余韻
目を覚ますとベッドの上だった。
そのまま起き上がらずにリビアに言った。
先に聞いておきたいことがあるんだリビア。お前は魔王会議でシステムダウンと言ったな。俺の知らない間に何があったんだ。
”おはようございます 説明致しますとあの部屋に入った途端すべてのスキルが使用不可となっていました
干渉することが出来ませんでした”
ならどうやって回復したんだ。
”原因の特定 あの場には何者かによる術式が刻まれていたことを確認”
イナがああなったのは術式を破壊した影響か?
”否定 対処中 イナ によるマスターへの強制干渉が行われました
私はこの干渉に対処することは必要ないと判断し放置
術式の破壊に務めました”
いつ破壊できた?
”マスターの血の契約を補助を行ったときです”
魔力で補ったときのやつか。
血の契約とはなんだ?
”現状は不明 その名の通り一種の契約関係だと思われます
マスターは血の契約 イナのスキルを保有
おそらく対象としてイナにも付加スキルが獲得されたと推測”
まぁ血の契約のことはいいか。
シェフィもしくはゼートに聞こう。ゼートの話にもあったはずだ。
そろそろ起き上がるか。
そして俺は体を起こす。
ベッドの横に椅子が二つ。イナとティアナがその椅子に座りながら寝ていた。
外がまだ若干暗いところを見るとまだ朝早いのだろう。
つまり俺は夕方に気を失ってから十二時間近く寝ていたことになる。
二人は俺を心配してくれる。だからずっと起きていたんだろう。
けど限界が来て寝てしまった。そんなとこかな。
起きていたアビスが奥のベッドでびっくりしている。
俺はそっと口元に人差し指を起き、大きな声は出さないようにと合図を出す。
合図が伝わったのか、ゆっくりと静かに俺の元へと来る。
そして頭を下げ小さな声でご無事でなによりですと言った。
俺は頷きベッドから出る。
極力二人に力が伝わらないようにしてベッドに寝かせる。
そして部屋から出る時横を見るとイビアが寝ていた。
大胆な寝方をしていていろいろ台無しである。
アビスが布団を整える。
宿の外に出てアビスと会話を始める。
「なんとか生きてたよ。
魔王として虚勢を張るってのも難しいな」
「魔王様らしくてよかったですよ。
無茶しすぎだとは思いますが」
「実際死にかけたからな。
まぁフラッドのおかげでイナが新しい力に目覚めたみたいだ。
だがシェフィはその力を使うなって言ってたな……
あれは血の契約っていうスキルらしい。
詳しい奴にあとで話を聞くつもりだ」
「そうでしたか……
彼女の強さは圧巻でした。対処できるものは他にもいたでしょうが魔族とは自分の身が第一の方が多く居ますから……
シェフィさんがいなければフラッドは死んでいたかもしれません。
なにはともあれ大きな争いなどに発展せず良かったです。
勇者が攻めてくるのに魔族同士で喧嘩している場合ではないですからね」
「前魔王の強さはわかるか?」
「突然どうしたのですか?」
「いやなに、一つの指標になると思ってな。
前魔王の強さを超えれば目的にも一歩近づく」
「申し訳ありません。
数百年も前のことですので……
シェフィやリドに聞かれたほうがよろしいかと」
「あいつら普段どこにいるのか、そもそもどうすれば連絡がとれるのかすらわからないんだよな」
頭上でカラスの鳴き声がする。
「カラスか。こっちの世界にもいるんだな。
まぁうさぎみたいにこっちの世界にもいる生き物は多いが……」
「ご存知なんですか?
伝承に伝わる八咫烏というものです。
あなた様が知っているとすると異世界から伝わったものかと思われます。
私自身の使い魔なので伝承とはまた違うのですが……」
「カラスっていう動物が転生前に居たんだよ。八咫烏と見た目にさほど変化はない」
「今回の魔王会議の招集にはそれぞれに私の八咫烏を送っていました。
家を持たないものは探すのに苦労したんですよ。
とくにシェフィとリド。
ですのでもう一度会うには同じように虱潰しに探していかないといけません」
「ゼートのところにいった方がまだ早いかもな……」
「ゼート?」
「ああ。神代に居た魔族だよ。
んー説明が、まぁなんだ。封印されていた魔族がいるんだよ。
その封印を解いたから神代の話なんかを聞ける。そう思ってくれていい」
「神代から生き続けてるのですか?」
「まぁいろいろあってな。
もしゼートの事を聞きたいならリーシアを探す道中で話すよ。
ちょっと長くなるし」
「そうでしたそのことでちょっと。
一度戻られますよね?」
「あ、ああそうだな。
戻って何をするのかっていうのもまた話し合っておきたい」
「以前教えていただいたカラムスタ王国というところを使い魔で探していた所、彼女たちを見つけました。
見張りに別の子を配置してるので再会は難しくないと思います」
「だから今カラスが来たのか。
助かるよ」
「いえ、元々急なお話でしたので」
アビスが頭を下げ膝をつく。
そして真剣な声で俺に言った。
「今回の件。
感謝しています魔王様。
顔合わせを兼ねた命がけの魔王会議に参加して頂いたこと、うれしく思います。
今しがた罰をお与えください」
出会い頭にイビアが襲ってきた時のやつか。
イビアの人間に対する偏見や恨みもある。勝手な自己解釈をしたうえで無くてもいい戦いをしたようなものではあるが……
俺は二人に罰を与える気にはなれなかった。
それに仲間だと俺は言った。それに嘘偽りはないからだ。
どうしたものか……
「保留とする」
「保留……?」
「ま、何でも一つ言うことを聞けみたいなものだな。
本音は罰が何も思いつかないだけだが」
「魔王様の頼みであればこの生命、いえこの体をどうされようと喜んで受け入れます」
「そ、そういう話じゃ」
なに男子高校生みたいなことを言ってるんだ俺は。
だが命令すればという感情が湧き出るのもまた事実。
落ち着け。落ち着くんだ俺。
「とにかく保留は保留だ。
さて、リーシアと合流するわけだが……
アビスたちを連れていくわけにはいかないからな……
どうする?」
「私達は今回の件で各々の魔族にどう対処していくのか、各々が魔王様をどうしたいのか、何を求めているのかを聞いて回るつもりでした。
ですが魔王様が強さという説得力で、と答えたので今は悩んでいます」
「連絡は八咫烏を通せば出来るしな。
ゆっくり考えてくれ。近くに居てくれてもいい。危険じゃなければだけど」
「考慮しておきます」
宿の中から騒がしい声が聞こえてくる。
「ご主人さまがっ! ご主人さまが消えました!」
「あっエノアがいない!」
「おい姉ちゃんもいねぇぞ! 密会か?!」
俺は数秒沈黙したあとアビスを見た。
「戻るか」
「戻りましょうか」
そして俺たちはカラムスタ王国へと向かった。
その道中ゴル達のところに顔を出す。
いくつか木が伐採され、開けた土地に簡単な家がいくつか出来ていた。
ルーカス達とは会えなかったがどうやらうまくやっているらしい。
そこで一夜を過ごした後、境界線を越え、例の移動術式を使って魔界を出た。
リーシア達と別れた場所に着き、そこでアビス達と別れる。
イビアは目をそらしながら俺に言った。
「じゃあな魔王さん。
あの強い剣士に言っといてくれ。
あたしが間違ってた。やつあたりして悪かったなって」
「伝えるだけ伝えておくよ」
アビスはただ微笑みながら八咫烏を差し出す。
「また会うのを心待ちにしております。ここからはこの子に付いて行ってください」
「ありがとう。俺もまた会えるのを楽しみにしてるよ。じゃあなアビス、イビア」
二人に手を振って別れた。
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。