お説教と宣戦布告
俺はリーシアと合流する。
ゼートはその場でおとなしく胡座をかいて座っていた。
リーシアは俺の元にくるなりジャンプをして抱きつく。
「やったんだねエノア! さすがっ! 信じてたわ!」
にこっと笑顔をこぼし、リーシアはそう言った。
「ああ。リーシアおかげだ。助かったよ」
それを見たゼートはこう言った。
「友エノアよ。そこの娘はお前の婚約者か」
「ちがっっくない、のか。
まぁ……そうなるかな」
「守るのだぞ」
その言葉に重みを感じた。
だから俺はこう返した。
「ああ。男として俺はリーシアを絶対に守る。
惚れた女を失うつもりはない」
リーシアが顔を真赤にしていた。
そして俺に言った。
「まだ、魔王なの? 恥ずかしいからそんなこと言わないでッ」
リーシアは俺の胸に顔を当て自分の顔を隠した。
ゼートはそれを見てうぶだなと満足そうに笑った。
霧が晴れ、エルフ達が集まってくる。
ゼートを目の前にして身構えるが今はほとんど大丈夫だと伝えた。
エルフ達に動揺が走る。
当然だ。今まで厄災でしかなかった存在がおとなしく座って会話をしているのだから。
暴走の可能性はあるとして俺は日が昇るまで見張っていてほしいと伝えた。
するとエルフ達はそれを了承した。
と言ってももうすぐ日が昇り始めるのだろう。
紫色の夜空が少しずつ青を足していった。
俺とリーシアは集落に戻る。
そして族長を叩き起こし今あった出来事をすべて話した。
族長は夢か、と再び寝ようとする。
俺は違うわッ! とツッコミを入れ族長を起こす。
俺たちから話を聞いた族長は俺たちに言った。
「感謝してもしきれんわい。
もうあの怪物、いやゼートと言ったか。
ゼートという恐怖と戦わなくて良いのじゃな。
しかし受け入れがたい者も多いじゃろう。
ゼートとの会話の件は了承したがエルフがそれぞれどういう判断をするのかは分からん。
円満になるとは限らんぞ。
頭には入れておいてほしい。
それとな。後ろで見ておるぞ」
「なにがだ?」
と俺は族長に言った。
「後ろ見てみぃ」
俺はすっと後ろを振り向いた。
カンナが俺を凝視している。その隣でイナが毛を逆立たせている。
その後ろでリィファとティアナが不満げな顔をしている。
「い、いつから」
と俺が言うと族長が二人が戦いに行った話からと言った。
「ほとんど最初からじゃねーか!!」
その後俺は苦しいほどイナに抱きしめられ、肋骨が折れかけた。その状態でカンナに長々と説教を受けた。
カンナは自分に戦闘能力がほとんどないからその作戦は受け入れる。
でも言ってほしい。なにも知らずになんて嫌だと。
もしそれで死んでたら私はエノアを一生許さないからと言った。
俺はごめん……と謝った。
リィファとティアナはため息をついた。
どうやらカンナが代わりに怒ってくれたからそれで勘弁してくれるらしい。
隣でリーシアが言った。
「だから怒られるよって言ったのに」
「イナは着いてきちゃうだろ」
イナは下から顔をのぞかせた。
「イナはどんな時もご主人さまと一緒がいいんです!」
頭を撫でながらご機嫌をとる。
そしてそのまま俺はみんなに言った。
「聞いていたとは思うが、俺は……魔王だった。
この先どうするかはそれぞれに任せる。
俺はリーシアと相談して、魔王であることを隠して強くなるために旅を続ける。
きっと勇者候補は俺を見つけ出して殺しにくるだろう。
それと、俺は魔王として人を傷つけるつもりはない。自分の制御が効くうちは、だが」
カンナがバンッと床を叩いたあと、ぐんぐんと近づいてきた俺に言った。
「そんなことよりっ!
なんかリーシアとの距離が近い気がするんだけど!
なにかあったでしょ!」
「そ、そんなことって! お前っ、勇者候補が殺しに来るんだぞ!」
「はぁ? 自分から一緒にいてほしいなんていっておいて今度は離れろって何いってんの?」
「状況が変わっただろ! 危険なんだよ! 魔獣とは比べ物にならないくらい」
「自分が危険だからって逃げ出すような女にみえる?」
カンナは真剣な表情で続けた。
「いい? 私はみんなに死んでほしくないからこのパーティーを抜けようとした。
でもエノアに居てほしいって言われて私は許されるのなら一緒に居続けたいと思う。
一人になるくらいなら死んでもいいからみんなと一緒にいたい。
私だってこのパーティーに居てそれぐらい楽しかった。
だから私が足手まといで邪魔なら抜けるけど、自分の命が惜しくて抜けるなんてことはない。
私にとって状況は変わってないの」
凄みを感じ俺は呆気にとられていた。
イナはまるで当然といったように一緒についていくと言った。
リィファは魔王であろうと勇者であろうと着いていきます。わたくしは元々魔王を倒すために一緒に来たわけではありません。
エノア様がわたくしに手を差し伸ばしてくださったからその手を握ったのです。と言った。
ティアナは、罰が悪そうな顔をして何も言わなかった。
カンナが更に顔を近づけこういった。
「それでっ! リーシアと何があったの?!」
「それは……」
がしっと頬を強く掴まれる。ほっぺの形が変形していた。
「言って」
「はい……
リーシアに告白されました。それを受けました」
一瞬カンナの顔が曇ったように見えた。
「ふ、ふーん。そっか。相思相愛、ね。
おめでとう、良かったじゃん」
そっぽを向いて、なにか覚悟を決めたような顔をしていた。
「だったら……私にだって手はあるもん」
カンナは俺から離れリーシアの方へ向かった。
カンナはリーシアの耳元でなにかを言ったようだ。
リーシアはこう返した。
「まー感づいてはいたけどね。女の勘ってやつかしら。
負ける気はしないわ。死ぬほど愛してるから」
二人はお互い見合っていた。
なんの話かは、分からないが仲が悪いわけではないようだ。
イナに変化はなく、ただ抱きついていた。
いつまで引っ付いているのだろう。そろそろ理性としての限界を迎えそうである。
一連の騒動が終わり、俺たちは外に出ていた。
俺とリーシア、イナはゼートを誘導し、周辺の木々をなぎ倒してもらっていた。
ティアナやカンナ、リィファは族長と一緒に説明をかねつつエルフ達に広場付近に集合するようにと伝えた。
ある程度のスペースを確保したところでエルフたちが集まってくる。
やはりちらほらと弓を持っているものも見える。
当然だ。そしてそっちの方が都合がいい。
もし低い確率で今暴走したら大きな被害が出るかもしれない。
実際俺も魔王の剣を腰に差している。
ゼートはエルフ達の前で座っていた。
そして頭をさげエルフたちに対してこう謝った。
「今まですまなかった。汝らにかけられる言葉が見つからん。
厄災を振りまき、恐怖を与え続けたこと、謝罪させてほしい。
そして今まであった出来事を話したい。
汝らが信用するしないは汝らで判断してほしい。
本当にすまなかった。我が弱かったせいで汝らの一万年という長い年月を奪ってしまったことを」
族長が前にでる。
「わしはその謝罪を受け入れた。
じゃが各々がその謝罪を受け入れるかどうかは任せることとする。
お主らも良いな。言いたいことは山程あるじゃろうが今は胸のうちにしまうのじゃ」
族長がそう言うと、ゼートに続けるようにと言った。
「感謝するエルフの族長よ。
汝も覚えている。たくましい男だった。
時々だが我は見ていた。一万年我を止めようとする汝らの勇ましい姿を。
我は神に捉えられた後、意識を保てなくなり、たとえ意識が戻ったとしても、ものを考えられなくなっていた。
ずっと混乱していた。その最中でも覚えている。
暴走した我を汝らは命がけで止めていた。
それはなぜだ。そこだけ今は問いたい」
俺はゼートに説明した。
「ゼートに刻まれた神の刻印と同じだよ。
この刻印のせいでエルフはゼートに対処せざるを得なかったんだ」
「そうだったか……
汝らもまた神に刻印を……」
ゼートは空を見上げ遠い目をしながら話し始める。
「我は、魔族だ。
遠い昔、最強の魔族として人々から魔族を守っていた」
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。