歯を食いしばり怒りを抑える。


 それが最も最善だからだ。



 かちゃ、かちゃかちゃっと柄を掴む手が震えと剣と鞘がぶつかり合う。


「見ろよエノア!

 ははっあははは!

 ”サーリア”」


 指を差しながらカリムは詠唱を行った。

 ルミアと母さんの体に衝撃が走ったように体を仰け反らせる。


 苦痛の声が響く。

 意識のなさそうな母さんも短い苦痛を表す声が漏れている。


 分かっている、分かっているが……


「カリッ、ム……」


 怒り、抑えられないような怒りが包む。

 お前らは俺の逆鱗に。


「おい」

 隣にいた人物がカリムに言った。


「貴様がっ! 口出しするのか!」


 赤色のくせっ毛をひとつ結びで束ねた女性。

 拳にグローブを嵌め、露出の多い服装。

 動きやすさの為か短いシャツに茶色い皮の上着を着ている。

 短いスカートの下に膝まであるブーツ。

 まさに攻撃に特化したような装備。



「ああそうさ。

 お前の大嫌いなもうひとりの勇者候補トアだよ。

 そこまで外道だったか? お前」


「そう思っていたのなら私を図り間違えたなトア!」



「何でもいいけどよ。さすがにそりゃ……

 勇者としちゃ黙ってられないよなぁ」


 殺意のこもった声。

 彼女の周りに魔素が集まる。


「勇者スキル……」

「そこまでですよ」


 瞬時にトアの前に立つ純白の正装をした男性。

 聖騎士団長と呼ばれるにはあまりにも若すぎる。俺やカリムよりは年上だが、三十手前、いや二十代前半くらいの若さに見える。

 トアの肩に手を置く。魔素が一瞬で散る。


「てめぇ……離せっ!

 これ見て黙ってろってのかよ」


「トア様。相手は罪人。

 お気持ちを安らげてください」


「はっ、そのさらっさらした髪なびかせながら言うんじゃねーよ気持ち悪い。

 聖騎士団長”ヴァルク”」

挿絵(By みてみん)


「その辺でお願いしますよ」

「あたしを相手にするか?」


 国王はヴァルクに言った。


「もうよい。

 充分な娯楽だった。

 明日の明朝出発せよ」


 ざわっと神経を逆撫でされる気分になる。

 国王はその場を去る。


 そして気を失ったルミアと母さんと連れ、兵士とカリムも消えていく。

 動揺している他の冒険者は俺たちには関係ないと言った風に帰っていく。


 ヴァルクが俺の元へと歩いてくる。



「なんのようだ聖騎士団長」


 ヴァルクは片膝をつき、頭を下げる。


「国王様とカリム様に代わり謝罪させていただきます」

「ちっ、謝罪じゃなく開放しろ、俺は破龍を討伐しに行く。その約束は守る」


「そうはいきません。

 ここはこらえて頂けないでしょうか。

 彼女たちの処遇に関しては私が口を出させていただきます。

 国王には恩義があるのです」


「つっ…………ああ、分かったよ。

 少し落ち着いた。

 どんな恩義かは知らんがそれは自分自身の正義に背を向けられるほどなのか」


「はい。

 たとえ外道だとしても私はこの国に尽くします。

 その上で出来うる限り自分の正義を行うのです」



「忠誠心ならば君主を変えてみせよと言いたい所だがな」

「神の力に抗えるほどではありません」


 トアがヴァルクに言った。


「ちゃんとその約束守れよ外道」

「仰せのままに勇者候補様」


 ヴァルクは去っていく。トアもまた去っていこうとするが俺は声をかける。


「ありがとな。誰も反抗しない中、声を上げてくれて」


「なっ、勘違いすんじゃねーよ! 自分の心に従っただけだっつーの!

 お前の為なんかじゃねーからな!」


 駆け足でトアは逃げていく。

 イナが裾を掴み謝る。


「ごめんなさいご主人さま。

 イナのせいですよね」

「違う!」


 びくっとイナは驚いてしまう。


「悪い……驚かせて。

 違うんだイナ。


 イナは何も悪くない。

 何も罪に感じる必要は無い。

 イナを利用して向こうが悪さしてるだけだ。

 イナが悪いことなんて何一つない」



「ご主人さま……

 イナ、頑張って破龍さんを倒します!」


「ああ。破龍ぶっ倒して母さんとルミアを救うぞ」

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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