遅いよ……
部屋に入ってきたのはアイリスとリーシアだ。
私はどうしたの? と聞くとリーシアが頭を抱えていった。
「どうしたらいいのか……」
「?」
「今ね、カリムの使いが来たのよ。要件は国王の命令で帰ってこい。
ここまでは分かるんだけど」
「??」
「その理由が処罰だとかそういうのじゃないのよ。
ドラゴン退治するのに人手が必要だから来いって」
「ドラゴン退治?! 無理無理!」
「そうなのよ。破龍と呼ばれる高位のドラゴンが眠る洞窟を襲撃。
退治せよって」
「断ろうよ」
「それがあのくっっっそみたいな国は根が腐りに腐りまくってるからそうもいかないのよ」
「なにかあったの?」
「条件に”罪人エノアの母、リミル・ルーヴェスト、侍女ルミアの処刑を撤回する”
いつの間にかエノアのお母さんとルミアが処刑されることになってる上にこれよ……」
「っっ! それは……行くしかないけど」
「でもこの条件というか要件は私じゃなくてエノアにあてられたものでね。
事情を話しても知らないの一点張り。
エノアじゃないと取り合ってくれないのよ」
「期限とかは」
「それは追々だって。まだ向こうも人数が集まってないみたい」
「罠じゃないの? エノア死刑宣告されてたよね」
「この間は不問だってさ。成果に応じてエノア自身の罪も撤回するって。
ほんと都合のいい……はぁ」
私達は頭を抱えた。
アイリスがどうにかうちで匿えないかと聞いてきた。
リーシアは言った。
「エノアのお母さんとルミアを連れ去るなんてそう簡単じゃないわよ。
特に条件として組み込まれてるってことは厳重に管理してるでしょうし」
また沈黙。
そしてコツッ、コツッと音がして音のなる方を見ると窓の外になにかがいる。
私はその鳥に見覚えがあった。
「カラス? なんでここに?」
リーシアはカラスを見ながら言った。
「カラスって言うの? この黒い鳥。
魔獣?」
がちゃっと部屋の扉が勝手に開けられる。
「魔獣みたいなものかな」
リーシアが声を出そうとしているが全く声が出ていない。
口を開け締めして泣いている。
そして私も両手で口を塞いで泣きながら声の主を見た。
そして私は安心感に包まれながらこういった。
「遅いよ、待たせすぎ」
「ごめんカンナ」
その後リーシアはエノアに駆け寄り、抱きついた後にキスをした。
エノアは驚くものの静かにそれを受け入れていた。
ずきっと胸が痛くなる。敵わないんじゃないかって。
どうやらアイリスやリィファも同じ気持ちらしい。
表情を見ていてそう思った。モテモテでちょっとイラつく。
キスを終え、アイリスに詰め寄られリーシアとの関係がどうなったのかの説明。
そして先の件であるドラゴン退治について私はエノアに話した。
エノアは動揺していた。
「それはっ……あの糞国王……
受けるしかない。その上で救出する。
強くなる目的がある今はドラゴン退治は好都合だ。
ただ魔王の力は使えない」
アイリスが反応した。
「ま、おう?」
エノアはびくっと体を跳ね上げ恐る恐るアイリスに言った。
「実は」
そして説明が終わった後、アイリスは一呼吸ついた。
「ふー……
そうですか。いきなりのお話で驚きましたけど、そう、ですか。
ではやはりあの時すべてを救ってくださった英雄はエノア様だったのですね」
「怖くないのか? 魔王だぞ」
「恐れているように見えますか?
ただ受け入れます」
そう言ってエノアを抱きしめる。
「一番つらかったのは、エノア様でしょう?」
そのやさしい言葉にエノアの目に涙が浮かぶ。
「どう、かな」
「まさか勇者の看板ではなく魔王の看板を下げて帰ってくるとは思いませんでしたよ?」
「ははっ……」
「お返事は?」
「ん?」
「二人が恋仲なのは理解してます。
ですがちゃんとお返事を聞いておりません。
私を、愛してくれますか?」
ずっとリードを保っているように見えるアイリスだけど声が少し震えて手も震えている。
ああ、本当に好きなんだなー……
私も、エノアが……
エノアはリーシアを見た。
リーシアは微笑んだ。
エノアは口を開く。
だが声は出さなかった。
それを見てアイリスは悲しい目をして微笑んだ。
「そう、ですか」
離れようとした時、エノアは自分の方に強く抱きしめた。
そして涙を流すアイリスに口づけをする。
お互いの口が離れるとエノアは言った。
「どう言おうかわかんなくなって、これが返事じゃだめか?」
「百点満点ですっ」
うれしそうな顔をしていた。
いいなぁ……
ずきっずきっとどんどん胸が痛くなっていく。
そしてアイリスは正妻ポジションがリーシアであることを知ると奪還宣言をした。
それに対しリーシアはアイリスに言った。
「まちなさいよ! 元々アイリスは正妻ポジションについてないでしょっ!」
「私が最初ですー! 胸という武器を使って奪い返します!」
「なっ、ずっずるいわよ! そんなの私だって」
しゅん……自分の胸を見ながら落ち込むリーシア。
リィファはリーシアの肩に手をおいた。
「武器というのはそれだけではないですわ」
「一番大きい人に言われたくないっっ!」
「うっ。わたくしだって好きでこの大きさになったわけでは」
私はこころにもやもやを残しながらエノアが帰ってきたことを喜んだ。
そしてティアナにこの国を見て回ってもらいながら数日が経つ。
カリムの使いがやってくる。
期限を伝えられ、私達はまたエノアの育った国に行くことになった。
向こうについてからも期限まではゆっくりしていいらしい。
ただエノアの母と侍女には会えないとのこと。
準備を整え私達はアイリスにお別れを言っていた。
アイリスは言った。
「またお別れですか。
やっと恋仲になれましたのに、寂しいです」
「ドラゴン退治が終わったらまた来るよ。
出来れば母さん達を連れてきたい。ただ母さんはもう……長くない」
「その時は責任を持って面倒を見させていただきます。
丁重に対応いたしますのでご安心ください」
「ああ。頼むよ。
俺にとっては本当に大事なたった一人の母さんなんだ。
転生前の両親とは疎遠だったしな」
「はい。詳しい話も後ほど。
また会えた時はもう一度強く抱きしめてくださいね」
「っっ! わ、わかったよ」
照れながらエノアは言った。むぅ……
アイリスは手を振った。
「お元気で」
「アイリスもな」
それぞれが挨拶を交わす。ティアナもお礼を言った後、ばいばーいと手をふる。
そして私達はカラムスタ王国を出た。
ドラゴン退治。私は不安を抑えながらもみんなについて行った。
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