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思い出せ

 俺達は集落に戻った。

 あの後怪物を退くことが出来たと後から戻ってきたエルフに教えてもらう。。

 その話を聞いた後、一旦広場で体を休めていた。

 すると族長が広場に姿を現した。


「どうしたんじゃ。また襲われたのか。頻度が高いのう」


 ティアナは言った。

「そうだよ! いつもは狩りしてたってそう簡単には出くわさない!

 こーんな広い森の中でなんであんなに会うかな」

「そういう時もある。

 毎日のように奴と接敵することもあるからのぉ」


 俺は族長に言った。

「後で話がある。少し時間をもらっていいか」

「構わんよ。なんの話かは知らんがお主らの話を聞くのは楽しいからの」


「助かるよ。なにせこの森から出られない理由が分かったからな」

「なにッッ! それは本当か!」


「おそらく、な。

 証明する方法はないが確証は持ってくれていい。

 そういうスキルを持ってると言えばいいかな」

「ま、待ちきれんのじゃが……」

 族長はそわそわと両手を胸の前で動かしている。


「一万年待ったんだ。もう少し待ってくれ。

 今は少し、寝たい」

「ふむ……お主らは人間じゃからの……

 散々走って疲れるのも無理はない。

 分かった。体を休めてくれ。明日にしよう」


「悪いな……」


 俺たちは少し休憩した後、食事をとって各々の部屋で休んでいた。

 こんこんっと扉をノックする音が聞こえ、俺はどうぞと言った。

 中に入ってきたのはティアナだった。


「やっ、疲れた?」

「そりゃな。歩幅が何十倍も違う相手から逃げてきたからな」


「ははっ。元気だね。

 私は疲れてなくて少し暇だったから来ちゃった。

 つらいなら帰るよ?」

「いいよ。少し話そう。

 体は疲れてるけど眠るほどじゃない」


「ありがと。じゃあこの森の秘密が分かったって例の喋るスキル?」


「そうだ。ティアナ達の話を聞いてからずっとこの森の解析を頼んでたんだ。

 それがあの時やっと完了したってとこ。

 その間俺にとっては重要な戦闘スキルが使えなかったんだが、エルフ達が守ってくれたからな」


「あれは私達の宿命だけどね。

 端に近づけば近づくほど刻印が痛むんだ。

 行かなきゃって。たとえ集落で寝ていても、家事をしていても痛みで行くしかなくなる。

 触れれば死んでしまうような怪物を相手にみんなで戦うんだよ」


「苦しいよな。その呪いは」


「うん。これは呪い。私も族長の言ってたことに賛成。

 祝福なんかじゃない、かな。

 それで喋るスキルのおかげでこの森の秘密が分かったってどういうこと?」

「そうだな……残酷な事実を知ったってところかな。

 そこは俺の予測が入ってくるが」


「残酷?」

「全ては神によって仕組まれたもの。

 ただなんでそうしたのかは分からない。

 それを知るには当時のことを知ってるやつに聞くしか無い」


「まさか、あの怪物のこと?」

「そうだ。あいつに話を聞くしか無い」


「でもどうやって」

「それは今考えてる。

 一万年も経って喋られるだけの力が残っているのか。当時のことを覚えているのか。

 そして会話自体可能なのか。

 ま、ゆっくり考えるさ」


「なんかすごいなー」

「ん? どうした急に」


「いや、なんかね。エノア達が来てからどんどん変わっていく。

 ご飯のバリエーションも増えたし、いろんな知識を知った。グロウの外での伝承も知ったしなにより楽しい。


 もしこの森からみんながいなくなっちゃって、私達は残されるのだとしたらまた泣いちゃうかも。

 でもこの思い出を胸にがんばって生きていくよ。

 私のこの先の千年。またエノア達みたいな人に出会えたらって希望を持ちながら。

 私には剣じゃなくてエノア達が希望だね」



「ありがとな。そう言ってもらえるとうれしいよ。

 ここに来たのは単なる偶然だったけどな。


 そういえば前にいたカラムスタ王国といいこの森といい。

 あの国を出てからお礼を言われっぱなしだ。

 はっきり言って幸せだよ。こんな風にお礼を言われるなら勇者はいいもんなんだろうな。

 きっと勇者ってのはこの功績を集め続け、魔王を倒したものなんだ」


「みんなの話を聞いて勇者も悪い人じゃないっていうのは分かったよ。

 ちなみにカラムスタ王国ってどこ? どんな国なの?」

「あーそれは」


 カラムスタ王国で起きた出来事を話した。

 話し終わる頃には日が落ちて眠気が襲ってくる。

 あくびをする俺を見てティアナが言う。


「そろそろ眠くなっちゃった?」

「ああ。悪いな」


「いいよっ! ただどうやってその状況を打開できたのか、だれも覚えていないのはもやもやするっ!」

「本当にだれも覚えてないんだ。リビア以外。教えてくれないがな。

 どうしてなのかは、わからないけど」


「リビアさん教えてー!」

 ”拒否 私から教えることは出来ません”


「だめだってさ」

「けちっ!」


 ”困惑”


「困ってるってさ」

「むー……どうしても教えられないんだね」


 ”肯定 情報の開示は止められています”


「開示が止められてるってさ」

「えー? 誰に? じゃあエノアや誰かが自分で思い出すしかないってこと?」


 ”肯定 その場合は問題ありません 人物 秘匿”


「思い出す分には自由だと。それとその人物が誰なのかは言えないってさ」

「分かった諦める……エノアに死ぬ気で思い出してもらう」


 ”感謝”


「ありがとうだってさ。え、俺が思い出すの?

 思い出せないって」

「死ぬ気でっ! 思い出してね。この森を出る前に!」


「んー……」

「じゃあねっ! おやすみ」


「おやすみ」

 俺はベッドの中で目を閉じた。

 夢を見ていた。


「口を慎め」

 なんだ? 俺が言ったのか?

 ああ。言った気がする。


 でも夢か。夢って初めてのことでも初めてじゃないような感覚の時もあるしな。

 これは、カラムスタ王国の司祭と戦ってる時か。


 そうだ魔素が充満して、あれなんで俺は苦しくないんだ。

 夢、だから?


「あら、もう思い出しちゃうの? まぁでも本当に死ぬ気で思い出さないと何もできないわねぇ。

 あなたの目的を達成するには必要なことだもの」


 誰だ?

「何度も会ってるわよぉ?」


 暗闇の中、体が宙に浮いている。死んだ時もこんな感じだったような気がする。

 会った? どこで。

「いろんなところで。

 私はまだ早いと思うけど状況が状況だものねぇ……」


 なんのことだ。

「あの怪物のことよ。

 エノアがエルフ達や怪物のことを全部ほったらかしにすれば外には出れるけど……

 そのつもりはないんでしょ?」


 ない。

 俺はティアナ達をあのままにしたくない。

 もしなにか分かるなら力を貸してくれよ。

 たとえこれが夢だとしても。


 謎の女性が後ろからふんわりと抱きしめてくる。


「死んでも変わらないわねぇ……

 そういうとこが好きよー。でも一歩間違えたら……

 エノアというあなた自身が消滅しちゃうかも。

 覚悟は出来てるの?」


 出来てるさ。そうなればきっとリーシアを泣かせることになると思う。

 だがここで全部投げ出して逃げたらそれこそ俺は俺じゃいられなくなる。

 死んでもこの性格は変わらないみたいだ。


「そう? じゃあ、がんばってこの言葉を思い出してね。

 これはエノア。あなた自身でたどり着くべき。

 あなたはま」

「ッッ!」


 俺は汗だくになりながらベッドから飛び起きた。

「はぁ……はぁ……」


 イナが心配そうにこちらを見ていた。

「ご主人さま大丈夫ですか?」

挿絵(By みてみん)

「あ、ああ」


「うなされていました。起こそうかと悩んだんですが」

「心配してくれたんだな。ありがとう」


 俺は必死に夢を思い出そうとしていた。

 なんとなくだが覚えている。


 謎の女性がいたこと。全員が気を失い覚えていないカラムスタでの出来事が関係していること。

 そして俺はそれを何が何でも思い出さなければならないこと。

 夢だと捨て置けばいい。だがこれは事実だと感じた。


 夢による感情の高ぶりなどではない。あそこは、夢じゃない。

 そのせいで死んだと思ったくらいだ。

 俺は彼女の言葉を思い出す必要がある。


 最後の……

「あなたは、ま……」

 あー! なんだった?!


 言葉だけ思い出して意味があるのか?

 あの出来事を思い出す必要があるんじゃないか?


 それが言葉につながっていて、結果ではなく過程も知らなければいけないとか……

 どうする? どうやって……どうしてそんな回りくどく……

 あなた自身で? 答えだけ見せても仕方ないってことか?


 ティアナが部屋に入ってくる。

「おはよー。朝ごはん作ったから一緒に食べよー……

 え、そんなに悩んで……

 まさか本当に死ぬ気で思い出そうと? そこまでがんばらなくても!」


「だめだっ! これは、死ぬ気で思い出さなきゃならないんだ!」



「ど、どうしちゃったの……?」

 朝食を食べ終わるまで俺は頭の中でひたすら考えていた。

 かなりみんなに心配させたようで俺は謝罪して一旦頭からこの事を離すことにした。



 広場に集まり、俺たちとティアナ、族長で話を始める。

 族長は待ちきれないと言った様子で前のめりになっている。

「じゃあ……始める」

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喜びます。

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