表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/178

アイギア

 ボクはボクの役割を理解した。

 神として生まれたボクの為すべきことは人の道を示し、切り開くことだ。


「終焉の少女、君は異世界の人間だね」

「え、あ、はい……初めまして? カンナです」


「そう、君とは初めましてだ。

 君は日本神話を起源として魔法しか扱えないね。ひとつ君にお告げを残していく。

 この世界の神話に登場する配役を日本神話に置き換えた疑似神話という方法がある。きっと役に立つ。覚えておくといいよ」


「え、あ、はい。でも私この世界の神話詳しくないんですけど」


「博識の子がいる。その子から聞くと良い。

 時間がない。これ以上この話は出来ない」


「分かりました……?」


 ボクはアイリスという少女に声をかける。


「君はアイリスという名だったね。ボクが生まれた城の中で神話の加護を書き換えた」

「今回は味方、ということでいいんですか?」


「それで構わないよ。君の名前の由来は大天使アイリスのものでいいのかい?」

「はい……その通りです」


 ボクはその答えを聞くと、可能性があるかどうかを理解する為にぶつかり合う終焉の巫女と終焉の魔王の間まで移動した。


 今まさに二つの剣がぶつかり合おうとした瞬間、ボクは終焉の魔王の口からボク自身のアイギアという名が出てきたことで確信を得た。


 そしてリーシアという娘と獣人のイナという娘の魂に楔があるのを確認した。


 残る問題はリィファという終焉の巫女。ボクと同じような作り方をされている。ボクには元となった人間がいない。

 だからボクという人格が聖書によって作り出された。


 けれどリィファという巫女は元の人間の人格がある。それを取り戻すのがボクの役割でもある。

 ただボクと同じように一万を越える魂が混ざり合っている上に主人格が一切ない。命令をこなすだけの人形と化している。



 二つの剣が触れ合うとき、ボクはそれを自分の聖書に吸収し、書き込んだ。


「ボクのことを覚えているのかい?」


 ボクが終焉の魔王に聞くとこう返される。


「知らないな。不愉快だ。隔絶魔法」


「反転魔法」

「……打ち消したか」


「覚えているからね。

 ただ学ぶだけじゃない。その先も考えるようになったよ。じゃあボクはもう行くから」


「……何がしたいのかよくわからないな」



「知る必要はない。知った所で誰が記憶しているのかすらわからないんだ。何も覚えていなくていい」


 ボクは二人から離れる。追撃はない。彼はボクに興味がないんだ。

 再び上空では巫女と魔王のぶつかり合いが始まる。


「原初の王。ちょっといいかい?」

「そこまで分かられていると気持ち悪いわ」


「推測を話しているだけだよ。今からクロエという少女を助ける。動きだけ止めて欲しい」

「分かったわ」


 ボクはパンドラキューブを持つアイリスに言った。



「君には力を持つ覚悟はあるかい?」

「あります。それが最善なのであればなおさら」


「分かった」


 ボクはアイリスを少しだけ浮かせる。

 クロエという少女は失った翼の部分を気にしながら座っている。


「イタイ、イタイイタイ!」


 人間には理解が出来ない発音と言語で彼女は痛みを訴えていた。



 地面の至る所に無数の白い円が浮かび上がる。それらは今から光の柱を出現させるだろう。しかし原初の王がそれをさせないはずだ。

 予想通り原初の王は自らの血を使い光の柱を相殺した。


 ボク達がクロエに近づくと一人の悪魔が伸びる光線のような攻撃を無数に作り出し、ボク達に向かって放った。

 それをエルフの娘が同じく無数の矢を放った。ボク達に触れる前に全てエルフの娘が相殺してくれた。


「邪魔、しないで」

「こちらのセリフですよ……たかだがエルフ如きがッッ!」


「ゼートに比べたら全然大したことない。

 あなたの言葉に説得力はついてきてないよ」


「ッッ、こ、のっっ!」



 ボクは悪魔に向かって手を伸ばした。


「隔絶魔法。少しそこでおとなしくしててくれ」

「きさっ」



 肩を抑えながら座っているクロエという少女の前にボクとアイリスは立った。


「チカヨラナイデッ!」


「そうはいかない」


 原初の王の血がクロエという少女の周りを這う。その一つ一つが原初の王の形を成していく。何人もの原初の王に彼女は囲まれる。

 動こうとしても、一人破壊してもすぐに次が押さえる。原初の王は言った。


「もうあなたの翼はもがれたのよ。おとなしくして頂戴」

「アアアッ!」


 言葉を発した者は溶けて血となりまた別の者が口々に言葉を発し、クロエという少女を困惑させる。


 ボクは原初の王が作った時間を使い聖書をめくる。

 アイリスという天使のその根源を、起源を、生涯を、聖遺物の意図を汲み取る。


「君はアイリスではない。クロエだ。君自身のやるべきことの為に、帰ってくるといい」


 力の根源がクロエという少女から離される。行き先を失ったアイリスの力は次の宿主を探す。



「私の名前は、アイリス。大天使の名を持つものです。

 私はあなたを受け入れる。私が、大天使アイリスの聖遺物、その宿主となります」


 ゆらゆらとうごめいていたアイリスの力が宿主の中へと入り込んでいく。アイリスの力は彼女を宿主として認めたことになる。


 アイリスが一つになったが溢れる天使の力を宿主が制御出来ていない。体から漏れ出している上に急速に適応した体が毒となっている。


 余分な力をボクが吸収し、その間に制御するようアイリスに伝える。


「やって……見せます」


 この子はもう大丈夫だと考え、もの言わぬ人形となったクロエを見た。



「自我を眠らされている。鎮められた状態というべきかな。

 探し出すのに苦労しそうだ。けれどもっと手っ取り早い方法があるね」


 空に出来た亀裂、そして冥界からのゲート。ボクの声が届けばいいのだけど……


「君たちが必要なんだよ。落ちるのは怖いだろうけど勇気を出して欲しい」



 ……


「「にゃぁぁぁー……」」


 クロエという少女と同じように耳と尻尾の生えた生き人形が三人落ちてくる。ボクはその子達を操作してゆっくりと地面に足をつけさせる。

 どうやらエノアを気にしているようだが今はこっちに集中してもらいたい。


「ただ呼ぶだけでいい」


 ボクがそう言うと、三人の少女はにゃぁにゃぁ鳴き始めた。それで伝わるのだろうか。

 クロエという少女が目を動かした。

 まだまだボクには理解できないことが多くあるね……


 冥王の力を失ったリビアがクロエの前に立つ。


「この子達の面倒は私一人じゃ見きれないわ。寝ている場合じゃないわよ。

 エノアがまた、いなくなっちゃうわよ」


 クロエという少女の瞳孔が小さくなる。


「上出来」


 ボクはクロエという少女の肩に触れた。覚醒させるだけでいい。

 精神汚染ではなく、ただ自我を眠らされただけの弱い魔法の力だ。


「私、は……マスター、は……」


「説明してる時間はない。今冥王の力は君が持っている。

 あの悪魔は心の隙間から入り込んで盗み取る力がある。冥王の力まで奪い取るのは素直に称賛するけど力の使い方は分からなかったらしい。

 クロエ、君はどうだい?」


「私は……まだ理解は……」



 リビアが言った。


「私が教えるわ。ずっと横で見ていたのだからすぐに扱えるようになるわ」



 ボクは二人にこう伝えた。


「魂に触れ、魂を自由に行き来出来るようになってほしい。

 時間がない。早くしなければ世界が崩壊するんだ」


 リビアは答えた。


「分かったわ。


 いい? クロエ。根本的な魂の触れ方は影と同じよ。ただ魂が形を保っているのなら話は変わってくるの。


 とても繊細で、それでいて言うことを聞かない。

 冥王はその魂に問いかけることが出来る。命令を下すことが出来る。

 でも一歩間違えてしまえばその魂は消えてなくなってしまうのよ」



 リビアは説明を始めた。クロエという少女に宿ってしまった冥王の力を移すような時間はないし、ボクにはそれを理解し行動に起こすするだけの時間もない。


 つまりこの子には早急に冥王の力を使えるようになってもらう必要がある。

 たった一度の説明でクロエという少女は言った。


「分かりました。問題ありません」

「頼もしいね」


 ボクはクロエという少女にエノアに近づくスキを作り出す。そして魂を浮かび上がらせる手伝いをする。

 そしたら引張りあげてやってほしい。そして……


 それだけ伝えるとボクはアイリスと原初の王に言った。



「終焉の巫女を足止めして欲しい。少しの時間でいいから」


 原初の王が言った。

「足止めできるか分からないわ。アイリスも力の制御が終わってないでしょう?」


 勇者候補の娘とエルフの少女が言った。

「あたしも手伝う」「私も手伝う」


 ボクは二人の実力を考えて言った。

「出来るかい?」


 二人は頷いた。ほんの一秒にも満たない時間考えた後にボクはそれを了承した。



 アイリスも戦えると答える。


「それじゃ頼むよ。


 エノアと魂の契約を結んだ二人、君たちには今からあの二人との戦いの中に飛び込んでもらう。

 そしてエノアの魂に近づいて欲しい」


「分かったわ」「分かりました」


 リーシアという娘も、狐の娘もそう答えた。



 遅れて終焉の娘がボクに聞いた。


「私……は」

「君の出番はここじゃない。君は切り札なんだ」


「……分かった。信じる」

「ボクを誰だと思ってるのかな。君らの神だ」


「信仰心なんてないよ?」

「ボクが神である。それだけでいいんだ」


 ボクは終焉の巫女の後ろに転移する。


「悪いけどもう少し離れて欲しい」


 終焉の巫女をそれぞれが待機している地面に転移させる。

 原初の王が手をゆっくりとあわせる。


「血の枷。

 支配域――血の檻」


 終焉の巫女の手首、足首、首に血で出来た枷が出来る。細い鉄の柱のような血が順に、拘束で檻を形成していく。


 一つ、二つ、三つ。


 勇者候補がさらに封印を施す。エルフの娘が言った。

「ごめん……リィファ」


 檻の外に魔力で出来た矢が無数に出現していた。それらが一気に伸び始め終焉の巫女の動きを突き刺す形で止める。


「  」

挿絵(By みてみん)

 終焉の巫女は一言でその全てを破壊した。術式を担う四角い輪っかが形を変えることによって詠唱を始める。



 周囲を無に返す殲滅魔法だ。


「キュルゥゥゥゥゥゥ!」


 破龍がその術式を複製、相殺。終焉の巫女はその手を破龍に向けた。


 終焉の巫女の殲滅魔法拘束詠唱。破龍はその全てをほぼ同時に複製。尽くを相殺した。

 さすが破龍。その名に恥じない知能の高さだ。


 終焉の巫女は上空に手をのばす。白い塊が空に浮かび上がる。


「させません!」


 声を上げたのはアイリス。パンドラキューブを使い何重にも箱の形をした障壁で終焉の巫女を閉じ込める。

 さらに白い塊である破壊の塊をパンドラキューブで包み込む。


「これで足りるかはわからないですがはみ出た分は全部私が吸収します」


 箱の中で白い塊が爆発する。箱の外にまで衝撃が走っている。


「パンドラキューブ全展開……そして私っが!」


 衝撃はパンドラキューブに吸われていく。溢れた分をアイリスは自分の器に流し込んでいく。ふらついているけど大丈夫そうかな。



 ボクは魂の契約をエノアと結んでる二人に言った。


「ボクがエノアをここに転移させる。後はエノアを起こしてやって」


 二人は頷いた。


 ボクが終焉の魔王の前に転移すると彼はこう言った。


「お前は俺をどうしたいんだ」


「君が誰なのかがボクには分からないけど、そうだね。

 元の持ち主に返してもらう」



「元の持ち主?」


「エノア・ルーヴェスト。

 ボクという神を打倒した英雄さ」


「奇怪な事を言うな。俺が英雄に見えるのか?」



「有象無象に見える、かな。今の君は決して英雄などではないよ」


 ボクは彼を転移させる。


「なんだお前ら」

 そう彼が言うと二人は動揺した。しかしすぐに行動を起こす。


「イナちゃん!」

「はいっ!」


 あれは……狐氷。ボクに使ったものと同じか。

 イナと呼ばれた獣人の娘は狐氷で彼を斬りつけた。彼の時間が止まる。が、それは一瞬しか持たないだろう。

 ボクは二人を手助けするために彼の前にまで転移する。ボクが彼の動きを止めようとした瞬間。


「フィシア」


 ボクを巻き込みながら他の二人も首から下を凍らせる。


「なんなんだお前らは。お前らの声はうるさい。誰よりもうるさい」


「エノア! リーシアよ! 幼馴染で、自分勝手で、エノアの隣にずっといたリーシア!

 泉のほとりでの出来事覚えてないの?! 初めて魔王に覚醒した時に約束したわよね。信じてるから……エノアなら大丈夫だって」


「ご主人さま! イナです! ご主人さまのおかげでお腹いっぱいご飯が食べられるようになったイナです!

 ご主人さまに名前をもらって、ここに居てもいいって名前をくれて、この名前のおかげでイナは……救われたんです。

 イナはもっとご主人さまと一緒に居たいです。みんなと一緒に……居たいんです」



「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! 俺は終焉の魔王だ! お前らなんか記憶にないんだよ! この世界を終わらせることが俺の」


 予想外だった。彼の背後から終焉の娘が抱きついた。


「出ていって。私のかけがえのないエノアから出ていってよ!

 返して! 私の好きな人を返して!


 エノア、カンナだよ。エノアにベタぼれなカンナだよ……?」


「知らない……お前など俺は……」


 ボクは氷を破壊する。二人がエノアに駆け寄った。


「エノア!」「ご主人さま!」


「どけっ!! もういい。俺は神を、全てを、全てがなければ何も生まない」


 抱きつく獣人の女の子に彼は殴りかかろうとした。


 その前にリーシアという娘が獣人の女の子を引き剥がした後、その間に立ちはだかる。


「させないわ。ここで引いたらエノアは後悔する。

 だったら私が守る。自分が分からなくなったら私がいるからね」


 なんとリーシアという娘は彼にキスをした。



 彼は三人とも振り払う。


「イタイんだよ!! ゴフッ……これ、は」


 魔王の剣が突然自立的に動いた。そして彼の体を貫いていた。


「ずい、ぶん、と、力が変質したもんだ……保険をかけておいてよかった」



 ボクは聞いた。


「君は?」


「俺か? 俺はグロウ。の一部とでも言うべきか。

 力を残すと決めたとき、それが狂気とならないように魔王の剣に魂の欠片を残しておいたんだ。でも俺一人じゃどうしようもない混沌だったよ。

 よく頑張った。ここからは俺も手伝う。魂の欠片も燃やし尽くして持ち主にこの体を返してやらないと……」


 アイリスの剣がさらに彼を突き刺した。


「……なんだニーア。お前も居たのか……」

「私はクロエです。この剣は借りてきました。といいますかそうするようにアイリスに言われました」


 彼の背後からクロエという少女が手を触れる。


「もう突然いなくなったりしないって、言ったのに――マスターの嘘つき」

 彼の目が大きく揺らぐ。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ