魔王
”魔王への再覚醒を開始します
魔素の不足を確認 魔王の剣より魔力で補填します
成功しました
魔王の覚醒に必要な能力が足りません
魔王の剣で補填します 失敗しました
リネームを実行 失敗しました”
きっと今、リビアが頑張ってくれているんだろう。
俺はただ自我を保ち続ける。
これは欲だ。いなくなってもいいなんて言わない。
俺は戻りたい。リーシアと一緒にいたい。
”スキル 欲望の種を取得
欲望の種を生贄としリネームを実行
成功しました
魔王の剣の所有者がエノアに変更されました
能力値の補填 完了しました
魔王への覚醒を開始します”
「うごっっ」
体の中に魔力が流れ込んでくる。
苦しい、つらい、気持ち悪い。吐きそうだ。
濃すぎる。俺の魔力回路じゃ耐えられないんじゃないか。
喉を抑え、苦しみに耐える。
”魔力の逆流を確認 対処を行いません”
ぐるぐると頭の中で何かが渦巻く。
苦しい。魔力を……もっとだ。
よこせ。足りない。
”不可”
俺の言うことを聞け。
”魔王の威圧 確認 対処します”
俺は魔王だ。
神を、やつらを、この世界を。
”影による魔力回路の補填を開始 成功しました”
余計なことを、するなっ!
”マスター 負けないでください”
はっ? リビア……?
なぜ、そんなこと。
”魔王の覚醒による性格改変の削除を開始します 失敗しました”
くそっ自我を失いかけてたのか……
頭の中がぼーっとして何も考えられなくなる。
魔力を、コントロールしろ。
少しでもリビアの力になれ。
”魔王への覚醒 失敗させました
手順の変更 魔王への覚醒へトリガーを設置
対象魔王の剣 成功しました
魔王の魔力との融合を開始します
失敗しました
演算開始 融合は不可能
融合を中止
現時点での魔王への再覚醒を開始します
成功しました”
「かはっ!!」
「エノア!」
「はぁ……はぁ……」
俺は目を覚まし、リーシアを見た。
リーシアは心配そうな目で俺を見ていた。
「エノア……エノアなんだよね」
「リーシア……」
俺はリーシアを抱きしめて言った。
「ただいま。リーシア」
「良かった……エノア」
お互い抱きしめる力が強くなる。
そして少しした後、俺はリーシアと話をしていた。
「リーシア。この後、どうしようか」
「この後って?」
「この森の問題が解決して、外に出た後。
俺が魔王だったってことは、勇者候補が殺しにくるってことだ。
カリムは大喜びで来るだろう。
魔王ということを隠していくか、戦うか」
「今は、隠しましょ。
私達はまだ、弱いもの」
「そうだな……
じゃあその後は? 今までは魔王を倒すために旅を続けてきたけど、その目的ももうなくなった」
「そうね……
強くなりましょ。エノアを倒させなんてしない。
それで誰も挑まなくなったら、ただ平和に死ぬまで過ごしましょうよ。
問題は魔族の方だけど、受け入れてもらえるかしら」
「初代がグロウだったことを考えると可能性はありそうだが、その後がな……
彼らに人へ危害を加えるなと言っておとなしく聞くかどうか」
「試してみないとわからないわね……
私達は人間だし……」
「危害を加えるようなら人間も魔族も敵になるってことだ。
魔王を倒すより大変になっちゃったかもな」
「いいよ。確かに大変だけどエノアと一緒にいられるし」
俺は先程のキスを思い出して赤くなる。
「な、なぁさっきの……」
「……なに……?」
「キスって、それに言ってたことは」
「本気って言ったから」
リーシアは顔を赤くして、目をうるおわせながらそう言った。
毛布にくるまり、体を丸めながら、俺の目を見ている。
分かっている。俺のこの感情は……
リーシアが口を開く。
「正妻は私だから。
他にも居てもいい。独り占めしたいなんて言わない。けど私を一番愛させて見せるわ。
絶対誰にも負けない。アイリスには負けないから」
「リーシア……」
「私ちゃんと聞いてない。
一夫多妻くらい許してあげる。そこはアイリスと一緒。
でも返事は待たない。
ちゃんとエノアの口から聞きたい。
私のことをどう思ってるの?」
俺はリーシアの体に手を回した。自分の方に引き寄せ、リーシアのかぶっていた毛布が床に落ちる。
月明かりがリーシアの肌を照らしていた。頬を赤く染め、状況の飲み込めていない顔がかわいい。
「俺はリーシアが一番好きだ。愛してるよ」
リーシアが照れて瞳孔が小さくなる。驚いた声がほんの少しリーシアの口から漏れる。
それをすぐさま自分の口で塞ぐ。
そして口を離した後、リーシアに言った。
「これが、俺の答え。好きだ」
リーシアは顔を真赤に染め上げあわあわと両腕で顔を隠す。
「う……ぁぅ……」
かわいいなぁ……そう考えてるうちに自分も恥ずかしくなってきて手を離した。
余計お互いの顔が見れなくなり顔を逸しながら会話を続けた。
リーシアが俺に言った。
「あの怪物をどうにかする術はあるの?」
「ある、かな。うまくいくかはわからない。
それととてつもなく危険な行為をするっていうのは言っておきたい」
「危険な行為って?」
「それは……」
俺はリーシアにこの後の行動を伝えた。
「それ、一歩間違えたら死ぬじゃない」
「仕方ないさ。本当にこれしかないんだ」
「私は大丈夫だけど、たぶん後で怒られるわよ?
特にイナちゃん」
「ああ。でも今回イナが活躍できるような状況にはならないし、なにより危険だ。
エルフ達のサポートも考えたんだけどな。
命がけの行為になる。死ぬかも知れない。それならいない方がいい。
それにリーシアの魔法に巻き込まれるかもしれないからな」
「本当にいいの? 私と二人きりであの怪物に対峙するって」
「ああ。これが最も被害を出さず、成功させる方法だ。
ただ、その後はどうなるかわからない。
あの怪物自身がどんな存在なのか、どんな性格なのか。
敵対心はあるか、そもそも成功するのか。
不安要素は多いがやるしかない」
「愚問だと思うけど、いつやるの?」
「今から、かな。
ここで少しゆっくりしたら、誰かが起き出さないうちに行くつもりだ」
「分かったわ。
魔王になって記憶の変化とか、他にもなにか変わったところとかある?
私には以前のエノアと何も変わらないように感じるけど……」
「今は魔王じゃないからな。
この魔王の剣に触れて、リビアに魔王への切り替えを行ってもらうことで魔王になる。
その時は性格の改変があるかもしれないけど、元に戻るから」
「じゃあ大丈夫なんだね」
「安心してくれ」
そういえばリビアがまるで自分の感情を持ったような言葉を発してたような……
リビアはただのプログラムのような無感情の存在じゃないのか?
「私の力をやっと見せられるのね」
「んっそうだな……
確かにリーシアがどう変わったのか俺は知らないんだな」
リビアの事はまた後ででいいか。どうせわからないし聞いても答えないだろう。
「ほんとすごいんだから!
魔素と魔力を同時に扱うの大変だけどその代わりすごい魔法が使えるのよ。
まぁ魔力も魔素も消費が激しい上に魔力回路がすぐ持たなくなっちゃうんだけど」
「一瞬でいいよ。だから期待してる」
「ありがとっ! 私も期待してるわ。
魔王となったエノアがぜーんぶ解決しちゃうのをね」
「任せてくれ」
俺は立ち上がる。
そしてリーシアに手を差し出す。
リーシアはその手をとり、立ち上がった。
俺はリーシアに言った。
「いこうか。一万年叫び続けた苦しみから開放するために
エルフたちの呪いを解くために」
俺は魔王の剣を手に取り、鞘から抜き出す。
真っ黒な刀身が顕になる。真っ黒ではあるが透明度のある黒。
月明かりに照らすと光が透けてくる。
「きれいだな」
「そうね……黒い剣なのにきれいだわ。吸い込まれそう」
「リビア」
”魔王への覚醒を開始します 魔王の剣によるトリガーを確認 成功しました
魔王エノアへの覚醒が完了しました”
「エノ、ア?」
「違和感はあるかもしれないが記憶も中身も俺だよ。
愛してると言った俺のままだ。リーシア」
「うぐっ」
俺はリーシアをお姫様抱っこする。
「へっ、えっ?!」
「降りるぞ」
自分でも思い切りが良すぎると感じているがこの方が手っ取り早い。
俺は木の端から、一歩踏み出して下に落ちる。
「いやぁぁ! んっっ!」
俺はリーシアの肩にまわしていた手でリーシアの口を塞いだ。
「みんなが起きるだろ」
「んんっ! んん……」
こくっとリーシアが頷いた。俺はそれを確認すると手を口から離した。
地面へと衝突するとき、俺はスキルを発動する。
「魔王スキル 空虚」
一瞬その場において俺が落ちるという現象がなかったことになる。
空中に止まり、その後スキルが解除され地面へと足をつける。
リーシアをおろし、怪物の方向をみる。
「若干遠いな。まぁいいか。まだ夜は長い」
「結構……変わるのね。随分と男らしくなったというか頼りがいがあるというか」
「そうか? まぁ自分でも少しは感じている。歩くか? それとも走るか?」
「走りましょ。どう動くかわからないもの。反対方向に行ったら結局走ることにはなると思うし」
「速度は合わせる。先に走ってくれ。何があっても守れるから好きに走ってくれて構わない」
「うー……私が守るのにー」
「今は俺の肩を持ってくれ」
「分かったわ……ちゃんとついてきて、ねっ!」
リーシアはいきなり最高速度で走り始めた。
魔力回路大丈夫か? と思ったがリーシアなら問題ないか。
見失わない内に俺も行かなきゃな。
魔力を循環させる。
リーシアを見失わない速度に保ちながらついていった。
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