おかえりなさい
地面に落ちた枯れ葉を踏み、ぱりっと音がする。
土の匂いが広がる林の中を歩く。
俺はまだ当分は続くだろう道のりを想像しながら呟いた。
「元々一度は戻るつもりだったが、気が向かないな」
カンナが俺の横を歩く。
「足取りが重くなるのは仕方ないじゃん。
だって……」
カンナは黙ってしまう。
俺はカンナに言った。
「まぁ、いい思い出はあまりないがないわけじゃない。
母さんとルミアを助け出さなきゃな」
「その意気だがんばれっ」
にこっと笑い背中を強く叩かれる。
上空を黒いカラスが飛んでいる。
カンナはそれを見て俺に聞いた。
「あのカラスって確か襲ってきた人たちの使い魔、なんだよね。
大丈夫なの?」
「心配ない。
魔族の二人のことは信用して構わない。
各々言いたいことは再会してからで頼む。
そうだな……
どうせ国に戻るにはまだ長い道のりだ。向こうであったことを話しておくよ」
それからも歩き続け、あの川にやってきた。
今回はそのような襲われるような事件もなく、汗を洗い流して野宿をする。
焚き火にあたっているとふとリィファの不安そうな顔が見えた。
だから俺はリィファに声をかける。
「どうした?
やっぱり怖いか? 俺たちとは少し事情が違うもんな」
「はい……
エノア様たちと一緒に居られるのでしたらそれで構わないのですが、お城に戻されるのだとしたら」
「俺が食い止めるよ。
て言っても俺の力には限度があるけどな」
「そのお言葉だけで構いません。
もう充分なくらい楽しい時間を過ごさせていただきました。
本当に……」
「外に出れないって言ってたもんな」
「はい。
お兄様は実力もあり、結構自由にされてました。
わたくしは、お兄様がいたから頑張らなくてよかったのです。
言い方を変えればなんの期待もされていない。が正しいでしょうか。
お兄様はお兄様で大変なことは分かっているのですが……
わたくしは自由を与えられなかったことが、少し不満です。
でもこの旅はわたくしにとって自由そのものでしたわ。
楽しかったんです」
「カリム自身が背負ってることは分かってる。
同じだからな。結果は違ったが。
リィファ、もっと求めていいんだ。
自分がしたいように、な?」
「がんばってみますわ。
結局の所、行ってみないと分からないですから」
その日はそのまま焚き火の近くで暖をとりながら目を閉じる。
そしてついにこの国の入り口に立つ。
使いが門の前に訪れ要件を俺たちに伝える。
その後どこに行かされるでもなく国の中で待機と言われた。
リィファは胸をなでおろす。
そしてギルドの宿に向かう途中住民に見られる。
カンナが言った。
「なーんか嫌な空気。異端って感じ」
俺はカンナに言った。
「この国での俺の評判は最低だからな。
その上でこれだけ人数揃えつつリーシアとリィファを連れてるとなおさらな。
ティアナ、ちゃんとフード被っておけよ」
ティアナはこくっと頷く。
この国では奴隷売買がある。イナの居た奴隷商以外にも奴隷を扱うやつがいるだろう。
それを考えるとティアナはまずい。
できるだけ姿は隠しておいたほうがいい。
と考えてる内にその奴隷商とばったり出会う。
「え、え、っ、エノア様!!」
「よぉ久しぶりだなクズ」
「一言目から随分と辛辣ですね……
あれから最低限の食事は与えるようにしているのですよ」
「ほうそうか。まぁいい。
この国が変わらければ奴隷売買も消えないからな。
少しでも扱いのいい奴隷商であってほしい」
「へい……」
カンナが前に立つ。
「ほぉー……この人がイナちゃんを、いじめてた輩、ねぇ」
じりっと詰め寄るカンナ。
「ひっいやでも、生活が、それに普通のことでして」
「ムチ打つのがぁ?」
「今はしてませんっ! してませんってば!!」
「ま、言っても仕方ないんだけどね」
イナが言った。
「イナは、大丈夫です。ご主人さまと会えたから」
笑顔になるイナ。それをじっと眺めている奴隷商。
俺は疑問に思い奴隷商に聞いた。
「どうした?」
「いえ……なんでもありません」
奴隷商は去っていく。
俺は奴隷商に一声かけた。
「なにかあるなら……言ってくれてもいいぞ」
「っ、なんでも、ありません」
結局奴隷商はその場を去った。
ギルドの受付に入るとミルさんがこちらに気づく。
手に持っていた書類を落とし、同僚にあんたなにやってんの?! と怒られるが全く聞く耳を持たない。
たたたっと駆け寄ってくれる。
そして俺に対して言った。
「おかえりなさい! エノアさん! 待ってましたよっ。
破龍の件ですか?」
「そ。まぁいろいろあってな。
呼ばれたんだ」
「随分増えましたね」
「ああ。俺に着いてきてくれる珍しい仲間だよ」
「そんなことないですよ。
エノアさんは素敵な人です」
「ありがとう。宿取りたいんだけど、この人数大丈夫かな」
「問題ありません! 冒険者登録をしてない方は金額が少し高くなりますが……」
「ああ大丈夫だ。じゃあ手配頼むよ」
「はいっ!」
奥で先程の同僚が叫ぶ。
「先にこっちの仕事済ませなさいよっ! ほったらかしにしないでっ!」
「ご、ごめんなさい!」
その後、以前のローテーション方式で毎日寝る相手が変わることとなった。
その前にみんなで集まってご飯をギルド内の食堂で食べる。
相変わらずの視線だが今は気にしないようにしている。
明日は商人達にあいさつしながら、ティアナの服や、ガディに俺の剣が折れてしまったこと、それぞれの武器のメンテナンスを頼みに行くつもりだと話した。
ティアナが私お金が……と言ったがカラムスタの一件での報酬はかなりのもので、服くらい買えると言った。
「そっかー。服買ってもらえるんだ。楽しみっ!」
うきうきしているようで何よりだ。
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喜びます。