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残された私達

「カンナ様、以前教えていただいた合わせ調味料の漬け込み料理、本日試させていただいております」


 私はカラムスタ王国にいた。以前エノアやアイリス達とパンドラキューブの悪用を止めた後に食事をしていた場所で窓から外を眺めていた。


 襲われてエノア、イナちゃん、ティアナがいなくなってから私達はカラムスタ王国で面倒を見てもらっていた。あの日からここの食事処には用がなくともよく来ていた。


 自分にあてられた部屋に居たくないからだ。

 そのせいかここの侍女と仲良くなってた。あの惨事を生き残った侍女達。

 私はそんな侍女に言った。


「それは楽しみ。お肉もちゃんと寝かせた?」

「はい。温度管理も問題ありません」


「これは今日の食卓が楽しみになってきた! イナちゃんにも食べてもらいたいんだけどなぁ……ティアナにだって……それに……

 どこにいんのあのバカ……」


 私はすぐにしんみりとしてしまい侍女に気を使わせてしまった。

 失礼しますと侍女はいなくなる。去り際きっと大丈夫ですよと言われる。


「うん……」


 あの時、目を覚ました私はなにか結界のようなものに守られているのに気づいた。

 これはエノアではないと感じた私はあの魔族は敵ではないんじゃないかと考察してた。

 だからエノアはきっと生きてる。私達は無傷になっていたしきっと大丈夫だって。

 でも帰ってくる保証はまったくなかった。


 その結界に触れようと思った時、そのまま結界が割れてしまった。

 それから少しした後、リィファが目を覚ました。

 状況を整理するなかリーシアが起きていたことに私は気づいた。


 起きてたならいってよー! と私は言ったけど返事はなかった。

 まるでもの言わぬ人形のようになったリーシアを連れて私とリィファはカラムスタ王国に戻った。


 安全な場所に行ってから考えようという話になった。

 戻ると驚いたガルスさんに連れられてお城に行く。

 お城の修復も結構進んでいた。


 アイリスが出迎えた際に随分と早い再会ですね。

 とリーシアに振ったがリーシアは答えなかった。

 それを見てアイリスは少しゆっくりしていってと言った。

 あれから数日ここでお世話をしてもらう毎日だ。アイリスとリィファは同じ王族だからかよく一緒にいる。



 私は窓の外の景色を見るのをやめて自分の部屋に戻る。

 そしてドアを開けて入ると部屋に戻る前にもらってきたサンドイッチをリーシアの横にある台に置いた。


 ……リーシアはずっとふさぎ込んでいた。

 体育座りをして、毛布に包まって、時折泣いて。


「あー私のライバルらしくないなー」

 そんな皮肉を言ってみた。


「うぬぼれてた」

 返事が帰ってくる。


 

「だから?」

 と私はリーシアに言った。

「私は弱かったんだって。すごい努力してたのに」



「だから?」


「……」



 泣き声が漏れてくる。リーシアの気持ちはすごくわかる。

 そもそも私だって不安で仕方ない。このままエノア達が帰ってこなかったら?


「だからふさぎ込んでメソメソしてますって?

 立ち上がればいいじゃん。

 私には強くなるっていう選択肢はないけどリーシアには」


「私とエノアの人生ほとんど知らないくせにっ!!」


「なっ! それは関係ないでしょ?! それを言ったら私の……」


 私は口をつぐんだ。どっちにしたって他人の人生だ。

 それがなんだ。言ったって意味なんかない。


 リーシアはさらに体を縮めて言った。


「私には……

 エノアがいないと、だめなのよ……

 どこ? エノア」


「はぁ……だめだこりゃ。全く……怒る気も失せるわー。

 そんなに泣かれちゃさ。どんな声も届きそうにないもん」



 リィファとアイリスが部屋を訪ねてきた。

 リィファが私に言った。


「どうですの? リーシアのご様子は」

「だめっ。ぜーんぜんっだめ!

 ご覧の有様。まだ落ち込みっぱなし」


「……」

「ねぇ。なんでリーシアはこんなにもエノアに……」


「依存。してるのですわ。

 わたくしはずっとリーシアの話を聞いてきましたから、どんな深い関係があるのかまでは知りませんがお互いに依存しすぎてるのだと、わたくしは思いますわ。


 むしろそうでないと生きていけなかったのかもしれません。

 味方のいなかったリーシア、過去の記憶を引きずるエノア様。

 二人は互いが互いに引き合い、引き寄せ合わなくてはならない二人となってしまった。

 そう、思うのですわ」



「はぁ……あーもうっ!

 いいかげんにしなさいよっ!」


 私はリーシアが包まっている布団を引き剥がした。

 泣き続けた真っ赤な目が私を見る。

挿絵(By みてみん)

「っ! な」

 リーシアがなにかを言おうとしてたけどそれを遮って私は先にリーシアにこう言った。


「そんなんでエノアが戻ってきたらどうすんの?

 弱いと思ったんなら強くなってエノアを迎えなきゃいけないんじゃないの?

 私にはそれすら出来ないって言ってるでしょ!


 なにも出来ないまま私はっ、みんながやられてるのを見てるしかなかったんだよ。

 強くなれるくせにいじけてんなっ!!


 リーシアは今立ち止まっていい時じゃないでしょ!

 そんなのはエノアが帰ってからにしてよ!」



「だっ……

 て、エノアが帰ってくるかなんて……

 生きてるかどうかすら本当は」

「信じないの?」


「信じてる! そんなこと考えたくないだけ、だけど」

「強いくせに……」


 私は溢れてくる涙を堪えながら続けた。



「羨ましいよ。強くて、エノアとずっと一緒にいて。

 立場が逆だったらって。

 そしたら私を振り向いてくれるかもって。

 私のっ……

 私の持ってないもの持ってるくせにそんなことで悩むなっ! ばかっっ!!」


 ばたん……

 私はこらえきれなかった涙を拭きながら部屋を出て勢いよく扉を閉めた。

 扉の前でずるずると腰を下ろしリーシアのようにうずくまった。


 扉の向こうから話し声が聞こえる。


「逆、そんなの……やめたほうがいいよ。

 でもカンナの言った通り、エノアと会えた。

 それが良かった。でも……私の人生は」

「リーシア」


 リィファの声だ。


「わたくしもリーシアが羨ましいと感じますわ。

 苦労も知っています。その上でわたくしは羨ましいと言いますわ。

 お城の外に出れず、いつも楽しそうにエノア様の話をするリーシアをずっといいなって嘆いていたのですよ?

 楽しかったのでそれはそれでいいのですけどね。ふふ」

「ごめん」


「謝る必要はありませんわ。

 謝るべきはわたくしではなくカンナさんだと思います。

 ずっと心配して様子を見てくれていたんですよ。

 そのサンドイッチもカンナさんが持ってきてくれたんでしょう?」

「……」


「なにかに当たりたくなる気持ちはわかります。

 でもそれはリーシア自身のことであってカンナさんに当てることではなかったはずですよ?

 カンナさんだって言い過ぎたと反省してるかも知れませんよ?」


「私、謝ってくる。ずっと苦しくて、八つ当たりしちゃった。

 全部私が悪いってほんとは……分かってる。

 だからっ――だから謝ってくる!」


 どどどっと勢いよく足音が響く。

 私はこの後の出来事を予測しこれはまずいと悟る。


「ちょっまっリーシアっ!」


 避けなければと移動したのが間違いだった。

 ごつっと脳天に衝撃が走り、目をつぶっているのに白い景色が一瞬映る。


「いっっっったぁぁぁぁぁ!!」

「ちょっカンナ?! そこにいたの?!」


 後頭部を強打し地面を転がる私。

「扉はゆっくり開けなさいよ!!」

「そこにいるなんて思わないじゃない!」


「……」

「……」


 リーシアは私に言った。


「ごめん」

「……いいよ、別に。元気になったんなら」


「カンナの気持ちも考えないで私」

「いいって! もういいの!

 立ち直ったんでしょ? だったらどうすれば強くなれるか考えておいてよね。

 私はもうひとりで魔素の訓練できるし」


「えっいつの間に」

「アイリスとリィファに手伝ってもらってたの。

 これで少しは差が縮まったね!」


「うぬぬ……

 ふふ、あははっ! まだまだよ!」


 私は微笑み返す。

 元気になったリーシアはその後なにやらアイリスと剣を交えながら修行していた。

 私はリィファについてもらって魔法に必要な知識を教えてもらっていた。


 リィファは私に言った。

「変ですわ。ここまでの理解、魔素の感じ取る力、魔力回路の認識。

 充分な力はあるとおもいますのに」

「ごめん、ごめんねぇ」


 私は泣きながらリィファに抱きつく。



「いいんですよ。ただ力になれないのが申し訳なくて」

 コンコンッと部屋をノックする音がする。


「どうぞ」

 と私は言った。

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