勇者適正鑑定
「今日は勇者適正鑑定の日ね」
俺が庭で朝食としてサンドイッチを食べていると幼馴染であるリーシアがそんなことを声高らかに言った。
朝の太陽の光がリーシアの赤みがかった茶色のツインテールを照らしていた。
遅れてきた髪の毛が眩しく輝いてきれいだった。
そんなリーシアに俺は言った。
「朝から元気だな」
「まぁねっ! だってエノアは勇者になるべくして生まれたんだから! 幼馴染が勇者になるなんて誇らしいじゃない。周りからの期待も高いし私も勇者の仲間として」
「ならないよ」
「なんでよっ! 私じゃ力不足? 一応これでも学園トップの成績とかなりの強さを誇るのよ! まぁいいわ。エノアも勇者適正の鑑定が終わったら学園に来るんだし私の実力ってものを存分に見せてあげるわっ」
「冗談だよ。今はそんな風に思ってない。リーシアが期待してくれるなら俺は勇者になるよ」
リーシアは俺の隣に座った。
「冗談言えるようになったじゃない~やっ!!」
「うわっっ」
いつものようにリーシアに飛びつかれるが体が地面につかない程度の力だった。
「服を汚すわけにもいかないもんね。
私を見て」
「っ……」
俺がリーシアを見るとリーシアは俺の事を両腕で抱きしめた。
「あなたは誰かを救える。助けられる。そしてあなたのことは私が助ける」
リーシアは昔からこうだ。ずっと生まれて、自我が芽生え記憶が戻り人を避けていたのにリーシアは隣にいた。
――心を許したくなるほどに。
俺はリーシアに変えてもらった。
もう何もしたくないと思っていた俺をリーシアは変えた。
何年も何年も、俺の隣に座り続けて言っていた。
「大丈夫だよ。リーシア」
「うん。やっと素直になってきた。長かったぞ?」
「……」
俺が口を噤むとリーシアは笑いこけた。
少し不機嫌になった俺にリーシアは俺の頭をなでながら謝まった。
太陽が一番高く昇った頃、俺とリーシア、その他勇者候補の鑑定を受けに来た人たちがいた。自分と同じ年から大人まで多くの人がいた。
大きな広場の中、噴水が水しぶきを上げている。
おかげでこの場所は他の場所よりも涼しいのだ。
その場を取り仕切る司祭が概要を伝えた。
「皆も知っている通り勇者適正鑑定はそのものの才能を図るものでもあります。
勇者適正であれば精霊が白く光り集り。それ以外の色であればその色ごとの適正がある。
勇者適正がなかったからと言って、精霊が光れば勇者の仲間として申し分ない才能があるのだと自覚して鍛錬に励んで頂きたい。
――では始めると致しましょう」
司祭の言葉が終わると端の人間から中央の噴水の前にある魔法陣の上に立った。
最初に立ったのは同じ年くらいだろう男の子だ。
「"大精霊エルビアよ
彼の者の可能性を、未来を示してほしい
大司祭 リンベスの名の元に"」
司祭の言葉の後、魔法陣が赤黒く光った。
強い風が吹いた後、赤色に精霊が染まった。
「司祭様……これは」
彼が聞くと司祭は答えた。
「おめでとう。君には火を司る精霊が反応した。
火にまつわる魔法や技術を磨くといいよ」
「ありがとうございます!」
それから次へ次へと人が魔法陣の上に乗った。
精霊が反応したもの、反応しなかったもの。いろんな人がいるがそれもまた結果。
現に反応しない者を見てみると。
「あっちゃー光らなかったか。まぁそれが当たり前だしな。光らなかったとは言え勇者候補の仲間には精霊が反応しなかった事もあるし」
司祭が光らなかった青年の肩に手をおいた。
「そのとおり。諦めることはありません。
魔王が誕生する前、勇者候補が誕生します。今まで何度もその輪廻が起こりましたがその勇者の仲間に精霊が反応していないものもいました。
勇者候補以外であれば可能性は十二分にありますからな」
司祭が言い終わると女の子がずかずかとその間に入っていった。
「おらどいたどいた。次が控えてるから」
自分とそう年の変わらない女の子が鑑定を受けていた男性に言った。
「なんだこの娘……生意気だなぁー……」
「どけって。終わったんだろ?」
男性ははいはいと呆れながらその場をどいた。
「元気なおなごですなぁ。さ、ここに立って」
司祭が鑑定を行うと。
多くの白い光がどこからともなく集まってきてその子の周りを浮遊した。
「お、おおっ! 勇者候補! 十人といない勇者候補の一人が今ここにっっ!」
興奮しながら司祭は話した。彼女は後ろに控えていた兵士にあるものを渡された。
おそらく招待状だろう。そしてその奥からある男が現れた。
いかにもと言わんばかりな王族のローブ、腰に差した王家の紋章が刻まれた剣。白い服に黒いズボン。見たまんまの……
「王子ね」
リーシアがそう言った。続けて。
「彼、王宮のパーティーで会ったんだけどめんどくさいのよね。
求婚されたけど断ったわ。なんか苦手」
リーシアに求婚、か。
「これはこれはリーシア嬢! 再びお目にかかれて光栄至極」
「あーはいはい。いいから試験受けてきなさいよ。記憶ないんでしょ。前世の。
勇者候補かどうかは分かんないけど転生者らしいからさっさと行ってきなさい」
しっしっとリーシアは手を振った。
「はぁお冷たい。だがそれもいいっ。
こんな生気のない男の隣にいるべきではないほどに。
――さぁ私の隣に」
リーシアは鋭く冷たい目で王子を見た。まるで今にも殺してしまいそうな目で。
「もう一度言えるかしら。私にとってあなたよりも断然大切な人よ。
自分の国の王子よりもね」
「……失敬」
王子は俺を見ると魔法陣の上に立った。恨みと怒りをぶつけるような目だった。
「司祭。始めたまえ」
「承知致しました王子カリム様」
精霊は白く光り、その中に金色の輝きも合った。
「こ、これはっっ勇者適正だけでなく金色の精霊まで。このような精霊は見たことがありませんぞ!」
「そうかっそうだろう! はははっ約束された将来! 気持ちがいい!」
王子はそう言うと魔法陣から離れた。
「んじゃ次は私の番ね」
リーシアは魔法陣の上に立った。
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