パンドラキューブ
俺は道中襲ってくる死人をリーシア達と退けながら目的の王城へと走っていた。
リーシアは剣を振りながら言った。
「ねぇエノア! 障壁はちゃんと作動してないのかな?!」
「わからない! 直接王に聞くしか無い。
イナが居たのに入れたってことはその時までは障壁が張られていなかった可能性はある。
でもその後に張られた可能性だってあるんだからな。
そもそもこの事態を察知してないかも知れない。
これだけの騒ぎになればさすがに気づいてるとは思うけどな」
息を切らしながら俺たちは王城へと着いた。
俺の国にあった王城よりは小さいがそれでも王城。
かなりの広さだと見てとれる。
王城の中に入ると正面に上へと続く階段が見えた。
ここから二階に上がってしらみ潰しに探していくしか無い。
この、障害をさけながら……だが。
そこには死人だけでなく、骨だけで動く死人も居た。
階段までの道のりを埋め尽くしていたのだ。
「ちっ……歩く隙間もないな」
リーシアは手をかざす。
「雷鳴が轟く。
その音は天地に伝わる。
その音は罪人の叫びだった。
”ニーア”」
一つの雷鳴。
その振動だけで後ろに倒れそうになるほどの轟音。
それはただの前触れでしかなかった。
リーシアの正面にまっすぐに進む雷槌。
雷槌に触れずとも雷槌の進んだ周囲の死人は足が地面から離れてふっ飛ばされていく。
雷槌の後にはなにもなかった。
しかしあふれるほどの死人たちがその隙間を埋めていく。
「行ってエノア! 私達は次で行くから!
それぐらいの余裕しか生み出せない!」
返事をする時間がもったいない。
今にも閉じそうな隙間を俺とイナは走り抜ける。
あいにく二階には入り口ほどの死人はいなかった。
ここを抜けられるとは思っていなかったのだろう。
「リーシア! 無理はしないでくれよ!」
「おっけー! 任せてよ!」
俺はイナと共に王のいそうな場所を探す。
「最悪のパターンだ。
王はこの事態を察知していないんじゃない。
もう”遅かった”と見るべきだな。
生きててくれよ……まだ国を引っ張る存在がいれば立て直せる」
この部屋に入ってみるか。
俺はイナに静止するように合図を出した。
部屋の扉を開け、中を除く。
「なにもいない、か」
部屋は客人用に仕立て上げられていた。
使っているものも高価なものばかりだ。当然か。
次の部屋に……
「ご主人さま!」
イナが俺の元へ駆け寄る。
俺の後ろのクローゼットの中に隠れていたらしい。
後ろを振り向くとすでに口を開けていた。
それをイナが蹴り飛ばして頭を落とす。
「ご無事ですか?」
「ありがとう。助かったよ」
ホラー映画みたいなことをしやがって……
鼓動が大きくなったのを感じる。イナに聞こえてるんじゃないだろうか。
日本で見たゾンビ映画を思い出したぞ。
「次だ。行くぞ」
「はいっ!」
奥へ奥へと進みついに謁見の間にまでたどり着いた。
「やっぱここか」
イナは耳を動かす。
「います。生き物です。
自分の足で動いてます。それと他に二人。
どちらも動いてはいませんがなにか、喋っているようです」
「よし、様子を見ながら進もう」
「はい」
俺とイナは入り口の石柱に身を隠し、中を覗いた。
そこには体を魔法で固定された国王と思わしき人物。
そしてその横にはきれいな女の子がいた。
薄い緑色の髪が肩と同じくらいの高さまで伸びている。
その服を見るに侍女ではない。
王女か?
そしてもうひとり。
おそらくこの場を支配しているだろう人物は。
”司祭だった”
司祭が国王に問う。
「さぁ早く教えろ。
大事な国をパーにしたくはないだろ?」
「誰が教えるものか、いかに私を拷問しようと無駄だ。
私はガルスを信用している。
貴様の用意したアンデットなど、他愛もないわ。
今にも来るぞ? 私を助けにな」
「そのガルスは今療養中さ。
なにせ私たちが壊したのだから。
あははははは!」
「ふん。ガルスはあの程度でくたばりはしない。
また立ち上がる」
「はー……無駄だって言ってるだろ!」
司祭は国王の顔を蹴り飛ばす。
続けて王に言った。
「時間稼ぎやがって……
ふんぞり返ってるだけの王だからすぐに弱音を吐くと思ったのに……
このっ!!」
「がはっ……
王とはお前が思うようなものではない!
自分の身などかわいくなどないわ!
王とは国の最後の要である。
最後の最後まで、絶対に折れてはならんのだ!」
俺らの王に聞かせてやりたい言葉だ。
死人もいない。これなら……
俺はイナの目を見た。
イナはこくりと頷いた。
中に入った瞬間。
「魔法陣?!」
この場にはイナの把握していないもうひとりの人間がいた。
「……我の家で死んだと思っていたのだがな」
「お前は、あの地下で語りかけてきた……」
イナは耳をぺたんと横にしながら言った。
「そんな……音と匂いはたしかに三人だったのに……
ごめんなさいご主人さま……イナは、悪い子です」
現れた男はイナに話しかける。
「ん? 貴様はたしか……
そこのエノアと一緒にいた獣人か。
自分の耳と鼻に頼りすぎたな。過信してしまった」
俺はイナを片手で抱き寄せる。
「俺が頼んだんだ。
俺に出来ないことをやってくれる。
現にイナがいなければ俺はここにたどり着いてないかもしれない。
失敗みたいな言い方はやめてもらおうか」
「実際そうだろ?
今の状況を理解しているのか?」
「結界だろ。
こんなのすぐに取っ払ってやるよ」
「ムリだな。
そいつはそう簡単には壊せないさ。
なにせ英雄の遺産から力を借りているからな」
「っっ! 外の障壁と同じか!」
「そうさ! ただし操れるわけじゃない。
障壁の範囲をお前の立っているその場所にも適用させただけだ。
ただ範囲を追加しただけ。
しかし障壁はたしかにそこにある。
お前達は出れない。ことの顛末が終わるまで」
国王は俺たちを見て言った。
「お前たちは、なんだ?
なぜここにいる」
「俺たちは冒険者さ。
この国ではこいつらの代わりに嫌疑を掛けられているがな」
「エノアか!
すまないとは思っている、だがこの件については、後日謝罪させてほしい。
ガルスから話は聞いた。
ガルスは、ガルスはどうした!」
「今は街を守っている。
あんたの言う通りあの程度の怪我じゃ寝たきりにはならないらしい」
「そうか……」
司祭が口をはさむ。
「はいはいはいはい!
そんなことどーでもいいんだよ!
全く、邪魔をして……
まぁここまで来たんだ。お礼も言わないといけないな。
どうせ貴様らは終わる。
エノア、貴様はもともと障壁を発動する予定だったんだよ。
今お前が囚われてする障壁と同じ方法を使ってな。
だがそんなことをせずとも障壁は発動した。
なぜそんなことをしたかって?
障壁の起動する値を弱めるためだ」
王は言う。
「あの時、私に調整するよういったのはそのためか。
なぜそんな必要がある」
「頭がたりねぇなぁぁぁぁ!
アンデットを入れるために決まってるだろぉ?!
今日のために十年かけた!
その十年で十分な素材を用意した。
一度入ってしまえば障壁は意味をなさない。
今更発動したって意味がないぞ?
まぁそんなことできるわけないけどな。
なにせお前は今どーすることも出来ないんだから」
「ただ耐えるのみ。
お前の言う通りになどなるものか」
「言うさ。
いつまでも続く。永遠に耐えられる人間など存在しない。
いいか? 英雄の遺産。パンドラキューブ。
お前達は使い方を間違えている。
ただ魔素を吸収するだけのものじゃない。
それを利用して障壁を作るだけのものじゃない。
パンドラキューブには吸収した魔素が何百年もの間たまり続けてる。
それだけの魔素があれば終焉魔法を発動できる。
わたしは見たい。終焉魔法を、魔王の時代を!
平和に身を包んだ退屈な世界などおもしろくもなんともない。
終焉魔法を使い世界を魔素で満ちらせる。
魔族もこちらにくるだろう。
そしてその世界でも勇者は現れるのか。
圧倒的不利な状況で勇者は勇者足り得るのか。
私は混沌を望む!」
謎の人物はそれを否定する。
「お前の世界などどうでもいい。
我は自分の子供たちを世界に放ちたいのだ。
パンドラキューブの力を使えばこの世界の至るところに我の子供たちがそんざいすることができる。
アンデットが中心の世界が存在できる。
そこで我は王となるのだ」
「ふんっ。
まだそんなことを言っているのか。
私の世界と共存できる内容だから見逃しているだけなのを忘れるな。
安心しろ。終焉魔法を二回使ったとて魔素はなくならん。
底知れない魔素量だからな」
俺は鼻で笑った。
「はっ。下らないな。
所詮妄想程度の理想でしかない。
なにも考えてない。ただ口にしてるだけの理想郷。
その未熟さを英雄の遺産を使って埋めようとしてるだけ。
そんな程度の野望で世界を変えられるわけないだろ!」
司祭は国王の顔を踏みつける。
「この、ガキが……
ふ、ふふ、ふはははは!
お前の言う通りさ。そのために十年使った!
そして妄想程度の理想は今、叶おうとしている!
それが英雄の遺産の偉大さなんだよクソガキ!!
はぁ、はぁ……
こんな私でも国王を殺すことはできる」
リビア、まだか!
”解析中 この国全体の障壁を演算中”
まだ時間が必要か……
俺は剣を障壁に突き刺そうとする。
が、壁にまったく傷が入らない。
リビアの解析を一旦止めて暴走させるべきか。
俺はそう悩んでいた。
自滅覚悟で……だめだ、近くにイナもいる。
くそっ……
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。