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魔王の片鱗

 イナは抵抗することなく身を任せた。



「抵抗しろイナ!」



 ビクッとイナは驚いた。なぜですかと。


 だから俺はイナに言った。


「俺に大事な人を自分の手で殺せってのか?


 今ここで素直に俺の手で殺されることが最善か?


 俺を傷つけないようにすることが取るべき選択なのか?」



「だって、イナは、力が強いです。


 イナが抵抗したら、ご主人さまを傷つけます」



「イナに死んでほしくないんだよ。


 それなのにこの手で殺めたら俺はずっと苦しむぞ」



「……ッ。ごめんなさい!」



 イナは締めようとする俺の手を掴んだ。


 そして俺を突き放す。


 俺は後方に投げ出される。



 そうだイナ。それでいい。ただ受け入れるんじゃなく、自分で考え、自分の意思を示すんだ。



「さて、もう十分かな」



 俺はそういうと司祭を見た。


「この操る方法の種を暴かせてもらおうか。


 司祭、あんたの操る能力は洗脳ではないな?


 こうして自由に会話できてることがその証拠だ。


 人形のように魔素かスキルで操ってるんだろ?


 まるで糸かなにかでつながってる」



「演劇としては終いか。


 だが逃れるすべはない。


 お前ら全員を操り、共に戦わせる。



 それだけで私は勝てる」





「どうかな」


「自由もないお前が偉そうな口を聞くな!」


「なぁ司祭」


「どうした弱者」



「全身が焼けるような痛みに襲われたことはあるか?」


「なに? っっ! ぐぁっ! あついっなんだ、これはっああああ!!」



 俺の体が影に覆われる。


 その影は司祭が操るためにつなげていた糸を伝い、司祭を飲み込む。

 司祭は床で転げ回りながら痛みに耐える。



「いつまで耐えられるんだ?」


「ああっああああ!」



 使いすぎだ。この力に頼りすぎた俺も限界が近い。



「我慢比べといこうか」


 プツンッと糸が切れ司祭は影を断つ。


 俺も影を消し残った痛みに耐える。



「操る順番を間違えたな司祭」



 第一俺やイナ以外を操ったら本体を殺しにいくまでだが。


 向こうの魔力回路が焼けてなければまだ操ってくるか?



「この、小賢しい、まねを」


 司祭は寝そべったままリーシアを操る。


 俺は痛みを耐えるため下唇を噛みながら司祭に向かっていく。

 短くなった剣を振り上げ、それを振り下ろす。



「なっ!」


 目の前にリーシアが立ちはだかっていた。


 俺の振った剣をリーシアが受け止める


 司祭が笑う。



「は、はは。


 パンドラキューブには大量の魔素があるといっただろう。


 操りながら身体強化することなど造作もない。


 そして私は引っ張るだけだ。


 お前など簡単に倒せるわ!」



「ごめんエノア、体が言うこと聞かないの!」


「リーシア、少しの間、耐えられるか」



 リーシアはその言葉の意味を考えていたのかほんの一秒考え込み俺に言った。



「……よしっ! 覚悟きめた! すごい痛そうだったけど、いいよ」


 俺は剣を捨てリーシアを抱きしめる。


 リビア。もう一度頼む。


 ”危険です すでに許容範囲を超えています”


 頼むよ。ここでやらなきゃどのみち終わりなんだ。


 ”……了承”


 影が二人を覆う。影は糸を伝っていき司祭へと流れ込む。


 寸前で司祭は糸を消す。


 リーシアは抱き返してきた。



「もうずっとこのままでもいいかも」


「さすがにそれはちょっと……あれ、痛みは?」


「ん? あれ、ないね」


「そうか、魔力回路を通さなきゃ痛みはないのか。


 全身の痛みは魔力回路から来るものだったからな。


 ――そろそろ離れないか」



「んー……」


 二、三秒強く抱きしめられたあと、リーシアは離れた。


 俺は司祭に言った。



「もう手はないだろ。時間稼ぎも終わりだ。


 諦めろ司祭」



「諦める? ふはは……諦めるわけ無いだろ。


 後もう少しのはずだ。


 だから、な」



 司祭は糸を使い国王と謎の人物を引っ張り出す。


「これであればなんの問題もない。


 そしてお前にだけ触れられなければそれでいいのだ。


 お前が片方に触れればその間にお前を斬るだろう。


 私にその黒いなにかが近づくまえにな!


 ほら、首なしではかわいそうだから頭もちゃんと用意しておいたぞ」



 糸を使い頭と胴体の離れた二人を踊らせる。


 アイリスは自分の腰に差した剣を抜き斬りかかった。



「おおっと」


 司祭は国王の腕で受け止めようとする。


 それに気づいたアイリスはすんでで剣を止める。


 そして司祭に言う。


「このっ……


 お父様を侮辱するだけに飽き足らずこのような非人道的なことまでっ!


 司祭、必ずあなたの首を落とす!」



「やってみるがいい小娘!


 ずっと震えていた弱者が調子にのるな!」



「っっ!」


 アイリスはたじろいだ。


 俺はアイリスの肩に手を置く。



「負けるな。お前は国を背負う覚悟をしたんだろ。


 虚勢でもいい。演技でもいい。貫け」


 力の抜けそうになったアイリスにそう言った。


 司祭は後ずさりしていく。


 そしてパンドラキューブに手を置いた。



「ダメ押しだ。終焉魔法がいくつも使えるほどの魔素。


 こいつをこの部屋に一度に充満させたらどうなると思う?


 当然そんなことは出来ないが、ギリギリまで魔素の量を増やしたら……」


「そんなことしたらお前だって!」


「良くて気絶だ。意識を保っていられるわけがない。


 そして過剰な魔素の吸収により魔力回路の異常が出るかもしれない。


 消失だってありえる。


 だが問題はない。パンドラキューブさえあればいいのだから。


 全員仲良く気絶しよう。目を覚ます頃には終焉が訪れていることだろう」



 司祭はパンドラキューブの彫刻に指をのせ、その模様をなぞるように滑らせた。




 俺は以前。魔素を充満させたことが何回かあった。


 しかしその比ではない。


 一度に放出された魔素は目の前が見えなくなるほどの濃さ。


 呼吸すら出来ない。


 それぞれが口を抑え膝をつく。


 司祭は指を動かした。



「魂のないこいつらに命令を書き込んだ。


 複雑なものはできないからな。


 ただ、パンドラキューブを守れ、と。



 ガキに現実というものを見せ、て、やる」


 俺はその言葉を聞いていなかった。


 俺は、どこにいたのだろう。なにをしていたのだろう。



「口を慎め」


 俺はそんなことを口走った。


 感情が、冷酷で穏やかだった。


 なにもゆらぎがない。


 言ったのは俺だ。俺以外の何者でもない。


 ただそう言った。


 司祭は四つん這いになりながら倒れないようにしていた。


 そして司祭は俺を見ながら言った。



「なぜ、立っている」


 ”魔王としての素質が覚醒しました スキル魔王の威圧 獲得”


 リビアの声すらも届かない。


 ただ自分の性格と感情の変化に驚いていた。


 何が起こっているのかわからない。



「なぜ、だと? 俺が膝をつくはずがないだろ」


「この魔素の中で立てるはずがない! たとえ魔獣でもこの中では毒だ!


 正気を失うレベルの魔素だぞ」



「俺が? この程度で? バカを言うな。俺を誰だと思っている」


 ”魔王の威圧 発動”


「っ」



 司祭は冷や汗をかき、瞳孔が揺れ、恐怖に怯える。


 そして俺は充満した魔素をすべて取り込んだ。


 うしろを向き、リーシアたちの意識がもうないことを確認した。


 その後司祭を見る。


 ブルブルと震えながら言った。


「そんな、まさか! 証拠なんて、ない。


 ないが、対峙しただけで分かる。


 お前は、いやあなた様は、ま」



 司祭は意識を失う。


 俺は何もしていない。



「ふー……ふー……」


挿絵(By みてみん)



 イナだ。俺が手を出すよりも早く、司祭の横腹を蹴っていた。


 司祭は壁に衝突しそのまま気を失った。


「まだ、生きてるか」


 俺は司祭を見ながらそう呟いた。


「はぁはぁ。ァァアア!」



 イナは正気を失っていた。


 パンドラキューブに近かったイナは国王と謎の人物に襲われる。


 イナは鋭い目で下からにらみつけると国王を掌で押しとばした。


 国王は姿が見えなくなるほど吹き飛んだ。



 次に謎の人物の攻撃を避けながら頭を掴み地面へと叩きつけた。


 そして持ち上げると常人では見えない速度で一蹴りした。



 空中で胴体に穴が空き、遅れて謎の人物は柱まで飛ばされる。


 体が柱に埋まっていた。



「イナ」


 俺は声をかける。


「うう、うううう!」


 イナは俺に拳を向ける。俺はそれを避けると、足を払った。


 体勢を崩すイナ。


 威圧を発動してもイナに変化はない。



 イナはすぐさま立ち上がり後ろに身を引く。距離感を見た後、距離を詰めてくる。


「スキル 空虚」


 位置を指定しその範囲に入ったイナは進んだ勢いをすべて消失した。


 イナはその指定位置でうなりながら力なく倒れている。



「力が入らなくて怖いだろうが我慢してくれ」


 俺は力の抜けたイナを持ち上げた。


 そしてパンドラキューブの前に立つ。



「リビア、使い方は分かるか」


 ”はい”


「魔素を吸収してくれ」


 ”マスターの魔素も対象となります”



「構わない」



 ”了承確認 パンドラキューブ起動 魔素の回収を行います”


 リビアは魔素を回収していく。体から魔素が抜けていく。


 ”既定値を下回ったためスキル 魔王の威圧 使用不可


  対象魔王のスキルがすべて使用不可となりました



  魔王としての覚醒を中止 魔素の回収が完了しました




  終焉魔法 パンドラの発動を阻害 成功


  現時点にてパンドラキューブの使用を終了します”



「いい寝顔だ」



 イナの頬に手を当てそう呟いた。


 そして俺はそのまま気を失った。

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