怒りと後悔
「王の命令だ。
カリム王子のものじゃない」
国王の命令。それはこの国において従わなければならない。
リーシアがカリムのパーティーに? そうなればリーシアとパーティーを組むことはもう。もしかしたら会うことすら叶わなくなるかも知れない。
そうか、そういうことか。もうパーティーを組んで魔王討伐の準備をするということは、
俺に学園の通学許可が下りたのは、いや今まで下りなかったのはカリムのせいか。
もう学園に残らないカリムは俺が学園にいようがいまいが関係ない。
なぜならリーシアも連れて行くからだ。
そういうことかカリム。
今まで俺の入学許可を取らせないようにし、王による命令でリーシアを自分のパーティーに入れることが決まった。
だから俺を学園に入れた。
「断るわ! どうしても強制って言うなら貴族の名を捨てるわ」
「そんなこと許されると思うか?
お前の人生はお前の自由じゃないんだよ」
「知らないわそんなこと。
あなた達が勝手に決めた勇者のパーティーになんて入るもんですか。
私はわたしの信じた勇者についていく」
「あの凡人にか?
なんの結果も出してないじゃないか。
結果は説得力だ。
あいつは凡人の証明をしたんだよ」
「これからするわ。
確実に、エノアがあのぼんくら王子より強いんだってね」
「話が平行線だな。
ロスト」
リーシアの体から力が抜け、ぺたんと床に女の子座りをした。
「あ、あんた今魔法使ったわね。
この学園の中で」
「ああ。ただし俺は許可をもらっている。
国王のな。
お前が反発することは想定済みと言うことだ。
多少荒くてもいい。言うことをきかせろだとよ。
王子には悪いが一度お前を味わってみたいと思ってたんだ」
「なに、言って……あたしだって魔法使ってやるわ!」
リーシアは身体能力向上の魔法を自分にかけたが。
「無駄だ。今この空間は神の領域内に指定されている。
この国の、王のもつ権限であり最高戦力だ。
この領域内において魔法及びスキルを使うことは許されない。
国王の許可を持たないものはな。
これは国王の指輪の一つだ。これを身に着けていればこの領域内でも自由にできる」
リーシアは力を振り絞って後ろに下がった。塔の外に出ようとしているのだろう。
「無駄だ。間に合わない。そして俺がそれを見逃さない」
鶏冠はリーシアを押さえつけた。
「お前のその生意気な態度とプライドをずたずたにへし折ってやるよ。
お前の体が汚れればきっとエノアは見向きしなくなるぜ。
そうすれば意地を張る必要もない。弱々しくなったお前を想像すると胸が踊るなぁ……」
「っ来ないで! いや! 助けてエノア!!」
「こねーよ。来たところで勝ち目はない。何も出来ない。目の前で好きな女が犯されていくのを見ることしかできない。
国王はここまで想定していないだろうが構わないだろ。
俺に任せたのが悪い。
叫んだって無駄だ。ここには誰も居ない。
そしてエノア。あいつにはこの国を相手にする覚悟なんてねぇよ!」
「いやぁぁぁぁぁ」
「あるさ」
鶏冠が伸ばした手を俺は掴んでいた。
鶏冠は呆れて言った。
「お前は頭の中まで凡人なんだな
ロスト」
体から力が抜け俺の頭は力なく床にぶつかった。
「エノア!
なにも考えず助けてって言っちゃった……
違う、私が助けるって言ったのに、怖くて、エノアに頼りたくて、私……
最低よ……」
鶏冠は俺の頭を踏んだ。
「お前は勇者じゃない」
リーシアは鶏冠を睨みつけた。
鶏冠はあてつけのように俺の頭をグリグリと踏み続ける。
「自分の女が汚されていくのを見てるんだな。
リーシアはいい女だ。もうしたのか? してないんだろうな。
もったいねぇ。
安心しろよ。派手にぶっ壊してやるからよ。
自分の運命を呪うんだな
凡人だった自分の人生をな!」
「黙れ」
俺の声とともに魔素が塔の中で満ちる。
鶏冠はその魔素量を見ながら腰を抜かした。
「な、なんだこれは……
そもそもここは神の領域内だぞ! どんなスキル、魔法も使うことは」
「自分の運命を呪う? ふざけるな。
リーシアに出会えたことが今までの、前世の人生も含めて一番幸せだったんだよ!
リーシアは俺を見捨てない。俺が石を投げられても俺を守る。
どんな言葉からも守ってくれる。隣に居てくれる。
たとえ誰が相手だろうと歯向かってくれる。
なにかを代償としてじゃなく自分の意思で俺の隣に居てくれるんだよ。
そんなかけがえのない存在に出会えたことをどうやって呪えってんだ!」
俺は立ち上がった。
鶏冠は後ろに一歩さがり叫んだ。
「国王の権限にて命ずる。
ガーディアン複数体召喚、目の前の男を取り押さえろ!」
俺はただ一言。
「うせろ」
その言葉を発した瞬間魔素が消費された。
塔が大きく揺れ足場がおぼつかない。
「な、なんだなんなんだ!
お前はただの凡人のはずだろ?!
こんな、どんなってんだよぉぉぉぉ!」
塔が崩れ始めた。
俺は力の代償か体力を大きく消耗し意識を失った。
ガーディアンは足場を失くし塔の瓦礫の中に。
俺は神の領域の効果がなくなり自由に動けるリーシアに助けられたが……
目を覚ますとまだ塔の瓦礫の中だった。
「リーシア?」
リーシアは俺に覆いかぶさる形だった。
俺を守っていたのだ。
「リーシア? リーシア?!」
俺は何度もリーシアの名前を呼んだ。
「あ、目を覚ましたんだねエノア。
あははごめん。せっかく助けてくれたのに詠唱する時間がなくって……
急いだんだけど外には間に合わなくて一番安全そうなところに飛び込んだんだ」
ぽたっぽたっとリーシアの頭から血が滴る。
……傷つけた。また、なんでいつもこうなるんだ。
「ちょっとだけ寝かせて……」
リーシアは体勢を崩し俺の上にのった。
寝息が耳元で聞こえた。
俺はリーシアを起こさないように声を殺して泣いた。
あの後俺たちは事態を察知した学園長と先生達によって助け出された。
鶏冠は記憶が曖昧だったそうだ。
俺は多少の打撲。リーシアはいくつかの傷を負ったものの魔法ですぐに完治できるものだった。
安心と同時に俺は怒りに任せて力を使ったことを後悔した。
何度後悔したことだろう。
リーシアを傷つけないためにスキルを使ったのに。
"システム リビア"
このスキルは鑑定の日。あの雨の中で発動した。
リビアによるとスキル秘密主義が発動。そのせいで全ての鑑定を弾いた。
そして勇者候補と証明するための大精霊は近寄らなかったとのこと。
それはつまり大精霊が俺を嫌っていたということだろう。
リビアはいろんな事を教えてくれた。
とにかく万能で便利なスキルだった。
心の中で電子辞書と呼ぶくらいだ。否定されたが。
あの日俺はリビアに言った。
俺には何ができるんだと。
"言葉による世界への干渉"
それは言葉一つでなにかに影響を及ぼすことができるという力だった。
代償はもちろんある。今回のように体力の消耗、規模の不確定さ。
この世界への干渉を可能とするスキルはリビアがもつスキルの一つだという。
この力を制御できれば勇者として名乗りあげることができると思った。
俺はそのために学園に入った。
そして今回の第二塔での事件。俺にはこれしか力がなかった。こうするしかなかった。
あのまま放っておけばリーシアは……
「言い訳だ」
俺はリーシアを危険な目に合わせた。もしかしたら命を危ぶめていたかも知れない。
俺は国王に呼ばれる一週間後まで、そうやって後悔しながら過ごした。
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