原初
次の日、街を抜け元魔王城へと俺たちは歩いていた。
アビスは歩きながら俺に言った。
「本日は視察のみです。
元魔王城ではすでに到着されてる方々もいると思いますが簡単な挨拶のみでお願いします。それから明日一日は予定がなくその次の日に集まった者たちで魔王会議を開始いたします。
元魔王城ですがこれは先代魔王の使っていた城になります。
その他の魔王城は廃墟となっいていたりそもそも跡形もなく、という状態です。
おそらく終焉魔法などの大規模な戦いになっていたでしょうから……」
ティアナはアビスに聞いた。
「なんで先代魔王の城は残ってるの?」
「聞いた話で申し訳ないんですがここを戦場としなかったようなのです。
この町並みを壊したくないとのことから別の場所で勇者との戦いを行った。なので魔王城が残ったという話みたいですよ」
「いい魔王様だったんだね」
「ええ。そんな魔王様も勇者との戦いに負けてしまいましたが……」
「くやしかっただろうね」
「戦いとはそういうものだと思いますよ。きっと私達もそうなるのかもしれません。
でも魔王様には死んでほしくない。そう思ってしまうのです」
俺はアビスに言った。
「俺は死ぬつもりはない。きっと他の魔王も同じだったろうがそう言わせてもらう」
「信じていますよ」
だんだんと近づいてくる元魔王城はアイリスの城より断然大きいものだった。
そもそも入り口自体の大きさが桁違いだった。
さすがに今のゼートは入ることが出来ないが話を聞いた限り、終焉魔法をかけられる前のゼートなら入れたんじゃないかというほどの入口の大きさ。
「驚いたな。遠くにあったのに随分大きく見えたから予想はしていたがなんだこの大きさ」
アビスが中へと入っていく。
「魔物や魔族は人と違い大きさもそれぞれですからね。
違いがありすぎることが魔族や魔物の中では普通なんです。
ですからこの大きさになるのだと思います」
中に入ると燭台に火が灯っていく。
火がつく前は日が当たらず、真っ暗で何も見えなかったが火が灯ると中の構造がうっすらと見えてくる。
奥へ奥へと順々に灯っていく。
それでも最低限の明るさでしかなく、全貌を見渡す程ではなかった。
アビスがこの燭台について説明を始める。
「魔素を吸い取って自動で火を付ける魔具です。
至るところにあるので暗いと感じても進めば勝手につく便利な魔具ですよ」
薄暗い奥の廊下からコツ、コツ……と歩く音が聞こえる。
近づいてきた少女は赤色がかった白髪は長く足元まで伸びていてる。
小さい体に長い八重歯がちらっと唇の奥に見える。
メイドのような服装だが、装飾が多く、手の込んだものとなっている。
耳はイビアやアビスと同じような形をしており足には黒いブーツを履いている。
その体に見合わず妖艶な雰囲気を漂わせる彼女は俺の目の前にまで歩いてきた。
体と体の距離がほとんど密着した状態で彼女はこう言った。
「ふーん……あなたが今回の魔王なのね。
……その仮面つけないほうがいいかもしれないわよ? ま、あなたの勝手だけどね。
それにしても」
彼女は背伸びをして俺の顔に自分の顔を近づける。
「不思議な匂いがするのねあなた。私は好きよ。こういう匂い。
ただ他の人はどうかしらね……
あら、何を言ってるのかわからないって表情ね。いいのよ分からなくて。
どうせあなたも勇者に殺されちゃうんでしょ?」
彼女は俺の頬に手を添えてそういった。
俺はその手を掴みむしろ自分の方に寄せて言った。
「その言葉は現実には起こらない。
あまり人をおちょくるなよ。誰にその言葉を投げかけてると思ってる」
彼女は驚いたあと、あははっと笑い始めた。
「あはは! あなたっやっぱり仮面がないほうがいいわ。
もったいないわよ。仮面がなければキスしちゃってたかも。
ほんの冗談よ。本気であなたに対して諦めの言葉を言ったわけじゃないわ。
人間だったからどんな覚悟で来たのか見たかったのよ。
私は<血の原初>シェフィよ」
「……原初?」
「神代よりもはるか前からいる存在のことよ。
すべての始まりの種。先祖ってとこかしらね」
「神代より前っ?!」
「あなた結構とんでもない人物に生意気な口を聞いていたのよ?
弱いのに虚勢張っちゃってかわいかったわ。
あぁ、後私の知る限りだと原初はもうひとりいるわ。
かなり頭のおかしなやつだから頭のおかしなやつに出会ったらそいつが歪の原初だと思っていいわ。
名前はリド、ね」
「よわっ……まぁ事実だが。
なぁ血の原初ってことはそうとう強いんだろ?
それでも前魔王は勇者に殺されるたのか? 勇者とはそんなに強いのか?」
「原初っていってもいつまでもその力が残ってるわけじゃないわ。
寿命こそ私はあるけどそんなに強くないのよ。
リドはどうかしら。結構強いんじゃない? それでも負けるわ。
これはね。決まった運命なのよ。
物語はその物語の通りに進むわ。それを壊すことがあなたに出来る?」
「今更聞くのか?」
「愚問だったわね。あなた気に入ったわ。
もし暇なら」
再び体を密着させてくる。
「夜の相手、してあげてもいいわよ?」
「っっ!」
「赤くなっちゃって、かわいいわ。
これもほんのちょっとした冗談よ。少しだけ、ね」
そう言って彼女は去っていく。
去り際ちらっとイナのことを見た。その後何事もなかったように消えていく。
俺はアビスに言った。
「俺の体力が持たないかもしれない。
簡単な挨拶程度じゃすまないかも」
「がんばってください……」
それから何人かの魔族と出会う。友好的なものが多かったが一人の魔族とちょっとした衝突を起こした。
その魔族は狼のような見た目だが二足歩行で立っており、中途半端な狼男のような見た目をしていた。銀色に輝く毛皮は燭台の灯りでキラキラと輝いていた。
「お前が魔王だと?」
「ああそうだ」
「人間なのか?」
「そうだが問題か?」
そいつは横の壁を力強く殴りつける。
ぱらぱらと砕けた壁の破片が落ちてくる。
格上だ。その強さ、衝撃、いとも簡単にこの分厚い壁を貫通させる力と俊敏さ。
そいつは俺に向かって圧をかけてくる。
「問題か? だと? 問題に決まってるだろ。
俺たちの敵が誰だが分かってんのか?! あ?!」
イビアが前に割って入る。
「やめろよフラッド」
「イビア! お前も同じだろ!」
「お前の怒りで魔王さんを殺すか? そしたらあたしはお前を殺すぜ。
勝てるかどうかじゃなく殺す。あたしらの待ち焦がれた魔王さんだ。
殺した後どうすんだ?」
「俺たちでなんとかする」
「馬鹿言ってんじゃねーよ」
「なぜだイビア……
もういい。この話は魔王会議で話す。
そもそも魔王会議とはそういう場だろ」
そう言ってフラッドは奥へと消えていった。
俺は安堵した。
「ふぅ……死ぬかと思ったな」
イビアが後ろを振り向き俺に言う。
「はっきり言って個人の力ならかなりの実力者だ。戦うのはおすすめしねーな」
突然天井から男の声が聞こえてくる。
「おやぁ? なにか騒がしいと思ったら……
その仮面……
なんと、なんとなんとなんと!
あなたが次の魔王ですかっ!」
声の主は天井にぶら下がりながら会話を続ける。
「うつくしい……傷のついた仮面。それを被る次期魔王。
運命のいたずらか……次期魔王が人間だとは……
ああ……
飾りたいっっ! あなたごと飾りたい!」
こいつだ。確実にこいつだ。
歪の原初、リド。
「あんたが歪の原初か」
「おや、もうお聞きになっていたので?
左様です。私が<歪の原初> リド。
以後お見知りおきを」
「あんたが天井に張り付いてるせいで姿かたちが見えない。
降りてこい」
「失敬……よっと」
白いスーツにハット帽をかぶり、その顔には仮面を被っていた。
その仮面は白と黒が入り交じるようなデザインだった。
リドは頭を下げ両手を広げていった。
「新しい魔王に祝福を。はてこの場合の祝福とは誰からのものでしょう?
まぁ良いでしょう。
あ、この仮面気になりますか? これはある方のマネをして作り続けた作品のうちの一つなんですよ。
今あなたが被っている仮面の製作者です。
名をイリアス。彼女の作る仮面は外側だけでなくその中身もすばらしくてそもそも彼女自身がとてもうつくしく、いなくなった今もその姿を思い出そうと人形を作ったりしてがんばっているのですがやはり私は歪、どうしてもうまくいかずどうしたものかと毎日すごしていたら新しい魔王がっ……」
俺たちはリドを完全に放置してあるき始めた。
あいつは完全にネタ枠だ。相手をしてはいけないと本心でそう思った。
魔王城を歩いて周り、その後宿に戻る途中に再び屋台で食事を買う。
今回はティアナ達が俺と一緒に食べたいということで買ってからすぐに宿に戻り、冷めない内に一緒に食べることにした。
食事を摂っていると窓の外に気配を感じ目線を外に移すと逆さまの状態でリドがいた。
そしてイビアが近づいていくと窓を開けた。
「それでですね。私が思うに必要なのは」
「失せろ」
ぱこっとイビアはリドをぶん殴り空へと落とした。
「あああぁぁぁぁ!」
空へと消えていくリド。
イビアは窓を閉めた上でカーテンを締める。そしてアビスが宿にいるのが自分達だけなのを利用して周囲に入ることの出来ない結界を張った。
俺はリドが空に消えていくのを見て重力が反対になっているのだろうかと推測しながらイナ達とご飯を食べた。
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