ニーナの恋路
リーシアは木の陰に隠れながら言った。
「ねぇ、なんで私達いま隠れながら尾行してるの?
普通に前夜祭楽しまない?」
街は完全にお祭り模様。屋台が出て、道には花が陳列されている。
灯りをともすための魔具がそこらに飾られ活気づいた街は来たものも居たものも高揚させていく。
そんな中、俺たちは木陰に隠れながらニーナと例の素材売買をしてくれた店の彼をつけていた。
俺はリーシアに答えた。
「仕方ないだろ。途中までついて来てほしいって言われたんだから。
それにティアナとリィファが見たいっていうし、イナだって」
「気になりますねご主人さま!
イナの耳は準備万端ですよ!」
「乗り気だから……」
リーシアは不安げに言った。
「この人数でつけるのはちょっと……
私は普通に楽しみたかったんだけど……
いやまぁ私達じゃ難しいかも知れないど……
カンナはどうなの?」
「私は……気になると言えば気になるけど」
カンナは俺を見てくる。続けてこう言った。
「うん。気になる。見よう。
そしたら……勇気でるかも知んないし」
大多数が尾行に賛成ということで結局二人にばれないようにつけていくことなる。
二人が合流したのはこの会話の数分前だ。
合流する前、ニーナは緊張してるのかうつむいたりキョロキョロと辺りを見回したりと落ち着きがなかった。
おろおろしているニーナに彼が声をかける。
約束の場所に着く前、俺たちはニーナに頼まれて店で話していた。
不安で仕方なかったとのこと。
さらには緊張のせいか時間が近づくにつれ足が竦んでしまったようで中々店を出ることが出来なかった。
そのせいで早起きしたにも関わらず結局時間通りになったわけだ。
けれど会ってみればどうやら普通に接している。
その様子を見ているとこれはもう結果は決まったようなものなんじゃないかと感じる。
だがどうなるかは実際にうまく行かないと分からない。
そしてなぜだかこちらまで緊張してくる。
二人は少し立ち話をすると歩き始める。
あ、だめだ。あのニーナ、歩き方が不自然すぎる。
体重移動がまともにできていない。
リーシアが一切の足音を立てずに歩き始める。
「動き始めたわね。ちゃんとついてきてね」
「なんだかんだ乗り気だな……」
「やるとなったら本気よ。見届けてあげましょ」
なんとなく罪悪感も生まれてくるのだが尾行を続ける。
最初はレストランに入るようだ。
カンナは言った。
「いきなりレストランか。
早すぎない? もうちょっと他で緊張をほぐしてから行くべきよ」
「なんの評価だよ……」
店の中に俺たちも入る。だがこのままでは当然バレてしまうし声をかけられたら折角の雰囲気が台無しだ。
そこで少しずつ店に入り、顔を見られないようにすることになった。
ここまでするか。
「ご主人さま! これ食べてみたいです!」
「頼んでいいぞ。ティアナも遠慮するな」
「いいの?」
「いいよ。なんか魔界を思い出すなぁ」
そこまで前でもないが二人は食事を楽しんでいた。
それは俺自身も同じだったが目的はあの二人。
遠目だから声は聞こえないが会話は弾んでいるようだ。
こちらは食事が弾んでいるが。
「ゆっくり、食べるんだぞ」
「「ふぁい!」」
カンナとリーシア、リィファは食事を楽しみながらもあの二人を見ていた。
ニーナが緊張からかコップを横に倒してしまう。
幸い水があまり入ってなかったからか服にはかからなかったようだ。
すると彼がハンカチを差し出す。
そのハンカチを見てニーナはなにか言う。
イナがそれを聞き取った。
「どうやらあのハンカチは元々服屋のお姉さんのものだったみたいです。
昔冒険者だった頃に渡したものだとか。
まだ持ってたんだと言っています」
「これは……いい感じだな。
ハプニングがいい方向に働いたな」
彼はそのハンカチをニーナに渡す。そしてこぼれた水を拭いた。
すると彼は手を差し出す。
「なんだ、これは返してということか」
俺はそう言うとイナが聞き取れましたと答える。
イナの耳が本当に役立ちすぎる。
「大切なものだから。と。
お姉さんはもう古いからと新しいハンカチ贈ると言ったんですが……
それでもお兄さんは大事なんだ。と言ってます」
はよ結婚しろと思ってしまう。
リビアが突然口を出す。
”まだです やはり思いを告げるのはそれ相応の時がよろしいかと”
お前も楽しんでんのかよ。
”うきうきです”
うきうきか、そうか……リビアのイメージがどんどん変わっていくんだが……
食事を済ませた二人が立ち上がる。
俺達はそれを見て、少し遅れてから会計を済ませる。
カンナ達はまだ食事が残っているようで急いで食べていた。
カンナ立ち寄り先に二人についていくと後ろからカンナ達が走ってくる。
そしてリィファは俺に聞いた。
「どうですか! 先程は何やら親密なご様子でしたわ!」
「いい感じだよ。昔贈ったハンカチをずっと大切に持っていたみたいだ」
「まぁっ! もう答えは決まったも同然ですわ!」
「まだ分からない。ここから実は……なんてこともあるかも知れない」
「そんなのはわたくしが許しませんわ」
「なんでぇ……」
お祭りムードのせいか誰も彼もが浮かれている。
今日と明日はそういう日なんだろうな。
それから娯楽としての屋台を楽しんだり、会話をしながら噴水近くで休んでいたりと楽しそうな時間を過ごしていた。
日は次第に暮れていく。
リィファが言った。
「勝負はここからですわね」
「というと?」
「当然花火ですわ。
異世界からの技術。その美しさはすばらしいものです。
わたくしも毎年お城から見る花火は大好きでしたわ。
数少ないわたくしの楽しみでした。
つまりこの花火とともに……」
「そうか、そうだったな。
花火、か」
カンナが食いつく。
「花火見れるの?」
「ああ。毎年前夜祭と祭り当日の夜のに打ち上げられるんだ」
「見たいような……見たくないような」
「どうしてだ?」
「私はこっちの世界の方が楽しいから」
「……俺もだよ」
「思い出すのが嫌なの」
「こっちの花火はこっちの花火。割り切ろう」
「出来るかな」
「出来るさ」
二人はベンチに座り夜を待っていた。
俺たちはかなり近くまで寄っていた。
会話が聞こえてくる。
ニーナは言った。
「どうして、私の誘いに答えてくれたの?」
「君こそどうして今日は誘ってくれたのさ」
「だって、い、一緒にまわりたいなって」
「同じだよ。ずっと店が忙しくて誘えなかったから今年こそはって思ってたんだ。
まさか誘われるなんて思わなかった」
「レイトさん」
彼はレイトって名前なのか。
レイトはニーナの真剣な声で姿勢を正す。
ニーナは声を震わせる。
「あっあの」
リィファは小声で言った。
「花火はまだ上がりませんわよ?!」
俺も小さい声で返した。
「こういうのは思い立った瞬間が大事なんだよ」
「ですが……少しでも確率を上げるのならば」
「まぁまぁ」
ニーナは言葉にならない声しか出せていない。
きっと想いを告げようとしている。
だが過去の出来事から罪の意識を感じてる。
そして関係性も壊れるかも知れない。
そういういろんなことがニーナから声を奪ってしまったのだろう。
がんばれニーナ。大丈夫だ。
するとレイトがニーナの肩を掴んで言った。
「祭りの誘いは先に言われてしまったから、今度は僕が……
ニーナさん」
「ふぁ、ふぁいっっっ!」
「すーっ……」
緊張からか二人共黙ってしまう。
言えっ! 言うんだ!!
「僕は、これから打ち上がる花火を――恋人となった君と見たい。
僕は、ニーナさんのことが――大好きです。
ぼ、僕の、恋人になってくれませんか?」
見えないけれど、ニーナが泣いてるのが分かる。
そして聞こえたのは震えた返事。
「はいっ……私も、大好きです。レイトさん」
それを聞いた瞬間俺も、みんなも笑顔が溢れ、安堵した。
そのせいか緊張がほぐれ……
がさがさっと音を出してしまう。
俺は言った。
「まずいっ! この雰囲気を絶対に壊すな! 各々解散!!」
散り散りになって逃げる。
振り返るとどうやらバレてはいなかったらしい。
二人は見つめ合っていた。
そして散り散りになってしまった俺たちは合流するためみんなを探すことになるのだが。
「まさかイナとはぐれるとはな」
俺は一人になっていた。
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