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唐揚げ

 俺はリィファの練習を見届けていた。

 手順としては簡単だ。ただ口で言うほど簡単なことではない。


 まずいつものように魔素を魔力回路に通す。

 そしてその魔力回路を外に放出せずに体の中に滞在させる。


 なんとなく体を通していた魔素と魔力回路を意識しなければならないうえ、普段吐き出していたものをそのまま体の中に滞在させなければならない。

 それにただ滞在させるだけでなく、体の中で循環させ続ける必要がある。


 リィファは魔素を体の中に取り込む。

 そしてそこで循環させようとするも全部漏れてしまっていた。


「あっっ……やはりそう簡単には出来ませんわね」


 リィファはひたすら集中していた。

 ひとつの物事に夢中になれるタイプのようだ。

 練習を続けていると少しだけ体の中に魔素が残ったようでリィファがはしゃぐ。


「出来ましたわ! 少しだけですが出来ましたわ!

 魔力には変換出来ていないようですがコツを掴みました!

 あっ漏れてしまいました……」


 できるようになっていく感覚が楽しいのだろう。

 すぐに訓練を続ける。


 俺は隣にいるイナに聞いた。

「イナはどうだ?」

「その、イナは魔力回路というものが意識できません……」


「ん、そうなのか。魔素は感じ取れるか?」

「はい!」


「それを体の中に入れたり体の周りに滞在させる感じで意識できないか?」

「んんんんんん!!」


 イナは両手を握り目を瞑る。

 耳をピンッとさせている。

 しかしだめだったようで……


「うんともすんとも言わないです……」

 しょぼん……と耳と尻尾が垂れ下がる。


「いいよ。出来なきゃいけないわけじゃないから。

 イナはもう十分強いからな」

「で、でもっイナももっと強くなりたいです!

 ご主人さまを守れるくらい!」


「っ……ありがとう。それだけでうれしいって」

 俺はイナの頭を撫でた。


 リィファとリーシアの訓練の邪魔にならないよう俺はカンナの元へと足を運んだ。

 木と木の間に架けられた丈夫な木の板の上を歩きながらティアナに質問をする。


「実際どんな魔法が使えるんだ?」

「え? んー、日常生活に使う魔法と狩りに使う魔法くらいかな。

 魔力を循環させて身体能力をあげたり、ちっちゃい炎とか作ったり。

 後は動物なんかを撃ち抜く時に神の刻印の力使うと食材が残らないからね……

 毒とか麻痺とか使うよ。

 でも大体はすでに罠をかけてあってそこから食料調達してるよ」


「そっかそうだよな。

 最初からどこになにが出るのか知ってるのなら罠まずをかけて、もしかからなかったら移動させて、かかったのなら毎日そこに置いとけば食料が手に入るもんな」


「うん。でもそれじゃ弓の技術は上がらないから罠は最低限ね。

 動物も追いかけ方で動きを変えるから特に私みたいな若いエルフは狩りに行くの。

 成長したら交代で怪物の相手」


「あの怪物に至っては同じ動きをするわけじゃないもんな」


「あはは。そうなんだよね。

 その時だけは命がけだから生きてるって感じするよ。

 何百年も経ったら忘れるのかな。そういう恐怖心っていうのも」


「俺は何百年も生きたわけじゃないからわからないな……」

「あははっ! 私も!」


 俺たちはカンナがいる木にたどり着く。

 そこには多くのエルフ達がいた。

 ティアナはエルフ達にあいさつをしながら歩く。俺やイナも同じようにあいさつをする。


 見渡してみるといくつか扉のような穴がある。それが段となっていてそれぞれを階層としているんだろうと予測できる。

 空気を入れ替えるためなのか窓のような穴もいくつかあった。


「やっぱこういう場所はエノア達にとっては新鮮?」


「そうだな。木の上で生活するっていうのはしないからな……

 前の世界では木の上に家を建てたりっていうのはあったが……

 こういうのは、知らないな」


 ティアナに連れられ入った穴に入る。

 そこは他の部屋よりも広く作られているようだ。

 それに窓と思わしき大きな穴が多く用意されていた。


 カンナは木で作られた四角い台の上で食材を切っていた。

 俺はカンナの横につく。


「ようカンナ。料理してるのか?」

「あっエノア! 目を覚ましたんだ。

 体調は平気? 戻ってきたと思ったら気を失ってるんだもん。

 毎度毎度驚かせないでよ。心配なんだから。慣れないんだからね」


「すまん……って言っても好きで気絶してるわけじゃないからな……」

「まぁ分かってるけどさ。

 ここキッチンらしくてここでは火が燃え移らない加工がされてるんだってすごいよね。

 あ、そうそう今エルフの人達に日本の料理を教えてるの。

 唐揚げ! どうよ?」


「ッッ! 唐揚げが、食えるのか……?

 そういえば異世界だろうと食材はあるんだ。日本の料理を食べようと思えば食べられたはずなのに……

 屋敷では侍女が作るし、外に出てからは簡単な味付けをした肉しか食べてなかった。

 あ、そもそも料理出来ないな」


「今は私がいるから任せてよ!

 って言っても栗の木があるわけじゃないから小麦とお米を砕いた粉を衣に使う予定。

 油はあるしね。

 ただエルフの人達は揚げ料理ってしたことないみたいで驚かれてるよ。

 どうしてそんなに油を使うんだッッてね」



「ははっ。揚げ物を知らない人からしたら確かにそうかもな。

 全員分作るのか?」

「ううん。まずは少人数分だけ。

 作り方を覚えてもらったらエルフの人達に任せるつもり。

 私ひとりで千人分はちょっと、ね」


「さすがにか」



 カンナは時間を置いて、俺にこんな事を言った。

「……力になれなくてごめんね」

「……」


 カンナは鶏肉を揉み込む。

 その後も黙々と鶏肉に味を染み込ませるため、揉み込んでいく。

 俺は黙ったあと、口を開いた。


「魔力が使えなかったこと、気にしてるのか?」


「あはは……うん、まぁ。

 役にたたないのにさ。私ずっとおんぶに抱っこで、もうまた昔みたいに一人で旅をした方がいいんじゃないかーって。

 受け入れてもらったのに自分を責めちゃうんだ」


「カラムスタで活躍したじゃないか」

「もう活躍出来ないよ!!」


「ッッ」

 俺は驚いて声が出なかった。

 カンナはまた鶏肉を揉みながら言った。


「ごめん……

 だってゾンビなんてそう簡単に出てくるもんじゃないじゃん。

 もう私が活躍できる場所なんてないよ。


 魔素を使った魔法もだめ、魔力もだめ。

 本当に身体能力だけだよ。イナちゃんみたいに素の身体能力が高いわけじゃない。


 あの怪物に追いかけられてる時、私最後尾だった。

 ただの一般人なんだよ。ううん。ただの日本人。なんの力も持たない。


 どうせ私は死んだようなものだから死んだっていい。

 でもっ……みんなにはやることがあるじゃん。

 もう助けてもらってばっかりじゃ……

 だったらもういなくなった方がって仲良くなれば知れば知るほど」


 俺はカンナの両肩を掴む。

「じゃあ飯作ってくれよ。

 毎日だ。

 俺は焼くことしか出来ないし料理なんてまっっったく出来ない。

 だからカンナが作ってくれ。そしたらカンナは必要な存在になるだろ」


「ご飯なんて誰でも作れるじゃん……」

「日本の料理作れるのはお前だけだ」


「日本の転生者が来たらお役御免だね」

「うまいとは限らない。俺も日本人だ」


「私に価値がないなら捨ててよ。私なんてお荷物連れて行ったら、いつか死んじゃうよ」

「俺達の心配なんかしなくていい。

 もしそれで死んだとしても覚悟した上だ」


「わかんないじゃん! 私なんかいらない! 私はずっと無価値だから! さっさと」

 俺はカンナを抱きしめた。


「ちょっ手が汚れてるって」

「なにかを抱えてるのは知ってる。いいんだ。

 苦しかったなら苦しかったって言えよ。仲間だろ。

 一人で自分を追い込むなよ。背負い込むな。そこまで思い詰めるまで相談もなしなんて結構つらいぞ?

 俺は一緒にいてほしいんだって。俺はカンナといて楽しかったんだ。

 飯を作らなくったって足手まといだって手放すつもりはないからな。

 それが理由じゃだめか」

 カンナは黙った。


 そして次に出た言葉は……

「ずるいじゃん。そんなの。甘えたいに決まってる。

 私だって楽しかった。だからみんなを守るためならって……

 あーあ。タイミング間違えた。

 抱きかえせないじゃん」


 ヒューヒューッとエルフ達が煽ってくる。


 俺は叫んだ。

「ちがっっ。これはそういうんじゃなくてだなっ!

 ていうか空気を読め!」


 ティアナが言う。

「いやー……

 もう恋でしょ……

 いーなー。苦楽を共にしたパーティーでしかわからない恋愛観」


 カンナは否定する。

「待って、本当に違うの、これは」

挿絵(By みてみん)

「ふーん。でも顔赤くない?」

「赤くないからッ!」

 その後俺はカンナから離れ少し離れたところから唐揚げができるのを待っていた。

 


 いじられながらも唐揚げが完成し、その場にいる者たちで試食を始める。

 俺は唐揚げを口の中に入れた。

 口に入れた瞬間、油の匂いにのせて香辛料の香りが広がる。

 唐揚げを噛むとサクッと衣が割れ、鶏の肉汁が染み込んだ調味料と一緒に口の中に流れ込む。

 熱さが自然と口を開けさせる。


 上を向いてはふはふとからあげを転がす。

 塩の効いた唐揚げを飲み込むと満足感が広がった。


「これは……うますぎる!!」

 俺はそういった。


 イナに至っては涙を流していた。そんなに?


 エルフ達もそんな俺たちの様子を見て次々と口に運んでいく。

 口々に称賛の言葉が広がる。


 俺はカンナに言った。

「やったな。大成功だ」

「さっすが私! 毎日料理をしていただけはある!」


「そうなのか?」

「あっ……うん! ほら!

 あのー、私家ではずっと一人だから自分のご飯は自分で作ってたんだよ!」


「へー……普段仕事でいなかったとかか?」

「うん……そう、だね」


 俺はこれ以上聞くのをやめた。

 さすがに俺も馬鹿ではない。カンナと出会ってから結構経っている。


 この表情は触れちゃいけない。

 だから俺はイナにするようにカンナの頭を撫でた。


 カンナはそっぽを向いた。

「へんな気使うなバカッ……ほれちゃ……ぅ、じゃん」


「なんか言ったか?」

「言ってませーん!」

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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