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狩人

 俺は見たこともないような大きな木の下で残り少ない水を飲みながら言った。

「どこなんだここは」


 リーシアは首を横に振った。

「わかんないわ。こんなところに森があるなんて知らなかったし、いつ入ったのかも分からない。

 それだけじゃない。こんな大きな木、私は知らないわよ」


 そう、こんなでかい木は知らない。本で読んだことすらない。

 この辺はまだ地図で知っていたはずだった。この森の事を考えると地図が古かったとかではないだろう。

 突然こんなでかい木が生えてくるわけがない。


 そしてそのでかい木が森を形成している。上まで登ろうにも高すぎる。

 気づかないわけがないんだ。


 リィファはくたくたになりながらこう言った。

「わたくしの住んでたお城より断然高いですわ」


 カンナがそれに同意する。

「ほんとにね。ビルって高さじゃないわよこれ」


「ビル? とはなんですの?」

「あーと、どう説明すればいいんだろ。四角い建物なんだけど高さがだいたいお城と同じくらいあったりするんだよね。


 もっと高かったりもするけど。

 それがいっぱいある感じ。縦の高さはあるけど奥行きと幅は小さいみたいな、かんじかな」


「カンナさんの元いた世界はそんなすごいものがたくさん建築されているのですか?

 豊かですのね」

「んーそうだね。豊かではあるかな。うん。

 人の心はそうでもないかも」


「?」

「いいの、気にしないで」


「はい……」


 リィファは俺に足並みを揃えて言う。

「それだけ豊かな国ですのに、なぜ内面は豊かではないかもしれないというのですか?」


 俺はリィファに言った。

「どんなに国が豊かに成長しても人間の心までは成長しないって話だよ。

 あんまり変わらないさ。俺やカンナと話してみて特別変わった人間性を感じたか?」


「そ、そうなのですね……わたくしにはまだ理解が及びませんわ。

 食べるものに困らず、建築の技術も高くとも人の心に余裕は生まれませんのね」


「そんなもんさ。人の欲望がそこなしだからな。

 いつまでも飢えてしまうのかもな。

 それにカンナにだって前の世界での人生がある。

 なにがあったかは知らないが……何か抱えているような気がするんだ」


「お聞きにはなってないんですのね」

「そこまでの信頼を得ているとは思ってないからな。

 当分はカンナが自分から話すまで気長に待つよ。もし聞かなければいけないような事態になれば聞くさ」


「わかりました。エノア様の考えに同意いたしますわ」



 俺たちはそれから歩くも歩くも景色は全く変わらず、大きすぎる木に囲まれ自分達が小さくなったような錯覚に囚われながらも歩いていた。


 その時、イナがなにかを聞き取る。


 イナの耳がぴくっと動いたのを見て、俺はイナに聞く。


「なにか聞いたのか?」

「足音、です」


「足音? 人がいるのか!」

「近づいてみますか?

 でも、なにか音のなり方が変な感じがするんですが」


「構わない。ここのまま闇雲に歩いても仕方ない。

 いいか悪いかは後回しだ。ヒントがほしい。

 よくやった。えらいぞイナ」


 なでなで。


「褒められました! イナ偉いですか! やりました!」

 イナはごきげんになり足早に足音のする方へと歩いていく。

 俺たちは速歩きのイナに急いでついていく。


「イナ……もうすこしゆっくりでも」

「ご、ごめんなさいっ」


「いや、怒ってるわけじゃないから謝らなくてもいいよ」

「うう……」


 嬉しかったんだなーと思いながら速度を落としたイナについていく。

 イナが足を止める。


「イナ? どうした? またなにか」

「あの……ご主人さま、本当に行っていいのですか?」


「ん?」

「ごめんなさい。またイナは危険に飛び込んじゃったかも知れません」


「イナ、落ち着いて状況を教えてくれないか。

 それに足音に近づきたいと言ったのは俺だ。イナが悪いなんて思う必要はないよ」

「ご主人さま……

 わかりました。足音が、近づいてくるんです」


「こっちに気づいたってことか?」

「おそらく関係ないと思います。ただ」


「ただ?」



「あ……見てもらったほうが早いかも知れません」


「え」


 足音が俺たちにも聞こえてくる。地鳴りのような音が聞こえた時点でなんとなくだが状況を理解した。


 上を見上げるとこのでかすぎる森の木と同じくらいの、いや猫背のせいでそう見えるだけでその木よりさらに大きい生き物がいた。


挿絵(By みてみん)


「ま、じゅうか? いやでも」

 俺はそれを見ながら呟いた。


 カンナはこの生き物を見上げながら言った。

「いやいやいやいや! ファンタジーすぎるでしょ!

 でかすぎるって!!」


 俺はそのでかすぎる存在を眺めながら言った。

「うーん。こんな生き物みたことないな……

 黒い? いや茶色っぽいな。黒に近い茶色で覆われた毛。

 足や体の筋肉を見るに哺乳類、というか人間に近いんだけどな」


「何食ったらあんな大きくなるの?!」


「ああ。同じ疑問を持ってるよ。顔は……牛か? なんだあの角は。

 やばいっっ!」


 俺は足元がこちらに大きく近づくのを見て隠れた。

 見えてるわけじゃないとは思うが反射的に隠れてしまう。


 リーシアが俺の手を握る。


「りっ」

「ごめんっでも、なんか、怖いの」


 よく見ると他のメンバーも震えていた。

 なんだ……? なにかスキルでも使っているのか?


 俺にはなにも感じないが……

 いや、恐怖事態は感じるがみんなの震えはもっと……



「ゥゥゥゥゥゥゥゥ……」


 目の前の怪物がうなり始める。

「なんだ? 様子が」


「ァァァァァァァァァァァアアアアアア!」

「?!!」


 突然空に向かって叫び始める。

 叫び声の音が衝撃となって周りの木々の葉っぱを揺らし、落とし、振動が周囲に伝わる。

 するとあたりの木を破壊しながら暴れ始めた。


「な、んだこれ! 耳が!!」

 空気が振動する。耳を塞いでいないと鼓膜が破れそうだった。

 さらに折れた木の破片がそこらに落ちる。

 目の前の怪物が腕を大きく振り上げた。


「やばいやばいやばい!」


 耳を塞いでる場合じゃない!


「リビア!!」

 ”起動しました 影の使用を開始します”


「俺だけじゃなく他のみんなにも頼む!」

 ”承認 魔力回路を通して影による防音状態を作ります”


 半円状の影がうっすらと俺たちを包んだ。


「視界は悪いが我慢してくれ! 逃げるぞ!」


 後ろを振り向くとイナがふらふらと空を見ていた。


「しまった……イナの耳は俺たちとは比にならないほどのっっ」

 急いでイナを抱え走る。


 俺たちは離れすぎないようにしながら怪物から逃げようとした。

 怪物は振り上げた腕で目の前の木を薙ぎ払った。


 風圧と共に折れた木々が周囲に飛ぶ。

 そのうちの一つが俺たちに向かってくる。

 城よりも大きい大木がだ。


 カンナは言った。

「死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! これは死ぬ!

 いやぁぁぁ!」


 と言いながらもしっかり走っている。

 が、このままじゃ本当に全員死んでしまう。


 影やフィシアじゃ止められない。

 かと言ってリーシアの範囲魔法じゃ時間がかかる。


 あれ? 詰みでは?


 ヒュンッ


 風を切る音が聞こえる。俺の真横を何かが通った。そしてそれは後ろの木に刺さる。


「矢? 弓矢か?」

 白く輝く矢は迫ってくる木に刺さった後、少し間を置いて消滅した。


「え、なんだったんだ」


 その瞬間木に衝撃が生まれる。

 大きな半円の形に木が凹んだ。その後、木は俺達とは反対側。後方に弾け飛んだ。


「これは……助かった、のか?」

 しかし怪物はなぜか俺達に向かって木をなぎ倒しながら進んでくる。


「なんでだよ!」


 俺はそれを見て叫びながら走る。


 前方から矢がいくつも怪物に向かって飛んでいく。

 それらが怪物の足や腕に突き刺さり先ほどと同じように衝撃を放つ。


 怪物は矢に打たれ仰け反る。

 矢はさらに怪物に刺さっていく。

 刺さっては消滅。そして衝撃を放ち後方に怪物は下がっていく。


「こっち!」

 そんな声が聞こえてくる。

 俺はその姿を見て驚いた。


「エルフ……? そんな、神代で消滅したんじゃ」

 だが目の前にいる金髪のツインテールは確実にエルフだ。

 耳が尖っている。昔の本でよんだエルフの特徴とあっている。


「早く! こんなんじゃあいつは倒れない! 食い止めるのが関の山なの!」

「あっ、ああ!」


 俺達はエルフについていく。

 エルフはひとまずここまでくればと言った。


「君たちは……人間? その子以外は、だけど」

「ああ……あんたは、エルフか?」


「そうよ。エルフのティアナ。なんでこんなところに人間がいるの?

 初めてみた」

「初めてって、そりゃ俺もエルフなんて初めて見たけど、森の外に出なかったのか?」


「森の外? 自分たちでどうやって出るの?」

「……俺たちも知りたい」


「待って、森の外から来たってこと?」

「そうだが?」


「ありえない!! だって……ここは」

「ん?」


「いえ、とにかく私達の里まで連れて行くことにする。

 どうせ行く宛もなく彷徨ってたんでしょ?


 ついてきて。食料とかもあるし。

 それに詳しい話は族長にきいて頂戴。自分たち以外の喋る生き物が来たのは初めてなんだから」



「初めてって……そんな分け」

「初めて。族長の話だともう一万年ってとこかな」


「いちまっっ」

「ほら歩く!」


 俺たちはティアナについていった。

 その間にイナは目を覚まし、自分で歩きますと言って地面に足をつける。

 だがまだまっすぐと歩けないようで俺はイナを支えながら一緒に歩いた。


「ここよ」

 ティアナに連れられ着いた場所は一際大きな木に階段のようなものが掘られ、そこから別の木に広がるように木の板などが掛けられていた。


 それぞれの木には穴がほってあったり、外側を大きく削り平坦な四角い窪みのスペースが作られていたりする。


 木から伸びるツルには洗濯物だろうか。服が干されていた。

 頭上の木の枝葉は刈り取られていて陽の光が入るようになっている。

 ひとつの移住スペースとしてなりたっていた。


「すごいな……木の上で生活してるのか。さすがエルフ。

 人数もかなり……」

「んー大体千人以上いるかな」


 俺たちはティアナの後ろについていきながら階段を登っていく。

「思ったよりも多いな。見たところそんなには」


「みんな自分の責務についてるの。交代でね。

 男女関係なく、ね」

「責務?」


「見たでしょ? あの怪物。

 あの怪物を自分達の移住スペース、もしくは禁止区域に立ち入らないように見張ってるの。立ち入りそうになった時はあの矢で追い払う。

 ほら」


 ティアナは自分のお腹に刻まれた刻印を見せた。


「これは?」

「神の刻印よ。これのおかげで私達の矢はあの怪物に届く」



 話してるうちに木の上の広場に着いた。




 俺たちを見て周辺のエルフは動揺していた。

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喜びます。

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