王女の脱出計画
わたくし、王女リィファはある時からお友達がいます。
名前をリーシア様と言いました。
様をつけて読んだらお友達としてはおかしいっと言われてしまったので今はリーシアと呼んでいます。
彼女はいつもエノア様という方のお話をしてくれます。
とっても楽しそうに話すのでわたくしも気になっていました。
ですがわたくしはお城を出ることが出来ません。
わたくしはいつもリーシアとお会いするその時間を楽しみにしておりました。
お勉強は楽しいです。魔法の勉強もいたしますがわたくしには才能がありません。
お兄様のような勇者候補の才はありません。
できない魔法を勉強し続けるのは苦でした。
リーシアと話している時間が、わたくしにはとても楽しい時間だったのです。
しかしある時を堺にぱったりと来ていただけなくなりました。
飽きられてしまったのかと思いましたがなんの予兆もなくと言うのは不自然でした。
ですので侍女にお聞きしたのです。
「ごくろうさまです。リーシアが今どちらでなにをされているかはご存知ですか?」
「っっ! リ、リーシア様は……今」
「幽閉?! どうしてですの?」
「実は、リィファ様のお父上のご命令を聞き入れず、反抗したので取り押さえたと聞いております」
「そんなっ……お会いすることは可能でしょうか?」
「はい。お会いするだけなら……お手続きしてまいります」
「おねがいいたしますわ……」
わたくしはなぜ? という気持ちでいっぱいでした。
リーシアがお父様の言葉を聞かない理由が分からなかったからです。
その必要は――ありましたわ。
それはエノア様。きっとリーシアはエノア様のためならなんでもしますわ。
となれば状況を理解しなければ。
お父様に告げ口してだしてもらうことはまず無理ですわ。
お父様は頑固ですし。お兄様は一切頼りになりませんわね。
リーシアがどうしたいのか、ですわ。
侍女に手続きを済ましていただいたおかげで会うことが出来ましたわ。
「リーシア!」
「リィファ?! なんでここにっ」
「全然会いに来ないのでお話を伺ったら幽閉されたと知らされて……」
わたくしはリーシアの近くによりました。他の誰にも聞かれないようにお聞きしました。
「エノア様のことですの?」
「うん……実は私、リィファの兄にパーティーに入るように言われたの。
その後、私は襲われてそれをエノアに助けられたんだけど……
エノアの力が強すぎて建物が壊れちゃったのよ。それを反逆としてエノアは貴族ではなくなって国の所有する敷地をまたぐこともできない。
今私はエノアに会えないの。
それでパーティーには入らないってカリムに言った上に学園をやめて、貴族もやめてエノアの元に行くって馬鹿正直に言っちゃったのよね。
カッときて……黙っていけばよかったわ……
でもリィファにちゃんとお別れが言えるのは幸運だった。勝手でごめんね」
「逃げ出すつもりですのね。いくらリーシアでも魔素のない牢獄では無茶ですわ。
魔力だって吸われてしまうんですもの。
それと――お別れの言葉はいりませんわ。
エノア様のためにリーシアがご自身の身ですら危険にさらすことは知っていますもの。
わたくしに謝る必要なんてありませんわ。
お友達ですもの。きっとまた会えますわ。ふふっ」
「リィファ……ありがと」
「さて、どうやって逃げ出すかですわね。
わたくしに考えがありますわ」
わたくしは見回りの兵士に訪ねました。
「おつかれさまです」
「お、おつかれさまです! リィファ様!」
「わたくし少し不安なのですわ。みなさんの力は信じております。
ですがそれだけでは不安なのです。
ここ最近反逆があったと聞きました。大丈夫なのでしょうか?
それに興味もありますわ。どのようにお城を守っていらっしゃるのですか?」
「はっ!
王城の門には常に二人滞在しております。問題が発生した時の為、このように緊急時用の笛を持参しております! 各階には四人の兵士が巡回しております。
外にはリィシア様も知っての通り魔物が近づくとガーディアンが発生するようになっております。
笛を鳴らした際も、騎士団長が権限をお借りしガーディアンを召喚する手はずとなっています。
この城は常に神の加護で守られておりどのような攻撃も防ぐことができるのです。
ですので外を巡回する兵士の数は範囲に対して少々少なくなっております。
以上のことから外壁の外側にあたる敷地外を巡回する兵士はいません。
それほど神の加護は強力なのです」
「ありがとうございますっ。
おかげで安心して眠れますわ」
わたくしは鍵を回収するために牢獄の管理者の元へ向かっておりました。
過信しすぎですわね。おかげでリーシアを逃がすのは案外苦労しなさそうですわ。
とくにあの兵士軽々と話しすぎですわ。
身内でも反逆はありますのよ? だれかが魔法やスキルで姿を変えてなりすましていたらどうするつもりだったのでしょう。
わたくしはリーシアが囚われている幽閉所に再び顔を出しました。
「おつかれさまですっ」
わたくしは幽閉所の監視と管理を行っている年配の兵士にそう言いました。
「おや、リィファ様。どうされました」
「リーシアに会いに来たのです。お友達なのは知っているでしょう?」
「ええそりゃもちろん。仲のいいお二人を見てるのが我々の楽しみでもあります。
お二方お美しいですから」
「まぁっお上手なのね」
「いやいや」
管理者はご自身の頭をさすりながら言っておりました。
「よろしいですか?」
「もちろんですとも! リィファ様なら問題ありません
どうぞ中へ」
「あ、髪にごみがついていらっしゃいますわよ」
「も、申し訳ございません」
わたくしはそのゴミを取るように近づきました。
本当はそのようなゴミはございません。さきほど床に落ちていたホコリを左手に隠し持っていただけですわ。
「り、リィファ様、近い……です」
「あら、ごめんなさいっ! でもはいっ取れましたわ」
「ありがとうございます」
わたくしはその時に取った鍵を袖に隠しました。
「リーシア」
わたくしはリーシアをお呼びしました。
「リィファ?」
「これっもってきましたわ!」
「うっっっそ……どうやったの?」
「それはまたいつか再会した時にお話ししますわ。
ここの兵士は神の加護を過信しすぎですわ。
わたくしにもリーシアにも加護による弊害は生まれませんわ。
ですから王城内の見張りは多いですが外に出てしまえば簡単に脱出できます。
このことは後で問題にしますわ……」
「あはは……私は助かったけどね」
リーシアはご自身の手錠を外し、牢の鍵はわたくしが外しました。
「このさきに管理者がいますわ。
見られて笛をならされたらおしまいです。
構いません。気を失う程度にやってください」
「分かったわ。ごめんね管理者さん」
リーシアは牢獄を出ると、一本道にでましたわ。
即座に管理者の位置を把握していました。
この一本道は管理者からは丸見えです。
リーシアはすごく速くて、管理者が笛を鳴らす前に笛を蹴り落としましたわ。
その後お腹に膝を力強く打ち込み管理者は気を失いました。
わたくしは去り際ごめんなさいと声をかけ鍵を置きました。
城の廊下に私が出ると数人の兵士がいらっしゃいました。
わたくしはまだ見つかっても問題ありませんから見回りの兵士がいなくなったのを見計らってリーシアに合図をいたしました。
「普通に出てしまうと門番の兵士がいますわ。
ですからこの城の後ろ側に出た後、扉なんてないので窓からジャンプするしかないようですわね」
「なにをしている!」
心臓が跳ね上がり、喉がつまります。
この声はお兄様。
「なぜリーシア嬢が外に出ている!」
「お、お兄様こそおかしいですわ!
ご自身のパーティーに入れたいからと幽閉などと!」
「その権利がある!
リーシア嬢は自由ではないのだ!」
「そんなのわたくしが許しませんわ!」
「なんの才能ももたないあのエノアと同じ凡人のくせに
偉そうなことを言うな!」
「っ……」
リーシアはそれに対抗するようにいいましたわ。
「うっさい! あんたより数百倍リィファは人間出来てんのよ!
それだけであんたの才能を帳消しにするくらいね!」
「なぜ……なぜそんなにも私を嫌うのだリーシア嬢!」
「あんたの見る目がないからよ。
あなたの生き方が、考え方が私は気に入らないの。
最低よカリム」
「してやる……私のものにならないのなら
殺してやる。殺してでも私のパーティーに入れてやる。
私の言うことは絶対なんだ!!」
「そういうとこよ。
ごめんリィファ。一緒に飛ぶよ」
「はい?」
ガシャン!
わたくしたちは飛び出るだけの窓を用意するため二階のベランダにいましたわ。
なので高さがありました。はい、怖かったです。
わたくしも飛ぶとは思っておりませんでしたから。
「高い! 高いですわ! 大丈夫ですの?!」
「平気よこのくらい!」
「お、お兄様も一緒に落ちてきましたわ!」
「外に出ればこっちのものよ。
ファグムフィション!」
リーシア様は魔法を唱えました。
ファグムフィション。神話で罪人グロウが神の目を欺くために霧や雨などを利用したお話を元に作られた魔法ですわ。
「くっ霧が! リーシア嬢! まつのだ!」
「待つわけないでしょ!」
わたくしはリーシアについていきましたわ。
ついていってどうするのでしょう?
わたくしはこの国の王女。必ず戻らねばなりません。
そしてお叱りを受けるのでしょう。
それから必死に逃げ回りましたわ。お兄様は本当にしつこくて……
ですがリーシアがお叫びになりました。
「エノアー! エノア!」
リーシアは目の前の殿方に飛びつきましたわ。
あの人がエノア様……
「リ、リーシア?! どうして」
「頑張ったんだから! 頑張ったんだからね!
そしてもうひとり頑張った人がいるの。私が外にでるために尽力してくれた人。
なんとこの国の王女!」
そう言ってリーシアはわたくしの事を紹介しました。
リーシアはわたくしと会うまで何度も反発し、魔素のないなか壁を壊そうともしていました。
さすがにそれは無理だと思いますわ。
純粋な身体能力で壁は……
「王女、王女?!」
エノア様が驚いた声をあげます。そうです王女です。
「あ、あの。王女ですわ。お初にお目にかかりますエノア様。
お話はリーシアから聞いてますわ」
「これが、この子が、カリムとあの国王と血がつながっているだと?」
突然背中に衝撃が走りました。
「きゃぁっ」
お兄様がわたくしの背中を蹴ったのです。
「貴様……兄である私に恥をかかせるつもりか!
王宮を抜け出し、さらにはリーシア嬢を誘拐だと!
死刑にしてやろうか? お前の愚行を父上にっいいつけてやる!」
お兄様が剣を振り上げていました。
殺されるのでしょうか? いえ、お兄様にそのような度胸はありませんわ。
おそらく切り傷程度。それでもやっぱり怖いですわね
体がこわばって剣を防ぐように顔の前に両腕を出しましたわ。
ガキィンッ
金属と金属のぶつかる音が聞こえ、わたくしはおそるおそる目を開きました。
そうするとエノア様がわたくしのことを剣で守ってくださっていました。
それだけでなくわたくしの肩に手を、手を回し……
「カリム……お前今、自分の妹を斬ろうとしなかったか?」
「斬るだけだ。父上の元に届ける。
私のっ私の邪魔をした妹には罰が必要だろう?!
エノア、貴様もだ。いつもいつもいつも貴様は目障りだ!
ここで貴様の命も落としてやる!」
「威勢がいいなカリム。
もうなにもできなかったころの俺じゃない」
「やってみるがいい凡人! お前の努力、実力などたかがしれているのだ!」
「……システム リビア 起動」
なにかをエノア様が呟いた後、リーシアと獣人の少女がお兄様の前に立ちはだかりました。
「エノアに手は出させない」
「エノア様はイナが守ります」
お兄様は一歩後ずさりました。
リーシアは言いました。
「今はまだ私の方があなたより強いわ。
この状況でどう戦うつもり?」
リーシアはお兄様の首に剣先を向けました。
「国王に言っておきなさい。
あなたの国にリーシアという人間は
存在しなかった。ってね。
もう行って。
行きなさい!」
「くっ……
覚えてろリーシア! 勇者候補の力が覚醒したら必ず痛い目に合わせてやる。
後悔させてやるからな!
お前は必ず私のものになる!」
お兄様はそう言い残し、走り去っていきました。
わたくしはエノア様に言いました。
「はやくお逃げください。
お兄様は今、応援を呼んでいるはずです。
聖騎士や団長が来てしまったら、ガーディアンも出現可能です。
さぁお早く!」
「大丈夫か?」
「え? ええ。わたくしは、大丈夫ですわ」
エノア様はそのままわたくしを抱き上げその場に立たせてくださいました。
う、先程は勇者みたいでかっこよっかったですわ……
言ってる場合じゃないですわ!
「そ、そうではなく」
「俺と一緒に来るか?」
このままお父様やお兄様の元に戻れば罰を受けるのは必須。
ですがみなさんのお邪魔になるわけにはいきません。
「あの、わたくしは足手まといになりますわ。
なにも出来ません。ですからわたくしは、お、お兄様の元に……
戻ります」
先の事を考えてしまい声が震えてしまいました。
そんなわたくしにエノア様はこうおっしゃいました。
「俺と一緒にこい」
きゅんっ
「ふぇ……」
ときめいてしまいましたわ。おそらくリーシアの想い人なのにわたくしは……
乙女心なんて制御出来なくて当たり前ですわ!
ぅぅ……
「戻りたくないんだろ。
足手まといなんて考えなくていい。
俺だって昔からリーシアに助けられてる。今はイナに頼りっぱなしだ。
そんな理由で突き放すやつは俺のパーティーにはいないよ」
「え、ぅ、あのっ」
みなさんがわたくしに微笑んでいました。
「よろ、しいのですか?」
一番奥にいた不思議な格好をした女の子が言いました。
「おっけーおっけー!
わたしなんて魔法使いなのに魔法使えないし!
杖で殴ることしかできないから私の方がお荷物だよ!
しかもお姫様がパーティー? 最高じゃん! かっもーん!」
元気なお方ですわ。
「では、そのっ、よろしくお願いいたしますわ」
エノア様はああ、よろしく。と言って手を差し出してきましたわ。
わたくしは躊躇しながらもその手を握りました。
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