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隣国への逃亡

 リーシアは国に逆らってまできてくれた。



 うれしかった反面危険な目にあってほしくないとも思っていた。


 そして王女。連れて行くということは本格的にこの国に喧嘩を売るってことだ。


 あの国王のことだ。誘拐したともいいかねない。



「リーシア。もうこの国には、いられないな」


「そうね。私はいいけど……


 まぁ魔王を倒したらこの国の王様に土下座させてやるわ。


 見たか! これが勇者エノアの力しよって。


 街の人間も見る目がなかったって馬鹿にしてやるんだから。


 なんか増えてる子達は今は置いといて、この国を出るって行く宛あるの?」



「ああ。西側に商人が言ってた国がある。


 カラムスタ王国。交易が盛んな国だそうだ。


 この国に行く。でも必ずこの国に戻ってくる。


 母さんとルミアもいるからな。二人に何もなければいいが。


 国を出る前に少しだけギルドに寄りたい。心配させちゃうからな。


 一人くらいは事情を知っていてほしい」



「エノアは冒険者としてちゃんとやってたのね。


 信頼できる相手も出来て……少し妬けるけどまぁいいわ!


 行きましょ!」



「ああ」


 俺はギルドに戻った。


 だが急いでいたせいか少し乱暴な開け方になってしまった。



「わぁっ! エノアさん? どうされたんですか! そんなにあわててっ、ぇぇッ」


 俺はミルさんの手を掴んだ。


「ミルさん。俺たちはこの国を出る。次はいつ戻ってこれるか分からない。


 ありがとうって言っておきたくてな。


 初めてあった時、うれしかったよ。西のカラムスタに行く。


 俺の母さんと侍女に何かあったら教えてほしい。


 急ぐから……できれば商人たちにもこの事を伝えてほしい」



「は、はははいっ!」


「じゃあまた……ん?」


 ミルさんは手を離してくれなかった。


「エノアさん。どうかご無事で。人の命は、儚いです。脆いです。


 冒険者はいつ死ぬか分からないということを忘れないでください。


 必ず帰ってきてくださいね。


 アシッドボアの数が増えちゃいます」



「あし……ははっ。ああ。約束するよ」


 ミルさんは微笑むと俺の手を離した。いつものように後ろに手を振った。


 扉を出ると早くも追っての兵士が来ていた。



「ちっ……もう来てるのか」


「急いでエノア!」


 リーシアが叫ぶ。リビアを使って目くらましの魔法を広範囲に使った。


 困惑する兵士達。この魔法は比較的体に対する負担は少ない。


「でも、もう倒れそう」


「ご主人さまもう少しです。西に抜けてしまえばそう簡単に追ってこれません」



 リーシアが付け足した。


「そうよ。この子が言う通り外に出ればこっちの勝ち。


 神の加護がないなら私達で追っての兵士くらい倒せる。


 聖騎士達が来なければ余裕よ」




「その聖騎士もいつ来るかわからないけどな……


 よし見えてきた。イナ! 門番はやっちまえ!」



「はいっ!」



 イナは一足先に飛び出る。一瞬で二蹴りし門番を倒した。


 リーシアはあの子……強いわねと言った。


 俺たちはそのまま国を抜け、西の森まで駆けた。



「はぁ、はぁ……もう大丈夫か」


 俺は周りを見渡した。


「随分大所帯なパーティーになったな。

 イナ、リーシア、カンナ、王女か」



「わたくしのことはリィファとお呼びくださいエノア様」



「分かったリィファ。無理やり連れてきたようなものだが、後悔はないか?」


「いえ……わたくしにとってあの城の中は息苦しいものでしたから……


 唯一リーシアが居たので……リーシアが一緒なら、リーシアのためになったのなら後悔などあろうはずもありませんわ」



 本当にあのカリムと血縁なのか本気で疑うな。


 真っ直ぐだ。自分の立場もあるだろうに。


 カンナは俺に聞いた。



「ねぇねぇ。そのカラムスタ? っていう国にはどれくらいで着くの?」


「馬車で三日とかだから……十日から二週間ってところかな」



「うっまた歩き続けるの?


 私この世界来てからずっと歩いてるんですけど……

 って私冒険者登録したのに国出ちゃったじゃん!」



「そこは大丈夫だ。

 国が違くても冒険者として一度登録していれば他の国のギルドとも共有されているはずだから」



「はぁ……良かったー」


 リーシアがなにか疑問を持ったらしい。



「今、この世界に来てからって言った?」


「え、うん。私はエノアと同じ世界から来たんだ。


 えーと私は生まれ変わったわけじゃないから……転移?」



「転移者?! じゃあすごく強いんじゃない?


 もしかしたら勇者候補かも」



「あーうーそのー期待しない方が、いいかな。


 実は私、職業的には魔法使いらしいんだけど魔法使えないの。

 だからこう、杖でどんっと」



「えっごめんっ! 嫌な思いさせちゃった?


 大丈夫! 全部私が倒すから!」



「嫌な気持ちになんてなってないよ! 平気っ!

 えへへ、いい子だねこの子。あなたがリーシアちゃんかー」



「呼び捨てでいいわよっ!」


 俺は全員に提案した。


「えーなにかと大所帯にもなったし自己紹介とでも行くか。

 それぞれの簡単な経緯なんかも含めてさ」



 全員が了承したところで俺は言った。



「その前に野営しよう。実はもう限界が近くてな」

 


 ぱちぱちっ


 暗くなり始めた森のなかで、比較的開けた場所で焚き火を始める。


 俺は薪なんかを集めながらリーシアにどういうことがあったのかとか、リーシアがどう過ごしてきたのかというのを聞いていた。


 火が安定してくると俺はイナと一緒に近くに動物がいないか探しに行った。



 運良くウサギが数匹居たのでそのウサギを狩った。


 下ごしらえを済ませ、ウサギを焼きながら俺は自分について話した。


 自分が異世界の記憶を持った転生者であること。


 みんなとどう出会ったのか。どんな関係性なのか。イナについて話すのは少し怖かったがすんなりと受け入れてくれた。


 奴隷としての扱いは一切していないと理解してもらえたようだ。



「イナは構いませんよ。ご主人さまが望むならどんな大変なことでもこなして見せます」



「カンナジャッジを通さなきゃだめよ。エノアのことは信じてるけどやっぱりほら、ね。


 いくらこっちの世界の価値観があったとしても私は私。


 勝手に判断するわ! 奴隷扱いしたら許さないっ! なんてねっ。


 エノアはそんなことしないでしょ?」



「そんなつもりはない。

 大丈夫だ」



 そして迫害を受けた時の話でリィファは少し罰が悪そうだった。



「その、わたくしのお父様とお兄様がご迷惑をおかけしました。


 そんなことをしていたとは、エノア様に置かれましては不快な思いを……


 身内に変わってわたくしが謝りますわ。


 ごめんなさい」



「リィファが謝ることじゃない。


 リィファには何もされてないからな。


 それにこの世界に、あの場所に生まれたから今がある。


 リーシアにも出会えた。イナにも。

 おもしろい同郷の高校生にも会えたしお姫様にも会えたわけだ。


 他にもいろんな人に会った。


 苦しさもあったけどこういう出会いがあったことには感謝してるんだ」



「エノア様……

 お心遣い感謝いたしますわ」



 そしてイナの境遇を二人に話した。


 リーシアは怒っていたし、リィファが問題解決を約束すると言った。


 カンナはどう転移したのか、どんな生活をしてきたのかは話さなかったがここに来てからの苦労を伝えた。


 そしてリーシア、リィファも自分の育ちや、どうやって俺たちのところまで来たのかという話をした。


 リィファの大胆さには少し驚いた。


 俺は久しぶりの幼馴染の姿を眺めていた。



 するとリーシアはそれに気づいて微笑み返してくれたのだ。


 なんだか気恥ずかしくなって目を逸らすと俺の横にまで来て顔を掴まれた。


 そして自分の方に向けてお互いの目を見ていた。


 のだがリーシアは恥ずかしくなったのか目を逸らして手を離した。




 ウサギ肉が焼き上がりそれを食べながら談笑する。



 眠りにつき、俺たちは二日間ほどは歩いては休憩を繰り返していた。



 休憩する際に川の音が聞こえたとリーシアが言うので俺たちはリーシアに着いていく。


 すると実際に川がありリーシアはここで休憩しましょっと言った。



 続けてここで水浴びもすると。



「いい? 私ひとりの時は覗いてもいいけど今回はだめだからねエノア」


挿絵(By みてみん)



「覗いたことないし覗かないからな」


 リーシアの冗談を軽く受け流し、俺は川を離れた。


 イナが嫌がるので多少近い位置で森の音に耳を済ませ休憩していると。



「ご主人さま! カニを! カニを見つけました!」


「おおそうかっておい! 服!」


 リーシアが走ってきた。


「なにしてんのイナちゃん! きゃあ! こっちみないでエノア!」


「さっきと言ってること違くないか?! いや謝るけど!」


 目を逸らした。すると逸らした先にイナ。



「なにしてんだイナッ! 見えないように目を逸らしたのに」


 俺はまた目を逸らしたがその先には。


「「あっ」」


 リーシアの先にリィファとカンナの姿が。


 リィファは顔を赤くしながら自分の体を隠した。

 カンナは叫びながら川に入って身を隠した。


「さいっっってい! 初めて男の人に体見られたんですけど!


 責任とらせるわよ?!

 恥ずかしいから向こう向いて!」



「は、はいっ!」


 俺はイナの方を向き目を閉じた。ついでに目も塞いだ。



「ご、ご主人さま。カニ……

 目を閉じたら見えませんよ?」


 寂しそうな声を出すイナに若干心揺らいだが今は二人きりではない。


 二人きりでも見れない。


「リーシア。頼む」


「目、開けちゃだめだからね?


 やっぱりその突然は恥ずかしいから、心の準備欲しいかな」



 音が遠ざかっていく。


 目を閉じると先程の出来事が……


 いかんいかん。ストップストップ。これ以上はまずい。


 消え去れ煩悩。




「ご主人さま! おっきい魚がっ!」


 イナァァ! 純粋だから仕方ないのかも知れないがっ! 困らせないでくれ!


 と思っていたらリーシアが俺に声が届くように大きな声で言った。


「これ魔物じゃない! ただの魚じゃないんだけど! きゃあっ!」


 俺は叫んだ。



「装備は?!」


「河川敷にあるけどっ波がっ大きすぎて! 流れもっ」



 くっ……行くしかない。


 みんなを見ないように魔物だけを見た。


 どうやって泳いできたんだといわんばかりの巨体。


 見た目は鮭に近い。


 その魔物は体を返し尾びれが俺に当たった。



「うおっっっ」


 衝撃で川の中から河川敷までふっとばされた。



 その先にみんなの服がある。



「これはっ」


 イナの剣もある。これなら……


 ぶらじゃっっっっそりゃそうかイナ以外は必要な、イナ、の剣の下にもブラが……


「しまっ鼻血が出るっ」


 カンナが言う。


「興奮してる場合じゃないでしょ! あとで覚えといてよ!」


「しかたっ仕方ないだろ! お前らみんな魅力的なんだよ!」


「ふぐっナチュラルによく堂々と言えるわね……」



 俺はイナの剣とリーシアの剣を掴み二人に投げた。



「ありがとうエノア! この剣があれば上等!


 三枚におろしてあげる!」



「リーシアさん! この大きさだと五枚おろしの方が!」



 いやおろし方いまはよくないか?



「ふっ!」


「いきますっ! 今日の夕御飯です!」



 二人の剣は巨大な魔物を確実に仕留めた。




 俺は顔を手で覆いながら元の位置に戻った。



 みんなが水浴びを終わらせたあと俺も川に入る。



「ふぅ……思春期としてはつらいな」


「そうなのですか?」


「イナ。恥ずかしいからせめて後ろを向いてくれないか?」


「わかりました。それとご主人さまがつらいのでしたらなにかイナに出来ることは……」


「カンナジャッジに引っかかる」


「そうですか……」



 くっ……




 ある程度の時間が経ち……



「この魔物、油がのっててうまいな。

 本当に鮭みたいだ」


 俺はもぐもぐと魔獣の肉を生で食べていた。


 リーシアが生で食べて大丈夫なのかと聞いてきた。


「俺の元いた世界ではこうやって食べてたんだよ。


 本当は醤油が欲しいところだが……」



「分かるー。これ醤油とわさびあったら完璧じゃん。


 転移で出てこないかな。


 わさびと醤油の異世界転移。


 ――ないね」


「ないな」



 首をかしげる三人にそれがどういうものか伝えた。


 が、やはり食べたことないものを伝えるのは難しく、残念ながらピンとは来なかったようだ。

 余った魚の肉を燻製にした。

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喜びます。

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