魔王会議 人との共存
寝起きでうまく動かない自分の脳を無理やりフル回転させる。
現状起きている事態はクロエが連れ去られたこと、そしてリィファの命がダグラス王の手に握られていること。
そして新たな問題は冥界とこの世界が一つになろうとしていること。その結果影達がリビアの手を離れこの世界に解き放たれようとしていること。
影の魂達は自我を持つものも、持たないものもいる。命令がなければそのほとんどは食という本能に支配されてしまう。
もし影たちが一斉にこの世界に解き放たれてしまったらそれらは人やものを飲み込んでいってしまう。
「俺の手に負えるのかどうかじゃない。魔王としてやらなきゃならない。エノアとして守らなきゃならない。俺の第一優先はみんなを守ることだ。
そして影の世界とこの世界を一つにしようとしたのはダグラス王かディック。方法は分からないがクロエを使ったんだ。状況からしてそうだとしか言えない。
他の誰に出来るというんだ」
「ごめんなさい……私は何も出来なかった。ただもう冥界の王なんて……言えない」
「落ち込むのは後だ。一刻を争う」
俺はリビアの姿を初めて見た。魔法使いのような見た目とでも言おうか。豊満な胸に黒く露出のあるドレス。三角形の帽子を被り、紫色の長い髪はウェーブがかかっている。青い瞳に涙を浮かべ不安そうな、申し訳無さそうな顔で俺を見ている。
俺は帽子の上から手をのせその顔を隠した。
「やるしかない。任せろ」
「全部、全部あなた任せ。最低だわ……重荷を乗せてばかりで。私はあなたにとって災厄ね」
三角形の帽子をずらし、立ち上がって準備をする俺を見ながらリビアはそう言った。
「俺がここに入れるのは、俺がまたクロエと会えたのは全部リビアのおかげだろ。失敗ばかり見つめるな。
――命をもらった恩をここで返す」
俺は自分の部屋を出る。そしてアビスに連絡を取る。
知らせをアビスは急いで俺の部屋の前へと来た。俺は魔王の剣を腰に差し、歩きながらアビスに言った。
「まずはリィファとトア、他戦闘能力の高い者にこの国を守らせろ。
ルーカスはミレッド帝国へと派遣。影に襲われた時の為に待機。フェリル、炎龍王にも状況を連絡。特に炎龍王にはミレッド帝国元植民地などの警備に竜種を寄越して欲しいと交渉。対価は追々と言っておいてくれ。
それからイナとリーシアを連れてグラディアスの魔王城へと向かう。あそこなら皆一度来てるからすぐに来れるはずだ。
フラッドを含む魔王会議メンバーに緊急で招集をかけろ。シェフィ、リドリスも同行させる。
それとガディに急げと一言言っておいてくれ。補佐にはミルさんを指名する」
「了解致しました。直ちに遂行します」
「一度にいくつも頼んで悪いな」
「頼られることは私にとっての生きがいですよ」
「ほんと頼りになるいい秘書、いやいい女、かな」
「ッッ、そういうのは後にしてください。考えられなくなっちゃいますから」
さて、本当に一刻を争う。この問題を解決するにはダグラス王国に攻め入る他ない。ただその前に被害を出さないための対策が必要になる。
その日一日を利用し、魔王会議メンバーに来るよう伝えてもらった。俺とイナ、リーシアとシェフィ、リドも同じくその日を使ってグラディアス魔王城へと急いだ。
万が一攻め落とされる可能性がある場合はエルフの森に住民を避難させる。そしてゼートを戦闘要員として手伝ってもらう。
次の日、前回と同じ部屋で魔王会議を行なった。アビスの転移もありメンバーは全員集めることが出来た。
椅子が壊れていようとなんだろうと関係ない。俺の後ろにイナとリーシア。アビスとイビアは国で業務に追われている。フラッドとロッグはおとなしく座っている。俺が急に呼び出したことに苛立っている者も多くいるようだ。
俺は口を開いた。
「知っての通り俺は魔王だ。ここにもう一度はっきりと宣言する。約束の時だ。
この魔王会議にて正式に魔界の王として君臨する」
フラッドが言った。
「俺はこいつを推す。魔王としての力を充分持っている。あのミレッド帝国を打倒したんだ。それでも納得いかねぇやつは出てこい。俺がぶちのめしてやる」
「その必要はない。まず俺に歯向かえるものがいるのならば出てこい」
魔王の威圧と魔力が充満する。誰も動こうとはしない。ただ震え、怯えるのみ。
「俺が直々に相手してやる。少しでも手を上げてみろ。殺しはしないがその一瞬で分からせてやる。好きにすると良い」
シェフィとリドは俺の前に出る。
「私は血の原初シェフィ、フラッドに同じく魔王に使える悪魔よ」
「シェフィに同じく歪の原初リド。過去の名を冥王リドリス。我々が王と認めたのです。その決断に異を唱えられるものならやってみてほしいですねぇ」
しばらくして誰も反抗しないのを確認すると、俺は彼らに言った。
「俺は魔王として自分の仲間さえ守れればいいと言った。それが魔族だろうと人間だろうと。
だがそれは撤回だ。
人間も魔族も守る。ルーヴェスト帝国のように人も魔物も別け隔てなく暮らせる世界を作る。人同士、魔族同士でさえ争いが生まれるんだ。それは無くすことは出来ない。
しかし人間だから、魔族だからという理由で殺し合いをすることを禁ずる。必ずどちらかが先にそれを守らなきゃならない。
頼む、俺の願いの為に人を殺すのを止めてほしい」
当然それぞれが動揺する。
「その為に必要な助けはする。
それともう一つ、大事なことがある。人間達にもこれは伝えるつもりでいる。
俺は魔王であり――勇者でもある」
一斉に騒がしくなる。当然だ。今まで自分達の希望として魔王が現れるはずだったのに、人類の希望、つまり自分達にとっての絶望が同人物だったのだから。
俺は騒がしい者共を鎮め、どういうことなのか説明した。グラディアスとの約束も含めて。
「だから俺は目の前の街も守るし、魔王として魔族を守る。そして勇者として人間も守る。
複雑だとは思う。けどこのままじゃずっと変わらないんだよ。
そして最後に……頼みがある」
俺は唾を飲み込む。ただでさえ無茶なお願いをしている。
ああ、人に助けを求めるってのはこんなにも息が詰まるものなのか。
「今、影の魂達がこの世界に解き放たれようとしている。そうなれば生き物だけでなく植物も飲み込まれるかも知れない。
そして人間は弱い。そのほとんどは動物にすら殺されてしまうほど弱いんだ。
だから――人間を守って欲しい。
これは強制じゃない。自分たちの国を守ることを優先してもらって構わない。こっちの方で守って欲しい国のリストは制作済みだ」
ミルさんが徹夜で危険且つ防衛力順にリストを作ってくれたのだ。
「余裕があればでいい。頼む」
それはさすがになぁ……という声がちらほらと聞こえてくる。その時、一人の魔族が手を上げた。ゴブリン型だが、体が大きく、筋肉の発達も並ではない。牙が突き出ているせいか話し声が若干舌足らずである。
「おでは、人間を守る。魔王様の理想はおでの理想でもある。人を殺すと人は悲しむ。その時人間にも心があると知っだ。だから、殺せなくなっだ。
希望である魔王様が、そう言うのなら、人との戦争がなくなれば虐殺も、殺し合いもない。静かにくらぜる」
別の魔族がそいつに言った。
「でもよぉ! 相手は人間だぜ? 俺たちの話なんて聞かねぇだろうし、守ろうとしてるのにむしろ殺されるかも知れないぞ?
すぐに怯えて強いやつ呼んて俺たちが殺される。そうなる未来しか見えねぇよ!」
「それでも誰かがさいしょにやらないといげない! ならおでがやる。
おでが死んでも、それが魔王様の為になるのなら、おでのこどもが武器をもだなくていいのなら……」
「お前……分かったよ。俺もやる。もしお互い死んだら向こうでこの世界を眺めてやろうぜ。無茶な希望を魔王が叶えられたかどうかさ」
「っ……お、おででいいのなら」
そのきっかけのおかげか他の魔族も手を回せるもの達は人間の国を守ると言った。リストからそれぞれの強さに応じて場所の配置や役割分担を行う。
魔王会議に集まるのは種族の長や能力の高い者や名のある者。であればそう簡単に死ぬことはないだろう。
ただもし、人間達が攻撃を始めたら一方的に攻撃されることになる。
……俺はその人間達を信じるしかない。
「もし向こうと接触出来て、話が通じるのなら俺が勇者であることを伝えてほしい。それを人間が信用しようとしなかろうとだ」
魔族達はそれを了承した。
「それと命の危険を感じたらすぐさま逃げて構わない」
それだけ伝えると俺達はルーヴェスト帝国へと戻る。手配が出来なかった国を炎龍王に守ってもらうよう頼みたい。
そしてそれでも溢れた部分は俺が助けに入る。もう勇者候補に怯えてる場合でもない。
ある程度の助けに入りつつうちの魔族に守らせる。アビスにはまた相当無理をさせてしまうな。全部終わったらまた抱きしめよう。
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