表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/178

最上位氷結魔法

 俺はアンデットドラゴンの攻撃を避けながら詠唱を思い出す。




「イナ。長くはない。


 少しだけ時間稼げるか?」


「やって、見ます!」


 俺はリーシアと目を合わせる。



「いけるな?」


「当然っ!」



 俺とリーシアは足を止めた。


 リーシアは剣を地面に差しその柄に両手を乗せる。


 俺は溶けた剣の代わりに自分自身の手を地面につける。


 謎の人物は高笑いする。



「ははは!


 なにを今更!


 どんな最上位魔法だろうと腐敗し続け、再生を繰り返す我の最高傑作に敗北はない!」



 俺とリーシアの下に魔法陣が形成されていく。


 大丈夫。もうリビアを何度も使ってきた。


 次は、仲間を傷つけない。



「「神の怒りは留まることを知らなかった。


 人も、家畜も、すべてを飲み込んだ。」」



 謎の人物が首をかしげる。



「氷結魔法か。


 よりにもよって氷結魔法だと? なにを考えている?


 馬鹿なのか? 凍らせてどうする。燃やし尽くすなり閉じ込めて我を倒すなりあっただろうになぜ最も相性の悪い魔法を選ぶ」



 こいつは知らない。俺たちが”どこまで”凍らせようとしているのかを。


 表面だけじゃなくそのすべてを。



 「「そして逃げる罪人の背中にいたのは悪魔だった。


 名だたる悪魔は神の怒りに立ちはだかり、その怒りを凍らせた。



 ”フィシア シグベル”」」





 それは一瞬だった。発動されてから氷が形成されるまでにタイムラグはない。



 冷気が走ることはなく、アンデットドラゴンを中心にして部屋全体が氷で覆われる。


 氷から冷気が発生しあたりが白い。


挿絵(By みてみん)



 その後、過剰の魔素は大事なものを凍らせないよう空に向かって氷を生成した。


 アンデットドラゴンは分厚い氷の中で一ミリたりとも動かなかった。



「どうした、アンデットドラゴン。


 腐敗と再生を繰り返してその場から出てこい!



 ……なぜ反応しない。なぜだ!」



「無駄だ。


 どんな魔獣だろうとその力の源は魔素だ。


 その氷の中で魔素は動かない。吸収されることも放出されることもない。


 氷が溶けるまでな。



 そして魔法を扱うための魔力回路は崩壊してる。


 どんなに濃い魔素があってもそいつは動かない」



 

 ま、そんな俺も幾度の氷結魔法で崩壊しかけだが。


 影が魔力回路を流れてるおかげでなんとか保ててる。


 影がなければ俺は今頃気絶してることだろう。後で気絶することには変わりないが……


 謎の人物は顔を強くひっかきながら言った。


「そんな、我の、十年かけて作った最高傑作が……


 魔法一つで崩壊だと?


 認めん。認められるものか!


 アンデットウルフ! アンデットホース!」



 謎の人物は両手を広げ自分の作品を呼ぶ。


 しかし訪れたのは静寂だった。




「なぜだ。この氷のせいか?


 まだだ! まだ壁が!」




 俺は謎の人物に言った。


「言っただろ。



 ”無駄”だ。


 もうこの場において誰も魔法は使えない」



「どういうことだ?」



「凍ったのが氷の中だけだとでも思ったか。


 空気中の魔素も凍ってんだよ。


 動かない。この部屋全体が魔法を使えない」



「最上位魔法でそこまでできるはずが……」



「ああ。だが終焉魔法ほどじゃない。


 これが事実だ。受け入れろ」



「ああ、ああ! 我の悲願が、こんな、こんなことでぇぇぇぇぇ!」



「イナ。割れるか」



「はい」



 イナは氷の柱の前に立つ。


 左手をあてて、深呼吸する。


「いきます!」



 左手を引き、右手の拳を氷の柱に当てる。


 一度亀裂が入り、それが粉々に砕ける。



「ああああ! 我の、我の作品がぁぁぁ!!」



 俺は王女であるアイリスに言う。



「どうする? あいつは」



「命を奪います。


 大罪を犯したものには罰を」




「自分でやるか?」


 アイリスは少し考えた。


 そして返事をする。



「はい。私の手で、愚か者に死を」



 アイリスは謎の人物の前に立つ。



「お前のような小娘に殺されるとはな……


 まぁいい。準備は整っている。



 後は司祭がすべて順序よく進めてくれる。


 その世界を我は見ることが出来ない。


 しかしそれでもいい。


 この世界に終焉が訪れる!」



「そうはなりません。


 この世界には英雄がいるのですから」



 アイリスは自身の持っていた剣で謎の人物の胸を貫いた。



「がはっ……ぁぁ……我も、アンデットとし、て」


「無理ですよ。あなたはこの後、頭部をはねます」



「この、こむす、めが、じゃ、まを」



 アイリスは剣を押し込む。



「誰があなたの思い通りになんてさせるもんですか」



 そして剣を引き抜き頭部を切り離す。


 俺はその一太刀を見て言った。



「お見事。剣の腕はかなりあるんだな」



「嗜みですよ。エノア様、とおっしゃいましたか。


 先程は無礼をいたしました。


 呼び捨てであんな」



「構わないよ。それでいい。それで良かったんだ。


 かっこよかったぞ」



 アイリスは緊張の糸が解けそうになったのか、泣きそうになる。


 父親のことだろう。


 アイリスは震える体を抑えながら俺に言った。


「まだ言わなければならないことはたくさんありますが、まだ脅威は去ってはいません。

 もう少しだけ、力を貸していただけますか?」




「ああ。


 あの司祭を止めるぞ」



 俺は司祭の元へと急ぐ。


 リビア 解析を開始してくれ。



 ”解析中 先の障壁と酷似 解析を省略”



 リビアに解析を頼みながらポーションを飲む。


 リーシアに魔力回路の修復をお願いする。



「私、魔力回路の修復なんてやったことないからうまくいくかわかんないよ?」



「気休めでもいいんだ」


「分かった」



 司祭がどんな力をもっているのかはわからない。


 ただ相手は英雄の遺産を所持している。



 パンドラキューブ。今まで溜め込んだ魔素を相手にするなら、自分の体の心配なんてできなくなるだろう。



 暴走させるかもしれない。影を最大限使うかもしれない。


 そうなれば何日も寝込むか、最悪魔法が使えなくなることだってありえる。


 終焉魔法を相手取るんだ。それくらい仕方ないさ。



 ”解析完了 障壁を崩壊させます”




「壊せた。行くぞ」



 俺たちは奥へと、進む。


 薄暗く、狭い通路を進んでいくと大きな空洞がそこに見える。


 暗いせいか天井がどこまで高いのかすらもわからない。


 その中心に司祭は立っていた。



 こちらを向いてはいない。


 司祭はパンドラキューブを見ていた。


 おもむろに話始める




「きれいだと思わないか。


 これが英雄の遺産だ。


 四角い物体に彫刻が施されている」



 司祭はゆっくりとこちらを向いた。



「彼を倒したのか。


 禁忌を使う彼を」



 俺はそうだと言った。


 司祭は手で顔を覆った。


 悲しそうにしているのかと思いきやそれは間違いだった。



「はは、あはははは!


 滑稽だ!! さいっこうだ! 邪魔者もいなくなった!


 最後の最後まで私に利用されて死んでいったのだな!


 やつの人生は私のためにあったのだ!」



「お前もなかなか頭が足りないんだな」



「ガキに何を言われようと動じはしない」



「そういうのをなんていうか知ってるか?


 都合のいい解釈だよ」



 司祭から笑顔が消えた。



「言葉は慎めよクソガキ。


 お前の前に立ってるのは英雄の遺産を所持した人物であることを忘れるな」



「なら早くやってみろよ。


 まだ出来ないんだろ?


 時間を稼げとさっき言ってたもんな」



「当然だ。この世界すべてに適用させる終焉魔法だぞ。


 時間がかかるに決まっているだろう」



「まだ時間は稼げると思ってるのか?」



「お前たちなど私一人で十分倒せるのだよ。


 パンドラキューブなど使わなくてもな」



「はっ、だったらやってみろよ」


「ほら」



 後ろからなにかに押されたような衝撃がある。


 後ろを振り向くとイナが顔をゆっくりと横に振りながら泣いていた。



「ごめ、なさ。わたし、は」


 腹部に痛みと血がにじむ。



「っ! かっ、ぐぅ……」


 司祭は言った。



「ああ? 仲間割れかぁ?


 随分仲が良さそうに見えていたんだけどなぁ。


 所詮はその程度の関係だったってことか」



 俺は一歩前に出てイナの剣を引き抜く。


 そして横からイナを抱きしめる。



「泣くな。分かってる。俺はイナを信じてる。


 だから気にするな。泣きすぎだって。


 ちゃんと報いは受けさせる」



「うぁ……ご主人さまっ。


 イナ、この手で、さし、あっぁぁ」



 自分の手を見て正気を失うイナ。



「俺を見ろイナ」


 震えながら俺の目を見る。



「どんな目をしてる?」


「いつもと、おなじです……


 やさしい、イナをいつも見てくれる、目です」



「ああ。いつもそばにいるイナの主だ」


 俺はイナを頭をなでた後言った。



「奴隷紋を以て命ずる。


 所有権を取り返せ」



「あれっ体が」



「ま、操られてたとかそんなとこだろうからな。


 あの商人に言われて奴隷紋を用意していたのがまさか吉とでるとは」




 司祭は片足をバンバンの叩きつけ苛立ちを顕にしていた。



「つまらない。つまらないな。


 なんだそれは! 奴隷だと?


 奴隷がなぜそんな服を着ている!



 ちっ……いいさ。


 なら、これでもう手はなくなるだろ。


 なぁ、エノア」



 体が、動かない。


 手が勝手に、イナの首に回る。



「そうだ、そうだそうだ!


 そうでなくては!


 さぁ殺せ、殺せ!!」


 司祭は声高らかに言った。


 まるで劇を見るように俺達を見ていた。これから始まる光景が楽しみで仕方がないって顔をしていた。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ