表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/178

罪人追放

「罪人エノア・ルーヴェストよ」

 国王は謁見の間にて俺の名を呼んだ。


 この場には取り囲むように兵士がおり後方に拝見者とリーシア。目の前には国王と王子カリム。そして鶏冠がいた。

 鶏冠は記憶を失っているとリーシアから聞いていた。

 あの瞬間何があったのかをあいつは覚えていない。



「貴様が行った学園の破壊行為は反逆に値する」



 そうなるのか。そりゃそうか。

 リーシアへの命令は公にはできない。だからこそひと目のつかない第二塔だった。

 そしてリーシアがほしい国王やカリムにとって俺は邪魔だ。


 それならばこの言い方も理解できる。


「貴様の貴族としての名ルーヴェストを剥奪。

 そして学園の退学処分」


 貴族の名に固執はない。学園に通う理由もない。

 ただ侍女と母はどうなる? 名を剥奪されたのは俺だけだが……



「この国の管理下にある施設、設備、および祝福を受けること、利用を禁ず」



 っ……


 実質国外追放だ。教会で祝福を受けることもできず、魔法の習得に必要な書物の閲覧もできない。貴族の土地を踏むことも出来ず、魔法の向上に必要な司祭の儀式を受けることもできない。



 俺が能力を向上するには他人の手を借りず自分自身で努力しなければならない。

 魔法や能力向上において、他の人間は最短ルートを使えるが俺は自分で切り開かなければならない。


 そして傷は薬草かポーションのみ、重症を負えば死ぬのは目に見えている。

 この先どうするかだが……日銭をどうにか稼ぎながら宿に泊まる、もしくは野宿。




 一番の問題は。




 屋敷に戻れないこととリーシアに会うことはもう……

 リーシアは黙っていた。



「……」


 逆転の目がないのだ。最初から国王の指示。この場においていくらリーシアでも歯向かう力なんて無い。鶏冠のせいにすることだってできない。

 この罰は受けるしか無い。


「よってこの場を立ち去るがいい罪人 エノアよ」


 俺は返事をして謁見の間を出た。すれ違いざまリーシアに言われた。

「大丈夫だからね」


 リーシアは悲しい顔をしていたと思う。

 俺はやさしく微笑み謝った。

「ごめん」



 城下町の商店街を歩いていた。

 武器もなければお金もない。もうなにもない。

 俺はただ宛もなく街を歩いていた。

 これからなにをしたらいい。何を目的とすればいい。



「エノア様」

 誰かが小さな声で俺を呼び止めた。後ろを振り向くとローブで身を隠したルミアの姿があった。


「ルミア?! どうしてここに」


「事情はリーシア様からお伺いしています。おそらくこうなるだろうと。

 実はこっそり王城を出た後から着いてまいりました。

 奥様の事もあるため私は屋敷に戻りますがこれを」


 ルミアは俺の置いてきた剣と革の袋にある程度のまとまったお金を俺に差し出した。

「ルミアこれは」



「これだけあれば数ヶ月は凌げると思います。

 その間にきっとリーシア様が迎えにきていただけます。


 大丈夫です。私も味方です。

 奥様はエノア様の事をご心配されていました。

 どうか無事で、と。


 私は信じております。



 勇者はエノア様だと」



「ルミア……」

「ギルドにて冒険者になるのはどうでしょう。

 冒険者として力をつけ、そのまま魔王を倒してしまいましょう。

 そうすれば勇者はエノア様です!」



 俺はクスリと笑ってルミアの頭をなでた。

 ルミアもまた俺を代償なしに信じてくれるかけがえのない存在なのだ。


「行ってくるよ」

「はい。行ってらっしゃいませ。


 お帰りをお待ちしております」



 俺はその剣を腰に差しお金をしまいギルドへと向かった。

 ギルドへ向かう途中人々は俺に心無い言葉を浴びせた。

 声がはっきりと聞こえる。


 路地の建物の隙間に立っていた住民や、飲み屋の前で酒を片手に噂する。

 俺は顔をそらして歩き続けた。なにも初めてのことじゃない。



「きっと勇者候補じゃなかったことが不快だったんだわ」


 違う。お前らが勝手に決めたんだ。俺だって本当はそうあろうとした。

 でも違かった。


「その腹いせで学園を? たしかあそこには王子の使いとリーシア様がいたとか……」

「王子は昔屈辱を受けたって……」


「自分が勇者候補じゃなかったからってそんな……」

「しっこっち見たわよ。なにされるか分かったものじゃないわ」




 俺は不意にリビアのスキルが発動しないよう口を噤んだ。

 昔もこうやって人を避けるために傷つけないために口を閉ざしてたな。


 リーシアの根気に負けたが。

 リーシアが迎えにくるとルミアは言ったが難しいだろう。

 どう足掻いたって……



 それにこれ以上リーシアを不幸にしたくない。迷惑をかけたくない。

 リーシアが悲しむ顔を見たくない。


「っ」

 後方から石を投げられた。久しぶりだな。あの時はカリムの言いふらした噂で投げられたが……



「この反逆者めがっ!」


 老人は足元の石をもう一度拾うと再び俺に向かって投げた。

 他の住人達がそれを抑えた。


「なにされるかわからないわよ!」


 老人はその制止を振り切った。


「ビビってどうする! わしらの街はわしらで守るんじゃ!

 街を壊される前にちゃんと教え込まないといかん!

 甘やかされた子供にはしつけが必要なんじゃ!」


 こつっ



 他の一人が石を投げた。一人がなげればもうひとりが。

 頬に汗ではない液体が流れた。涙ではない。血が滴った。




 本当に、こ わ し て や ろ う か。




 一瞬そんな考えがよぎる。リーシアやルミアの顔が思い浮かびその感情をしまった。

 そんなことをすればリーシアは悲しむだろう。それこそリーシアの期待を裏切る。


 そしてルミアや母さんがどうなるか。

 俺は一人、石を投げられながらあるき続けた。

 今俺のとなりにはリーシアはいない。その血を指で拭った。



「あやまれぇ! この国に反逆したことを!」



「そうだ! 謝罪しろ!」


 あの日のリーシアもこんなに痛かったんだろうか。

 なにも聞こえず痛みも感じず。俺はギルドへと向かった。



 ギルドに入ると受付嬢が驚いた表情を見せた。


「怪我してるじゃないですか! 大丈夫ですか?! 今教会に連絡を」

 ギルド内に設置された酒場で一人の冒険者が声を上げた。


「がはは! それは無理だぜ受付の嬢ちゃん。そいつは罪人。明朝に国のサービスは全部受けるなって言われてんだ」

「そんなっ。でも怪我してるんですよ?! 待っててください」


 受付嬢は奥へ戻るとポーションを持ってきた。

「血はこれで止まると思います。

 痛みは無くならないかも知れないんですけど」


「あ、いや俺は……



 ざいに」

「私は何もされてませんから。私がそうしたいだけですっ!

 さっ使って! いえ私が使ってあげましょうほりゃっっ!」


 ぶしゃっ


 ぽたっぽたっ。



「ああごめんなさい! ポーション使うの初めてでっ顔全部にかかっちゃった!

 使ってみたくて……タオル、ああ袖でいいや」


挿絵(By みてみん)


 きゅっきゅっ。


「はいこれでよし! 私は受付のミルです! ご用事はなんですか?」

 俺は少し自分の表情が和らいだ気がする。


「仕事と宿が欲しい」

「でしたら……アシッドボアの討伐なんていかがでしょう。

 作物を荒らしたり商業人や観光者を襲ったりするんです。


 この時期は毎日討伐依頼がありますし日が落ちる前だったら

 強くもないですしおすすめですよ!



 素材は売ってもよし食べてもよし!

 最初のお仕事におすすめです!


 ただし日が落ちると魔素の変質から非常に強くなりますので

 日が落ちたら討伐をやめて帰ってきてくださいっ!

 宿はとなりにありますのでそちらを。


 民宿ですから問題なく使えますよ」



「至り尽くせりだ。ありがとう」

「いえいえ! お仕事ですから!」




 俺はギルドに冒険者登録を済ませ宿に泊まった。

 さすがに疲れていたのだ。


「ふー……きっついな……」


 住民の言葉は痛かった。あることないこといいやがって……

 だが塔を壊したのは事実だ。それが故意でなくとも。



「第一失せろっていっただけでなんで崩れるかな……

 確かに視界からは消えたけど」



 俺は寝心地が良くないギシギシと音がなるベッドに横たわった。


 自然と流れる涙を抑え込む。

 宿の壁は厚くはない。


「街に行きたくない。それでも薬草とポーション、食料くらいは買わないと……


 ――リーシア……」



 俺はそのまま眠りにつく。


 熟睡できず、何度も嫌な夢を見ては起きるということを繰り返していた。

 次の日、目を覚ました俺は剣とお金を持って朝早くに宿を出た。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ