ティアナの服
「すまん……本当はいろんな店に連れていきたいが、その」
リーシアは俺の肩を叩く。
「いいのよ! 仕方ないじゃない。
エノアが白い目で見られながらご飯食べるなんておいしいものもおいしくなくなるわ。
ギルドの食堂だっておいしいし、視線も噂話も大してない。ないわけじゃないけど街中で食べるよりはマシ。
居座る人が少ないからかしらね」
「悪いな……」「いいっていいって! みんなもそう思ってるわよ!」
そしてギルド内で食事をしていると以前喧嘩になった性欲に正直な男と目が合う。
すぐに目を逸らされる。
「目、逸らしたな」
すると後ろからミルさんの声が聞こえてくる。
「当然ですよ。あんなの見せられたら萎縮しますって。
あ、隣いいですか?」
あんなの、というのは以前の魔素を充満させた時のことだろう。
それよりも俺の隣にはすでにイナとリーシアが座ってるのだが。
リーシアがもう一つ隣の席にミルさんを誘導する。
「受付の子よね。隣は空いてないからこっち座って」
「むっ。どんなご関係ですかっ」
「恋仲、よ」
むふーっとリーシアは自慢げに言って俺の腕に抱きつく。
「えっ……」
ミルさんは静かにリーシアに指定された席に座る。
そこはリーシアの隣の席だった。
もぐもぐもぐと食事を口の中に運んでいく。
ある程度食べると水で流し込んでいた。
そしてリーシアの目を見た。
「まだ……」
そこから先は聞き取れなかった。
しかしリーシアは聞こえたようで俺の事を睨む。
睨む?
そしてミルさんの食事が食べ終わる頃、ミルさんは俺たちに言った。
「本当に破龍を倒しに行くのですか?」
俺は答える。
「そのつもりだよ」
「危険です。
破龍は厄災。数多くの大地を更地として、数多の人を葬った龍なんですよ」
「やるしかないんだ。実はな」
俺は母親とルミアのことを話す。
「そんな……私の生まれ育った国は、とことん汚れているんですね。
庶民の私には皆様の事情など知るよしもなかったですから……
最低」
「だからまぁ、やるしかない。
生きて帰れるかは本当に分からないが」
「どうか、倒せずとも誰一人欠けず帰ってきてください」
「そうする」
次の日、ティアナの新しい服を見に行った。
ニーナはにっこりと笑いながらあいさつよりも先にティアナを連れていく。
そして数分待たされた後、イナと時と同じようにじゃじゃーんと手をひらひらさせ見せびらかしてくる。
「じゃーん! どうよ!
あえてスカートではなくズボン! ズボンが短いながらも華奢な足をすっと見せ、さらに黒い靴下を履かせることによってこの肌が見えてる部分を少しえっちに!
フードで耳を隠してしまうのならば耳をつければいいじゃない!
そう猫耳フードにして見ました!
冒険者として動きやすいように肘に布があたらないよう袖を短く!
前を紐で結ぶことによってちらりと映る柔肌にそこの君も胸キュン!」
「熱すぎる説明ありがとう」
「いいからっ! どうよ? ん?」
ニーナは感想を求めてくる。それはティアナも同じようでうるっとした目で見つめてくる。
「かわいい。かわいいよ」
肌の露出は以前の方が多いはずなのに目のやり場に困る。
ニーナはそんな俺を見てからかいたくなったらしく……
「ほっほぅ? 見とれちゃって、いや? これは照れてるのかなぁ?
かわいすぎて直視出来ないなんてうぶだねぇ」
俺はここ一番の瞬発力で外に出ようとしたが、さすがは元冒険者。
体幹をフルに活かして俺を押さえつけてくる。
そんなお約束を済ませた後、他の服のほつれや修繕も済んでいたようでそれぞれ服を受け取る。
褒められたのがうれしかったのかティアナはずっとにこにこしていた。
かわいいやつ。と思っているとニーナが俺に言った。
「ドラゴン退治の件?」
「知ってたのか」
「こっちにも来たからね。
引退してるってーのにさ。結構な大人数になるっぽいよ。
祭りの後だけど……
祭りの後って言うのはやっぱり、最後にいい思いしておけってことなのかな」
「行くのか?」
「まさか。トラウマ必須。
彼も行かないし。
行くなんて自殺行為。でもいつかはまた封印、もしくは倒さなきゃいけない。
勇者が誕生してから勇者に頼むのが一番手っ取り早くて確実なのにさ」
「行動してくれるとは限らないだろ」
「ま、そうだね。
それに、魔王に勝てるかどうかだってまだ分からない。
ずっと勝ってきたみたいだけど次も勝てるとは限らないし」
「そうだな……」
「ま、いいや。
絶対危ないからやめた方がいいよって忠告だけど、行くんでしょ?」
「行くしかないからな。
一応説明だけしとくとだな」
説明が終わるとため息をついてまぁがんばんなさいよ、と言われた。
その後、遠い目をしながらニーナは言った。
「この国にも飽き飽きしてきたなぁ」
「飽き飽き、か」
「イナちゃんの件からずっと思ってたよ。
でも両親の残した店を残して他の国に行くわけには行かない。
彼もいるし。
あんたはさっさと家族助け出してこんな国とはもう関わらないようにした方がいいよ」
「出来ることならな。
そっちもうまくいくといいな」
「う、うっさいな!
余計なお世話! ほら、終わったならさっさと行った行った!」
ぐいぐいっと押され店を出る。
破龍に挑むまでは穏やかな時間が続くことだろう。
だが平和ボケするわけにもいかない。
俺たちは一度国の外に出て、それぞれ出来ることを確認していた。
「俺は魔王状態が使えないから回数は制限されるが魔素の充満、そして影による補填での強化、詠唱を伴う最上位魔法。
リーシアは?」
「私? 今はエノアが知ってる通り魔力の剣と最上位魔法。それと魔力の剣を消滅させてその魔力で放つ最上位魔法。
当然得意の剣での戦闘も忘れてもらっちゃ困るわ。
後、まだ練習中だけど戦いながらの詠唱。
すぐ頭パンパンになっちゃって行動が単調になるからそこがネック。
まだ使えこなせてない」
「充分すぎるほどの能力だよ。
イナはみんなが知ってる通り、と言いたいとこだが一つだけ能力が増えた。
奥の手みたいなものなんだが確定で発動させる方法もなければ使わないほうがいいと念を押されたスキルがある。
使わないにこしたことはないだろうな」
「がんばりますっ!」
イナは胸の前で両手をぐーにして言った。
カンナは以前と変わらず変化はないようだ。
その事についてカンナから提案がある。
「今回の、さ。
ドラゴン退治、すごく危ないみたいじゃん。
私、戦力になれないから残った方がいいかな」
「俺は……任せるよ。
ただついてきたとしても絶対に守る。それだけは約束する」
「考えとくって形でもいい?」
「いいぞ」
そしてリィファは補助魔法を中心として戦うと言った。
ティアナは現状神の刻印の力は失われている。
故に出来ることと言えば魔力で生成された矢を射ることくらいだ。
ティアナは目をそらしながら言う。
「やっぱり、私も……残った方がいいかな。
あの力がないと不安。
魔界の時だって力になれなかったし」
「俺はカンナに言ったことと同じことを言うぞ」
「じゃあ、カンナと同じこと言うね。
少し、考えさせて。私だけの問題じゃないと思うんだ」
「分かった」
各々が不安を残しつつも祭りの前夜祭が始まる。
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喜びます。