魔族
エルフの森から出た俺たちは今後の目的やどこに行くのかを話し合っていた。
行く宛もなく歩き続ける。
強くならなきゃいけない。
そんな漠然とした目標をどうやって達成するのか。
歩きながらリーシアは塔に行くことを提案した。
「正直私はゼートの話を聞いてから神に対していいイメージは持ってないわ。
でも利用できるものは利用するべきよ。
塔を攻略しましょ。
塔を攻略したら力が得られるって話もあるじゃない。
まぁその代わり生きて帰ってきた人は歴代勇者くらいしかいないんだけど……
でもそれくらいしないと……」
俺はリーシアにこう答えた。
「今の所はそれが一番明確な目標にはなるだろうな。
ただリーシアが言ったように俺たちが生きて帰れるかって話になるとな……
正直俺はまだ力不足だと思う」
ティアナは疑問を俺にぶつける。
「神の塔ってなに?」
「そうか、ティアナは知らないのか。
そうだよな。あれは神代が終わってから出来たとされるものだし。
神の塔。発見されている数までは分からないが世界各地に点在している塔があるんだ。
その塔には特別な仕掛けが施されていてどんなに優秀な者でもそれが何であり、何の為に存在しているのかはわかっていない。
ただ塔の中は魔獣や魔物がわんさか湧いてると過去の勇者が言ったらしい。
実際生き残った勇者はその塔の中で戦闘を行い、強くなり、神からのギフトを得たという証言が残ってる。
ただわかるのはそこまで。しいて言えば同じ中身の塔は存在しないということだけだな」
「なるほど、とんでもなく強い敵を倒せば強くなれるってことだね。
あれ? でもそれって強いから倒せるんじゃ」
「そうだな……強いものがもっと強くなる為のものだな」
「挑戦できる強さの基準ってないの?」
「わからないんだ」
「……命がけだね」
「ああ。本当にな」
イナが足を止める。
そして腰を低くし狐氷に手を添える。
それを見て俺たちも武器を構える。
イナが静かに言った。
「ご主人さま。逃げたほうがいいかも知れません。
でも、逃げられないです」
言葉の意味を考えている暇などない。
俺はリビアを起動し影を魔力回路に通す。
静寂。
数秒の静けさのあと、上空から何者かが落ちてくる。
林道の真ん中にそいつは着地する。その衝撃で土煙が舞い、姿がよく見えない。
落ちてきたのは一人かと思っていたが土煙が晴れ始めると二人いることが分かった。
どちらもシルエットから女性っぽいな。
そのうちの一人が喋り始める。
「前回はよ。一瞬だったから見つけらんなかったけど、今回は見つけたぜ。
どうやって隠してんのか知らねーがやっと会えたな。
”魔王さんよ”」
土煙が完全に晴れる前に喋った一人が走ってくる。
その速さに俺はついていくことが出来なかった。
反応することが出来なかった。
リビアの強化魔法を使う前にそいつは俺の横を通り過ぎリーシアを蹴り飛ばす。
リーシアでさえ、その反応についていけなかった。
「弱いぜッ! おらよっ!」
魔族は体を捻り横にいたリィファを蹴る。
短い銀髪をなびかせたそいつには角が両耳の上に生えていた。
魔族だ。
リィファは短い嗚咽を出し近くの木に衝突し倒れた。
「ちっこいつもかよ。
次はてめぇだ!!」
「くそっっ!! 逃げろカンナ!!」
俺は咄嗟に叫んだ。
俺の足では、間に合わない。
魔王状態になる前にカンナは腹部を殴られ意識を失った。
「てめぇ……」
俺は遅すぎる魔王状態となり魔族と対峙した。
「おー、やっとか。
へへっ。やっぱこいつが魔王さんで間違いねーな」
俺は魔王の威圧を放ちながら魔王の特質を発動しようとした。
しかしその前に俺は剣を弾かれる。
「やっぱりな。その剣がないと魔王になれない。
魔力が剣から溢れ出てるからな。
変な魔王さんだぜ」
「しまっ」
俺はすぐさま避けようとしたが間に合わなかった。
魔族の拳の連続に耐えきれず俺は膝をついた。
「わりーな魔王さんよ。
あんた弱すぎる。厄介だと思ったが剣がない時には恐怖ってもんを感じないぜ」
魔族は突然静かになる。
そして視線を横に向けた。
その先にいたのは立ち上がったリーシアだった。
魔族は口角を少しあげて楽しそうに言う。
「へー……
案外楽しめそうじゃん」
魔族はリーシアへと一直線に向かいながら拳を引く。
その拳からの攻撃をリーシアはギリギリで躱し自分の剣を魔族に向かって突き出した。
魔族は突き出されたその剣を掴む。
リーシアは剣を押し込もうと力を込めながら魔族に言った。
「なによあんたたち。
突然襲いかかってきて、覚悟――できてるんでしょうね」
魔族は笑った。
「はっ! いいね強気じゃん。
勝てると思ってるのかよ。いいぜ覚悟は出来てる。
本気で来いよ――人間!!」
魔族はリーシアの剣を力いっぱい突き放すとその反動でリーシアはのけぞった。
その間に魔族は前傾姿勢を取りながら前に詰める。
バランスを崩した隙だらけのリーシアに右手の拳を振る。
リーシアは地面に唯一ついていた片足を外し敢えて後ろに倒れた。
魔族の右手を掠りながらも自由落下するように倒れ、体が地面についた瞬間後ろに引いて体勢を立て直した。
魔族は笑った。
「つええ……つえーじゃんかよ。
魔王さんの仲間ならやっぱこれぐらいじゃねーと。
でも……この程度か?」
「うっさいわね。
強い弱いなんて今はどうでもいいのよ。
目的はエノア? だったら私はあなたを殺すわ」
「やってみろよ。お前じゃ力不足だぜッッ!」
再び魔族は距離を詰める。
リーシアは魔族の攻撃を見切っていた。
ギリギリ拳が当たらないくらいに下がりカウンターを狙おうとしていた。
俺はリビアの忠告を受けリーシアに叫んだ。
「だめだリーシア! 見えているものに騙されるな!」
俺の忠告は間に合わなかった。
リーシアの顔に魔族の拳から放たれた魔力の塊が接触した。
リーシアは頭から後ろに倒れる。
「へっ。こんなもんかよ。
意気込んでたわりには大した……」
リーシアは頭から血を流しながら上半身を起こし、顔をあげた。
魔族の腹部には魔力で生成された剣が刺さっていた。
リーシアは頭から血を流しながらニヤリと笑ってみせた。
魔族は自分に突き刺さった剣を見たあとリーシアを見て言った。
「ふーん。やるじゃんか。
合格、といいたいとこだが……
だめだ。人間だからな」
魔族は剣を自分の体から引き抜いた。その傷はすぐに塞がる。
これは魔王の特質と同じか?
”違います 魔素による外観の形成のみです 血は止まりますがダメージが修復されたわけではありません”
リーシアは体を起こしながらつぶやいた。
「神は……力を注ぎ……」
魔法の詠唱を始めていた。しかしそれは動きながら出来るようなものではない。
本来長い詠唱を必要とする魔法は魔素の形成などの関係から目を閉じ、集中する必要がある。
リーシアはその才能と努力で短くすることは出来るがそれでもかなりの体力を消耗する。
楽になるわけではない。早く使えるだけのこと。
魔法の規模が大きくなればなるほど必要とする工程と集中力は多くなる。
今リーシアがやろうとしてることは本来出来ない。
俺がリビアに代行してもらってやっと出来ることだ。
それでも俺は規模の大きい魔法は自分でやらなきゃならない。
それなのにも関わらずリーシアは最上位魔法を唱えようとしている。
剣を構え魔族に対峙する。
「せか、いを、ごはっっ!」
「反応がさっきよりおせーぞ人間!」
「わか、つ」
リーシアは痛みに耐えながら詠唱を続ける。
今のリーシアの頭の中は一体どうなっているのか。はち切れるんじゃないか。
人間に出来るのか?
魔族はそれを見ながら言った。
「ちっ……しぶてぇ。
殺すつもりはなかったんだが、そのつもりでいかねーとこの女は」
魔族は魔力を集中させ構えた。
そして続けて言った。
「倒れねぇ!!」
魔族の渾身の一撃が放たれる寸前、リーシアに影が伸びる。
影がリーシアを多いその魔素を食い尽くした。
身体強化も切れ、リーシアはその場に膝をついた。
「えの、あ」
俺はリーシアに言った。
「悪いな。リーシア……絶対生きるから」
そしてリーシアは気を失った。
魔族は言った。
「守ったか」
「ああ。惚れた女を殺されてたまるかよ」
「ほれ……あはは!
そうか、そうだったのか。
悪かったな。ボコボコにしちまって」
「ああ。報いは受けさせるさ」
俺は影を伸ばし自分から離れた剣を手元に投げる。
影が投げた剣を手に取り俺は魔王状態となる。
「覚悟しろよ。王に喧嘩を売る覚悟は出来てるんだろうな」
「ッッ!
へへっ、あはは! 今ゾワっとしたぜ。こいつは……
死ぬほど楽しくなってきた」
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