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 ヴァルクは俺に忠誠心などないし、俺に人生を預けられるわけでもないだろう。そうなれば血の契約なんてものは結べないし支配下に置くことも出来ない。


 俺はヴァルクの精神力を信じるしかないわけだ。


 トアは瞬時にヴァルクの前へと移動する。想定外の速さだったのか、困惑しているヴァルクはトアの短剣を弾く余裕がない。体を仰け反らせその短剣を避ける。


 トアは仰け反っているヴァルクの後ろに回り込む。まるで生きてる時間が違うというようにトアの速度はヴァルクを大きく上回っていた。



 しかしさすがはヴァルク。空現によってその剣を弾く。体勢の問題か弾くので精一杯だったらしい。自分が斬れた可能性から自分が斬られない可能性を選んだ。そんな所だろう。


 ヴァルクは振り返りながらトアの短剣を剣で弾く。次に仰け反ったのはトアだ。

 トアは短剣をそのまま放り出し、前方へと体を丸めるようにして体勢を戻す。


「格闘特化!」

 トアの拳をヴァルクは剣の腹で防御する。


「トア、盗賊特化なんて珍しいですね。殴るしか戦い方を知らないと言っていたでしょう」


「あたしが強くなるにはこのスキルを最大限活かすしかないんだ。兄貴に負けないために。

 悔しかったから」



「成長するのはいいことですが」


 ヴァルクはトアの腹部を蹴って距離を取る。



「力量の差は埋められませんよ。その腕の筋肉を斬って戦闘不能となってもらいます。

 ”空現”」



 トアの両肩に切れ込みが入る。トアはまるで斬れていないかのように立ち上がる。

 そして両腕を構えた。ヴァルクはなぜ、と口に出す。


「治癒師特化 終いの型。無限再生。イナやエノアみたいな再生速度はないけどこれくらいならすぐ治る」


「臨機応変に戦えるようになったと言いたいんですか?」


「格闘特化」



「ですがトア。あなたがどうやって私に勝つというのです?」

「なにも殺すだけが勝つってことじゃない」


「それを踏まえてもあなたには無理でしょう」

「兄貴が思ってるほどあたしは弱くない」


「あなたと一番戦ってきて相手は私ですよ」

「もう兄貴が知ってるあたしじゃない」


 トアは血の契約により特化型スキルの最終技、終いの型の代償が一切ない。それはつまり常に最大火力を叩き出せるということになる。


 トアは地面に落ちていた短剣を拾う。



「盗賊特化 終いの型」

「来なさいトア。全て防いでみせます」


「ばか……」


 最初に見せた瞬時の移動。ヴァルクはそれに対応していた。速度に合わせて剣を振り下ろす。その剣は肩に当たりそのまま地面へと突き当たる。


「っっ! なぜ」



 ヴァルクは確実にトアの肩を斬った。そう思ったはずだ。しかしその剣に感触はなく空を斬る。まるで聖書の奴隷を相手にしたかのように。



「あたしは認識をずらしただけ。最初から空現で斬っていればあたしを斬れた。それでも斬らないのは慢心? それともあたしを傷つけちゃうから?」


「くっ」



「聖騎士団長ヴァルクはこんなに弱くなかった」


 トアはヴァルクの正面に立ち、一振り。その一振りは無数の剣筋となってヴァルクを切り刻む。ヴァルクに傷が入るも致命傷は全てなかったことになる。


 トアは短剣を捨ててヴァルクの胸に頭をつけた。



「なんで言ってくれなかったんだよ、兄貴」

「トア……」


「ちゃんと正気の兄貴と話がしたい。どうして……あたしがっ、家族居なくて寂しがってたことくらい分かってただろ!! なんでずっと……

 兄貴は私を見て何も思わなかったの? 家族だってどうして打ち明けなかったんだよ。


 どうでも……良かった?」


「違う! 私はっ……あなたを一人置いて……出ていってしまったことに私は」



「ねぇ兄貴、お父さんってどんな人?」

「そ、れは」


「ねぇ……あたしの、生まれ故郷ってどこ? お母さんってどんな人? やさしかった?」

「グッ! があッ!」


 ヴァルクは自分の頭を鷲掴みにする。



「あああああっ!」


「ちゃんと自分で言ってくれよ兄貴!! あたしは……兄貴の家族なんだって……」

「うるさい、うるさいんですよ!」


 ッ! 俺は急いで時解を使う。ヴァルクの正面全てがヴァルクの空現の対象となったからだ。こんな離れた所まで……この時間の中で俺ができることは……


 いや、必要ない。トアのスキルが発動しているのに俺は気づいた。この空現は不発に終わる。



「魔術師特化 終いの型 封印魔術」

「なっ、トアが魔術?!」


「四肢の自由を奪った。これで兄貴は何も出来ない。勝つこともなければ負けることもない。

 兄貴。あたし……少しは強くなったでしょ」



「トア……


 はぁ……これは私の負けですね。

 黙っていてすみません。私には全てを打ち明けて仲良くなんていうのは……ずるいと思ったんですよ」


「なにがずるいだよ。その選択は間違ってるよ、バカ兄貴」

「兄貴と呼ばれるのも、悪くないですね。ですがお兄ちゃんでもいいのですよ」


「ッッ! うざっ! きもっ! しねっ!」

挿絵(By みてみん)


「はははっ。以前のような関係性で心地いいですね。この戦いが終わったら故郷を見て回りましょう。一人で歩くのはもういいです」


 トアはうんっ! にこっと笑った。そして封印を解いた。



 グラド国王は言った。


「ふん……ここまでか。少しは期待していたのだがなヴァルクよ。見損なったぞ。

 だが良くここまで仕えてくれた。そんなお前には糧になってもらう。感謝するといい」


 ヴァルクの足元に炎が生じる。ヴァルクを炎が包む。


「兄貴!!」




「トア。何を心配しているのですか? 私は正騎士団長ヴァルク。不敗の落胤の名を持つ勇者候補ですよ。

 この程度で死にません」


 ヴァルクは不敗のスキルでグラド国王の炎を打ち消した。



「……まぁいい。贄は少し過剰だからな。

 余興は済んだ。カリムよ、次はお前だ……カリム。どうしたさっさと」


 ……カリムは自分の腰に差した剣を引き抜き、グラド国王の首を落とすように振るった。 しかしその剣は空中で止まる。


「なっ……」


「カリムよ。お前がそこまで落ちこぼれだったとはな。神の加護を受けた私を斬ろうというのか? 神よ。ダグラス王の名のもとに命じる。

 この空間内における魔素の使用を不許可とする。例外はこのダグラス王のみ」


 グラド国王は指先をカリムへと向けるとなんの躊躇もなくその心臓を撃ち抜いた。


 カリムは膝から崩れ落ち体勢を崩した。体は階段の方へと向かいゴトッゴトッと力なく階段の下にまで転がり落ちる。



 静寂の後、リィファの声がこだました。


「お兄様!!」



 ヴァルクは障壁を解除し、リィファはカリムの元へと走り出した。カリムは小さな声で言った。


「私の代わりはお前しかいない。父の後は頼んだ」


「待ってください! お兄様……兵士の方々のお言葉を預かっているんです。それを聞くまではどうか……」



「なら早く話せ」

「嫌です……」


「馬鹿者……こんな兄など捨て置けばいいものを」

「どうか……」


 そしてカリムのパーティーメンバーが駆け寄る。


「カリム様! お気をしっかり! 大丈夫です! きっと」

「今治癒しますから!」


 他の治癒師以外は武器をグラド国王へと向けた。もうカリムに声はない。

 治癒師も魔素の使用を禁止されているにも関わらず魔法を唱える。たとえそれが無駄だとしても涙を流しながら唱え続ける。


「ふっくくく。カリム程度にも一応いるのだな。慕うものというのが。

 私に歯向かうというのは死を意味する。それを理解してのことか」


「我が主君の為、私達は戦います!」



「滑稽だ。その主君はすでに死んだ」

「ッッ」


 それでも剣を収めないカリムの仲間にグラド国王は炎の槍を作り出す。



「ルーフェン・ダグ」


 グラド国王は詠唱をやめた。


 カリム達を守るように障壁ができていた。この神の加護の中で例外として魔素を扱える英雄の遺産、パンドラキューブの力だ。

 パンドラキューブの魔素は自身が蓄えた魔力のようなもの。神の領域の中にはない。



 グラド国王は術者を探す。それがアイリスだと分かるとこう言った。


「たかだがひとつの国の姫がなぜこんな所に。そう言えば王位継承をしていたな。

 我が国を相手にすることの意味、理解していない分けではないだろう」


「でしたら愚問ですね。分かっていることをわざわざお聞きになるのですか?

 ”ダグラス王”」


「貴様……!」


「私はこの国の人間ではないのでいつも通り呼ばせて頂きます」



「まぁいい。この状況は覆せない。そんな障壁程度私にかかればすぐに破壊できる」


 シェフィがだるそうに言った。


「はぁ……なんだかあなた退屈だわ。心踊らないっていうのかしら。

 なんというか、本当に王の素質あるのかしら?」


「なんだ貴様は。見た所魔族のようだが随分な言い草ではないか。神の力を持つこの私に逆らえばどうなるか」


「なにそれ。脅し文句のつもりかしら? こんなのを相手にしなきゃいけないのね。まぁ私はディックをぐちゃぐちゃに出来ればそれで良いわ。

 あなたはそのおまけよ。さて、気に食わないことだしこのカリムとかいう子の命を助けてあげますか。エノア、代償は貰うわよ? それでもいいわね」


「それなりのものは用意する」



「よろしい。と言っても数ある眷属の一人にするくらいだけどね。その代わりこの子はもう人間としては生きられないかも知れないわ。

 体の変化がどこまで起きるのか分からないもの」


 シェフィは自分の手首を爪で切る。垂れ流れた血はカリムの口へと入る。

 ドクンとカリムの体が跳ね上がり耳が少しだけ尖る。


「これならギリギリ人間と呼べるかしらね。中身は魔族そのものになってしまうけれど」


 リィファがシェフィに聞いた。


「あのっお兄様は……」


「無事よ。人間ではなくなったけれどちゃんと生きてるわ。まだ虫の息だったから助かったわね」



「良かった……」


 カリムの仲間もそれを喜んだ。シェフィはカリムの仲間に言った。


「あなた達は力不足だし邪魔よ。さっさと安全な場所まで逃げなさい」

「「はいっ!!」


 グラド国王は驚きのあまり立ち上がった。


「あの状態から魔素なしでだと! いったい何を……」


「あなたに話す必要はないわ。神程度の力に溺れるあなたに興味は湧かないもの。頑張って考察して頂戴」



 そう言うとリィファを連れて俺たちい所へと戻ってくる。



 ディックがお辞儀をした。


「それではメインディッシュと行きましょう。

 クロエさん。この者たち全員殺していいですよ。イリアスの遺品を十二分に使ってくださいね」


「……」


 クロエはこくっと頷いた。

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喜びます。

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