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スキュール

 目が覚め、準備運動をしながら体をほぐしていく。少しずつ筋肉の硬さがほぐれていく。

 俺は体を伸ばしながらアレンを起こした。


「もう結構寝ただろ? 体感だけど」


 アレンはむくりと起き上がりぼけーっと正面を眺めていた。俺はまだ頭が冴えていないアレンに声をかける。


「おいアレン。意識あるか?」

「そっか、もう頂上なんだっけ」


 そう言うと足を軽く曲げた後にギュンッと体を浮かし、勢いをつけて起き上がる。その場で軽くジャンプしてシュッシュッと腕を前に出す。

 そして俺と同じように体をゆっくりと動かして筋肉をほぐしていた。


「大丈夫そうだな」

 俺はそう声をかけた。


「うん。ついにここまで来たんだ。どんな敵が相手でもぶっ飛ばすよ」

「それは楽しみだが入ってそうそう一式使うなよ?」


「そんなことしないよ。そうしなきゃ勝てないって言うなら話は別だけどね」

「もしそうなったとして、それでも勝てなかったら……お前にはまだなにかあるのか?」


「これ、かな」

「腕輪?」


 初めて会った時からずっと付けていたが銀の腕輪をつけている。



「そ、これが僕の最終奥義かな。まー僕たちの力が足りていれば使うことはないよ。

 これは両親も持っていなかったものだからね」


「今のうちに教えてくれよ」



「もし使わずに済んだら教えるよ」


「……分かった。言う気はないんだな? しょうがない。それを使わずになんとかこの塔の攻略を済ませちまおう」



「うん。じゃあ行こうか。それとも朝ごはん食べる? 朝か分からないけど」

「俺はいらない。そっちは?」


「僕もいいかな。もう早く行きたくてうずうずしてるんだ」

「んじゃいきますか」



 俺とアレンは空の見える階段の先へと足を踏み入れた。


 広さは今までと同等。しかし天井がない分かなり広く感じる。外の風が直接体を通り抜けてめちゃくちゃ気持ちいい。

 地面は石レンガのようなもので作られ、柱なんてものは無い。外側をすべて黄色い砂のような壁が覆っていた。

 一気に降りれるような階段もない。


「まさかまた歩いて帰るんじゃないだろうな」


 俺はその事実に落胆した。もし魔王の力が使える。もしくは外に出れるのなら飛び降りたほうが早い。

 が、扉も壁の上も障壁が張られている。俺たちの力で破壊できるか不明だ。

 試しに透明な扉を軽く殴ってみたが衝撃がこの塔全体に吸収されているような感覚を覚えた。


「こいつは破壊できないな」


 そして壁の外側。四隅にカリムの父。ダグラスの王が使うガーディアンのような見た目をした奴が四体、等間隔で動かずに立っていた。

 そう、門番のような感じで。しかも大きさもそれと同等の大きさがある。壁と同じくらいの高さがある。ゼートと同じと言っても過言じゃない。


 俺はまさかと思っていた。どうやらアレンも同じことを思っていたらしい。



「これ、多分敵、だよね」


「動かずに達成。とは行かないだろうなぁ」



 まるで俺の話を聞いていたかの如くガーディアンはそれぞれ動き始めた。

 剣のガーディアン、槍のガーディアン、弓のガーディアン、大剣のガーディアン。


 弓のガーディアンが弓をキリキリと引いていた。ティアナのように矢が途中で生成されそれが俺たちめがけて放たれる。

 俺は強さを計るために少しだけ着弾点からずれ、血の契約の力を使ってその矢を破壊する。するといとも簡単に砂となった。


「元は壁と同じ材質か。多分ガーディアンもそうだろうな」

「え、それまずくない? 永遠に再生するんじゃ」


「そういうことになる。が、それだと勇者候補も勝てなくなる」


 絶対に攻略出来ないものなど作るはずがない。ガディは言っていた。これは職人が作り上げたものだと。ならあって不要なものなど作りはしない。

 もしそうなら壊せる条件があるはずだ。ガーディアンが居た場所を調べたい。


 大剣のガーディアンがその剣を振り下ろした。アレンはそれを正面から拳で破壊する。直後に槍のガーディアンが横に槍を振り払う。

 それはアレンを狙ったものだが範囲が広すぎて俺も避ける羽目になる。


 アレンは俺にどうしたらいいのかと尋ねる。俺はこう答えた。


「必ず倒せる何かがあるはずだ! それが勇者候補でないといけないものかは分からないがそれをまずは見つける必要がある!」


 それさえ分かれば勇者の俺なら攻略が可能のはずだ。戦闘能力ではないが。

 俺はガーディアンが立っていた場所まで走り始めた。

 そこはガーディアンがちょうどすっぽりと収まるように作られた隙間。しかしなにも目ぼしいいものは……あった。

 背中があったであろう場所に一部のくぼみがある。ガーディアンは俺たちに背を向けない。それはつまり……


「アレン! 端まで走れ!」

「え?! なんでか分かんないけど分かった!」


 アレンが壁まで走るとガーディアンは追跡を止めた。俺とアレンは今最も距離が遠くなる対角線上の位置に立っていた。

 そしてガーディアン達は背中を見せないように、俺からもアレンからも横しか見えないように立っていた。



 やっぱりな。なんだ簡単じゃないか。それは多分弱点である核があるのだろう。

 俺はアレンの所まで走り出した。そして背中に弱点があるのだと話した。俺とアレンが同じ位置にいるということはこいつらは俺たちを見なきゃならない。


 そして俺は時間を止めた。魔力消費を押さえるべく走ってガーディアンの背後に回った。


 無い。窪みがあった位置ある程度の場所は予測出来るがその位置には何も無い。


 くそっ! 弱点は自由に動かせるのか。そうなったらもう手はひとつしかないぞ。

 俺は時間を再び動かし、アレンにこれまで得た知識について教えた。


「んー……なるほど……おっと」


 俺たちはガーディアンの攻撃をさばきながら会話していた。このままではジリ貧だ。



「だからアレンの一式で全員まとめて粉々にする必要がある。けど範囲が広すぎる」

「そうだね。たとえ直線状に立ってくれたとしても上半身の方が残っちゃうね」


「運良く全部下にあればいいが」

「もっと魔素があれば出来るんだけどね」


「……なぁ、魔力でも使えるか?」

「魔力?」


 俺は簡単に魔力の説明を行なった後、もう一度聞いた。するとアレンは答えた。



「充分な魔素、じゃなくて魔力があればガーディアンすべてを破壊することは可能だよ」

「けどな……一個問題がある」


「どうしたの?」


「その魔力は魔王の魔力だ。元々はグラディアスの魔力でそれを凝縮して俺の器に流し込んだもの。

 俺は魔族に片足突っ込んでるからいいが人間や獣人が取り込んだら……」



「毒って言いたいんだね。でもそうするしかない。

 大丈夫! 僕がすべての支配権を握ってなにもさせないさ!」


「魔力回路の問題もあるぞ?」



「この塔さえ攻略出来れば後は何でもいいよ。そうすれば終わりなんだから」

「分かった。ただ取り込みすぎて全身を壊さないようにな」


「任せなって!」



 俺は魔力を放出させた。アレンが支配しやすくする為に離れないようにする。

 アレンは動きながら俺の魔力とこの階の魔素を支配していく。俺はアレンが支配をやめるまで黒い魔力を放出させ続ける。


 アレンは苦しそうだった。


「おいアレン! やっぱ」

「信じて……」


 アレンは深く呼吸を繰り返しながら時々大きく腕を跳ね上がらせる。体が拒絶してるんだ。ガチガチッと歯を当てながらアレンは目を見開き集中している。


「ガァ……ハァッ……」


 襲いかかるガーディアンの矢を俺は弾いた。少しでもアレンが集中出来るように避けるのではなく軌道をずらしたり破壊したりを繰り返す。



「ウッ……ガハッ!」


 アレンは口から血を吐いた。だが俺は何も言わない。信じてくれと言われた。

 そして俺はそれを信じた。ならただ待つ。


「スゥー……ハァァ……」



 アレンが構えをとった。俺は一瞬だけ時間を止めて降り注いでいた剣、大剣、槍を全て破壊した。当然すぐに再生する。けれどアレンならそれに間に合う。

 俺は自分に被害が出ないようにアレンの後ろに隠れた。追い打ちをかけようとガーディアン達は一斉に降り掛かった。


 それが仇となる。


 アレンは俺の魔力を使ったせいか黒い魔力に覆われていた。ガチッガチガチッと歯が当たりながらアレンは足を踏み込んだ。

 この階の地面の端にまでヒビが伸びる。これはやばいかも知れないと俺は壁に掴まり体勢を低くして重心を安定させる。


 アレンのその左手に乗った魔力と魔素。まるで重い何かを引っ張るようにアレンはその左の拳を突き出した。


「イッッッッシキィィィィ!!」



 前に突き出された瞬間、後ろにまで衝撃が伝わり、俺は風圧によって壁に押さえつけられていた。

「おぼぼぼッ!」



 この塔の広さを超える範囲を誇ったアレンの攻撃はガーディアン達を一瞬にして無へと帰していた。上空にできていた障壁すらも消し飛んでいた。

 そして壁の再生が終わってもガーディアンが再生することはなかった。


 アレンは下を向いてだらんと腕を垂らしていた。その左腕からは大量の出血。俺は急いでポーションをその腕にかけた。



「ありがとう……これは再生に時間がかかるね。帰ったら安静にしてた方が良さそうだ。

 筋繊維が全部ダメになったよ。魔力回路も反応がない」


「よくがんばったよ。きつかったろ。魔王の魔力は」



「うん、痛かった。それにつらかった。なにか負の感情が流れ込んできたよ。

 いつもあんなのに耐えていたのかい?」


「ああ。この力はおそらくグロウから続いてきたものだろうからな。魔王ってのはずっと負け続けてきた王だからな。

 そんなやつらの力が集まった魔王の魔力。魔王の願望でもあり力の源。

 それを背負ってきたよ」



「よく気が狂わなかったね」

「戻してくれた幼馴染がいるのさ」


「そっか……早くエリナに会いたいな」


 俺は持っていた包帯をアレンの腕に巻く。


「会えるさ。降りるのはすぐだ」

「でも今日はちょっとだけ休みたいかも」


「早く会いたいんじゃなかったのか?」

「この腕見てよ。紫色だよ?」


「あはは、まぁ突然崩れるわけでもないしゆっくり降りよう」




 ――ガダンッ。


 突然大きな音がなる。空洞となっていたガーディアンが収まっていた場所。その位置から中央に向かって光が伸びていく。


 それが形作ったものは一つの文字。



 その造形には見覚えがあった。


「……神代文字、刻印」


 俺はそれに乗って帰れってことかとも思ったがそうじゃないとすぐに気づいた。

 神の塔を攻略したものは絶大な力を手に入れられる。

 そんなものは俺たちは与えられていない。見に覚えがないのだ。



 最悪だ。ただの前哨戦だったのかよ。

 俺たちのここまでの攻略は全部、こいつを召喚する為に必要だった犠牲だったんだ。




 刻印が発火し、炎が竜巻のように燃え上がる。

 そして炎で作られた上半身だけの巨人となった。俺はこいつを知っている。



 神代のおとぎ話に出てくる。


 数多もの魂を犠牲に神によって作られた魔神――スキュール。

挿絵(By みてみん)


 死の概念を越えた存在。誰も攻撃を与えられず、一方的に攻撃を与えてくる脅威でしかない存在。もしその通りなら、スキュールなのだとしたら俺はこいつに勝つことは出来ない。

 魔力が尽きてそこで再生をしながら殺され続けるだけだ。


 ――詰んだ。



「なに青ざめてんのさ」

「アレン?」


「まずは攻撃して見なきゃ」



 アレンは左腕の力が抜けた状態でスキュールに距離を詰めた。そして右手で拳を振るが炎が揺らめくことすら無い。


 そうだ。誰にも勝てないものは作らない。


 俺は魔王の剣とアイリスの剣を引き抜き、剣を振った。炎は揺らめきはするものの一切の効果がない。地面の刻印を掘ろうと斬ろうとなんの意味もなかった。再び絶望に叩き落される。


 解決策が思い浮かばない。時間を止めてどうなる? イナの力で炎を仰いでどうする?

 転移術式で一部を移動させた所でどうなる?


 もし炎が揺らめいたのが勇者の力を保有している。というのであれば俺に何が出来る?

 広範囲の攻撃はすべて魔法に頼ってきた。

 それは使えない。永遠に再生を続けるスキュールを一度に消滅させられる力などない。

 だが……勇者のスキルは……アレン……



 くそっ! もしこれが勇者のスキルで広範囲を攻撃できるものなら消滅させることが出来たのかも知れないのに。


「イチかバチか……全魔力で押しつぶすしか」

「待って」


 俺が黒い魔力をすべて放出させようとした時、アレンがそれを止めた。

 そして自分の腕輪を俺に見せつけた。


「これなーんだ」

「腕輪……」


「エリナに、子供が出来てたら……」

「おい、ちょっと待てよ。その言い方は」


「少し手伝ってあげてほしいな。

 ――僕は命を犠牲にするから会えないや」

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喜びます。

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