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魔物の街

「ここが……」


 俺は目に映る町並みに驚いていた。

 もっと廃れたものだと思っていた。自分たちの国となんら変わらないほど発展していて、そこにいるのが人間なのか魔物なのかの違いでしかなかった。


 活気が溢れていて角の生えた紫色の肌をした巨体の魔族が木材を運んでいたり体が羽で覆われた魔物が手紙を配っていたり小さい魔物が店の手伝いをしたりしていた。


 イビアが腰に手を当てながら言った。


「ここはこれでも街だぜ。あたしらも初めて来た時はビビったよ。

 ミレッド帝国みてーに発展しててよ。奴隷もいねぇ。まぁここは統治してる存在がいねーから、なにかトラブルがあっても自己責任なんだ。

 つっても秩序を守ろうとしているやつらがいたりカンパ集めて道の舗装してるやつらがいたりと様々だぜ」


「上の立場を持つ奴がいなくてもここまでの発展が出来るのか」


「トラブルはつきもんだけどな。

 ただ一度トラブルを起こせば下手したら殺すまでいくこともある。

 その分慎重なのかもしれないな。力が強すぎる、もしくは力の差がありすぎるってのが原因の一つかもしれねぇ。

 強すぎるものは集団でってこともあるみたいだぜ」


「出る杭は打たれるってやつか」

「あ? 何の話だ」


「ことわざだよ。こういう話の時に使うんだ。

 自分だけ飛び出ると疎まれたり引っ込めさせられたりするんだ。

 能力や才、出過ぎた真似なんかするとな」

「へー覚えとくよ」


 その後アビスが言った。


「一度ここで休まれますか?

 それとも元魔王城に足を運ばれますか?

 まだほとんどの重要人は集まっていませんが」

「そうだな……近いのか?」


「はい。近い、というのがどの程度を表しているのは分かりませんがこの街をこのまま進み街を外れた後一時間と言ったところです」

「……遠いような近いような。

 結構歩いたからな。今日は休むか」


「かしこまりました。宿の手配は済んでおります」

「いつの間に?」


「魔王様を探しに行く前に予約して置いたのです。

 あ、賃金は先払いしてあります。多めに払っていますのでみなさんはお気になさらず」

「手際いいな」


「褒めてくださりありがとうございます」


 俺は騒ぎにならないよう仮面を被ったまま街で食事がてら散策をしていた。

 ティアナはそれはもう落ち着きがなくて。


「すごい! すごいよエノア!

 いろんな人がいる! 色も、毛も、全然違う! いっぱいいるしなんか道中で見た家のちっちゃいやつもいっぱいあるよ!」


「出店だよ。あそこでもう店として完成してるんだ。

 っとティアナはそもそも店というものを見たことがなかったな」

「お店?」


「そうだ。このお金を払ってその対価に見合った食事を提供してくれるんだ」

「な、なんで?」


「こうすることでみんながみんな狩りという仕事につかなくてもよくなる。

 服を作るものは服をうってお金を得て暮らし、武器を作るものは武器を売って金を得る。

 飯を売るものは金を得て服や武器を買うんだ。


 それとこういう食事は娯楽の面も強い。ただ腹を満たすために食べるのじゃなく、おやつみたいな感覚で美味しいものをちょこちょこ食べようってのも出店のいいところだな」



「へーすごい……そんな風にうまく回してるんだ……

 私達とは全然違うね」


「エルフは寿命が長すぎる上に常に驚異に晒されて生きてきたからな。

 娯楽として遊びや喫煙などはしていたみたいだがこういう社会の仕組みは一種族だけでは中々生まれづらいかもな。

 もとに戻ってしまうし」


「じゃあエノア! 私出店行ってみたい!」

「いいぞ。イナもお腹空いたろ?」


「はい!」


 イビアとアビスを見る。私達はいいですという合図か手を振る。

 俺は焼き鳥の出店で焼き鳥を注文する。


「ティアナ、イナ、なにが食べたい?」

 ティアナは悩む。その間にイナはこれとこれとこれ食べたいですとすぐさま決める。

「いいですか? ご主人さま」


「構わないよ。マスターそれお願い」

「あいよ。嬢ちゃんは?」


 エルフを見て驚かないんだな。まぁ様々な種族はいるし耳が尖ってるだけなら魔人だってそうだしな。


「じゃあこれとこれください」


「あいよ。あんちゃんは?」


「俺か? 俺はいい」


「そうかい。んじゃ代金は五銅貨ね――はい受け取った。おいしいけど熱いからゆっくり食べてくれよ」


「「わーい」」


挿絵(By みてみん)


 イナが二人に増えたみたいでちょっとおもしろい。

 はふはふと熱いのにも関わらず次々と口に運ぶのはそれだけおいしいのだろう。

 まるで保護者のような気持ちで二人を見ていた。


 ティアナはそんな俺を見て不思議に思ったらしい。


「食べないの?」

「仮面外さなきゃならないからな。魔王にいい思い持ってないやつもいるかも知れない。

 宿でスキルかアビスに手伝ってもらって安全を確保してから食べるよ。



 あ、悪いな」


 俺は後ろを歩く人物とぶつかる。


 はっきり行って俺は一ミリも悪くないのだが……

 当たった人物はよろけてすいませんと謝ってくる。


「ぼーっとしててすいませんねぇ――っ!

 失礼ですが……いえ、なんでもありません」


 黒い翼をはやしたそいつは足早に消えていった。

 あいつは……


 ”ゼートの会話に出てきた悪魔と酷似”


 似てるだけ、か? さすがに神代だぞ? ゼートが生きてるのは終焉魔法の影響だ。

 子孫か? 明らかに俺に反応したが……


 仮面を見てかそれともこの剣か、魔力か。

 まぁ今は置いておこう。そのことについて俺がなにか出来るわけではない。


「ご主人さま?」

「あ、ああいやなんでもない」


 その後ティアナは自分達だけごめんと言ったが、俺は気にすることはないからいっぱい食べてくれと言った。


 その後思う存分二人は食べ、宿で食べる用に俺とイビア、アビスの食事も屋台で用意する。

 宿に入るとベッドが四つ。イナとティアナはそれぞれ別のベッドに寝転ぶとそのまま寝てしまった。


 アビスがそれを見ながら微笑む。


「お腹いっぱいで眠ってしまったんですね」


 俺はアビスに言った。

「疲れただろうしな。イナはここにくるまでずっと張り詰め状態だったしティアナは見たことない世界を全力で楽しんでたからな」


「本当は一緒に食べてはしゃぎたかったんじゃないですか?」

「そこまで子供でもないさ」


「あら、羨ましそうに見ていた気がしましたけど?」

「ならそれは気の所為だ。俺たちも食べよう」


「そうですね」


 イビアが俺とアビスに言った。


「なんかあったのか?」


「「え?」」


「いやなんつうか。関係性変わってねーか。あたしが言うのもなんだけどよ」


「「……」」



 お互い唇が触れたときのことを思い出したのかそっぽを向いた。

 イビアはそれを見て俺に言った。


「きかせろよ」


 俺はイビアにこう返す。

「何もない」



 じとーっと俺たちを見ながら飯を食う。


 なんて食べづらいんだ。

 疑いは晴れないままその日は終えた。




 むくりとイナが起きる。

 もうみんな寝静まったころだった。


 イナは俺に声をかけた。


「起きてたんですか?」


「ああ。魔王になるとはいったものの俺の目的はみんなを守ることだからな。

 勇者だって人間を守るために来るんだ。

 話が通じればいいが国の利益のこともある。それは難しい。

 人間か魔族か。仲間ではなく種族としてなら、どちらを守るべきなんだろうな。


 俺はそのどちらでもない。カラムスタの人たちは人間だし、俺のいた国もそうだ。ゼートは魔族だしゴルたちもそうだ」


「イナは獣人ですよ?」

「獣人は……」


 俺は言葉に詰まった。


 するとイナは言った。

「選ばなきゃいけませんか? ご主人さまは守りたいものを全部守るつもりなんですよね」


「そう、だな」

「全部じゃだめなんですか?」


「そんな、規模がでかすぎることを」

「いいじゃないですか。ご主人さまは魔王様です。

 自分の欲しいものを全部求めたっていいじゃないですか」


「ははっ……敵わないな」


 俺はイナの頭に手を乗せる。


 そして言った。


「貪欲すぎる魔王、か。人も魔族も関係なく守りたいものを全部守る。

 うん……そうだな……


 イナのおかげで魔王会議の方針が決まったよ。ありがとう」



「? お役に立てたのなら良かったです!」


 俺はイナを抱きしめそのまま朝まで寝た。








 薄暗い路地。誰も気に留めないような暗がりの中で私は歓喜していた。

 待った。この時を……


「見つけた。見つけた見つけた見つけた!!

 やっと見つけたぞイリアスの仮面。


 後はアイリスだけだ。

 それさえあれば……ひひ、いひひひひ。


 ざまぁみろ生き延びてやったぞ! お前の思惑なぞに屈する私ではないんだ!

 そしてルーフェン……よくも騙してくれたな……

 次こそは約束を……ひひっ」

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喜びます。

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