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魔界と人間界の境目

 アビスについて行きながら半日が経つ。

 アビスは足を止めると俺に言った。


「魔王様、少々お待ち下さい」

 着いた場所はただの廃墟。元々人が住んでいたような小さい村だった。

 俺はアビスを待つ間その廃墟を見回した。


 するとイビアが俺にこういった。

「なぁ魔王さんよ。

 ここ、元々はどんな場所だったと思う?」


 俺は少し考えてから言った。

「そうだな……

 木の腐り具合やこれだけ人の手が加えられてないところを見ると……

 百年とかは経ってるんじゃないか?

 百年前……ただの村だと思うんだがな」


「正解。

 ただの村だよ。

 ただのね。


 けど、壊れてる。自然と朽ちたものじゃない。

 それとこの村は人間が住んでたもんじゃない。

 聞いた話で悪いけどここは元々獣人が住んでたんだ。

 この辺りでは珍しいな」


 俺は獣人という言葉に反応してイナを見た。

「獣人? いや百年も前だとイナの家族が居た可能性はないか」


「そのちびっこじゃここが故郷とは考えにくいな。

 多分魔界近くの獣国かあたしの知らない獣国、それか少数で移動しながら人間から隠れるように生きてるやつらじゃないか?」

「そうか……」


 イナの家族を見つけられたとして、その後どうするんだ。

 渡すのか? 当然か。でも……

 イナを見ると首をかしげる。考えるのはよそう。


 イビアが俺に問いかける。

「魔王さん。あんた人間だけどどっちにつくんだ?」

「どっち?」


「あたしらは正直人間は嫌いだ。

 取引する国だってあるがあたしは苦手なんだ。

 姿かたちが似てようと種族が違うという理由だけでここまで出来るんだ。

 なら魔族だったらどうなると思う?

 魔王さんは人間だけどよ、魔王さんだからよくわからないんだ」


「俺は……

 俺も人間は嫌いだ」


「ならこっちってことでいいのか?」


「でもな。大好きな人間もいる。

 俺は人間だからだとか、獣人だとか、魔族だからとかそういう区分けはしたくないんだ。

 ただ俺は仲間を守りたい。

 最初は勇者になろうとしたけど今はいろんな問題からみんなを守りたいだけなんだ」


「それは……どっちなんだ」

「どっち、なんだろうな」


 アビスがこちらに歩いてくる。

「おまたせいたしました。

 こちらにある木の建築物の中に移動術式がございます。それを起動しました。

 このゲートをくぐりこちらまで来ていただけますか?」


 俺は話を切り上げそのゲートと呼ばれたものをくぐる。

 なるようにしかならない。ただ自分の望む結果にするべく、選択肢をつくるべく今は強くなりたい。

 それしか考えられない。俺はまだそこまでの余裕がない。

 ゲートをくぐると想像とは違った景色が広がった。


「空が、青いな」


 イビアが言う。

「何色だと思ったんだよ。空は青だろ」


「なんかこう、赤みがかった……

 常に世界が赤いようなそんな景色を想像してたんだが、実際は土、岩、と普通の景色だ」


「陸続きだって言ったろ?

 まぁ来たことなけりゃそう考えるのも普通だけどよ。

 いいから行こうぜ」


 俺はアビス達についていく。

 ゲートを越えた先の景色は岩や草木の生えていない土ばかり。

 ゲートより後ろだけに草木が生えている。


「草一つ生えてないんだな。それも境界線のようにくっきりと分かれてる」


 アビスが前を向き、歩きながら俺に言った。

「この辺りは魔界と人間界の境目でございます。

 魔界に入れば草木もございますよ。


 この境目のみ土と岩があるのみで生物はいないんです。

 ここは幾度として戦争に使われた土地でございます。

 魔素こそ潤沢ですがここでは魔物も生まれないのですよ」


 歩き続けていると金属と金属がぶつかり合う音がする。

 俺はその音を聞いて誰に言うでもないが口に出した。


「誰か戦闘を行ってるのか?」


 イビアが両腕を自分の頭の後ろに回し、空を見ながらつぶやいた。

「見に行くか? そっちにとっては日常茶飯事だろ。

 まぁあたしらだって魔獣は狩るけどな。

 ただ、魔族は狩らない。

 そのときは戦争や奪い合いのときだけだ」


 そう言った後、イビアがアビスに目配りをするとアビスは歩く方向を金属音が聞こえる方へと歩みを変えた。


 だんだんと音が大きくなりつつ声も聞こえてくる。

「ちっしぶといんだよ!

 ゴブリンのくせに!」

「黙れ! ゴブリンだからって甘く見たお前らが悪いんだ!」


 彼らに見つからない距離でそれを見ていた。

 一方は人間のパーティー。三人組のパーティーだがそれほどの強さはなさそうだ。

 もう一方はゴブリン、スライム、オークのパーティーだ。


 俺はイビアに聞いた。

「あいつらは?」

「あいつらはこの境目付近で生きる魔族だよ、いやスライムは魔物か。

 魔界では実力主義の面が強いし、誰にも受け入れられない弱いやつらはこうやって誰も来ないような土地で生きるのさ」


「助けないのか?」


「助けてどうする。ここで死ぬなら助けても死ぬだろ。

 弱いものは食われる。まぁ人間の目的は食べることじゃないだろうな。

 弱いもの達の装備や、体の一部だけを持っていってあとは放置さ。

 弱いから虐殺に見えるだけで強ければそれが逆に見えるだけだ」


「弱いから助けるっていうのは違うと?」

「そういうことだな。

 この光景も当たり前の日常なんだよ」


 盾役のオークが傷を負った。しかしその場から離脱せず盾を構える。

 なぜこのパーティーは魔族を狙う? ギルドの依頼か?

 装備もさほどいいものではないが……


 ゴブリンが人間のパーティーに言った。

「僕たちは帰らなきゃならない。

 みんなが生きるには僕たちが食料を持って帰らなきゃならない。

 ここじゃ死ねない!」

挿絵(By みてみん)

 イビアが俺に言った。

「どこ行くんだ」


 聞かれたことに俺は答える。

「自己満足だ」


「答えになってないぜ魔王さん」


「どうやら生まれ変わってもこの性格は変わらんらしい」



 俺はゼートにもらった仮面をかぶる。

 魔王の剣を使えば魔王の存在がバレてしまうかも知れない。


 だから俺は魔王の剣の魔力を少しでも隠すため、そして素顔を見られない為に仮面をつけた。

 そしてゆっくりとあるき出し、アイリスの剣を抜く。


 人間の剣がゴブリンを突き刺そうとしたその時、俺はその剣を弾き飛ばした。


「なっ」


 その人間は驚いた後、続けて俺に言った。

「なんだあんたは! 横取りか?

 ここまで体力を削ったのは俺たちだぞ!」


「そんなつもりはないさ」


「あんたもギルドの依頼をズルして達成してるんだろ?

 なら俺達とパーティーを組まないか?

 みたところ強そうだし」


「ズル? なんのことだ」

「とぼけんなよ。あんたもギルドの依頼をここで済まそうって腹だろ?

 ほらギルド指定の討伐場所じゃなくてここでまとめて倒して報告するアレだよ!」


「そんなことをしていたのか」

「なんだ知らなかったのかよ。狩場をごまかすなんてみんなやってるぜ。

 じゃなきゃ日銭も稼げないからな。

 ……まて、なんのためにここにいるんだあんた」


「なんのため?

 すぐわかるさ。ただその前にパーティーの話だが断らせてもらう。

 俺のパーティーはあいつらだけだ」


 俺は仮面の下を見られないようにしながら少しだけ顔から仮面を浮かす。

 アイリスの剣を鞘に収め魔王の剣に触れた。

 魔王の威圧で人間のパーティーに圧をかける。


「分かったか?」

「な、なんだよ、この感覚は! 冷や汗が、体が震え……

 あんた、人間じゃ、ないな?

 たっ、助けてくれ。悪かったよ。

 もうここには来ないからさ」


「それで?」


 俺はジリッとつま先を前に出す。

 それに合わせて腰の抜けた人間のパーティーは少し後ずさりする。


「それで、って」

「手を出すだけ出しておいて謝って済むと?

 わかるだろ。俺はお前ら全員を相手にしても余裕で殺せる」


「分かった! 分かったから!

 えーっと、これ……」


 人間のパーティーは自分の持っていた装備や食料、お金を置いた。


 俺はそれを見て言った。

「それだけで済むと?」

「い、命、も……とるっていうのか?」


「どうかな」

 俺は魔王状態を解除し仮面をつけたまま言った。


「罪は罪と認識しなければ罪ではない」


「な、なんのこと」


 人間の言葉を無視して俺はゴブリンに言った。

「今からお前達の仲間の所にこいつらを連れていきたい」


「はっはぁ?!

 正気ですか! というかあなたは一体……

 さっきの威圧は……」

「分かっても言うな」


「いいですけど……

 でも住む場所がバレたら俺たち」


「釘をさしておくさ。

 それにそんなことをすれば俺との約束を破ったことになる。

 そのときは俺が責任持って殺す」


 鋭い眼光を人間に浴びせる。

 人間達はビクッと体をはねさせ萎縮する。


 俺は後から歩いてきたアビスとイビアに言った。

「少しだけ寄り道してもいいか?」


 アビスは答えた。

「急ぎではないので多少の寄り道であれば構わないですよ。

 それにもう遅いですから」


 イビアが不思議そうにこちらを見つめる。

 俺はイビアに言った。


「なんだ?」

「いや……意外だったからよ」


「意外?」

「だって……人間の癖に魔族を助けるなんて」


「情が移ったんだよ。魔族だろうと人間だろうと猫だろうと助けたいと思ったら助けるさ。

 じゃなきゃ夜眠れない」



「っ……ははっあはは!

 なんだそりゃ」

 ばからし。と言いながらイビアは姉の隣に歩いていった。

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喜びます。

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