魔王会議
一日の休憩を経て俺たちは元魔王城に足を運んだ。
俺は皆が集まった後、最後に顔を出すために遅れてこの場所に来ていた。
集会場所は地下一階にある大広間。細長い円形のテーブルが地面と密着しておりその外側にはいくつもの椅子が置かれていた。
その椅子に座る者たちはみなそこに座ることを許されているものたちだ。
自分が立ち、相手を座らせる。この行為をするほどの相手がそこに座っているわけだ。
シェフィ、フラッドなど昨日の面々や今日来たであろう初めて見る者たちもいた。
つまりは椅子が足りないほどの人数がここに来ていたのだ。
仮面を外した俺の姿を見たものの反応は様々だ。
だがそんな反応にいちいち対応するつもりはない。
俺は一番奥にある大きめの椅子に向かっていった。
するとフラッドが俺を呼び止める。
「まてよ。そこは人間が座る場所じゃねぇ。
”魔王様”が座る席だ」
「そうか。お前が認める認めないに関わらず魔王は俺だ」
「ぶはっ」
その声と同時に複数人が俺を笑い始める。
実力不足なのにこの態度が気に食わないのだろう。
イナが笑われている俺を見て怒りを顕にしていた。
「ご主人さまを」
俺はイナがなにかを言おうとする前にイナの肩を掴み動きを止める。
イナは自分がしたいことをさせてほしいといった目で見てくる。俺は首を横に振った。
そしてフラッドに対して言った。
「分かった。今の反応で複数人は俺が魔王であることに納得が言っていないようだ。
ならばこの席に座る時は大多数の魔族の賛同を得た時にしよう」
俺は魔王の椅子の前に立つ。
アビスは司会を買って出た。
「それでは魔王会議を開始させていただきます。
まず最初に今回の魔王となりましたエノア様です」
俺は口を開く。
「俺が魔王エノアだ。
今回の魔王会議は俺がどんな魔王か、下についていいものか、今後の魔界をどう動かしていくのかという話だ。
言いたいことがあるなら遠慮なく言ってくれ」
フラッドが机に足を乗せて俺に言った。
「じゃあ人間。俺からだ。名前はフラッド。お前とよろしくしたくねぇ魔族の一人だ。
俺は一国の王なんだよ。
民がいる。人間との戦争に明け暮れてんだよ。
てめぇみてぇな雑魚に自分の民を任せられねぇ。
終わったんだよ俺たちは。なぁロッグ」
ローブで顔を隠した魔族がそれに答える。
「お前の国がどうなるかなど興味はない。
私自身はただ自分のしたいことをするだけだ。
人間かどうかは問題ではない」
「はっ。さすが元人間の大魔法使いさんは違うぜ。
だが人間であることは問題ではないが弱いことには問題があるんだな」
ロッグと呼ばれた魔族はそうだと答えた。
それらを遮るようにシェフィが言った。
「私は彼が好きだから魔王で構わないわ。
どんなに強くあろうと鮮明であろうとと負けてきたのが魔王、いえ魔族というものよ。
ならどの程度の強さが必要なのかしら。
ここにいる全員を圧倒できるほどの強さかしら?」
フラッドはシェフィに言った。
「諦めることが習慣になった原初は言うことが違うな。
そうだ。強くないから負けるんだ」
「言うじゃない。あなただって人間に負け続けた一国の王でしょ?」
「やるか原初」
「あら……本気?」
突然歪の原初が叫ぶ。
「私は賛成です!
なぜなら人間の魔王などグロウ以来ではありませんかっ!
彼は良かった。勇ましく、傷つき、歪みながらも魔王であろうとした彼はっっ!
素晴らしかった……」
フラッドは言う。
「それはグロウだからだろ」
「ああ、そうですねぇ」
もうちょっと粘ってほしかったのだが……
ロッグは騒いでたもの達に言った。
「静かにせぇ。お前達が騒ごうと何も変わらない」
アビスが俺に話をするように振る。
俺は頷いた。
「俺は魔王だ。
その事実は揺らがない。
お前らの一番聞きたい所はここだろ?
俺が魔王として何を成すのか」
そして俺は言った。
「自分の仲間を守る。それだけだ」
一瞬冷たい空気が流れた後、怒号が発生する。
フラッドは机を叩き壊した。
混戦状態。収めようとするもの、俺を殺そうとするもの。
俺は笑った。
「あはは! ここには低能しかいねぇのか。
魔王を倒すものはなんだ。答えてみろフラッド」
「勇者だ。それがどうした」
「なら魔王となった俺を殺しにくるのは誰だ? 勇者だよ。
俺が死ねば魔王の仲間も殺されるだろう。
だったら俺は勇者を撃退する。それでも歯向かってくるなら殺す。
遠回しだが俺は勇者を殺すと言ったんだよ。
魔族と人間との戦いになるのは明白だ。
なら仲間を守るために魔族をほったらかしにすることも出来ない。
魔族には強くあってもらわなきゃならないんだよ。
それに俺が死ねば魔界は蹂躙されるだろ?
それをさせない。そういう話なんだよ。俺一人の話じゃない。
いいか魔族共。お前らの勝手な先入観で俺の仲間が人間だけだと思うなよ。
アビスとイビアも俺の仲間なんだ。その為に全力を尽くす。
それにな。俺は魔王だ。
たった一つの目的だけで済むわけがない。
魔族と人間の秩序をもたらす。
魔族が人間を不当に扱うのも人間が魔族を不当に扱うのもなしだ。
わりぃな。お前らは気に食わないだろうが約束があるんだよ。
助けてほしいものが助けられる世界を作るってな。
人間や魔族の垣根なんざ俺が壊してやるよ」
我ながら大見得を言い切った。
舐められたら終わりだからな。魔王としての貫禄を作り出したかったが……
どうやらこの貪欲さが良かったようだ。
笑うもの、称賛するもの、賛同するもの。
単純におもしろかったのだろう。なにせそんなことは出来ないんだから。
フラッドは毛を逆立たせ魔力を放出する。
血走った目でこう言った。
「人間も助ける? ふざけるな。
俺の目的は魔族の救済だ。人間じゃねぇ。
大口叩いて絵空事ほざいてんじゃねぇぞくそがっっ!」
明らかな殺意を持ってフラッドは俺の前に立つ。
イビアが急いで俺の前にでる。
しかしイビアが踏んだのは地面ではなかった。
イビアは天井に足がついていた。
「リドっ! てめぇ!!」
「ときにはこういうのも必要なのですよ」
俺は魔王の剣にふれる前に腹部へ大きな穴を作られる。
早すぎる。後方にあった魔王の椅子はフラッドの攻撃で粉々に砕ける。
俺を攻撃した余波で砕けたのだ。
フラッドは言った。
「天下とりてぇなら強さっつー説得力をもってこい。
来世でがんばってくれや人間」
「かはっ……」
体の一部がなくなり視界が薄れ、俺は魔王の椅子だった破片の山に座る。
「はぁーっはぁーっ……」
周りのものはただそれを見ていた。
大きく空いた腹部から大量の血液が流れ出る。
アビスは急いで俺の傷を修復しようと試みる。
「大丈夫です大丈夫ですから」
泣きながら魔力を枯らすように治療を施していた。
フラッドは言った。
「無駄だ。俺の毒が回ってる。時期にそいつは死ぬ」
ティアナが駆け寄る。
「いやっいやいや!
死なないでエノア! せっかく私を連れ出してくれたのにっ!
ここで死んだらみんなとの約束はどうなるの?
強くなるんでしょ? ねぇ! 気をしっかりと持ってよ!!」
イナは俺の横でぺたんと女の子座りをして俺を見ていた。
ああ泣いてるのか。ごめん。
失敗した。フラッドの人間への憎しみは思った以上に強すぎた。
ごめん、イナ。
イナ? ああ、声が、出てないのか。
イナ……
「ごしゅ、じん、さま……
ご主人さま、ご主人さま」
ぶつぶつと俺を呼びながら俺の体をゆさゆさと揺らす。
ごめ、んな。
「許さない、いやだ。よくも、ご主人さまを。
許さない、許さない許さない」
歯を食いしばり涙を流す。
今回死ぬ時は、泣いてくれる人がいてくれた。
悪くはないかもしれない。結局未練だらけだったけど。
俺は振り絞って声を出す。肺はまだ動かせるみたいだ。
大声を上げるように声を出すが絞りカスのような小さい声しか出ない。
「い、な……」
もう一度頭を撫でたい。
手を乗せる。
だんだんと視界が暗くなってきた。
「だ……いすき、だぞ。
ごめ、んな」
イナの瞳孔が小さくなりより一層涙があふれる。
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