表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/178

アイリス

 アイリスは丁寧な手付きで朝食の魚のソテーを切っていた。

 そして俺たちに言った。


「今日はありがとうございます。

 いつもと同じ簡単な朝食ですがお楽しみいただければと思います」


 リーシアは言う。

「豪華よ? 普通朝食で五皿も置かれないわ。

 更にこの後デザートも出るのよ?


 私とエノアは貴族ではあったけど食べる分しか頼まなかったからね。

 リィファはともかくとして……」


 カンナはうんうん。と頷いていた。

 俺はカンナにちょっかいを出す。


「結構食べ方うまくなったじゃないか」


「し、仕方ないじゃん! 私日本から来たんだしっ!

 ちゃんとお皿に乗ったご飯食べたのなんてひさしぶりだったんだから……

 こっち来てからずっと手づかみの肉を食べてたのよ?」


 アイリスは言う。

「いいではありませんか。野性味が溢れていて。

 私は食べたことありませんよ? 外で狩りをして新鮮なうちに食すなんてうらやましいですよ?」


「確かに味は絶品だけど……ただここの方がやっぱりうまいわ……

 さすが王族の食事……」


 俺はイナがうれしそうに食べる姿を見て言った。


「イナも満足してるみたいだしな。

 食べ方もうまくなった」


「はい! 美味しいです!」


 よしよしと頭を撫でる。

 イナはうれしそうに俺の手に頭を擦り付ける。



 朝食後、俺たちは謁見の間の前に並んでいた。

 アイリスは別行動だ。


 今から即位式だから当然と言えば当然だが。

 この日、即位式に向けて数十人ほど選ばれた人間が謁見の間に集まっていた。

 その時、声をかけられた。


「エノア殿!」

 声の主はガルスだった。


「ガルス! もう怪我の調子も良さそうだな」

「はい。エノア殿の調子はどうですか?」


「もう体も動くようになったよ」

「よかった……」


 そしてガルスはその場に片膝をついた。


「この度は力なき我々の代わりにこの国を守ってくださって感謝します。

 この御恩忘れること無く後世に語り継ぐ所存。

 エノア殿に最大限の敬意をここに」


 俺はガルスの正面で姿勢を正した。


「貴殿の敬意は受け取った。

 顔を上げて構わない。

 貴殿の敬意に感謝を送る。

 って堅苦しいのはなしだ。

 いつもどおりで頼むよ」


 ガルスは顔を上げると硬い表情が砕け笑みを浮かべた。



「国を救っておいて、その器。

 敵いませんね」


 そしてギルド長が後から来る。

 ガルスがギルド長に声をかける。


「遅かったじゃないか」

「ええい。気安く呼ぶな」


「いいじゃないか。幼馴染なんだから」

 俺は驚く。


「えっそうなのか? 随分信頼しあっているとは思っていたが……」

 ガルスはそれを肯定した。


 そしてギルド長は俺の前に来ると頭を下げた。

「やっとお会いできた。


 数々のご無礼。申し訳ない。

 あの日出来なかった謝罪を今、改めて言わせていただく。

 申し訳なかった」


「いいよ。誰も悪くなんてないさ。

 ガルスにも言ったが堅苦しいのはなしだ」


 ギルド長は頬を人指し指で掻くと分かったといった。




 謁見の間の扉が開き俺たちは整列して中に入る。

 玉座の斜め前に立つ人物が諸注意と流れを説明する。


 そして数分ほど待っているとついに即位式が始まった。

 王族の衣装に身を包み、その威厳ある立ち振舞は王そのものだった。

 そしてその表情は涼しげで余裕があるように見えた。


 本来であれば王から王冠を授かるのだが現在その王の席は空席。

 玉座の上に置かれた王冠をアイリスは自分の手で頭に乗せる。

 そしてあのパンドラキューブにつながる指輪をはめ、こちらを向く。


「私はカラムスタ王国の女王として即位したアイリスである。

 全員敬意を示せ」

 俺たちは片膝をつく。


「エノア。顔をあげなさい」


 ?!


「……はっ」

 聞いてないぞ? どういうことだ?


「貴殿の功績を称えたい」

 っ、アイリス……


「前へ」

 俺は立ち上がり、アイリスの前に行く。

 そして再び片膝を着く。


 アイリスは一人の女性を呼ぶ。

 その女性は両手を掲げる。


 その手の上には布が敷かれており、さらにその上に勲章が置かれていた。


「カラムスタ王国の訪問者にも関わらず、命を賭して国を救った貴殿の功績に対し、この勲章を授ける」

「ありがたくお受けいたします」


 アイリスは玉座を降りその勲章を俺の胸につける。

 俺は小声でアイリスに言う。


「アイリス?! 聞いてないぞ! それに王であるアイリス自身がわざわざつけなくても」

 アイリスも小声で返す。


「ごめんなさいっ。ちょっと驚かせたくて。

 それに英雄であるあなたに渡すだけなんて失礼ですよ」



 勲章を付け終わるとアイリスは正面を見る。

 そして腰に差した剣を鞘ごと抜き取る。


 すると今度はこんなことを言い始めた。


「英雄に勲章だけではその功績に対する報酬としては劣ると判断し、王族の証であるこの剣を贈与する」




 ……はい?


 さすがにこの決定には周囲もざわつく。

 なにせ俺も驚いているし俺の見える範囲の人間も驚いた表情をしている。

 そしてアイリスは剣を俺に渡す。


 剣を渡された後アイリスは耳元に口を近づける。


「私はあなたに好意があります。

 男性として」



 はっ……?


 今、なんて。



 アイリスはそう言い終わると下がって構いませんと言った。

 俺は頭の中を混乱させながらその言葉にしたがった。


 なんだ、えっと、勲章もらって、王族の剣もらって、好きだと言われたということか。

 んー、え? だから、えっと。

 アイリスが、俺を、そして王族の剣を、んん?!


 


 そこからの事はあまり覚えていない。

 儀式が終わり、アイリスはそのまま民衆の前に姿を現すため、王城の上へと向かっていた。

 当然俺たちも一緒にいたわけだが……


 アイリスは驚いてくれましたか? と言った。


 俺はそれに答える。


「そりゃもう驚いたさ。

 突然勲章はくれるし、剣も渡されるし、それに……」


「まぁまぁ。いいじゃないですか。

 ちょうど剣もなかったんですから。王族の剣を渡したって誰も怒りませんよ。

 英雄ですから」



「いや驚いてたよ。勲章もってきた女性も進行の人もめちゃくちゃ驚いてたよ?

 本当に大丈夫か?」

「あはは大丈夫大丈夫!」


 ま、元気そうで良かった、かな。

 アイリスはそのままこんなことを口走る。


「お返事、考えといてくださいね」

 一瞬。冷たい空気が走る。


 カンナが口を開く。

「おへん、じ? な、なな、なんの?」


 リーシアも同じく問い詰めてくる。

「エノア……なんのお返事かしら」


 ぞわっと凍える空気。


「えっと……その」

「私がエノアのことを好きと言った件についてですよ」


「「?!?!」」


 廊下でパニックを起こすパーティー。

 アイリスは続ける。


「別におかしなことじゃないじゃないですか。

 だって国を守って、私自身を王としてくれた人。


 そして英雄としてのその勇ましい姿をこの目で見たんです。

 惚れて当たり前です。未来の国王に王族の剣を渡すのは不思議じゃないでしょ?」


 リーシアとカンナとリィファは同時に言う。


「「そういうこと?!」」

 アイリスはその反応を見て笑っていた。


「うふふっ、うふふふふー。

 みんなエノアの事が大好きなんですね」


 一気に場が静まる。


 アイリスはまた話始める。


「一夫多妻でも問題ないから大丈夫ですよ。

 王様ですし。ただ正妻ポジションは私がいただきますね」


 リーシアが止める。


「ちょ、ちょちょっと待って。

 急すぎるわ。急展開にもほどがあるわよ。


 国王なんて話はストップ……だって、そ、そう!

 魔王倒さなきゃ!」


 リーシアは俺を見つめる。


 り、リーシア……


「そう、だな」と答えた。


 その後、アイリスは言う。

「ですから考えといてくださいってことです。

 お願いしますね。ちゃんとお返事くださいね」


 アイリスは俺の真ん前にぴょこっと出てそう言った。

 長く、俺のことをみつめる。白い肌、ぱっちりとした目。


 長いまつげにやわらかそうな唇。

 そのかわいさに固まる。思考も止まって……


 リーシアはアイリスと俺の間に割って入る。



「え、エノアはわたしのだから!」

「それって好きってことですか?」


「す、好きよ?」

「男性として?」


「わ、わひゃひは……その、う。

 そ、そういえばちゃんと面と向かって男性としてってと言ったことないかも……

 からかうだけで……」


 リーシアはくるっと勢いよくこちらを見る。

 リーシアが上目遣いで見つめてくる。


挿絵(By みてみん)


 その目を見ていると心臓が高鳴る。


”心拍数の上昇を確認”


 言わなくていい!!


 くそ、いつ見てもかわいいなリーシア。

 今日はいつもよりしおらしくて……


 ドクドクドクドク



「アイリス様!!」

 侍女が声をかける。


「はーい」


「時間が押しておりますのでお早めにお願いします」


 俺はリーシアの肩を掴んだ。


「い、急ごうか」

「そ、そうね」


 お互い顔を真赤にして歩く。

 ちょいちょいっと裾を引っ張られる。


 イナだ。


「イナはご主人さまのこと大好きですよ。

 男性として、です」


 すんなりと言うなー……

 俺は頭を撫でる。


「そっかぁ」


 イナはうれしそうにしている。

 そして王が姿を表すためのスペースにアイリスは出る。

 アイリスは面前へと出ると即位したことを伝えた。


「私がカラムスタ王国の女王アイリスである」


 そして拍手喝采が起こるとアイリスは俺を表に出した。


「この方がこの国を救った英雄である、エノア様です!」


 そしてまた拍手喝采。正直照れる。


「私、カラムスタ王国女王アイリスは英雄であるエノア様に……

 ――求婚いたしました!」


 おいこら。



「「ええええええええええええええええ」」



 大パニックの後、アイリスはさすがに怒られ、俺たちもクタクタとなった。

 その日の夕食はてんやわんやでとても騒がしいものとなった。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ