調査団
ギルド長は全員に腰掛けるように言った。
ギルド長はの体格は大柄で鎧を着ていた。
長いひげを整えながらギルド長は話し始める。
「私がギルド長だ。装備を身に着けているのは緊急時のためだ。
気にしないでくれ」
そういうと続けて話し始める。
「概要は聞かせてもらった。
ミラムの街に向かう途中の林の先で死人に襲われたのだな?」
クルケッドは返事をする。
「はい。僕が依頼主です。
ギルド長もご存知の通り現在交易が滞っている状況です。
そこでギルドに依頼し、エノアさん達に協力を仰ぎミラムの街に向かいました。
しかし林を抜けた先で死人に襲われました。
エノアさんが気づいたのですが林に入る前から不自然だったのです。
おそらくミラムの街へ向かった商人や冒険者はみな……」
ギルド長は手を前にだし言葉を静止させる。
「理解した。こちらの方でも調査を進める。
死人達はそのいなくなったと噂される商人や冒険者か?」
「はい。そのほとんどは武装をしていませんでした」
「ふむ……行方不明の捜索の依頼はいくつも来ていた。
それらは国の兵士に流したが……
彼らもいなくなってしまったのだろう」
俺はギルド長に聞いた。
「割って入ってすまないが聞きたいことがある。
調査をするということはあの場所に行くということだな?」
「そうなる。
これは解決するべき問題だからな」
「相手は斬っても倒れない。移動手段をなくすかそれこそ首を落としたり四肢を切り落とすくらいのことはしなきゃならない。
そんな敵が出続けるんだ。大丈夫なのか」
「私もギルド長に就任できるほどの実力はある。
調査団に同行するつもりだ。隊長であるガルスにも協力を要請するつもりだ。
一体誰が、なんの目的でこんなことをしているのかを突き止める。
そして処罰する」
俺はギルド長に言った。
「少なくとも金品の強奪ではないだろう。
割にあわない」
「ほう。確かにあの場所で強奪するくらいであれば他の場所の方がいいだろう。
しかし割にあわないほどとは思わんがな」
「魔法の規模だ。
ここらでは魔素がほとんどない。
そんななかであの数の死人を作るのはほただただ骨が折れると推測している。
”死んだ人間を動かし続ける”なんざこの場所で行うには問題がある。
それに金品強奪だけならあの数は必要ない」
「ふむ。詳しいな。
分かった。別の目的があると踏んで調査にでる」
ギルド長はその場を立ち上がり奥に消えていった。
ギルド所属の人に案内され俺たちは一階の酒場に戻った。
そこでリィファがなにか嫌な予感がすると言い始めた。
「不穏ですわ。なにか大きなことが始まろうとしてるのかも知れませんわ」
「かも知れないな。目的がわからない以上何も出来ないが準備だけはしておいた方がいいだろうな」
「そうですわね。わたくしも自分の身を守ることくらいはしなければなりませんわ」
「その意気だ。がんばろうな」
「はいっ」
リィファは笑顔でそう答える。
それから一週間。俺たちは調査団の報告を待つだけだった。
そして調査団は林に向かった。
その間俺たちは、なにかあった時のためにポーションなどの買い出しなどをしていた。
町中を散策していると、大声で住民や商人などの街の人に呼びかける声が聞こえた。
「今! この国にエノアという罪人が来ている。
こいつは自分の国で反逆を起こした大罪人である!
街を壊し、人々に危害を加えた! 各々注意せよ! そしてエノアという冒険者を捕まえたものには報酬金を出す!
やつは国の王女を攫い、貴族をも連れ去った!
処罰として死刑とする!」
っっ! 死刑、だと。
リィファが驚く。
「そんな、わたくしのせいでこんなことに……
今からでも戻りますわ。そしてこんな馬鹿げたことやめさせて」
俺は今にも飛び出そうとしているリィファの肩に手を置いた。
「いや、意味はないだろう。
あいつらのことだ。どんな事でもでっち上げる。
こうなったってことは俺を殺したいということさ」
俺たちは身を隠していた。
すると叫んでいた兵士に商人たちが表にでる。
彼らは俺がエノアであることを知っている。
「貴様ら! 狐の獣人を引き連れた青年を知らないか!
このまま放っておけばこの国でも大罪を犯すだろう!
やつこそ大罪人の」
「帰りな」
商人と街の住人がなぜか立ちはだかる。
「な、なんだと! 貴様! 我が国に喧嘩を売るつもりか!
我が国は」
「関係ないさね。よそで何やったか知らないけどね。
ここはカラムスタ王国だよ。
直接国王に言ってきな! 私達は協力しないよ」
「そういうことであれば我々も」
「私達全員を相手にするかい?」
兵士はたじろいだ。
通りに出ていた数十人の住民と商人に対して兵士は一人である。
元々戦いに来たわけではないのだろう。
数秒の沈黙の後、兵士は逃げ帰った。
俺は表に出て言った。
「なんであんなことしたんだ!
自分達に危害が加わるかも知れないんだぞ!
わかってるだろ? あの国はっ」
俺の言葉を遮り商人の婆さんが話し始める。
「なにも知らなかったら協力してただろうね。
ただあんたはうちのお客さんだ。
そして客としてのマナーを守ってる。
第一あんたがそんな人間には見えないからさ。日は浅いけどね」
「だがっ」
「あんたが何もしてないならそれでいい」
その直後だった。
いくつもの馬車が駆け込む。
「なんだいなんだい! 騒がしいね!」
商人の婆さんがそう言って道を開ける。
彼らは兵士だった。そして複数の冒険者。
後方からギルド長が歩いてくる。
足取りはフラフラとしていて今にも倒れそうだった。
「反逆、だ」
そう言うとその場に倒れた。
近くにいた兵士達が肩を貸した。
ギルド長が足を前に踏み出しながらつぶやいた。
「術者は見つからなかった。死人を通して、
私はエノアだと言った。反逆を起こす、と」
「ま、まってくれ。俺はなにも」
遠くの方から声が聞こえた。
「確か国に入る時障壁が起動したんじゃ」
不穏な空気が流れる。
口々にそんなまさか……とざわめく。
さきほどの商人が大声を上げる。
「いいかげんにしな! そんな馬鹿正直に言うかい?!
なんの意味があるって言うんだい!」
「分かってる! 分かってるけど……
彼らがきてから」
「そう簡単に決めつけるんじゃないよ!
あんたらだって今日まで接してきただろう?!
だったら」
俺は言った。
「いいんだ。
こういうのは慣れてる。人は出された情報で判断するしかないんだ。
疑ってくれていい。
ただ、もしも俺が、この件に関与していないことが分かったら。
本当の犯人が現れたら、また以前のように普通に接してくれるか」
疑っていた住民がこう返した。
「悪かったとは思ってるよ。疑ってすまなかった。
でも疑いは晴れてない。
疑いが晴れたら改めて謝れせてくれ」
「十分だ」
俺たちは宿に戻った。
「とっ捕まえるぞ」
それぞれが頷く。
「と言っても手がかりがまったくない。
だが俺のことを知っている人間だというのは分かった。
これは罪をなすりつけたいのか、それともそうする必要があったのか。
俺に注目を浴びさせたいのか。
だめだ。今は全く目的がわからない。
術者を見つけられればそれが一番手っ取り早いんだがな。
明日、俺とイナで林の先に調査に行ってくる」
リーシアがちょっとまってと言った。
「私も行くわよ?」
「いや、残ってくれ。
俺とイナなら身体能力や強化ですぐに脱出できるだろう。
リーシアももちろん実力不足なんてことはないが」
カンナが手を挙げる。
「あーわたしたちのせいよね。
自分の強化もままならないしただ危険なだけだもんね」
「調査するだけだからな。
人数は必要ない。リーシアを置いていくのはこの国、もしくはカンナとリィファに何かあった時に守ってやってほしいんだ」
「分かったわ。
そういうことならお留守番しておくわ」
「ああ。頼むよ。今日は休もう。
今から行ったんじゃ日が暮れる」
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