魔人の姉妹と一時の別れ
イナとティアナは大丈夫なのかと俺はあたりを見回した。
もう一人の魔族が歩いて近づいてくるのが見えてくる。
ため息をつきながらこちらに近づいてくる魔族はもうひとりの魔族に比べて少しだけ身長が高そうだ。
ブーツを履いてるせいか少し分かりづらい。
そして胸も大きく、お腹の見える黒い服。手には杖を持ち腕から包むように黒い手袋をしている。
さすがにカンナと同じタイプではないはずだ。
魔法をメインに戦うスタイルで間違いないだろう。
「はぁ……」
そいつは再びため息をつく。
ため息をついた魔族の後ろにイナとティアナが見える。
「イナ! ティアナ!」
意識は失っていないようだが立とうとしても立ち上がれないでいる。
「ごしゅ、じん、さまっっ」
イナは一生懸命体を持ち上げようとするがその抵抗虚しく変化はない。
「イナとティアナに何をした」
魔王の威圧を発動しながら言った。
にも関わらずこちらに歩いてくる。
二対一、か。こっちは剣さえ離さなきゃ剣の魔力が続く限り戦える。
「上等だ。来いよ」
魔力をさらに放出させる。
その魔族は俺の対峙していた魔族の隣に立った。
そしてまたため息をついて言った。
「はぁ……もう本当にこの子は」
杖を振りかざし横に居た自分の仲間であるはずの魔族を杖でぶん殴った。
ゴツンッと鈍い音がなる。
カンナと同じタイプ、だと?
杖で殴られた魔族はかなりの速さで飛び、何度も地面をバウンドしながら転がっていった。
俺は状況を飲み込めず唖然とする。
杖を持った魔族は両膝をついて俺の目の前に座る。
そして杖を目の前の地面に置き両手を前に出しながら深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。
あのものには後に罰をお与えください。私もまたその罰を受ける所存でございます」
ムクリと先ほど杖で殴られた魔族は起き上がる。
「いっっってぇぇぇぇ!!
なにすんだよ姉ちゃん!!」
「なにすんだよじゃありません!
このおバカ! 物事にも順序というものがあるでしょ?!
それにやりすぎよ! 腕もぐわよ!!
自分が失礼なことしたって分かってるの?!」
叱られた魔族は罰が悪そうにしながら怒り心頭の姉に言った。
「だ、だって姉ちゃんだって仲間がいたらどの程度の力か調べるって」
「なんでそんな捉え方しか出来ないの?
戦わなくともわかるでしょ。
まず前提として人間は連れていけないわ! 分かってるでしょ?!」
「そ、それにさ。こうでもしないと話を分かってくれないかもしんないじゃん。
だって相手は人間だぜ?
会話なんて」
「あなたね、そもそも話をしたの?
対話をしようという意思はあった?
あなたの気持ちはわかるわ。でもそれこそやってることはあいつらと同じじゃない。
全く……
出会い頭に拳を振りかざす者がいますか!!」
「うっ……うう。
分かったよ。あたしが悪かったよ姉ちゃん」
「謝るのは私じゃないでしょ。
ほらあなたもこっち来なさい」
とぼとぼと叱られた魔族は歩いて来て俺の前で姉と同じ体勢をとった。
「ごめんなさい」
姉の魔族は話を続けた。
「本当に申し訳ありませんでした。
とんな罰でもお受けいたします。
たとえこの命を投げ捨てよとおっしゃるのでしたら喜んでこの生命。
投げ捨てさせていただきます」
「ええっ! 姉ちゃんそれはさすがに」
ぎろっと姉は妹をにらみつける。
「……はい」
姉はさらに続けて言った。
「私が責任を持って全ての傷を治させていただきます。
あちらにいらっしゃいますエルフの方と獣人の方は力が入らなくなる状態異常をかけているだけですのでご安心ください。
他の方々に関しては私の全魔力を持って修復いたします」
俺は姉の魔族に言った。
「随分都合がいいな。
やりたいだけやってあとは命をかけるので許してくださいだと?」
「承知しております。
ですがどうか、どうかこの命と引き換えにこの騒動、収めていただけないでしょうか」
「はぁ……お前たちの命などいらん。
リビア。魔王状態を解除してくれ」
”解除 成功しました”
俺は二人の魔族に言った。
「それで要件はなんだ。お前達の罰は追って考える」
「その魔王たる広く大きい器、寛大なお心使い、感謝いたします。
罰についてはことが終わるまで待っていただけないでしょうか?
ご無礼を承知の上で要件、しいてはお願いをさせてください」
「言ってくれ」
「はい。
私達についてきていただけないでしょうか?」
「……どこにだ」
「魔界です」
「魔界、か。
なるほど。話はだいたい見えてきた。
俺が魔王として顔を出せということだな。
本来戦うつもりはなく魔界に連れていく魔王という存在を探していた。
魔王含む仲間の強さを図るためにそこの魔族は手当たり次第戦闘をしかけたと。
それはそうする必要があったということだ。
魔界につれていくのに強さが必要なのか?」
「はい。これでも私達は実力を持った魔族だと思っております。
ですがそんな私達と言えど守れる人数には限りがあります。
ご無礼を承知で申し上げますがそれは魔王様も含まれています。
命を賭して守らせていただきます。
そして魔界で名のある者たちの集会、魔王会議が開かれることとなりました。
そちらにご出席していただきたいのです。
魔族には人間に対してよく思っていないものが多いです。
そして魔王様に対しても過度な期待や信頼を寄せていないものが多いのも事実です。
ですから人間の方は連れて行かず、強さを基準として魔界にご同行願う方を選出させていただきたいと考えておりました、が!!
私の妹であるこのおバカが勝手な解釈を用いてこのような事態を引き起こしてしまいました。
申し訳ありません」
「……分かった。
どちらにせよ行くしかないだろう。
俺は魔王なんだから」
「ありがとうございます」
「ただ、魔王とは言っても本来の覚醒前に強制的に魔王になれるだけの存在だ。
期待には応えられないかも知れない。
それとイナは何がなんでも連れていく。
というよりかは連れて行くしか無い」
「イナ、とおっしゃいますと」
「獣人の女の子だよ」
「承知いたしました。
勝手ではございますが魔界につれていける方はイナ様とエルフの方のみです。
エルフの方の強さははっきり申し上げましてこの場でも下位かと思われます。
ですが私達の想定していたよりも人間以外の方が少なく人間の方が多かったもので、エルフの方でしたらご同行出来ます。
エルフであればいざこざも少ないでしょうし一人であればお守りできます。
申し訳ありませんが人間の方々にはこのまま人間界で待機という形でお願いします」
「それで構わない。
質問だ。魔界にはどうやって行くんだ?」
「はい。
お答えいたしますと魔界と人間界は世界が分かたれているわけではありません。
地続きとなっておりますがここより遠くに存在しておりますので事前に設置した移動術式で一緒に来ていただきます。
その後集会をするための場を設けてありますので、皆様が集合するまで魔界で待って頂く形となります」
「そうか。別世界ではないんだな。
じゃあみんなの傷を癒やしてくれ」
「承知しました」
姉の魔族はリーシア、カンナ、リィファを修復した。
そして木の陰に移動させたあと、結界を張った。
「誰かが起床すればこの結界は簡単に破壊出来ます。
解除条件は結界の外にでるだけですから。
このあたりの下位の魔獣や魔物なら問題なく守れるでしょう」
「……分かった。そうしてくれると助かる」
「当然のことをしたまでです」
イナ、ティアナに全てを話したあと俺たちは魔族の二人についていく。
イナは随分と寂しそうにしていた。
ティアナもまた同じように感じていたようだ。
ティアナは俺に言った。
「やっとみんなで冒険に出れると思ったらこんなことになっちゃうなんて……
魔界も見たことはない世界だから見てはみたいけど、やっぱりパーティー全員で見たかったな……」
姉の魔族は申し訳ありませんとうなだれた。
ごめんなーと軽く笑いながら言う妹の魔族に姉は鋭い眼光を浴びせた。
俺は二人に言った。
「なんでお前らが来たんだ?」
姉の魔族は答えた。
「誰でも良かったのですよ。
ただ私が感知能力に長けていたから最初に見つけただけのことです」
「そうか。それと、名前教えてくれるか?」
「名前……ですか?
私はアビス、魔人です」
妹の魔族も自分の名前を答える。
「あたしはイビア。同じく魔人。
分かってると思うけどあたしたちは姉妹だぜ」
アビスはイビアに対してこう言った。
「イビア! 言葉遣いを少しは気をつけなさい!」
「なんかむず痒いんだよ丁寧な言葉って」
「別に構わないさ」
アビスは食い気味に言った。
「そうはいきません!
あなた様は魔王様なのですよ?
威厳というものを保っていただかなければ困ります!
あなた様だけでなく我々魔族の忠誠心というものも低く見られるのです!」
「あ、ああ。
そうだな……忠誠心というのも疑わしいところだが今はいいか。
じゃあ他に魔族や人間がいる時は言葉遣いに気をつけてくれればいいよ」
イビアは声高らかに言った。
「へへっ! そうこなくっちゃな!
さすが魔王さん。寛大だぜ」
「リーシアを殺しかけたこと、忘れてないからな」
「うっ……悪かったよ……
でもあたしが本気出したってあいつはしなないよ。
強かったから。殺す気で丁度いいくらいだったんだ。
ほんとだぜ? わたしの想定以上だったんだ」
「はぁ……まぁその件はあとにするさ。
あとどれくらいでその移動術式に着くんだ?」
アビスは口元に手を当てながーく考えた。
「大体半日くらいでしょうか。
それと今回の滞在期間ですが最低でも一週間はかかると見積もっています。
あちらについて招集をかけ、集まってから会議を始めてこちらに戻る。
何事もなければの話ですのでもし抗争なんて起きようものならどうなるか分かりません」
「そんなにかかるのか。
こっちに帰ってからどうやってリーシア達と合流するかな。
共通の知ってる場所にお互い行っていればいいがもし魔界にまで探しに来たら再会なんて到底難しい話になるぞ」
「その際はこちらで手下を手配します。
姿かたちは分かりますし使い魔を通せばすぐに出会えるでしょう」
「そうだな。
それまではカラムスタで待機しておくか」
そして俺たちは移動術式へと半日あるき続けた。
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