契約
魔王会議が終了しルーヴェスト帝国に戻ってきた。
俺はカリムからの情報がないかとアビスに聞いたがまだなんの情報も来ていない。何か攻め入るスキを作ってから攻め込みたいが時間もない。
俺は一先ずガディの工房へと足を運んだ。
「ガディ、どうだ?」
「材料持ってきてくれたおかげでなんとか完成したぜ。
自分自身の最高傑作は狐氷だけだと思っとったんだがなぁ」
「なにかと悪いな……」
「悪い? バカ言うんじゃないぜエノアの旦那。わしは職人、死ぬまで現役よ」
そう言ってガディは胸を張る。シャツがビチッとシワが消える。
「楽しそうだな」
「見たことのない技術で打たれた剣を二振りも見せられちゃ黙っていられねぇってもんよ」
「俺の血は混ぜたか?」
「そうじゃねぇとエノアの旦那の魔力に剣が耐えきれん。ただ、くれぐれもやりすぎないよう頼むぜ。
この一振りが使う力は当然持ち主の魔力から放たれるもんだ。エノアの旦那は自分がどれだけの力を欲しているのかをよく理解して加減してくれ」
「ああ。助かるよ」
「へっ……イナの嬢ちゃん。狐氷の力使えたんだろ?」
「ああ。斬った相手の時間を止めるとかいう魔王並の力だったよ」
「そうかい……破龍の方は?」
「使えたよ。ただ魔力の消費が激しすぎるな」
「そこは嬢ちゃんの成長に期待ってとこだな」
「先に言っておきたい。悪かったな。行く先々でガディの名前を売るって話だったのに。
まだ狐氷の費用だって」
ガディは椅子の背もたれに体重を乗せる。
「金に変えられないもんをもらった。
失われた二振りの技術、自由に建築もさせてもらった。さらにはわしじゃ一生手に入らなかったかも知れない素材で剣を打たせてもらった。
そしてなかなかおもしろいもんを特等席で眺めながら関わり合いを持つことさえ出来た。
もしエノアの旦那にお金を払われたら一体わしは何を返せばいい。
だからあの話はなしだ」
「はは……相変わらず交渉が下手だな。
まるで俺が損してるみたいじゃないか。けどありがたく使わせてもらうよ」
工房を出ようとする俺にガディは勢いよく立ち上がり、こう言った。
「その剣を英雄の剣としてくれエノアの旦那ッ!」
「ああ。ガディを有名人にしてやるよ」
おれは笑いながらそう言って俺はガディの工房を出た。
そしてトアが俺の部屋の前で待っていた。
「どうしたトア?」
トアは無言で俺を攻撃する。
トアの放った拳による攻撃に加減なんてものはなかった。避けたものの背後にあった部屋は破壊され、外の景色が見えてしまっていた。
「私は、魔王を……」
そう言うトアの目から光が失われている。
トアは態勢を一気に低くし手のひらで俺の腹を押す。
衝撃が外に逃げずに内部で暴れだす。
「ぐぁッ!……」
死にはしないが体の中がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い。
次から次へと……
俺は時間を止め、体を再生させる。
そしてトアを床に寝かせ、腕を掴み押さえつける。
動き出した時間の後、トアは自分が押さえつけられていることに気づく。そしてなんの躊躇もなく自分の関節を外そうとした。
俺は仕方なく拘束を解いた。
そして俺は確信した。まず正気ではない。この国の中で誰かに操られているということも考えられない。
なら、トアだけが俺に歯向かう理由。それは勇者候補としての覚醒。
シェフィに契約を結んでおけと言われていたが、こういうことか。魔王の性質によるのと動揺勇者候補もまた勇者の性質による。
反発し合うものがトアの中にはない。まだトアに正気な部分が残っていれば血の契約は出来る。
「トア、好きだ」
「……」
トアは構えを崩さない。
「初めてトアを抱いた時、男勝りだったトアが女の子の部分を見せてくれてすごくかわいいと思った。
最初から最後までずっとかわいらしくてさ。まぁ隠せない女の子の部分はあったけど」
ぴくっ……
「……ッ」
一瞬反応があったが構えを戻す。
「俺はトアが好きだよ。なぁ、トアは俺の事どう思ってる?」
「う、るさい」
「じゃあ、俺の事本当に殺したいか? もし本当にそうなら相手になる」
「ッッ……そ、んなわけ」
構えが解け、目に光が戻る。涙目になりながらトアはそう言った。
俺は唇を噛み血が垂れる。一瞬で距離を詰め、トアの唇の前にまで顔を近づけた。
そしてトアの唇を少し噛む。
「言葉はいらない。トアのことはもうよく分かってる」
「んっっ」
トアは目を見開き、ドンドンッと俺の胸を叩く。
「んんんんん!! ん! んーん!」
俺は唇を離す。するとトアは涙目で訴えた。
「な、なななななながいって! もう大丈夫だって!」
「ごめん、つい……かわいくてさ」
「さ、さっきの全部覚えてるからなッ! 覚えてろよバカァァァァ!」
トアは走り去っていた。そして背後からカンナが顔を見せる。
「えーっとー……何事?」
「あっカンナ……」
俺は勇者候補のデメリットを説明した。それを防ぐための血の契約だと。
「へー……なんかすごい音したから出てきたんだけどそんなことがあったんだ。
トアとはあんまり話したことないんだよねー。私凍結してたし」
「凍結と言えば後遺症とかないか? 大丈夫か?」
「うん大丈夫だよ」
「あの時は助けてくれてありがとな」
「そんなのいいのに。最初に助けてくれたのはエノアだよ?
ねぇ、私とも血の契約しようよ」
「え、でも」
「私はもう魔法使えるし、血の契約をすればもしかしたら代償無しで終焉魔法使えるかも知れないじゃん。多分、だけど」
「でもこれ失敗したら死ぬんだぞ」
「エノアの見立ては?」
「大丈夫だと思うけど……」
「なら良し! 唇切ればいいんだっけ。いたっ!」
「ちょ、本気なのか?」
「エノア、私はやっとみんなの為に戦えるようになったの。
ずっと守られてた私が。だから可能性を頂戴」
「覚悟は、ってそんなこと聞くのは野暮だな」
「しっかりと分かっててよろしいっ! はい」
そう言ってカンナは唇を少し尖らせる。そして俺の胸に手をのせて背伸びする。俺はカンナと血の契約を結んだ。
二度に渡る血の契約のせいか、体への負担がある。
ふらふらとし、頭が重い。けどいつ影が襲ってくるか分からない。寝てる場合じゃ……
トントンッと肩を指先で突かれる。
振り向くとリーシアが立っていた。
「おやすみエノア」
そう言ってリーシアは俺の目を覆い隠した。そのまま俺は意識を失った。
目を覚ますと俺は自分の部屋で寝ていた。
「しまっっ!」
俺は慌てて飛び起きた。すぐに被害がないかとアビスのとこに行こうとすると腕を引っ張られた。
「大丈夫だよ」
「リーシアッ、でも」
「私達だって助けられるだけの存在じゃない。もうずっと寝てないでしょ? 魔王会議に向かう前日から。
体の傷は再生するようになって、たくさんの人を守れるようになって、私じゃ想像も出来ないくらい抱え込んでるのかも知れない。
でもね、睡眠を取るってことは必要なくなったわけじゃない。それはなくていいものじゃない。だからちゃんと寝ないとだめ。
信用して? もし私達の手に負えなくなったらちゃんと助けてって言うから」
「リーシア……
背負い込んでたのは、事実だよ。だって俺はっ! 魔王で、勇者で、この事態に対して最も影響がある。守らなきゃ」
「ちゃんと私達を頼ってくれてるのも分かる。でもちゃんと寝なきゃダメ。
それくらいの自己管理はして頂戴」
「っ……分かった」
「いい子いい子」
そう言ってリーシアは頭を撫でる。こうなったら素直に受け入れるしか無い。正直恥ずかしいが誰に見られているわけでもない。
それに心地いいし。さすがに張り詰めすぎてたかな。
「頑張り方が空回りしてたかも知れない」
「もっといい子いい子してあげようか?」
「り、リーシア」
「ふふっ。ねぇエノア。イナちゃんと魂の契約って言うの結んだんでしょ?」
「っ!? どうしてそれを」
「シェフィから聞いたの。そしてその魂をシェフィとの契約に使ったのも知ってる」
「……イナにはちゃんと謝ったよ」
「怒られなかったでしょ。イナちゃんはエノアとずっと一緒にいることが全てだから」
「ああ。それが分かってたから何も迷わずに魂を代償に出来たのかも知れない」
俺はリーシアに押し倒れる。
「んーっと、それでどうすれば魂の契約出来るの?」
「それは、ん?」
「結ぶのよ。魂の契約を。幼馴染の婚約者をほったらかして先にそんなの結ぶなんて、灼けちゃうじゃない」
「いや、でもリーシアこれは本当に危険で」
「全部聞いた。私血の契約すらしてない。それはきっとエノアが私を信用して、私を強いと確信してるからだと思う。
でも、私はエノアを守りたい。一緒に居たい。どっちかが先に死ぬなんて嫌。
運命を結びつける契約なんて最高じゃない。イナちゃんだけずるいわ」
「リーシア、本気で」
「分かってるくせに」
リーシアは、こうなったらもう引かない。そしてうれしいと思ってしまってる自分がいる。
「じゃあ……その……脱いでくれ」
「あー、そういうことするのね。分かったわ」
リーシアは少しずつ衣服を脱いでいく。そして素肌となった状態で俺と密着する。
「始めて良いわよ」
そして俺はリーシアと魂の契約を結んだ。
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。