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終焉/始まりの鐘

 ルーフェン・ダグラスの衣服はところどころ焼け焦げ、傷も負っていた。ルーフェン・ダグラスは傷を治しながら言う。


「いつまで寝ている子どもたちよ。さっさと起き上がりこの者共を殺せ」

 シェフィによって仮死状態にあった神達が起き上がる。


「面倒だな……」

 ルーフェン・ダグラス一人だから対処しやすいが神を大勢相手するとなると状況が劣勢になる。


「そうよね。長いのは面倒よね」


 いつの間にかシェフィが俺の隣に立ちそう答えた。


「血滅崩落 三ノ章 転」


 神達が一斉に走り出す。俺が剣を構えるとシェフィが問題ないわと言った。

 その言葉通り神達は俺達を避け、ゼートとトアのいる三神、アイリスとティアナがいる天使達の所へと走り出した。

 そして神たちは三神や天使達に襲いかかる。


「シェフィ……これは」


「血雨はいわゆる私の毒みたいなものよ。私の血を多く取り込んだ仮死状態の神達を好き勝手できるってだけの話。

 これであの子達は父親の話に耳を傾けないでしょうね」



「さすがだシェフィ!」

「わっちょっ何よ!」


 俺は活躍しすぎるシェフィを褒めた。軽く抱きしめるとシェフィは俺をやさしく突き放す。うつむいて赤面した顔を隠した。


「よし、これで戦いやすくなった。それに三神と天使達の相手を神がしているのなら……」



 俺達の前にゼートが降り立った。ゼートの着地によってひび割れた地面の破片が上空に多く舞っている。

 にらみ合うルーフェン・ダグラスとゼート。


「ゼート……」

「この形も久しぶりだな神よ。いやダグラス」




 アイリスがリーシアの横に瞬間移動する。


「リーシア、これを」

「これ、アイリスの剣じゃない。どうして私に?」



「私とトア、ティアナは魔力も魔素も使い果たしました。これ以上の戦いは後遺症を残してしまいます。パンドラキューブによる補佐は行いますがどこまで持つか……

 リーシアが二刀流を扱えることは知っています。エノアが帰ってくるまで一緒に稽古をしたのですから。

 魔力の剣ではなく、アイリスの剣を使ってください。魔力を使うよりは楽なはずです」


「いいの?」

「返事が必要ですか?」


「ううん。受け取るっ!」



 ゼートが魔法陣を発生させながら拳を振るった。

「モルティグ・ディオン!」


 ゼートとルーフェン・ダグラスの間に巨大な壁。どうやら破壊しても新しく作り直せるらしいな。神の壁は。


「ゼート。貴様には手加減などしない。貴様が壁を壊すたびに壁を作り出し、完封して見せよう」

「モルティグ・ディオン!」


 たった一度の攻撃だけで周囲が破滅しそうな衝撃。俺達もパンドラキューブによる障壁がなければ吹き飛んでいた。


 ゼートはその拳を振るのをやめなかった。連打の速度がどんどん上がっていく。



「一万年という長い年月、我は正気を失いながらも叫んでいた。

 あの日届かなかったこの拳を今こそ貴様の顔にぶち込むのだ。最後まで友と共に戦うことが出来なかった後悔を、友を殺しかけた自分の愚かさを。

 もう二度と友を失わないと我はこの拳を振っているっ!」


 ゼートは体を仰け反らせながら両手を構える。

「ォォォォォオオオオオ!!」


 さらにゼートはギアを上げていく。


「っ!」


 ルーフェン・ダグラスは両手を前に構え、さらに壁を早く生成する。


 少しずつ、少しずつゼートは前進する。ルーフェン・ダグラスの壁生成能力を超え始めたのだ。

 ゼートは大きく踏み込む。ルーフェン・ダグラスを守る最後の一枚を割った。


 もはや間に合わない。そう考えたのかルーフェン・ダグラスは叫んだ。


「子どもたちよ!!」



 シェフィの支配下にあった神達が分解されていく。


「これは……貴様また自分の子を犠牲にッ」

「我さえ生き残ればそれでいい」


 細長い紙のようになった神達。それらはルーフェン・ダグラスの元で渦巻いた。紙一枚一枚に刻印が浮かび上がり、焦げるように消えていく。


 全てが燃え尽きた時、ルーフェン・ダグラスは言った。



「これで終いだ。ほとんどの神を使った終焉魔法――虚無」


 ルーフェン・ダグラス周辺の地面が紙切れのようになっていく。それは侵食するように広がる。紙切れとなった部分は燃え、消えていく。


「全て消えるのだ。お前達を全員消滅させ、またあらたな天界を作り上げる」


 ゼートは上空に飛び上がっていた。俺はゼートに向かって叫んだ。


「待てゼート! 今は一旦退いた方がいい! そのまま行くとお前でも」



「我を信じよエノア! 我はこの主神をぶん殴るとグロウと約束したのだ。これしきの事で消えはせぬ!」


 ルーフェン・ダグラスは言った。


「馬鹿めゼート! お前は分解され尽くして消えるのだ! 文字通りこの世界から!」


 分解範囲にゼートが入る。拳が消え、手首が消え、次々と分解されていく。



「ゼートよ、早まったな愚か者が!」


「今そこ約束を果たす時だグロウ」



 ゼートの拳が再生していく。ゼートの再生能力がルーフェン・ダグラスの分解能力を上回っていた。


「なぜだっ! そんな……はずは!」


「エノアと血の契約を結んだ時、グロウとの契約も再び結ばれたのだ。

 エノアにより我は終焉の力を維持し、グロウとの契約により能力の強化を得た。二度目のグロウとの血の契約は我の力ではなく、終焉の力を向上させたのだ。


 貴様は我の再生能力と対応能力を見誤った。あの日我を終焉の魔物にした時と同じだと考えていたのだ。だから我は貴様の再生能力を超えることが出来たのだ!」



 ついに再生速度が分解を感じさせないほどにまで上がり、ゼートは何の問題もないかのように玉座に座るルーフェン・ダグラスへと近づいた。


「くっ、天使、神達よ!」


 ルーフェン・ダグラスはさらに生贄を使おうとした。



「往生際が悪いわよルーフェン。


 血滅崩落――最終章 崩落」


 ルーフェン・ダグラスの分解の力が消失した。

「なぜ、だ!」


 ルーフェン・ダグラスによる呼び声も届かない。生贄は中止された。


「血滅崩落。起承転結の全てが揃ったわ。

 あなた、何を取り込んだか分かっているの? 私の血が流れた神の子供達をたくさん使ったわね」


「なぜ、なぜ原初のお前が未だにこんな力を持っているのだ! 一万年前に戦った時はこのような強さは保持していなかったはずだ!」


「さぁ?」



 シェフィは俺の耳元で言った。


「ごめんなさい。ここまでが私の出来ることよ。もう力が残ってない。相手が相手だもの。許して頂戴。でもこのまま力を持っているという嘘を突き通すわ」


 俺もシェフィの耳元で言った。


「分かった。後は任せろ」

「ええ、頼もしいわよ。エノア」


 なるほど、最後に名前をつけられると強調されてちょっと恥ずかしいな。



 ゼートは玉座の肘掛けに左足をのせた。そして力強く握られた右の拳でルーフェン・ダグラスの頬をぶん殴った。


「モルティグ……ディオン!!」


 ルーフェン・ダグラスは玉座からはじき出される。その巨体が一瞬にして地面にめり込む。地面と衝突した瞬間、周囲に大穴が開いた。


 ゼートの本気だった。


 危険を感じたアイリスは障壁を何重にも張った。クロエ、破龍、リィファも障壁を重ねる。

 何重にも張った障壁が一瞬にしてほとんど割れた。


 そして衝撃音が遅れてやってきた。今まで聞いたこともないような振動が体を伝う。

 俺はその一撃と衝撃を見て、こう呟いた。


「すごい……」



 ルーフェン・ダグラスは口から大量の血を流しながら上半身を起こした。

「がっ……」


 滝のように流れる血。

 ゼートはそれを見ながら息切れを起こしつつ言った。


「はぁ……はぁ。やったぞグロウ。我の拳が届いたのだ。あの主神に。見ているか。見えて…………散々つきまとっていたというのになぜお前はここに居ないのだ……

 グロウよ、エノアのおかげなのだ。我がこれを成し得たのは、どうやって伝えたら良いのだグロウよ」



 俺はゼートに言った。


「虚しいか?」

「うむ……だが晴れやかな気持ちではあるのだ」


「おかしくはないさ。感情は一つじゃない」



 ルーフェン・ダグラスは口を抑えながら言う。


「ゼート、シェフィ。貴様らのせいで我の言葉は子どもたちに届かなくなり、痛手を負った。であればこの選択もやむなしだ。後悔するがいい。


 この天界を、世界を消費する」



 俺はアイリスに合図する。アイリスは俺をカンナの隣に転移させた。


 カンナは言った。



「やるんだね」

「ああ――勇者スキル 鎖」


 アイギア、カンナに擬似神話を教え、このスキルを作り出したってのはこういう使い方を想定していたんだろ?



 カンナは杖を床から離す。ヨミが侵食を止めた。見えない鎖が俺の手首とカンナの手首を繋いだ。

 俺は神話の詠唱を始める。そしてそれに続いてカンナも詠唱を始める。



「ルーフェン・ダグラスは自分の上に立つ主神を冥界にて殺した」

「大国主神はイザナギとイザナミを黄泉の国にて殺した」


 疑似神話。存在しない神話を同時詠唱する。



「ルーフェン・ダグラスは新たな世界をつくり、そこを新たな地としていた」

「大国主神は新たな高天原を作り、そこを新たな地としていた」


「「新たな主神は人々を、神の子を自らの利点の為に扱っていた。

 そこに個人はなく、全ては主神の為に。それこそが美徳であるとした」」



「故郷を捧げられたグロウは神への反逆を決意する」

「故郷を失ったニニギは神への反逆を決意する」



「グロウはアイリスの聖遺物を身に着けていた」

「ニニギは天照の三種の神器を送られていた」



 俺達はそのまま神話の詠唱を続ける。俺は魔王の魔力を、カンナは自身を通したヨミの氷から魔素を使っていた。

 クロエが俺の後ろに転移する。そして俺の肩に手を乗せるとクロエの手首にも鎖が繋がれる。



「――輪唱 開始します」


 クロエは遅れてダグラス神話を否定する形で詠唱を始める。


 ルーフェン・ダグラスは危険を感じ取っているのか俺の元へ行こうとする。しかしそれをゼート達やシェフィのブラフにより防いでくれていた。




「「神は魔王ニニギを殺し、命の選別をした。選ばれた者は天界(高天原)へ、汚れた魂は影の世界(黄泉の国)へ。

 そして人の生きる世界という三つの世界を作り出した」」


「神は魔王に殺され、命は尊厳を取り戻した。世界は生きるものと死んだものの世界の二つに分かたれる」




「「神話の終幕」」


「新たな幕が上がる」




 俺たちは最後の一言を加える。


「「「終焉/始まりの鐘」」」



 上空に一つの大きな鐘。その鐘が揺れ、その音を天界に響かせる。世界に亀裂が入っていく。俺達の中心から黒い影達が世界を覆っていく。ルーフェン・ダグラスに捨てられた魂達。


 それらは天界を覆い尽くしていく。ルーフェン・ダグラスは異変に気づく。



「制御が、効かないだど……まさか、貴様……この我から天界の実権を奪い取ったというのか!」


「天界が終わり始めてるんだよ。そして影は一時的に別の世界を作り出した。天界は現世と一体化する。直にこの影の世界も消える。

 もう終わりなんだよ」



「まだだ。お前達を殺し、再び世界を我のモノとする。そしてまた天界を作り出せばいい」

「だが天界に存在する魔力はもうない。お互い魔力だけで戦うことになる」


「神の力を侮るな」


 俺は力を使い切ったカンナの頭を撫でる。


「お疲れ様」

「うん、ちょっと……疲れちゃったかも」


 カンナはそのまま眠り落ちた。影の管理に忙しいクロエにも声を掛けた。


「後もう少しだけ頼む」

「任せてくださいマスター」


 クロエの頬に手をおいた。


「待っててくれ」「はいっ。行ってらっしゃい」


「影踏み」

 俺はルーフェン・ダグラスの前に立った。


「ここは影の世界。俺の独壇場だ。お前もそうやって以前の主神二人を殺したんだろ?」

「黙れ魔王。神である我を殺すなどという戯言をねじ伏せてくれる」


「行くぞイナ! リーシア!」


 俺達はルーフェン・ダグラスに向かって走り始めた。地に落ちたルーフェン・ダグラスは炎の槍の雨を降らせる。そして自分自身も大きな炎の槍を手にする。


 リーシアは詠唱を開始する。


「その音は天地に伝わる。

 その音は罪人の叫びだった。

 ”ニーア”」


 俺達の進むべき道に雷鳴が轟く。一瞬道ができるも槍がなだれ込んでくる。


 リーシアの連続詠唱。


「神は世界に力を注ぎ、世界を分かつ――囚われの森」



 地面から木の根っこのようなものが急成長する。槍から自分達を守るようにそれは高く伸びていく。




 ルーフェン・ダグラスは俺達に向かって槍を大きく構えていた。


 その槍を投げる前に俺は手を上から下に下げて合図する。影の空から人の上半身のようなものが降りてくる。それはルーフェン・ダグラスなど比ではないほどの大きさだった。

 ルーフェン・ダグラスはその影に押しつぶされる。両手を伸ばし、それに耐える。


「ぐっくッッ! ただの魂如き……我の相手になど……!」


 ルーフェン・ダグラスの腕は震え、地面にもう一段階埋まっていく。


「主神は絶対だ。絶対なのだ。我の時代は終わらない。永遠に続くはずだ。変化など起きるはずがない……!

 ケアト! アルマ! ルーマ!」


 唯一残った三神。アルマとルーマが俺達を追いかけようとする。

 その二人をゼートとケアトが食い止める。


 ゼートは言った。


「良いのかケアト。殺し合った相手に寝返るなどと」


「構わない。この生命終えようと。

 人の可能性を見た。それを遮るのは正しいと感じない。

 前々から思っていた。神の在り方に」



 ルーフェン・ダグラスは叫んだ。


「ケアト、キサマァァァ! 父である我を裏切るというのか!!」


 ケアトは答えない。父の言葉に。



 一足早くイナがたどり着く。


「イナが時間を止めます!」


 俺はイナに言った。


「待てイナ! イナの魔力量でそれをしたら」



 言い終わる前にイナは狐氷を使った。

 狐氷をルーフェン・ダグラスの足に刺し、両手で押さえる。体の至る所から血が吹き出していた。


「イナは離しません。絶対に。ご主人さまのためならどんな痛みにも耐えられます!」



 ルーフェン・ダグラスの動きが止まる。ルーフェン・ダグラスの持っていた槍がひとりでに動く。ルーフェン・ダグラスを囲むように炎が舞い上がる。その広範囲に渡る炎をリィファが打ち消した。


 残った槍の雨が空に集まる。それらは重なり炎の塊となって俺達に降り注ぐ。俺は範囲を見極めて魔法を使う。


「隔絶魔法」



 炎の塊はその地点で動きを止めた。俺はガディウスに魔力を込めながら転移させる。


 ガディウスは炎の塊の中へと入る。炎を破壊しつくし、隔絶魔法の壁を破壊すると地面に落ちていく。そしてそれが床に刺さった時、俺達はルーフェン・ダグラスの目の前に居た。



 俺はイナの背中に手をおいた。


「良くやった。もう俺達が怪我することはない。これ以上の追撃がなかったのはイナのおかげだ。お疲れ様」

「ごしゅ、じん……さま」


 イナが倒れると俺はそれを支える。イナを後ろに寝かせる。

 そして俺はリーシアに話しかける。


「リーシア」

「うん。何をしようとしてるのか分かるよ。エノア」


 俺とリーシアは同時に言った。


「「省略詠唱」」



 ルーフェン・ダグラスは時間が動き出し、地面に膝と肘を付け、影の重さに耐えきれずにいた。支えきれないそれはお前の罪の重さだルーフェン・ダグラス。


 俺とリーシアは魔王の剣とアイリスの剣の腹をルーフェン・ダグラスに向ける。



「「――フィシア・シグベル」」

挿絵(By みてみん)


 俺とリーシアの口から白い息が漏れる。ルーフェン・ダグラスは凍てついた。


 俺とリーシアは魔王の剣とアイリスの剣をフィシア・シグベルの上からルーフェン・ダグラスに突き刺した。フィシア・シグベルが大きく割れる音がする。


 フィシア・シグベルの氷は細かく割れながら空へと消えていった。

 そして魔王の剣とアイリスの剣もまた……消えていく。


 リーシアが俺の手を握ってきた。俺はその手を握り返す。

 消えてくものを眺めながらその手を繋いでいた。



 影の世界が晴れていく。リィファが現世への門を開いた。


 俺はイナを抱きかかえながらゼートに言った。


「ゼートの中の終焉の力は消える。アイリスの剣も、魔王の剣もその役目を終えた」

「うぬ。グロウとアイリスはここで終えたのだな」


「ああ」


 アルマとルーマも抵抗することなく運命を受け入れた。俺は三神にも言った。


「もう神の力は残らない。ここで神として終えるか現世で人として生きるか」


 ケアトはトアを見た後に言った。



「現世へ行く。人を見てみたい。この目で。

 その前に我が父が再建の為に残した天使と人にこの事を伝えに行く。各々に選択させるつもりだ」


「まだ天界が消えるのには時間がかかる。けど猶予が多く残されているわけじゃない」


 ケアトは頷いた。




 神の――ルーフェン・ダグラスの時代は終焉を迎え、人と魔族が自分の足で歩く時代が来る。

 すやすやと寝息をたてるイナを見て俺は少し笑った。


「まだ子供だな」


 こう言ってしまうときっと怒られてしまうだろう。子供じゃないですって。


 俺達は現世への門をくぐり、ルーヴェスト帝国へと帰った。

 満身創痍の状態で戻るとミルさんがおかえりなさいと出迎えてくる。


「ただいまミルさん」

「お疲れさまです。こう言うのも久しぶりですね」


「ああ。結構疲れた」


 ミルさんの後ろでアビスが頭を下げる。イビアはそっぽを向きながらチラチラとこちらを見ていた。そしてその横でルミアがもじもじとしている。


「ただいま、ルミア」

「お、おかえりなさいませ!」


 四人と少し話した後、俺はイナとカンナを寝かせてからリドの元へと向かった。

 リドは外壁の外に立っていた。


「そんな顔だったんだな」


 俺がそう声をかけると帽子を深くかぶる。



「あまり自信ないのですよ。それに顔を見られるというのは好きではなくてですねぇ。

 私の仮面もイリアスの仮面と同じく力を塞ぐ力がありまして」


「世界の崩壊を止めるためか?」



「それもありますが原初の力を垂れ流しのままだと魔族に恐れられるのです。

 シェフィのように制御出来ませんし。

 それで何用ですか? 戦いが終わったというのに体を休めずに私の元にくるとは」


「グロウからの伝言だ。期待はずれですまない」


「くくっ、何を勝手に勘違いしているのやら。どこがはずれなものですか」



「それと――本当にありがとう」


 リドは急いで仮面をつけた。

「これだから素顔を晒すのは嫌なのです」



 俺はリドの背中を軽く叩いてその場を去った。



 その日は全員疲れ果てそれぞれ自室で眠っていた。俺はリーシアと同じ部屋にいた。


「終わったね。エノア」


「ああ。ここからが大変だけどな。ミレッド帝国のこともあるし、ダグラス王国も援助しないとカリム一人では荷が思いだろうからな。

 天界からの天使や神も来る。行き先も考えなきゃならない。

 魔王であり勇者であるってのも公表したがそれが魔族と人との繋ぎになるかどうか」



「まだまだ休めそうにはないわね」

「あぁ、本当にな」


「少し落ち着いたら……エノアの家に行こうよ。こうやってまた手をつないで……」


 リーシアは俺の肩に寄りかかる。俺はリーシアの手をやさしく握る。

「そうだな。そこでまた――思い出話をしよう」

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