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少しのほぐれ

 次の日、目を覚ますとすでにルーカス達とゴルが起きていたようだ。

 寝起きで理解は出来ないが会話している。


 眠い目をこすりながらイナの頭を探す。手に触れたものを撫でると恥じらいの声が聞こえてくる。


「ちょちょ、エノア! 私はイナじゃないよ!」

挿絵(By みてみん)

「ん、あれティアナか。すまん間違えた」

「もう……」


 イナがぴとっとくっつく。


「イナはここですよ」

「そこにいたか」


 よしよしと頭を撫でる。日課になってしまった。

 ぼーっとしているとルーカス達の会話が鮮明に聞こえてくる。

 ゴルがルーカスに飲み物を渡しながら言う。


「本当にいいんですか」

「ああ構わない。罪滅ぼしってのもちっと違うんだが……

 罪悪感にかられてでなく俺がそうしたいって思ってんだ」


「僕たちとしては助かりますけど、そっちの生活とか」

「いいよいいよ」


 するとイビアが会話に参加した。


「なんの話してんだ」


 ゴルが答える。

「ああおはようございます魔人の方」

「イビアでいい」


「分かりましたイビアさん。

 聞いてくださいよ。ルーカスが買い出しなんかを自分達がやるって言い出して」

「へー。いいヤツじゃねーか。見直したぜ」


 ルーカスは照れながら答える。


「いや、やめてくれよイビアさん」

「お前に名前を呼ぶ許可はしてないが?」


「なっっ!」

「はっ冗談だよ」


「なんでそんなこと言うんだよっ!」


 お互いが笑い合っていた。まだイビアにぎこちなさはあるがイビア自身も向き合おうとしているらしい。実際俺の下につくということはリーシアやリィファ、カンナといった人間とも接していかなきゃならない。


 この様子なら大丈夫だろう。

 俺は起き上がり三人の輪に入り言った。


「だったら役割分担すればいい。

 買い出しが難しいゴルたちはギルドの依頼の手伝いや狩りでの食料調達。

 それに村を作ってしまえばいい。あの認識阻害の魔具があればある程度の広さはカバー出来るだろう」


「なるほど。自分たちに出来る形で仕事をしろって話ですね」


「そうだ。

 逆にルーカスは冒険者としての仕事をしつつ買い出しすればいい。

 毎日買い出ししなくてもゴルたちは狩りが出来る。

 時間の配分のすべてをゴル達に使うのではなくうまく分けろ」


 ルーカスは頭を掻きながら言った。


「いやでもギルドの仕事を手伝ってもらうってそれは規約違反じゃ」


「今更かよ。気にするな。それは人間に適用されるものであって魔物を巻き込んでしまってはいけないというルールは存在しない。

 最悪パーティーだとでも言っておけ」


「それでもかなり黒に近いグレーなんですが」

「だがこれが最も安全だろ? 後は本でも買ってきてやれ。技術と知識をつけろ。それは財産となる」


「分かったよ。にしても手際というか指示が早いな」

「まぁ、元々人の上に立つよう教育されていたからな」


「最初から魔王に?」

「いや? 俺は転生者。死ぬ前の記憶を持った勇者候補だったよ。いやこれは違うな。

 勇者候補ではなく勇者候補とされてきたってだけだ」


 イビアが俺に言う。


「へー魔王さんて転生者だったのか」

「ああ。一回死んでるよ」


「そうは見えねーな」

「そんなふうにしてくれたやつがいるのさ」


「……あいつか」

「おそらくご想像通り」


 オリュヌスが食事が出来たと言った。

 俺は分かったと答え全員食事にありつく。その間ルーカスはギルドの仕組みを、逆にゴルたちは討伐対象がどのあたりにいるのかと答えていった。


 ルーカスはゴルに言った。

「同族が殺されることになるがいいのか」


 イビアは若干眉をひそめるが食事を続けているあたり問題はないだろう。


「同族といえばそうですけど実際は違います。向こうのゴブリンは喋りましたか?

 魔物にもランクがあって本能のまま生きる素の魔物と知を得た魔物で分かれるんですよ。

 その代わり僕たちは群れるし彼らは群れない。


 僕たちは一個上のランクです。

 それに同族と言えど家族ではないし殺し合うこともあります。

 ちなみにこのスライムたちも一個上の知を得た魔物なんですよ。

 いつものほほんとしてるけど喋れないだけで意思疎通が出来るんです」


 ルーカスは頭の上にのったスライムをつんつんしながら言った。


「まじか。ランクがあるのにも驚いたけどこのスライム、ものを考えられるのかよ」


 スライムはぴょんぴょんと跳ねて答える。

 俺はルーカスたちに言った。


「悪いちょっといいか。

 まず第一に勝手なことして悪かったな。

 それから俺たちは行く所がある。だからまぁここでお別れだ」


 ルーカスは俺の方を向いて言った。


「そうか……ありがとう。

 何いってんだと思われるかもしんないすけどこれが一番わかりやすい。

 俺には目的がなかった。ただ金を稼いで生きて、楽をして人生を過ごそうと思っていた。

 だから非道なことも出来た。

 第一向こうじゃこれが普通だったからな……

 けどあんたが人間にしてくれた。今はこいつらを守るっつー目的が出来た」


「俺が押し付けたようなものだが」


「そんなことは重要じゃない。俺自身がどうしたいか。なんすよ。

 動機がなんであれ、きっかけがなんであれ、真っ当な考えを生むきっかけをくれたあんたには、魔王様には感謝してます」


 俺が振り回しただけ、が正しいのだが、結果的に感謝をされているのならば素直に受け取るべきか。


「分かった。罪の意識だけ持ってほしいとしか思っていなかったがルーカスは案外賢いやつなんだな。だからそうやってスライムにも好かれるのか?」

「知らないっすよ。勝手に頭の上に乗ってくるんだ」


「ははっ。愛嬌があっていいじゃないか。さてそろそろ行くか」

「ありがとうございやした」


 ルーカスはまたお礼を俺に言った。


「さっき聞いたぞ」

「足りないってだけなんで。またいつか」


「……ああ。俺が生きてたらまた様子を見に来るよ」


 そう言って腰を上げる。

 アビスを先頭として目的の場所へと向かって歩き始める。

 そうだ。俺が生きて帰れるという保証はない。ないんだ。



 そして林を抜け荒れた大地を通り、川を越え、貧困の村で襲われる。

 仮面を外し威圧を放ち黙らせる。


 襲うのには理由がある。もし魔王として魔界のすべてを統べることとなるのならばこの辺は課題となるだろう。


 なんだかおかしな話だな。

 もう魔王としてどう振る舞うのかを考えている。考えても仕方ないか。


 ”おかしいのですか”


 リビアか珍しいな。


 ”出番が少なかったので”


 そんな理由で出てくるとは。

 自分でも不思議なくらい切り替えが早いというだけの話だ。

 考えてもいなかったことを受け入れている。リーシアが受け入れると言ってくれたからかな。

 そうは思わないか?


 ”謝罪 私はマスターが魔王であることを知っていたので”


 村を抜け歩きながらリビアとの会話を続ける。

 そうか。ちなみになんだが感情というものを語ってリビアに伝わるのか?


 ”肯定 人並みとは言えませんが感情はあります”


 どっちかって言うと芽生えた感じがするが。


 ”少しずつですが感情が豊かになっています”


 リビア。お前は人か?

 今まではなんなのかと遠回しに聞いてきたが敢えて限定的に絞っていくように聞く。


 ”否定?”


 おっとこれは想定外だ。そういう”はい”と”いいえ”ってのははっきり答えるものだと思っていたんだがな。


 ”ものを考えるので”


 なら生命か?


 ”肯定?”


 またか! まぁいい。ならこの話をした時点でずっと気になってたことを聞くことにするよ。

 どこまで見ているんだ?


 ”私自身の基準で決めています つまりプライバシー 人に見られないようにしている行為については目を瞑っています”


 そうか、それは良かった。用を足している所とか見られたくないからな。

 それにリーシアやアビスとの会話やキスも……


 ”否定 胸を高鳴らせながら鑑賞していました”


「見せもんじゃないんだが!!」

「「?!?!」」


 一同の焦りに俺は説明責任を果たした。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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