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ぶつかり合い

 魔王、巫女、大天使、原初のにらみ合いが続く。


 俺は落としたままの魔剣ガディウスを自分の手元へと自立移動させる。それを振り上げ、クロエに向かって振った。

 クロエは急速に上空へと移動して魔剣の斬撃を避ける。上空から俺を見下ろしている。



 俺は自分の周囲に先程の黒い塊を小さくしていくつも作り出す。それを矢のようにクロエに向かって放つ。

 空を素早く移動しながらクロエはその攻撃を避けていく。黒い塊はクロエを追尾していた。



 その最中、リィファが四本の白い剣を生成。それぞれの柄が白い紐のようなもので繋がっている。


 生成されたその瞬間には全てが俺の体に刺さっていた。白い剣が俺の侵食を始めている。しかしそれを影が捕食する。



 俺は軽く膝を曲げながら右足を出した。右手も同様軽く肘を曲げた状態でリィファに向ける。黒い塊が鋭い剣のような形となり、俺の前方で浮いている。


「ァァ、ジ、カイ」


 時間が止まる。放たれた黒い剣がリィファへと向かう。止まった時間の中、俺の腕がアイリスの剣に切り落とされる。

 この止まった時間の中でクロエは動けていた。


「ァァ、アア!!」


 俺は発狂しながら剣を放り投げ手の空いた左腕でクロエの頭を掴む。そして背後の壁へとクロエを握ったまま叩きつけた。




「アア……?」


 俺はすぐに後ろを振り向いた。リィファの背後にあった四角い輪っかが大きさを変えながら回転する。俺の放った黒い剣が見当たらない。消されたか。


 輪っかが俺の周りを囲む。四角い輪っかの中心にいた俺は範囲外へ出ようとしたがその前に光の柱が俺を包み込んだ。

 しかし光の柱は俺に対して何の効果もなかった。先程から地面を覆っていたシェフィの血が俺の体を守ってくれていたからだ。


 選択した時間は動き始める。時間を止めることに意味がないと思ったのか、俺は時間をもう一度止めようとはしなかった。


 リーシアが言った。


「なによ……これ、まるで神代にあった神と魔王の大戦を見てるみたいじゃない。

 私には……もうどうすることも……できないの?」


 その問いかけに答えるものはいない。



 クロエが俺の頭を掴み返す。俺は転移術式を使って自分だけ空中へと逃げる。視線を感じ、後ろを振り向くと俺を追って転移していたクロエが両手を向けていた。


「  」


 巨大な円柱の棒が空の雲を押し広げ俺へと向かってくる。クロエは転移でその場からいなくなる。そして俺も円柱から逃れるように転移するとその転移先にいたクロエに触れられる。



 再び転移させられた俺はその円柱に押しつぶされながら地面へと近づいていく。


「クウ、キョ」



 円柱は空虚によりその存在をなかったことにされる。そして俺は何事もなかったかのように地面に足をついた。



 シェフィがパチンッと指を鳴らす。


 地面の血がクロエとリィファを包むように這い上がっていく。そして体の中へと入り込もうとしていた。


「  」


 クロエが自分を襲う血を消失させる。リィファも口をパクパクと動かした。それだけで血はリィファを襲うのを止めて地面へと戻っていく。


 シェフィは言った。


「私の支配能力じゃ二人を抑えられないのね。じゃあもう純粋な戦いでしか私の力は通じないというわね」


 リィファは白い剣をいくつか出現させる。その剣は一瞬でシェフィの居た場所を通り抜ける。シェフィはそこにはいなかった。


「こっちよ。まだまだ戦い方がなってないわね」



 リィファが振り向くとシェフィが立っていた。シェフィは何もすること無くリィファを見つめる。次の瞬間、リィファを中心に上から押しつぶすような衝撃が広がる。リィファが膝をついた。


 地面に大きなヒビが入り、その強さを物語っていた。


「私は原初の王よ。新米に見下される筋合いはないわね。膝をつくのはあなたよ」



 転移を使ったクロエがアイリスの剣を使い後ろからシェフィを突き刺していた。


「つぅ……さすがはあの子の剣。ちょっと痛いわ」



 シェフィは地面に溶けるように消えた。そして俺から少し離れた所で姿を現した。



 俺は剣を拾い、クロエとの戦闘を始める。

 転移の応酬。先読みし、先読みされを繰り返す。お互いに譲らない激戦。



 そんな中、グラド国王はその戦いを見て言った。


「本当に大丈夫なんだろうなディック。あのクロエとかいう娘は魔王に勝てるのか」


「難しいでしょうね。所詮は大天使、しかしリィファが居れば問題はありません。そしてシェフィは誰も殺そうとしていない。

 ですから先に我々の手駒が死ぬということはないでしょう」



「だがあまり長引くと」

「ええ、そろそろでしょうね」


 ガラスにヒビが入ったような音が上空から聞こえてきた。俺が上を見上げると空に亀裂が入っていた。

 もう世界が耐えられなくなっている。だが俺には何もできない。どうすることも、出来ない……

 ただこの頂上決戦を眺めていることしか……



 クロエはとにかく高く、高く飛び始めた。俺はそれを追う。クロエが上昇を止めて立ち止まった。そこで俺も立ち止まると大きな円の形をしたゲートがあった。

 流れ出るように影達が一斉に落ちてくる。影の大群に飲み込まれた俺はその全てを取り込んでいく。


 自分の中でたくさんの魂が混ざり合っていく。自我が……うすれ、てく。数ある一つに近づいていく。



 リーシア、助けてくれ。消える。



「ァァ、あ、あー……邪魔だな。天使か」

「  」


「俺と同じ場所に立つな」


 天使の片方の白い翼を転移で近づいてから引きちぎる。


「  !」

 言語ではない悲鳴が天使から聞こえる。



「良い泣き声だ」

 俺は翼を地面に捨てた。


「はぁ……俺は、なんだ。魔王か、なにを、すればいい。まぁいいか。

 ――全部終わらせよう」


 空中に一人の髪の長い女が移動してくる。


「なんだお前は。人か? ……一番厄介なのはお前、だ。

 死ね」


 何もなかった空中を黒い魔力が霧のように包み込む。

「隔絶魔法」


 手のひらサイズの箱で出来た隔絶魔法がズレて連なるように髪の長い女の体をバラバラに隔絶していく。

 バラバラに隔絶魔法の中にしまったというのに女は欠損無く前へと近づいてくる。


「自分の存在を別世界に移動させたか。くはっはははっ!

 いい……神を殺す前座としては充分だ女よ。それとも俺の女にでもなるか?」


 女の背後に巨大な白い剣が生成される。


「付き合ってやろう、お前のお遊びにな」


 そうは言ったがこの女、俺と同等の力を有している。いったい何者だ? いや、そもそも俺はどの魔王だ? 魔王……なのか? 考えるのは今じゃなくていい。


 白い剣と黒い剣は向き合い、それぞれの目標を捉えている。


 そして二つの剣はお互いにぶつかり合おうとしていた。



 そのとき、俺たちではない第三者が中心に立って呟いた。


「理解した。随分と悲しい現実になってしまったようだね」

「アイ、ギア?」


「へー、ボクを知ってるんだ。ボクを知ってる魔王はボクの知る限り一人なんだけどね」



 俺がアイギアと呼んだ白い男は巨大なエネルギー体である黒い剣と白い剣を打ち消した。

 パラパラとアイギアの本がめくれている。








 私は……何も出来ない。所詮ただの人間でしかない。魂の契約を結んでもあの中でまともに戦える力は私にはない。

 女の子座りをしながら私は地面に両手をついて自分の非力さを嘆いていた。


 エノアを守るって、約束したのに。学園で一番の実力があった所でなんの意味もない。


 弱い、弱い弱い弱い! 力が何一つない!

 戻さなきゃ、エノアを……リィファを失ったことがきっかけで自我を失っただけならまだ可能性はある。

 きっと魔王の性質に飲まれただけ、きっとそう。だから私が戻すんだ。



「エノ」


 一瞬の移動を繰り返しながら一進一退の攻防を続けるエノアとクロエを見て私の考えと行動は停滞した。

 無理だ……そんな余裕は、どこにもない。どうしよう……カンナに終焉魔法を……ううん打ち消されて終わり……

 エノアと同等の力を持つリィファもきっと終焉魔法をかわしちゃう。逆にカンナが世界を終わらせてしまう可能性だってある。


 シェフィも駆け引きがうまいだけで力として勝ってるわけじゃない。それにシェフィは殺さないように戦わなきゃならない。


 アイリスのパンドラキューブの障壁程度じゃエノアは止められない……

 コンコンッとなにかが靴を叩いていた。


「え、なに?」


 私が足元を見るとエノアがいつも使ってる影がいた。

 でもすごくちっちゃい。この子と強力しても意味ないわよね……


「危ないわ。向こうに行ってなさい」


 私が影を向こうへ追い払おうとすると影は一冊の本を吐き出した。



「これ……聖書? エノアが確かカンナの終焉魔法の代償に使ったはずじゃ……

 それにどうしてこの子が……そういえばエノア影の中に物をしまったりしてた……もしかして聖書も影の中に……」


 私が中身をパラパラと読むと空白が目立った。



「そっか、全部は使わなかったんだ。それが聖書が残っている理由……魔法やスキルだけを使用して……

 っ! これならっ! あ、でも……味方になるとは限らないわよね……」


 影が私の手に乗った。目はないけれど、なぜだか私を見ているようなそんな気がした。



「……よし、決めた。私に出来ることならなんでもしなきゃ」


 そう言って私は聖書を一ページ目から読み始めた。

「根源はダグラス以前の神、二人の主神はそれぞれ太陽と月を司っていた」


 理解する。聖書を制御するために。千を越える本を一文字も逃さずに……


「ダグラスは主神を月の照らさない世界へ、太陽の届かない影の世界へと送り出した。

 その世界に隔離された主神は残った力で世界を切り開こうとした。

 しかし主神は他の神に囲まれその生命を失った。

 これを虚偽と仮定し新たな神話をここに綴る」


 私は聖書を読み解き、本を閉じた。


「虚影神話から生まれし人が作り出した神――アイギア」


 本がパラパラとめくれながら空中に浮いた。聖書から黒い液体が球体を作り出す。

 あの日、一度倒した人工の神。


「アイギア、お願い……エノアを……そんな義理ないのは分かってる、でも」

「理解した。ボクがすべきことは――君の祈りはこの神が聞き届けた」

挿絵(By みてみん)

 空に出来た世界の亀裂が広がった。

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喜びます。

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